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岸和田だんじり_走る祭りは圧倒的な迫力 9/14-15

2019年09月03日 | 祭・行事・季節の花

今年も「岸和田だんじり祭」の季節がやってきました。地車(だんじり)と呼ばれる山車(だし)を走りながら引っ張り、高速で90度方向転換する「やりまわし」の豪快さが何と言っても魅力です。岸和田市内各地で9月と10月の2回に渡って行われます。

  • だんじり祭は関西一円で行われているが、岸和田は全国レベルで圧倒的に有名
  • 9月に行われる「岸和田」「春木」地区の祭りは、曳行するだんじり数が多く人気が高い
  • 岸和田は関西空港に近い、近年は外国人にも大人気


岸和田だんじり祭りは、昨年2018年に関西空港が沈没した台風と重なってしまったように、ここ3年ほどは天候に恵まれませんでした。令和初となるだけに、例年以上に”てるてる坊主”にお祈りしたいものです。




だんじり祭は関西一円の中でも大阪府南部が最も盛んです。岸和田の「やりまわし」のように、各地区で名物となるだんじり曳行パフォーマンスがあります。

【Wikipediaへのリンク】 地車(だんじり)

岸和田だんじり祭りは、江戸時代に起源があると考えられています。諸説あるようですが、岸和田市のだんじり祭り公式サイトでは、元禄時代に時の岸和田藩主が京都伏見稲荷を勧請し、五穀豊穣を祈った祭が起源だとしています。地元で祀る神社の神の降臨を敬う祭ではないため、神をのせる神輿(みこし)は登場しません。町衆によるだんじりの曳行そのものが神への奉納ととらえられています。

京都・祇園祭の山鉾巡行と同じく、各町内会がだんじりを曳行し華やかさを競います。町内対抗の祭となると、一番乗りを競うのが世の常です。祇園祭の山鉾巡行は古くから一方通行で巡行順もあらかじめ決められていましたが、岸和田のだんじり祭りの曳行は昭和の半ばまでメインストリートを単純に往復するだけでした。

メインストリートと言っても片側一車線程度の幅しかなく、すれ違いの際に道を譲る/譲らないの喧嘩が多発していたようです。昭和の半ばには現在のような一方通行の曳行となり、すれ違いトラブルは解消されましたが、各町会は新たな華やかさを競うようになります。それが高速で90度方向転換する「やりまわし」です。

装飾の華やかさを競う京都・祇園祭とは異なり、気の荒い岸和田の町衆は「やりまわし」という豪快なパフォーマンスに華やかさを求めました。多くの人々を魅了するだんじり祭りの魅力の原点は、町衆の個性そのものなのです。




現在のだんじりの曳行数は、最大の岸和田地区で22台にのぼります。祇園祭・前祭巡行の山鉾23基とほぼ同数です。祭の規模の大きさがわかります。岸和田だんじりは曳行時間、すなわち祭を楽しめる時間がほぼ一日中と長いことが特徴です。通常の山車の巡行は、京都・祇園祭のように、2-3時間程度です。

  • 22台ものだんじりが交代で曳行するため、一日中どこかで曳行が行われている
  • 京都・祇園祭とは異なり、町内に住人が多いため、曳行にバイトを雇うコストがかからない
  • 夜間はさすがに”走る曳行”はできないが、提灯で着飾っただんじりの静かな曳行が幻想的


こうした背景が重なって、岸和田だんじりは一日中楽しめる全国的にも稀有な祭りになっています。、全国的に担い手不足で祭の継続が危ぶまれる傾向の中で、岸和田は活力を維持し続けています。



南海・岸和田駅

岸和田地区は曳行台数が多いだけあって、曳行エリアも広大です。だんじり曳行の見物は基本、曳行ルートの幅の狭い道路の脇での立見です。有料観覧席はありません。祭が行われる2日間で例年、岸和田/春木地区合計で60万人にのぼる観客があります。広大なルート設定があってこそ、観客を収容できます。。

広大なルートの中でも見せ場はいくつかあります。最大の人気は、通称:カンカン場と呼ばれる海沿いの幹線道路の交差点です。片側3車線ある広い道路を、曳行/見物に半分ずつ使っており、ゆとりのあるスペースになっています。

  • 各町会は思い切って「やりまわし」のパフォーマンスを競える
  • 見る側も混雑による見物の支障が少ない


南海・岸和田駅から海に向かってのびる商店街で、1日目土曜日の13時から行われる「パレード」も人気です。

  • アーケードがあるため雨天でも曳行/見物ともに支障なし
  • 広い道路幅でまっすぐ、邪魔な電柱や電線もない、屋根の上の大工方が最もパフォーマンスの腕を披露しやすい


人気スポットはまだあります。2日目日曜日の9時から行われる岸城神社への「宮入り」の直前、岸和田城に向かう上り坂「こなから坂」を駆け上るシーンです。

  • 曳行ルートで唯一の上り坂で力が入るルート、ここにしかない緊張感を味わえる





曳行ルートは、日本のどこにでもある町と同じく、電柱・電線に頭上を囲まれています。電柱・電線を避けながら、事故もなくよくやっているなと感心します。岸和田こそ、「無電柱化」の先進地域として声を上げてもらうにはぴったりだと思います。

「地上にある電柱の方が復旧しやすい」と大半の人が思い込んでいますが、全く逆です。電線は地下にある方が電柱倒壊や火災損傷を避けられるため、そもそも断線しにくいのです。電気・通信の復旧が遅れるのは、膨大な電柱・電線を人力で確認しなければならないためです。電柱倒壊で道路を通行できないとなると、さらに時間がかかります。



岸和田と言えば”この人”

電柱・電線がスムーズな祭りの催行を妨げているのは京都・祇園祭も同じです。空間が電柱・電線に占拠された日常の風景は、長い目で見て、世界の常識として、決して美しくありません。

岸和田だんじり祭りは、日本屈指の素晴らしい「伝統芸能」でもあります。末永く持続できるよう、あらゆる面から環境づくりを祈りたいものです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



関西空港のお膝元をディープに訪ねる

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<大阪府岸和田市>
令和元(2019)年 岸和田だんじり祭り
【岸和田市公式サイト】 岸和田だんじり祭り

主催:各町会
会期:9月祭礼は2019年9月14日(土)6:00-22:00、15日(日)9:00-22:00
   10月祭礼は2019年10月13日(土)6:00-22:00、14日(日)7:00-22:00
会場:9月祭礼は岸和田/春木地区
   10月祭礼は東岸和田/南掃守/八木/山直/山直南/山滝地区

※だんじりが曳航される道路上で自由に見物できます
※危険回避のため現場係員や警察官の指示に従ってください
※脚立・踏み台・傘・ドローンは使用禁止です
※会場周辺は全面禁煙です
※荒天中止の場合があります。

【岸和田市だんじり祭り公式サイト】 9月祭礼 岸和田地区マップ.pdf
【岸和田市だんじり祭り公式サイト】 9月祭礼 春木地区マップ.pdf

◆おすすめ交通機関◆

9月祭礼はそれぞれ駅前一帯が会場です。
岸和田地区:南海本線「岸和田」駅下車、岸和田駅混雑時は隣駅「和泉大宮」「蛸地蔵」で下車
春木地区:南海本線「春木」駅下車

JR大阪駅から一般的なルートを利用した「岸和田」駅までの平常時の所要時間の目安:50分
大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→なんば駅→南海本線→春木駅/岸和田駅

※会場一帯は広域に交通規制されます。クルマでの来場は非現実的です。


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京都でモネの睡蓮をヴァーチャル体験_梅宮大社 神苑 花菖蒲&アジサイ

2019年05月31日 | 祭・行事・季節の花

京都の西、桂川の近くにある梅宮大社(うめのみやたいしゃ)は梅の名所で知られますが、6月も見事です。花菖蒲(はなしょうぶ)とアジサイが、これでもかと言わんばかりに花を咲かせます

  • 回遊式の庭園「神苑」は水辺が美しく、京都でも有数の四季を通じて楽しめる花の名所
  • 6月半ばに例年、花菖蒲とアジサイの満開の競演を楽しむことができる
  • 境内で買われている猫を目当てに全国から猫好きがやってくる、とても癒される境内


観光スポットとしては知名度が高くないこともあり、混雑することなく快適に境内を楽しめます。嵐山からも近いです。



梅宮大社は、飛鳥時代から平安時代初めにかけて藤原氏と共に権勢をふるった橘氏の氏神です。創建は奈良時代にさかのぼると考えられ、平安時代の初めに嵯峨天皇の皇后となった檀林皇后(橘嘉智子)により現在地に遷祀されたと伝わっています。

平安時代の半ば以降は橘氏の衰退に伴って社勢も衰えますが、例祭・梅宮祭は続けられていました。


本殿

現在の境内はおおむね元禄時代の再建で、本殿には重厚感があります。近隣の松尾大社と並んで祭神が酒造の神であることが知られています。子宝に恵まれなかった檀林皇后が祈願すると仁明天皇を授かったことから、子宝の神としても人気です。境内にはまたぐと子宝に恵まれる「またげ石」もあります。夫婦で祈祷を受ければ”またぐ”ことができます。

【梅宮大社 公式サイトの画像】 またげ石


曝睡中

境内のいたるところに猫がいます。「飼い猫なので餌をやらないでください」と境内の入口に張り紙がしてあるくらいです。神社や寺に動物がいると、とても心が和みます。奈良公園の鹿がその最たるものですが、京都では他に効いたことがありません。狛イノシシのような動物の石造なら守護神として祀られているため多種多様ありますが、本物がいるのは梅宮大社くらいでしょう。


神苑を埋め尽くす花菖蒲

神苑は有料エリアです。ゆっくり水辺や花畑を回遊します。花菖蒲やアジサイは水辺が似合います。湿地帯に咲く品種であり、初夏の明るい陽光を浴びて生き生きと花を咲かせている様子を見ていると、本当に元気が出てきます。水辺に高密度で植物が密生している空間は、まるでモネの絵「睡蓮」の中にいるようです。

花菖蒲とアジサイ、共に品種が多いのがこの神苑の特徴です。様々な色の花が群生していてとても華やかです。水辺と組み合わせた写真はまさに6月のSNSにピッタリです。

【梅宮大社 公式サイトの解説】 花菖蒲
【梅宮大社 公式サイトの解説】 アジサイ


亀も癒してくれます

梅宮大社の花菖蒲とアジサイは、大きな空の下の水辺の近くで楽しめることが最大の魅力です。紫外線や暑さ対策をしっかりしておけば、とてもよい思い出になると思います。松尾大社や嵐山とセットで回るのも面白いでしょう。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


山椒は夏がうまい

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<京都市右京区>
梅宮大社
【公式サイト】 http://www.umenomiya.or.jp/

神苑
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~17:00

※神苑以外の境内の拝観に条件はありません。いつでも無料で拝観できます。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「梅宮大社前」下車、徒歩1分
阪急嵐山線「松尾大社」下車、徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:00~00分
京都駅→地下鉄烏丸線→四条駅→四条烏丸Eバスのりば→市バス3系統→梅宮大社前

【公式サイト】 アクセス案内

※京都駅から直行するバスもありますが、地下鉄とバスを乗り継ぐ方が、時間が早くて正確です。
※この施設には無料の駐車場があります。
※イベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京都 藤森神社_6月はアジサイまつり

2019年05月30日 | 祭・行事・季節の花

6月の京都はアジサイの瑞々しい花びらが各所で満開になり、夏の訪れを可憐に伝えてくれます。伏見にある競馬の神として名高い藤森(ふじのもり)神社は、京都有数のアジサイの名所としても知られています。

  • コンパクトな紫陽花苑で大切に育てられた3,000株を近距離で楽しめる
  • 競馬だけでなくビジネス/受験/恋愛など様々な勝負事の祈願でも人気の神社
  • 京都のアジサイの名所としては、中心部からも近く行きやすい


近隣の伏見稲荷大社のような巨大な境内ではなく、こじんまりしています。子供が遊んでいる様子がとてもよく似合うような、地域密着型の親しみのある神社です。



藤森神社の創建は、飛鳥時代以前にさかのぼる説も含めて複数あるようです。室町時代に後花園天皇の勅命で6代将軍・足利義教(よしのり)が、現在の伏見稲荷の敷地にあった藤森神社を現在地に移したという伝承が藤森神社に伝わっています。山上にあった伏見稲荷の敷地を山の麓にまで広げるためです。

藤森神社の氏子は伏見稲荷周辺ですが、伏見稲荷の氏子は西に離れた東寺周辺です。氏子は通常神社の周囲に居住するため、矛盾しない説と考えられています。この説は伏見稲荷側には伝わっておらず、断定はされていませんが、歴史ロマンをくすぐる話です。


自動販売機のデザインも違います

5月5日に行われる例祭・藤森祭は、中世にはすでに行われていたようです。神輿と共に氏子エリアを巡行する「武者行列」と、走る馬の上で様々な曲芸を披露する「駆馬(かけうま)神事」が著名です。同じ日に行われる上賀茂神社の競馬(くらべうま)とは、勇壮に馬が走る祭では人気を二分しています。駆馬神事と競馬は開催時間がほぼ同じなので、はしご見物は不可能です。

この祭りの馬や武者のイメージが、現在の競馬や勝負事の神としての信奉の元になったと考えられています。


紫陽花苑の入口

藤森神社のアジサイは、紫陽花まつりの期間中だけ公開される紫陽花苑の中で育てられています。開花状況によってまつり期間は変動しますので、随時確認が必要です。

紫陽花苑は境内の北側と西側の二か所あります。いずれもコンパクトな敷地ですが、アジサイが高密度で育てられており、花びらとの距離が近いことが特徴です。神社の境内の高い木が近くにあるため、時間帯によっては日陰になることも多く、紫外線や熱さが気になる方にフレンドリーです。夏の花も美しさでは他の季節に引けを取りませんが、直射日光がやはり難敵です。


日陰でアジサイ見物

京都にもアジサイの名所は数多くありますが、藤森神社は都心から最も近いところにあると言えます。伏見稲荷と酒蔵の集まるエリアの中間にあります。ぜひお出かけください。



こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


伏見には行きたくなるところが本当にたくさん

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<京都市伏見区>
藤森神社
紫陽花まつり
【神社による行事公式サイト】

会場:第一/第二紫陽花苑
会期:毎年6月上旬から約1か月間、開花状況によって変動
   (注)2019年の開園日は開花遅れのため未定、公式twitterでご確認ください
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~17:70

※紫陽花苑以外の境内の拝観・見学には条件はありません。いつでも無料で拝観・見学できます。



◆おすすめ交通機関◆

京阪電車「墨染」駅下車、徒歩7分
JR奈良線「JR藤森」駅下車、西口から徒歩5分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
京都駅→奈良線普通→JR藤森

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※イベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京都でまもなく歴史ファンにはたまらない信長忌_阿弥陀寺 6/2

2019年05月15日 | 祭・行事・季節の花

一般観光客が参列できる歴史上の人物の年忌法要として、京都人や歴史ファンの間では「信長忌」がよく知られています。毎年6月2日に行われ、年に一日のこの日だけ、阿弥陀寺(あみだじ)本堂内が一般公開されます。

  • 阿弥陀寺は本能寺で収容した信長の遺骨を埋葬したとされ、複数ある信長の墓でも本流イメージが強い
  • 歴史上の人物の法要に一般客が参列し焼香できる数少ない機会であることも人気の理由
  • 信長の遺骨を守り抜いた住職・清玉(せいぎょく)のエピソードは、歴史ファンを常にうならせる


日本史上最大のミステリーを今に伝える場所にふさわしく、とても凛とした境内です。京都にのこる信長ゆかりの場所としては、ここが最もいにしえの趣を伝えています。



1582(天正10)年6月2日未明の本能寺の変の後、明智軍の兵士が織田信長の遺骸を懸命に捜索しますが発見できなかった、が歴史上の公式見解です。後継者となった秀吉が10月10日に大徳寺で行った公式の葬式では、信長の遺骨がないまま行われたことになっています。

明智軍が遺骸を発見できなかったのは清玉が監視をすり抜けて持ち帰ったため、秀吉が執り行った葬式で信長の遺骨がないのは清玉が引き渡しを拒否したため、という由緒が阿弥陀寺には伝わっています。この由緒が事実なら、阿弥陀寺の墓は正真正銘の”本物”になります。

この由緒話は、日本経済新聞の連載小説が2005年に単行本化され、250万部を超える大ベストセラーになった加藤廣著「信長の棺」でも取り上げられ、一躍有名になります。

しかし冷静に考えてみましょう。光秀は、信長を討ったことを証明するために遺骸の確保が絶対に必要なはずで、清玉が監視をすり抜けて持ち帰ることはほぼ不可能。最高権力者の秀吉から「遺骨を出せ」と言われ、拒否し続けたまま過ごすことはほぼありえない。「信長の棺」が大ベストセラーになった理由は、この2点の由緒話の推理に尽きるでしょう。


信長忌当日、織田の家紋が山門になびく

阿弥陀寺は清玉が1555(天文24)年に、帰依した戦国武将の援助により現在地からは西にある今出川大宮付近で創建しました。清玉は織田家中で育てられたというエピソードもあるようで、信長とは早くから深い関係にあったと考えられています。

現在の敷地・今出川寺町には1585(天正13)年頃、秀吉による都市改造で移転しました。この移転の際も、信長の遺骨を秀吉に引き渡す大きな機会になったと思われますが、そうした記録はありません。

江戸時代初めには、本能寺で信長と運命を共にした森蘭丸の一族で津山藩主となった森氏からの援助があったようですが、2度の火災にあったこともあり、寺勢は永らくふるいませんでした。


信長の墓

法要は10:00から30分ほど行われ、一般客も参加できる焼香が続きます。一般客には歴史ファンが多いのでしょう。日本史上最大のスーパースターに焼香するにあたり、みなさんとても神妙なおもむきです。焼香の後に行われる墓前での法要も、一般客が参列できます。

信長だけでなく、嫡男・信忠や森蘭丸を始め多くの運命を共にした武将たちの墓が並んでいます。440年前の一大歴史ドラマの痕跡を濃密に感じることができます。

この日以外は公開されない本堂では法要の合間に、一周忌の際に造られた信長の木造など、火災を免れてわずかに今に伝わる文化財も公開されます。こちらも信長という稀有のスーパースターの悲劇の人生の痕跡を濃密に感じ取ることができます。

境内はさほど広くはないですが、新緑が美しくとても清潔な印象です。比叡山がのぞめるのも、実に京都的でもあります。


境内

毎年6月2日の信長忌の日の前後に阿弥陀寺付近でタクシーに乗っていると、結構な確率で運転手から聞く都市伝説があります。

阿弥陀寺を行き先に告げられること自体が珍しく、同名の寺は京都に複数あるためどこかを確認すると、寺町で信長忌が行われる阿弥陀寺という。わざわざ法要に訪れるとは殊勝お客さんだと思ってどこから来たか聞くと、ロサンゼルスからと言われてさらに仰天した、という話です。まさに京都らしい都市伝説です。

歴史上の人物の法要は京都でも随所で行われていますが、一般客が参列できる法要はほとんどありません。秀吉が公式の菩提寺とした大徳寺総見院の法要も一般客は参列できません。スーパースターをしのぶことができるとても貴重な機会です。しっかり焼香しましょう。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



清玉はなぜ信長の遺骸を収容し、自らの手で守り続けることができたのか?

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<京都市上京区寺町通今出川上ル>
阿弥陀寺
信長忌

会期:毎年6月2日(日付で固定) 2019年は日曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~14:30

※本堂内の拝観は、信長忌当日のみ可能です。
※10:00~10:30頃行われる法要中は、本堂内の拝観はできません。
※法要中は一般参列者も焼香できます。
※スタート時間は当日の法要の進行や天候に左右される場合があります。

<京都市上京区寺町通今出川上ル>
阿弥陀寺
【京都市観光協会サイト】 阿弥陀寺

原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:00

※境内と信長墓所の参拝は常時可能です。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「今出川」駅下車、1番出口から徒歩10分
京阪電車「出町柳」駅下車、5番出口から徒歩10分
叡山電車「出町柳」駅下車、徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→地下鉄烏丸線→今出川駅

※この施設には駐車場はありません。
※イベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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奈良 唐招提寺の青空にハート形のうちわが乱舞_うちわまき 5/19

2019年05月04日 | 祭・行事・季節の花

奈良・唐招提寺の名物行事「うちわまき」がまもなく5月19日に行われます。魔除けにご利益がある、ハート形で神秘的なデザインの「うちわ」を求めて多くの人が詰めかけます。

  • 鎌倉時代の唐招提寺の中興の祖・覚盛(かくじょう)上人の命日に行われる伝統行事
  • 鼓楼の上から鐘の合図に合わせてうちわがまかれ、とても威勢がよい
  • 唐招提寺は奈良でも有数の新緑が美しい寺、池に咲く菖蒲もこの時期は見事


普段はとても静かな唐招提寺が、とても活気づきます。賑やかな唐招提寺も清々しいものです。


ハート形のうちわ

唐招提寺は、誰でも知っている鑑真大和上が開祖ですが、寺にとっては中興の祖・覚盛も鑑真と並んであがめています。覚盛が唐招提寺にのこした足跡は、今年2019年の冬に奈良国立博物館の展覧会でも紹介されていました。

覚盛は僧の生活規律である”戒律”復興に、西大寺の叡尊(えいそん)と共に生涯をささげました。覚盛の人物像を物語るエピソードが、うちわまきのルーツであるとされています。

覚盛が蚊に刺されるのを見て弟子が蚊をたたこうとすると、覚盛は「自分の血を捧げている」と弟子を戒めたと言います。覚盛がこの世を去った際に、その話を聞いた法華寺の尼僧がハート形のうちわを供え「せめてうちわで蚊を追い払おう」と祈りをささげました。

ハート形のうちわは、覚盛の人柄や功績を象徴するとともに”追い払う”というゆかりから、あらゆる魔除け・厄除けにご利益がある”縁起物”のような存在として人々に知られるようになります。うちわには梵字が描かれており、中国的な趣が漂う唐招提寺らしいデザインです。竹製の持ち手部分も長いため、うちわには全く見えないところに、どこか愛嬌も感じます。


青色の抽選券で私はうちわをゲットできました

うちわまきは以前、節分の豆まきのように一斉にまき、ゲットした人だけが持ち帰ることができるやり方でした。奪い合いになってケガをしたり、うちわが引きちぎられたりするため、現在はそうしたことが起こらないやり方になっています。

うちわまきに参加してまかれるうちわをゲットしたい人は、当日朝から先着400名に無料配布される「参加券」を入手する必要があります。2019年は日曜日ですので、2時間以上前から並ばないと入手できない可能性があります。うちわは400本まかれますので、参加者は一人一本を必ずゲットすることができます。逆に言うと、一人二本以上ゲットすると白い眼の集中攻撃に会います。

うちわまきに参加できない場合、抽選で1,000本が無料配布されます。朝から配布されている色で区別された「抽選券」を入手し、うちわまき開始直前の当選の色の発表を待ちます。

抽選でもゲットできなかった人には、最後の救いの道が用意されています。一本1,000円で有料販売されています。物理的に入手できないことがないよう、3通りのやり方が用意されています。


鼓楼からうちわがまかれる

15:00のうちわまきに先立って、13:00から講堂で覚盛上人の年忌法要・中興忌梵網会(ちゅうこうきぼんもうえ)が行われた後、講堂前広場で舞楽が奉納されます。舞楽の音色はいつ聞いても雅(みやび)です。

舞楽は14:00頃に終了します。うちわまきが始まるまでの1時間ほどは、輝くような唐招提寺の新緑が楽しめます。名物の戒壇の池の菖蒲も見頃です。会場の国宝の鼓楼の周囲にも、様々なデザインや著名人からの奉納うちわが展示されています。5月の陽気の下で見ると、心が和みます。

金堂の本尊・毘盧遮那仏にも必ずお会いしましょう。とても美しいお顔に心が洗われます。金堂の屋根瓦もいつ見てもとても美しく感じます。平成の修理の際に、本物の天平時代の鴟尾(しび)と入れ替えるために新調された黄金色の鴟尾も、青空に輝くように映えています。


鐘の合図でうちわがまかれる

15:00が近づき、まき役の僧侶が壇上に登って準備を始めると、見物客もかなり集まっており、賑やかになります。報道陣のカメラもセットされ、ますますムードは盛り上がってきます。

15:00の開始直前に抽選券の当選色が発表され、会場は歓喜とため息に包まれます。うちわがまかれる鼓楼の背後で撞かれる鐘を合図に、うちわがまかれます。うちわはハート型の部分が羽の役割をするため、まっすぐに飛んで落ちるものから、ひらひら舞うものまで、複雑な動きをするのが面白いと言えます。

豆まきのような掛け声はありませんが、まく合図となる鐘が、心地よく会場に響き渡ります。”ゴーン”と鐘が鳴って白いうちわが青空を舞う様子は、5月にピッタリの風情です。


瑞々しい菖蒲、美しい

唐招提寺では重要な行事が続きます。6月5~7日の鑑真大和上の年忌法要である開山忌(かいざんき)です。この3日間は、国宝の鑑真和上像が開扉される年に一度の機会です。御影堂は修復工事中のため、2022年までは新宝蔵が会場になります。

5月と6月は、唐招提寺が最も華やぐ季節です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



著者に仏教の魅力を語らせると池上彰のように上手

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<奈良県奈良市>
唐招提寺
中興忌梵網会、うちわまき
【寺による行事解説サイト】
【奈良県観光公式サイト】 中興忌梵網会(うちわまき)

会期:毎年5月19日(日付で固定)2019年は日曜日
  中興忌梵網会 13:00~14:00頃 講堂
  うちわまき  15:00~15:10頃 鼓楼

※うちわまきの参加/見物共に拝観料が必要です。
※うちわまきに参加するには、当日9:00から配布される先着400名分の無料参加券を受け取る必要があります。
 20~60歳で、酒気帯びしていない人だけが参加できます。
※うちわ抽選券は9:00~14:30に希望者全員に無料配布されます。当選本数は1,000本です。

※雨天中止の場合があります。
※スタート時間は当日の法要・神事の進行や天候に左右される場合があります。
※この寺は観光目的で常時公開されています。



近鉄橿原線「西ノ京」駅下車、東口から徒歩5分

R大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間15分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→大和西大寺駅→近鉄橿原線→西ノ京駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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まもなく葵祭の行列_5/15 京都の町が優雅な音と色に包まれる

2019年05月03日 | 祭・行事・季節の花

まもなく5月15日、京都・葵祭の行列の日がやってきます。前回お伝えしたように、祇園祭の艶やかな町衆文化に対し、高貴な王朝文化の素晴らしさが楽しめます。

  • 京都御所から下鴨神社・上賀茂神社まで行列は8kmと長く、多様な借景で平安絵巻を楽しめる
  • 平安貴族の装束は日本の伝統色のオンパレード、普段目にしない色がとても優雅で美しい
  • 行列をどこで見ても5月の陽気と新緑が快適、行列見物には絶好の季節


京都御所、糺の森(ただすのもり)、賀茂川沿いと同じ行列を異なる場所で見るのも乙です。2019年5月15日は水曜日ですが、令和になった直後の開催です。例年以上に話題を集めそうです。


女人列 @加茂街道

葵祭の行列コースは、祇園祭や時代祭に比べはるかに長いため、最も時間的に余裕をもって見物することができます。最も混雑するのは、大きな青空と東山の借景が平安絵巻と抜群に調和する京都御所内です。砂利道で信号などの人工物も一切なく、とても写真映えします。

御所内は有料観覧席が大部分を占めており、無料で見物できる場所はほとんどありません。写真撮影のベストポジションは堺町御門付近ですが、2時間以上前に行かないと最前列の場所取りはできません。有料観覧席は全席指定ですが最前列の指定はできないため、写真撮影にさほどこだわらない方におすすめです。

行列が堺町御門から出てくる丸太町通も、御所内に入れなかった人が集まるためとても混雑します。もう少し先の河原町通り沿いは比較的すいていますが、周囲に京都らしさを感じさせる風景はなく、写真に信号や自動車といった人工物が写りこむことは避けられません。

行列は賀茂川を3回渡りますが、橋の周辺は川と山の借景が美しいため写真撮影には人気のスポットです。最初に渡る下鴨神社手前の出町橋周辺は最も混雑します。下鴨神社の糺の森も、圧倒的な新緑のシャワーの中を行列が進むため、非日常感は抜群です。京都御所並みに混雑します。

空いていておすすめは、午後に下鴨神社を出発して上賀茂神社に向かうルートです。橋を2回渡り、川沿いの加茂街道では行列を最も間近に見物することができます。川の堤を進むため、昔ながらの行列風情も楽しむことができます。


京都御所の有料観覧席

時代祭の行列は、戊辰戦争の鼓笛隊の演奏が先導しますので”さあ始まるぞ”という気になります。葵祭は行列中の演奏は一切ありません。行列の中には楽器を携えた舞人(まいびと)もいますが、下鴨神社/上賀茂神社の社頭の儀で演奏するためのものです。

葵祭でも心地よい響きが楽しめます。馬が歩く際の”カポカポ”という蹄(ひづめ)の音です。葵祭の行列は、数ある祭の行列の中でも特に馬が多いことが特徴です。全部で36頭も参加します。京都御所は砂利道、糺の森は砂道なので蹄の音は聞こえづらいですが、アスファルトの道ではよく聞こえます。特に終盤の加茂街道沿いは行列との距離が近いためバッチリです。

普段は聞かないこともあり、とても心地よい音です。蹄の音が見事に行列を演出しているのは、葵祭ならではです。祇園祭の”コンチキチン”と同じくらいに風情があります。


御馬 @加茂街道

葵祭の行列の最大の魅力は衣装です。時代祭のように武家は参加しないため、公家の装束に統一されています。男性の装束には色の組み合わせがほとんどなく、一色で染められています。そのためとてもカラフルで、行列が写真映えする大きなポイントになっています。

その色はしかも日本の伝統色です。各色とも和風のつつましやかで優雅な趣があり、実に”目の保養”になります。不思議なことにどの色も、周囲の新緑と見事に合います。自然との調和を大切にした和の文化のこだわりが、色使いにも込められているのでしょう。

時代考証は平安時代ですので、強く中世の趣も感じさせます。大河ドラマを見ているようでもあります。そんな非日常感たっぷりの空間に、”カポカポ”と馬の蹄の音が聞こえてきます。ここでしか味わえない極上の時間です。


太田神社の杜若も見頃、上賀茂神社のすぐ近く

葵祭は、季節は最高なのですが、雨が多いという欠点もあります。しかし晴天に恵まれれば最高の一日が過ごせます。神に祈りましょう。新緑の京都で平安絵巻を存分にお楽しみください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



京都1200年の歴史を祭から紐解く

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葵祭 路頭の儀
【京都市観光協会による行事公式サイト】
【京都新聞による行事情報サイト】

主催:葵祭行列保存会
会期:毎年5月15日(日付で固定)、2019年は水曜日
行列コースと先頭通過時間:
10:30京都御所→丸太町通→河原町通→11:15河原町今出川交差点→糺の森→11:40下鴨神社
14:20下鴨神社→下鴨本通→北大路通→14:55北大路橋→加茂街道→15:30上賀茂神社
【京都市観光協会サイト】 行列コース地図

※行列は、有料観覧席以外の沿道で、自由に見物できます。
※有料観覧席は、京都御所と下鴨神社にあります。全席指定ですが座席指定はできません。
※下鴨神社/上賀茂神社で行われる社頭の儀は見物できません。遠くから様子をわずかにうかがえる程度です。
【京都市観光協会サイト】 有料観覧席のご案内

※写真撮影可能ですが、フラッシュは厳禁です。牛馬が暴れます。

※雨天の場合、翌16日に順延。当日早朝6:00に京都市観光協会公式サイトで発表。
【Web】【facebook】【twitter】
※16日も雨天の場合は中止。行列途中の天候不良で打ち切られる場合もあります。

◆おすすめ交通機関◆

京都御所 :地下鉄烏丸線「丸太町」駅下車、3番出口から徒歩10分
下鴨神社 :京阪電車「出町柳」駅下車、5番出口から徒歩15分
上賀茂神社:地下鉄烏丸線「北大路」駅下車、3番出口から徒歩20分

※行列に伴い、市バスの経路変更が多く行われます。所要時間も通常よりかかるため、鉄道の利用をおすすめします。
※道路の通行止め、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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中世芸能の総本家を野外の薪火で堪能_興福寺 薪御能 5/17-18

2019年04月28日 | 祭・行事・季節の花

現在真っ最中のゴールデンウィークが開けると、奈良では薪御能(たきぎおのう)が風物詩となります。全国各地で行われている野外の能公演の総本家と言える行事であり、猿沢池をのぞむ興福寺に薪が焚かれ、能・狂言が古式に基づき幻想的に披露されます。


野外オペラと同じく、風を感じる舞台鑑賞はかけがえのない一時を過ごせます。奈良は平城宮跡や薬師寺など、高層建築がない歴史的な空間と大空を活かした野外公演のメッカです。興福寺の薪御能はそんな野外公演の総本家でもあります。



通常の野外の能公演は「薪能」と呼ばれますが、興福寺では英語の"the"に相当する”御”が付きます。総本家の興福寺にはばかって、どこも名称に”御”を付けていないところに、格別さを感じさせます。

薪御能の起源は、興福寺の記録によると平安時代初め869(貞観11)年に行われた西金堂の修二会法要に求められます。東大寺のお水取りの籠松明と同じく、宗教的な儀式として芸能が奉納されていました。当時の芸能は奈良時代に中国から伝わった散楽(さんがく)から連なる猿楽(さるがく)です。現代の能楽の源流と考えられています。

現代の能楽は、セリフがなく面を付けて幽玄に演じる「能」、セリフがあり面を付けずに滑稽に演じる「狂言」、老人の面を付けた神が躍って五穀豊穣を祈る「翁」が、明治以降に集約された呼び名です。いずれも猿楽を細分化して定義したものです。



鎌倉時代には、現存しない西金堂に加え、現存する東金堂でも薪御能が行われるようになります。それだけ庶民に人気を集めた芸能だったことがうかがえ、大和四座と呼ばれる能楽の伝統流派が成立したのもこの頃です。

現在の薪御能は南大門跡で行われていますが、これには傑作のエピソードがあります。西金堂と東金堂があまりに人気を競いすぎて収拾がつかなくなり、両者の公演を統合して中間地点の南大門で催すようになったと言います。

室町時代になると、京都でも流行するようになった猿楽を、足利義満が今熊野神社で鑑賞します。以降室町幕府で厚く保護されるようになり、観阿弥・世阿弥によって大成された能が上流階級の芸能として確立します。狂言を含めた猿楽も寺社の余興行事として定着するようになり、今に至ります。



薪御能は、夕方から始まる興福寺会場に先立ち、午前中に春日大社でも行われます。両会場の二日間であわせて能/狂言/翁の8演目が演じられます。能/翁は、大和四座の伝統を受け継ぐ宝生座/観世座/金剛座/金春座が交代で担当します。狂言は大和猿楽の伝統を受け継ぐ大蔵流が担当します。大蔵流は日本最古の狂言流派です。TV出演で著名な狂言師・野村萬斎は和泉流です。

コンサートにしろオペラにしろ、夕方から屋外で行われる舞台は、いつもワクワクします。ニッポン古来の能楽はなおさらです。徐々に暗くなる空を背景に、薪火による舞台のスポットライトは抜群の非日常感を演出します。公演スタート前には僧兵姿の僧侶があらわれ、舞台を清めます。ここでしか見られない能楽の絶景です。

有料観覧席以外での鑑賞が困難な春日大社会場とは異なり、無料観覧席がある興福寺会場はさらに活気にあふれています。能楽のストーリー表現は正直難解ですが、ストーリーがわからなくとも魅了される幽玄さを醸し出してくれます。演者の動きに従い「ほぉ~」という感嘆の声が随所で聞こえます。

演目は3時間も続きます。現代の感覚では考えられない長さは、娯楽が少なかった昔の名残です。終了間際まで鑑賞し続けると、鑑賞者が徐々に少なくなります。さらに幻想的なムードが増長されていきます。


春日大社若宮の会場

薪御能は、中世から春日大社と一体となって活動してきた興福寺の歴史を象徴する行事です。興福寺には阿修羅像のようなモノとしての仏像だけでなく、コトもきちんと伝承されています。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



難解ながらも惹かれる能楽ワールドの扉を開く一冊

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<奈良県奈良市>
興福寺 薪御能
【奈良市観光協会による行事公式サイト】
【興福寺による行事解説】

主催:薪御能保存会
会場:興福寺 南大門跡
会期:毎年5月第3金曜/土曜(2019年は5月17/18日)
開催時間:入場16:00、講演17:30~20:30頃

※興福寺会場は有料観覧席と無料立見場があります。
※同日11:00から行われる春日大社会場は有料観覧席のみで無料立見場はありません。
※有料観覧席は前売り/当日券があります。詳細は奈良市観光協会サイトにてご確認ください。
※雨天の場合、興福寺会場は奈良県文化会館で行われます。
※スタート時間は当日の法要・神事の進行や天候に左右される場合があります。
※薪御能の写真・動画撮影は禁止されています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札C出口から徒歩5分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安: 1時間5分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京都 城南宮「曲水の宴」4/29_京都で最も人気 平安情緒の歌会

2019年04月09日 | 祭・行事・季節の花

京都の代表的な春の風物詩である曲水の宴(きょくすいのうたげ)が、城南宮(じょうなんぐう)でまもなく4月29日に行われます。平安装束の歌人が庭の水辺で歌を詠んでいく光景は究極の非日常の”雅”です。

  • 春に3か所で行われる京都の曲水の宴の中でも、城南宮は庭が大きく美しいことから最も人気
  • 普段有料の庭・神苑が無料公開され、まばゆいばかりの新緑とツツジ・山吹・藤も楽しめる


曲水の宴は近年、全国の神社や庭園で復活と新設が相次いでいます。写真がSNS映えすることもあり、人気急上昇の古式ゆかしい行事です。


平安装束で歌を詠む

曲水の宴は平安時代のイメージが強いため、日本独自の文化と思いきや、これも始まりは中国です。新元号でも日本の古典が初めて採用されて話題になりましたが、中世以前の故事で日本発祥のものはなかなかありません。

中国では紀元前の秦の時代よい前から行われていたと考えられているほど歴史があります。3月の桃の節句・上巳(じょうし)の日に水辺で禊(みそぎ)を行い、盃を流して宴が行われていました。中国で最も著名な書である「蘭亭序(らんていじょ)」は、4cの東晋王朝時代に曲水の宴で詠まれた詩文集の序文として、書聖・王義之が書いたものです。

日本では奈良時代には確実に行われていた記録が残り、平安時代には貴族の間で盛んに行われていたようです。その後は戦国時代もあり、永らく中断されていました。全国で復活するようになるのは、会場となる庭園の復元や整備が急速に進んだ戦後になってからです。



城南宮の曲水の宴は1970(昭和45)年、会場となる神苑・平安の庭が昭和の名作庭家・中根金作の手で完成した機会に始まりました。城南宮の周囲は平安時代、白河上皇の別荘・鳥羽離宮でした。平安の庭は寝殿造りの庭をイメージして作庭されています。土地の歴史も相まって、平安貴族の雅な宴をライブで鑑賞するのはうってつけの舞台となります。


宴に参加する平安所属の歌人が平安の庭に向かう

曲水の宴は平安の庭の通路から鑑賞します。平安の庭の通路は距離延長が長いので相当の人数が収容できますが、開始直前に到着すると入場制限がかかって鑑賞できない場合があります。開始1時間前、遅くとも30分前には陣取っておくことをおすすめします。



歌人らが定位置の庭に座ると、最初に歌人に歌題が提示されます。続いて行われる白拍子の舞の間に、歌人たちは詠む歌をイメージします。盃が流されると男性5人と女性2人の歌人が順に歌を詠み、短冊にしたためます。短冊に歌を書き終える頃に盃が自分の前に流れてきます。歌人は盃を手に取り、お神酒をいただきます。

集められた短冊の歌は、神職が節をつけて朗詠します。この間約1時間、琴の音がずっと続く、非日常的な平安の空間となります。

城南宮の曲水の宴は11月3日にも行われます。北野天満宮では3月始め、上賀茂神社では4月始めに行われます。京都でも伝統文化をリアルに体験できる機会が増えています。


神苑の藤とツツジ

神苑はかなり広く、曲水の宴が行われる平安の庭以外にも、室町の庭など、テーマに応じて4つの庭が設けられています。ゆっくり歩くと1時間はすぐに過ぎてしまうほど、表情や四季の植物が豊かな庭です。平安時代の鳥羽離宮の庭は現存していませんが、往時を充分にしのぶことができる名庭です。

そんな名庭に、曲水の宴はとてもよく似合います。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



水野克比古がとらえた城南宮の魅力はいかに?

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城南宮(京都市伏見区)
曲水の宴
【神社による行事公式サイト】

会場:神苑 平安の庭
会期:毎年4月29日、11月3日
開催時間:14:00~14:50頃

※行事当日の9:00~16:00、神苑が無料公開されます。
※観覧者多数の場合、会場への入場制限が行われます。
※雨天の場合、神楽殿の表舞台に会場を変更して行われます。
※スタート時間は当日の法要・神事の進行や天候に左右される場合があります。




◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線・近鉄京都線「竹田」駅下車、6番出口から徒歩15分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→地下鉄烏丸線→竹田駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※行事当日は渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京都の春は御室桜でしめる_仁和寺でまもまく満開

2019年04月06日 | 祭・行事・季節の花

関西では春の花見シーズンの最後を締めくくるスポットとして、大阪造幣局の「桜の通り抜け」と京都・仁和寺「御室桜」が二大定番です。今年の「御室桜」は、記録的に開花が早かった昨年のように慌ただしくなく、平年並みに近い4/10(水)頃に満開になるようです。

  • 京都の桜シーズンを締めくくる「遅咲き」の定番スポットとして、江戸時代から著名
  • 背丈が低く花弁の厚みが豊か、人の目線のすぐ近くでとても濃厚なサクラを味わえる
  • 五重塔を借景にしたサクラの写真のSNS映えは、京都でもトップクラス


醍醐寺平野神社、京都でも二強の花見を済ませたら、フィニッシュは仁和寺です。


五重塔が実にかわいい

仁和寺は、京都に数ある門跡寺院の中でも最も歴史があることから、空間の趣はやはり別格です。仁和寺近辺でタクシーに乗ると、運転手さんからよく耳にするエピソードがあります。「昭和天皇は終戦直後、出家して仁和寺で仏門に入ることになっていた」という話です。このエピソードは、仁和寺の特別感を象徴しています。

歴代の門跡が暮らした「御殿」エリアは、京都御所・修学院離宮・大覚寺と並んで、王朝文化の建築空間を最も如実に今に伝えています。御殿から眺めるひょいと突き出た五重塔も、いつも観る者をうならせます。


この先、中門から内側の境内は、御室桜開花期間中は有料拝観

御室桜は、仁王門や御殿からは一段高い中門をくぐってすぐ左にあります。植物園のようにまとまって植えられています。初めて見る人は通常の桜とは異なった印象を受けます。背丈が人の背の高さから少し高い程度で、とても低いのです。


仁和寺公式YouTube「御室桜」

背丈が低いため、桜の花びらとの距離の近さは圧巻です。御室桜の花びらは厚く、いわゆる桜に連想される”はかなさ”は感じられません。”どや顔”のように、とても堂々としています。思わず犬のようにクンクンと花びらの香りを嗅いでしまいますが、人間の嗅覚では桜の花びらの香りは味わえません。こういう時だけは犬になりたいと思ってしまいます。

御室桜が植えられているエリアはコンパクトですが、順路を一通り進んでも再度巡りたくなります。歩行距離はさほどでないですが、濃厚にサクラとの距離の近さを味わえる時間は格別です。見物客の歩くスピードがとても遅いことが、御室桜の魅力である”距離の近さ”を象徴しています。


とにかく花びらが厚くて濃い

御室桜の開花時期には例年、霊宝館が公開されています。霊宝館では、何といっても国宝の阿弥陀三尊像が圧倒的な存在感を示しています。888(仁和4)年の仁和寺創建当初の本尊です。平安時代後期の宇治平等院鳳凰堂の阿弥陀如来のような、柔和でふくよかな表情が流行する前の、怪しげにも見える密教的なリアルな表情に目が釘付けになります。

仁和寺が積み重ねてきた歴史を象徴する文化財が、霊宝館に詰まっています。御室桜を見に行った際にはマストのスポットです。

【仁和寺公式サイトの画像】阿弥陀如来坐像



京都は”隅っこ”が魅力です。西北の”隅っこ”の王者は仁和寺です。ここでしか味わえない空間を間違いなく味わえます。そんな空間の春を彩るのが御室桜です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



目の眼が斬る仁和寺の魅力

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仁和寺(京都市右京区)
御室桜開花時期の伽藍特別入山
【仁和寺公式サイト】御室桜 現在の開花状況
【仁和寺公式サイト】御室桜 過去の開花状況

会場:中門より内側の境内
会期:毎年4月中旬の約2週間、御室桜の開花状況にあわせて変動
原則休館日:期間中なし
入館(拝観)受付時間:8:00~17:00

※御室桜開花時期の伽藍特別入山期間中は、中門より内側の境内参拝と御室桜鑑賞は有料になります。
※常時公開されている御殿の拝観受付時間は9:00~16:30です。
※霊宝館は毎年4/1~5月第4日曜日9:00~16:30に公開されます。

※公開期間が限られている仏像や建物・美術品があります。
※公開されていない仏像や建物・美術品があります。



◆おすすめ交通機関◆

JR嵯峨野線「円町」駅下車、「西ノ京円町」バス停で市バス乗り換え「御室仁和寺」下車、徒歩1分
JR嵯峨野線「花園」駅下車、徒歩15分
京福電車北野線「御室仁和寺」駅下車、徒歩3分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
京都駅→JR嵯峨野線→円町駅/西ノ京円町バス停→市バス26系統→御室仁和寺

【公式サイト】 アクセス案内

※京都駅から直行するバスもありますが、鉄道とバスを乗り継ぐ方が、時間が早くて正確です。
※この施設には有料の駐車場があります。
※春秋の観光シーズンは、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京都は花魁ではなく太夫_鷹峯 常照寺 4/14 吉野太夫道中

2019年03月21日 | 祭・行事・季節の花

まもなく桜の季節を迎える京都で、江戸時代初めの京都の花街(かがい)でその名を轟かせた吉野太夫(よしのたゆう)をしのんだ行列が行われます。鷹峯(たかがみね)・常照寺(じょうしょうじ)の吉野太夫花供養です。

  • 秋の清凉寺・夕霧祭と並ぶ京都を代表する太夫の行列、古き良き花街(かがい)の伝統を今に伝える
  • 吉野太夫は、夕霧太夫と並ぶ江戸時代初期の伝説の芸妓、関白からの求愛を断り豪商の妻となった
  • 常照寺は、吉野太夫が帰依した寺で墓もある、女性的な佇まいの境内が美しい


京都の北の隅っこで標高が高いため、少し遅めの桜の開花に合わせて毎年4月第2日曜日に行われます。京都の春を強く印象付けられる名物行事です。


”はしごだか”の傘は島原・輪違屋を示す

太夫とは、歌・唄・琴・茶・華・香・囲碁などあらゆる芸道を極めた最高峰の芸妓の職位です。京都では公家・武家・豪商といった上流階級の客を相手に、花街・島原で江戸時代初めに最も華やかな時期を迎えます。

江戸にも太夫がいましたが、江戸時代半ばに消滅し、花魁(おいらん)が夜の繁華街で客をもてなす女性の最高峰の職位として知られるようになります。現在では東京を中心とするメディア情報発信の影響で、太夫よりも花魁の方が圧倒的に著名になっています。

太夫と花魁の違いについてはよく質問されます。簡潔に言うと、太夫は”芸”が主で”色”は副、花魁は”色”が主で”芸”は副です。この違いは江戸時代の京都と江戸、都市の性格に起因します。

京都では、戦国時代が終わり豊臣秀吉による町の復興がなされると、伝統的な公家を中心とした王朝文化が復活します。歌・唄・琴・茶・華・香・囲碁などあらゆる芸道を極めた者が最高峰の文化人として男女を問わず尊敬されます。

こうした芸道は、生まれながらにして上流階級で居続けることを保証された者でないと、まず身に付けることができない”風流”でした。男女が”色”を求めるのは、古今東西共通の道理ですが、”みやこ”の上流階級ではその前提として”風流”が求められました。江戸時代の京都は、上流階級による消費が経済の主役だったのです。

新興都市の江戸は、現在の公務員になぞらえることができる武家に加えて、あらゆる職業の町人が集まります。いわゆる”中流”階級が経済の主役となります。京都で上流階級の象徴だった”風流”は、逆に”敷居の高さ”の象徴としてマスとしては少数派になります。

江戸時代半ばを転機に、中流階級の男性の遊びの場として遊郭が脚光を浴びるようになります。花魁が知られるようになったのと同じタイミングです。芸道のような”難しい風流”を経ることなく、てっとりばやく色”ニーズを満たすことが求められたのです。おどろおどろしくも見える絵画である”春画”は、そうした時代風潮を今に伝えています。

昭和の時代劇に頻繁に登場する”赤い壁に彩られた遊郭”も、江戸後後期の”夜の街”の象徴として印象付けられます。”芸”を主とした太夫が、花魁と混同されるのはこのためです。


吉野太夫道中の始まりを待つ様子

吉野太夫は、近世ではみやこの文化が最も華やかだった江戸時代初め・寛永時代に、あらゆる芸道を極めたスーパースター芸妓でした。吉野太夫が常照寺に帰依した由縁として伝えられるエピソードは、とても興味深い話です。

吉野太夫がその名を轟かせていた折、風采の上がらない坊主が店に訪れ、「吉野に会わせろ」と玄関先でひたすら粘っていました。それを見越した吉野太夫が顔を見せるために玄関先に現れると、その坊主は顔を見るだけで感動し、深く感謝の意を述べてあっさりと引き下がりました。その坊主は常照寺の開祖・日乾(にっけん)です。日乾の人となりを見抜き、吉野太夫が常照寺に帰依した、と伝えられています。


常照寺境内の入口

太夫や花魁が花街を練り歩く様子は、道中(どうちゅう)と呼ばれます。客の注文に応じて太夫・芸妓を派遣する置屋(おきや)から、客が饗宴するスペースを提供する揚屋(あげや)・茶屋(ちゃや)まで、身の回りの世話をする禿(かむろ)など大勢の使用人を引き連れました。高下駄をはいた八文字歩きで著名な、とてもゆったりした行列です。

この様子は、現在の吉野太夫花供養でもうかがえます。わずか150mほどの距離を30分近くの時間をかけて行列します。太夫の前には、太夫を世話する少女・禿(かむろ)が無表情で歩いています。その無表情さは、太夫の持つ威厳をまさに”露払い”しているようです。

天候に関わらず太夫には傘がさされます。日差しや雨を避けるという基本的な役割以上に、太夫の威厳を強調する演出をしています。傘にマーキングされた”はしごだか”は、現在も置屋として営業する輪違屋(わちがいや)のブランド・ロゴです。輪違屋は京都の各所での道中や舞のイベントに太夫を派遣しています。”はしごだか”のブランド・ロゴは、大夫文化の正統派であることを示しています。


”はしごだか”の太夫道中が進む

太夫の本拠地、島原では現在も往時をしのぶことができます。輪違屋は、観光目的の常時見学はできませんが、外観からは日本の花街の中心だった往時をしのぶことができます。

角屋(「すみや)は、客が饗宴するスペースを提供する揚屋(あげや)の遺構として知られています。春秋の長期間、常時公開されています。

【角屋 公式サイト】

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



芸妓はどのように客と向き合い、リピーターを育てていくのか?

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常照寺
第67回 吉野太夫 花供養
【寺による行事公式ちらし】

会場 :太夫道中(行列)は、鷹峯交差点~常照寺境内まで
    境内入口まで150mの公道上では無料で自由に行列見物可
    境内入口より先の常照寺境内に入って見物するには「お茶席チケット」の購入が必要
開催日:毎年4月第2日曜日(2019年は4月14日)
    09:00 お茶席開始、開庵
    10:20 太夫道中出発
    10:50 太夫道中境内着、奉納舞・演奏
    15:00 お茶席終了、閉庵

※太夫道中は雨天中止の場合があります。
※スタート時間は当日の法要・神事の進行や天候に左右される場合があります。
※この寺は観光目的で常時公開されています。

常照寺
【公式サイト】 http://tsakae.justhpbs.jp/joshoji/toppage.html 

原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:8:30~17:00
※公開期間が限られている仏像や建物・美術品があります。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「北大路」駅下車、市バスに乗り換え「鷹峯源光庵前」バス停下車、徒歩3分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:45分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→北大路駅→バスターミナル青のりばE→市バス北1系統→鷹峯源光庵前

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場がありますが、行列当日は使用できません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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京都の桜は平野神社を見ないと半人前_醍醐寺と並ぶ花見の二大名所

2019年03月16日 | 祭・行事・季節の花

京都・北野天満宮のすぐ近くにある平野神社(ひらのじんじゃ)は、京都人では知らぬ者がいないほどの桜の名所です。

  • 桜の種類が多く1か月の長きにわたって花見が楽しめる
  • 背の高い桜の木が多く、桜の花のドームの中にいるような圧巻の空間は平野神社の桜の特徴
  • 開花期間中行われる夜桜のライトアップはことさら美しい
  • 桜の花の下には茶店が立ち並ぶ、桜のシャワーを浴びながらグルメが味わえるのは実に風流


全国的に有名な醍醐寺も、桜の種類が多く花見期間が長くなっていますが、こちらは枝垂桜の枝が水平方向にうねりを見せるダイナミックさが売り物です。平野神社と醍醐寺の両方の桜を体験することで、京都の桜の真骨頂を味わうことができます。



平野神社は奈良時代末期に平城京に祀られていた主神を、桓武天皇が遷都に伴って平安京に遷座したとする創建伝説が伝わっています。平安時代には二十二社の一つとして高い格式を誇り。天皇の行幸も相次いでいたようです。平安時代半ばに花山(かざん)天皇が桜を手植したのが、平野神社の桜の始まりとされています。平野神社の紋は桜であり、北野天満宮の梅のように、強い思い入れのある花なのです。

中世には荒廃していたようですが、江戸時代初めに現在の本殿が造営され、再興されます。江戸時代には「平野の夜桜」の人気が庶民にも定着したようです。


比翼春日造の本殿の屋根が美しい

平野神社の祭神は4つあり、ご神体を収める春日造りの祠は4つありますが、2つずつ連結されて横に並ぶ珍しい作りです。比翼春日造(ひよくかすがづくり)、もしくは平野造(ひらのづくり)と呼ばれます。屏風(びょうぶ)で言う二曲一双のような配置で、回廊の上に本殿の屋根がペアになって並んでいる独特の景観を味わうことができます。

境内は、桜をさておいても、とても華やいだ雰囲気です。近隣の北野天満宮とよく似ています、平野神社もたくさんの人々から信奉を集めていることがわかります。



【ジョルダン 花見特集2019】平野神社

境内には大きな茶屋が設けられていますが、歩きながら桜を楽しめる散策路も設けられています。境内は決して大きくないですが、散策路は茶屋の間をぬうように迷路のように設けられています。じっくり歩くと結構な時間になります。桜を堪能してもらうための演出でしょう。

神社の公式サイトで、多様な桜の品種を紹介しています。色や花びらの形の違いが楽しめるほか、開花時期の違いも確認できます。胡蝶(こちょう)という品種もあり、絶妙のネーミングにふさわしい風格があります。

【神社公式サイト】平野神社の桜



境内では4軒の茶店が開花期間中、営業しています。境内は、茶店以外は飲食禁止です。特に夜桜の場合は吸い込まれるように花見客が茶店に入っていき、花見酒を楽しんでいます。京都の桜の名所は寺社の境内にあることが多く、花見酒は茶店で楽しむのが一般的です。公共の公園に名所が多く、自由にゴザを引いて花見酒を楽しむスタイルが中心の東京とは、やや趣が異なります。

【平野神社公式サイト】桜茶屋の案内

まさに桜の花の真下に茶屋の席が設けられています。桜の花びらのシャワーが美しい日中、ライトアップされて花びらがキラキラ輝く夜、いずれも”日本に生まれてよかった”と感じる至福の時です。

開花期間が長いため、日を変えて訪れるのもおすすめです。開花している品種が異なることから、また違った風情が味わえます。こうしたテクニックは、平野神社でないと駆使できません。



今年2019年の平野神社の桜は、例年に比べ少し痛々しい光景を目にすることになります。昨年2018年9月に関西空港を水没させた猛烈な風台風の被害が残っているためです。京阪神の道路や寺社では、おびただしい数の木が風でなぎ倒されました。

平野神社も拝殿が倒壊するなど、現在も復興の真っただ中です。だからこそ平野神社で花見をし、賽銭・茶店の飲食・檜皮奉納・寄付など、お金を落とすことが大いに復興に役立ちます。神社も支援を呼び掛けています。

【平野神社公式サイト】台風21号の被害による復興のご支援につきまして

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



平野神社の多品種の桜の特徴をきちんと理解

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平野神社
【公式サイト】 http://www.hiranojinja.com/

入館(拝観)受付時間:6:00~17:00
※桜開花期間は21頃までライトアップが行われ、境内に立ち入ることができます。

※毎年3月25日ごろから4月20日頃にかけ、桜の開花状況に合わせ、境内で桜茶屋が営業します。
※境内では桜茶屋以外での飲食は禁止されています。
※境内の拝観・見学に条件はありません。いつでも無料で拝観・見学できます。



◆おすすめ交通機関◆

JR嵯峨野線「円町」駅下車、北口から市バスに乗り換え「衣笠校前」下車、徒歩3分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
京都駅→JR嵯峨野線→円町駅→西ノ京円町バス停Eのりば→市バス15/204/205系統→衣笠校前

【公式サイト】 アクセス案内

※京都駅から直行するバスもありますが、鉄道とバスを乗り継ぐ方が、時間が早くて正確です。
※この施設には無料の駐車場がありますが、桜期間中は使用できない場合があります。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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桜と観音まいりと紀ノ川の青い空を楽しむ_和歌山 粉河寺

2019年03月14日 | 祭・行事・季節の花

3月も半分が過ぎ、九州から関東の太平洋岸ではまもなく桜の季節を迎えます。和歌山県の観音霊場として人気の粉河寺(こかわでら)は、和歌山の有数の花見スポットでもあります。

  • 大門から中門へ至る川沿いの参道が四季を通じて美しく、観音霊場へ向かう非日常感を盛り上げる
  • 堂々とした本堂と桜のコントラストが、西国三十三所札所として賑わう境内を一層華やげる
  • 石組だけで造られたここにしかない名勝庭園から見る本堂を借景にした光景は質実剛健


記録的に早かった昨年2018年よりも桜の開花は遅いものの、平年より少し早めの予想が目立ちます。紀ノ川沿いは桃の花も楽しめます。和歌山県は花とフルーツが抜群です。


本堂

京都国立博物館に寄託されている、鎌倉時代初期に製作された国宝の粉河寺縁起絵巻が、千手観音の化身である童男行者による奈良時代の創建話を伝えています。平安時代には、数々の文献に著名な観音霊場として清水寺等と並んで登場することから、寺勢を誇っていたと考えられます。

中世には近隣の根来寺(ねごろでら)ほどではないものの、広い寺領を有し繁栄していました。1585(天正13)年、根来寺と共に秀吉の紀州征伐にあい、伽藍は全焼します。国宝の粉河寺縁起絵巻にのこる焼損はこの時の火災によるものです。

現在の伽藍は、紀州徳川家によって江戸時代半ばに再建されたものです。堂々とした風格の大門・中門・本堂は重要文化財に指定されています。


川沿いの参道も桜が美しい

粉河寺の桜は、広い境内の随所に植えられていますが、濃すぎず薄すぎず、花の密度が絶妙です。伽藍そのものの美しさを横臥してしまうことなく、観音霊場としての非日常感と両立しているのも、粉河寺の桜の魅力です。

【ジョルダン 花見特集2019】粉河寺

駅や駐車場から進むと、大門が目に飛び込んできます。2F建ての立派な朱塗りの楼門で、粉河寺の観音霊場としての繁栄ぶりを感じることができます。大門をくぐると、右にゆるやかにカーブしながら川沿いの参道を進みます。参道には創建縁起に登場する童男行者の像がまつられています。

再び見えてくる立派な楼門が中門です。粉河寺に重要文化財の立派な門が2つもあることは驚きです。京都・奈良の大寺のような風格を感じます。本堂も西国三十三所札所ではかなり大きさが目立ちます。紀州徳川家が堂宇の風格にこだわったのでしょう。


名勝庭園

中門をくぐると広場になっており、正面に石組と蘇鉄が見事な庭園が見えてきます。この庭園は一段高い本堂との間にある斜面に、石組と植生だけで作庭したとても珍しい庭です。桃山時代を彷彿とさせる質実剛健な趣から、江戸時代初めまでの作庭と考えられています。

平坦な部分を庭に取り込まなかったことから、かえって庭が目につきやすくなっています。庭の横にも桜が上品に植えられています。庭と桜の見事なコントラストから、絶好の撮影スポットになっています。

参拝者が入ることができる礼堂部分の大きさが目立つ本堂は、とても多くの参拝者で賑わっています。西国三十三所の三番札所としての人気はすっかり定着しているようです。

粉河寺の本尊・千手観音は日本トップクラスの秘密のベールに包まれた”絶対秘仏”として知られています。なにしろ「見た」記録がまったくなく、本堂下の地中に容器に入れられて埋められているとされています。いわゆる「本当にあるかどうかもわからない」という極論もあるほどです。

さらに本堂内陣に安置されている御前立本尊も秘仏で、こちらも公開されたことはありません。御前立本尊は、絶対秘仏で名高い長野・善光寺でさえ6年に一度は開帳されています。2008~10年にかけての花山法皇一千年忌で、西国三十三所すべての札所で行われた秘仏開扉でも、粉河寺だけは御前立本尊すら開扉しませんでした。


十禅律院の築地門(竜宮門)

本堂右手奥の緩やかな坂を上がると、江戸時代に粉河寺から独立した天台宗の十禅律院(じゅうぜんりついん)があります。この坂からの粉河寺境内の眺めも抜群です。中国的なデザインの白い竜宮門で、特別な場所と感じさせている佇まいも秀逸です。

粉河寺は現在粉河観音宗の総本山ですが、天台宗に近いとされています。


紀ノ川には大きな青空が似合う

根来寺や桃の花が美しいあら川の桃源郷もすぐ近くです。天気のいい日は自転車による回遊をぜひおすすめします。JR粉河駅にレンタサイクルがあり、他の観光スポットの最寄り駅でも乗り捨て可能です。紀ノ川の大きな青空から春の陽気を存分に吸収することができます。

【わかやま観光情報】紀の川エリア観光レンタサイクル

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



司馬遼太郎が見出した紀ノ川エリアの魅力とは?

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粉河寺
【公式サイト】 http://www.kokawadera.org/

原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:8:00~17:00(本堂の内陣拝観)

※この寺は観光目的で常時公開されています。
※公開されていない仏像や建物・美術品があります。
※境内の拝観・見学に条件はありません。いつでも無料で拝観・見学できます。



◆おすすめ交通機関◆

JR和歌山線「粉河」駅下車、北口から徒歩15分
京奈和道「紀ノ川東」ICから車で5分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:2時間20~40分
大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→難波駅→南海高野線→橋本駅→JR和歌山線→粉河駅

【公式サイト】 アクセス案内

※鉄道は本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には有料の駐車場があります。
※桜シーズンの現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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京都では七五三より十三まいり_嵐山 虚空蔵法輪寺 3/13から

2019年03月03日 | 祭・行事・季節の花

京都・嵐山の渡月橋の南にある虚空蔵法輪寺(こくうぞうほうりんじ)は、知恵の神様・虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)でよく知られています。数え年で13歳になった子供が知恵を授かりにお参りする、京都の春の風物詩・十三(じゅうさん)まいりがまもなく始まります。

  • 京都では七五三よりはるかに古い子供の成長に合わせた行事
  • 参拝後の帰り、渡月橋を渡り終えるまでに後ろを振り向くと授かった知恵を失うという習俗でも有名
  • 中学校に入学する春にお参りするのが一般的で、春休みの渡月橋は晴れ着姿でとても華やか
  • 境内にある電気・電波の神を祀る電電宮も隠れた人気


境内は少し高台にあって、嵐山や嵯峨野の絶景も楽しめます。普段は関心の向かない渡月橋の南側に、訪れると元気になれる寺があります。


十三まいりで華やぐ境内

法輪寺は京都に複数あり、奈良にもあります。嵐山にある法輪寺は「虚空蔵法輪寺」と呼ぶことが一般的です。

虚空蔵法輪寺は、奈良時代に行基が創建したとする伝承があるようですが、史実として確認できるのは平安時代の始めです。空海の弟子・道昌(どうしょう)が寺に入り、虚空蔵菩薩を安置して868(貞観10)年に法輪寺として中興しました。道昌は渡月橋を始めた架けた人物としても知られています。

十三まいりは平安時代に貴族の儀式として行われていたようですが、庶民に一般的になったのは江戸時代からのようです。なぜ数え年で13歳(満12歳)にお参りするのかは諸説あるようですが、大人の仲間入りをする儀式という意味では一貫しているようです。

江戸時代までは旧暦の3月13日に行われてきたこともあり、現在は旧暦と季節感が同じになる4月13日を中心に行事を行う寺が中心です。虚空蔵法輪寺では4月13日を中心にした前後1か月間に加え秋にも行っています。13日は虚空蔵の縁日とされる日付です。


舞台からのぞむ嵯峨野

満12歳ともなれば、成長が早い女子は大人の体格です。十三まいりは初めて大人サイズの晴れ着を着る機会になることが一般的です。男子も袴やスーツ姿が目立ちます。学校の制服でのお参りも少なくありません。本堂の横にある舞台からは嵯峨野の絶景がのぞめます。絶好の記念撮影スポットになっています。

お参りすると、願いを込めた漢字一字を書いた紙を供えて祈祷を受けます。虚空蔵菩薩から知恵を授かり、立派な大人として生きていく儀式になります。参拝後に後ろを振り向くと知恵を失うという習俗も、「もう子供には戻れない」という決意を子供にさせる意味があると考えられています。

とは言え現代の京都では、中学校入学時の一大エンタメ・イベントと化しています。親は事前に「絶対に渡月橋で後ろを振り返ったらあかん」と子供に諭しますが、当日はありとあらゆる誘惑の言葉を投げかけて子供が振り返らないか試そうとします。親としては「大人は誘惑に耐えねばならない」という大義名分があります。子供もそれを承知で警戒しているので、速足で渡月橋を渡ろうとする子がたくさんいます。

結構笑える光景です。なおすべての親子がこんなことをしているわけではありません。



境内にある電電宮(でんでんみや)は、雷の神をまつる法輪寺の鎮守です。永らく荒廃していたものを、1956(昭和31)年に関西の電機業界関係者が集まって再興しました。電気の神様はとても珍しいこともあり、境内に掲げられている電電宮の護持会の会員企業名には、関西のみならず全国の電気・IT・通信・放送に関わる有力企業の名前がずらりと並んでいます。

傑作なのは、電電宮のお守りとして虚空蔵法輪寺で売られているmicroSDカードです。本物のメモリーとしてスマホやPCで使用できます。IT業界で名を揚げようとする人にはたまらないお守りです。カードには本尊・虚空蔵菩薩の画像ファイルが入っていることも気が利いています。

虚空蔵法輪寺はこの他、針供養や漆供養でも知られます。特定のジャンルに絞った参拝で存在感を発揮する、マーケティング上手なお寺のようです。


法輪寺の南側入口

十三まいりは特に京都で著名な行事で、関西全域で知名度が高いわけではありません。この行事を知らない関西人の中には「じゅうそうまいり」と読んでしまう人がいます。阪急電車の駅名の方が圧倒的に有名だからです。私も以前そうでした。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



初めての晴れ着のお供に扇子

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虚空蔵法輪寺
十三まいり
【寺による行事公式サイト】

会期:毎年3月13日~5月13日、10月1日~11月30日(日付で固定)
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:00

※この寺は観光目的で常時公開されています。
※公開されていない仏像や建物・美術品があります。



◆おすすめ交通機関◆

阪急嵐山線「嵐山」駅下車、徒歩5分
京福電鉄嵐山線「嵐山」駅下車、徒歩8分
JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅下車、徒歩18分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:40分
京都駅→JR嵯峨野線→嵯峨嵐山駅

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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奈良 春日大社 おん祭より神秘的な祭が3/13に_春日祭

2019年02月27日 | 祭・行事・季節の花

奈良・春日大社の祭りと言えば、12月の若宮おん祭がとても有名ですが、神社として最も重要な祭は、3月13日に行われる春日祭(かすがさい)です。儀式に向かう行列を拝観することができます。

  • 若宮おん祭以上に歴史を感じさせる神官や勅使の装束が古式ゆかしくとても美しい
  • 行列が粛々と進む様子は、神の領域がとても近くにあると感じさせる
  • 天皇が使者を派遣する格式の高い勅祭の中でも、葵祭/石清水祭と並んで最高格の祭


回廊内で行われる儀式は非公開なため、回廊内へ向かう神官や勅使が行列するわずか10分ほどしか祭を拝観することはできません。しかし10分間に平安時代に神へ祈りをささげていた様子が凝縮されているように感じられるのが、この祭りの不思議な魅力でもあります。


行列の先頭

春日祭は若宮おん祭よりも古く、平安時代の初めに藤原氏の祭りとして始められたと考えられています。興福寺が主導して一貫して大々的に行われた若宮おん祭と比べ、細々と続けられていたようです。天皇が使者を派遣する勅祭(ちょくさい)として、国家の祭りになったのは明治になってからです。

現在、重要な祭礼に天皇から使者が派遣される勅祭社は全国に16社あります。伊勢神宮は慣例的に勅祭社には含みませんが、出雲大社や明治神宮など、さすがと思える神社で構成されています。春日祭は、賀茂社の葵祭、石清水八幡宮の石清水祭と共に三勅祭に数えられています。故実や儀式の様子を今に伝える最も重要な祭りと明治天皇がみなし、現代に至っています。

春日祭は、神社として最も重要な祭りである例祭(れいさい)です。賀茂社の葵祭のように、通常は例祭がその神社の最も著名な祭りになっており、春日大社のように例祭の知名度が低い神社は少数派です。祇園祭が例祭ではない八坂神社なども同様です。


二の鳥居から中へは拝観者は立ち入れない

春日祭はほとんどが、神に国家の安泰と国民の繁栄を祈る儀式で構成されます。行列や神輿、舞踊の奉納と言った氏子たちを巻き込んで華やげるような神事はなく、藤原氏の内々の祭であった形態を色濃く残しているものと考えられます。

儀式のほとんどが非公開なため、どのような古式にのっとったふるまいが伝えられているかはわかりません。わずかに拝観できる行列の荘厳さから、とても神秘的であろうことは十二分に想像できます。



春日大社の祭りの装束は、京都の神社の祭りの装束以上に積み重ねた時間の長さを感じさせます。春日大社は南都焼討の際も大きな被害を免れています。京都に比べ随分と戦乱が少なかった奈良の方が、故実の伝承が継続しやすい環境にあったことが影響しているように思えてなりません。

行列する勅使や神官の装束には柄がなく、装束全体が一つの色だけで作られています。この究極にシンプルなデザインが、歴史的には京都より先輩である奈良らしさを感じさせます。色の違いによって身分や役割を示しているように見えるところも、古式をよく伝えているように見受けられます。


行列の最後

究極にシンプルで色とりどりの装束の行列は、春日大社の杜の緑によく映えます。若宮おん祭では味わえない神秘的な空気感が体験できます。10分間しか見られない祭りですが、しっかりとした存在感があるのが、春日祭の不思議な魅力です。



菊水楼の梅?早咲きの桜?

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



春日大社宮司が語る日本人の心の持ち方

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春日大社
春日祭
【神社による行事公式サイト】春日祭

会場:春日大社表参道(三条通)二の鳥居付近のみ拝観可能、回廊内は拝観不可
会期:毎年3月13日(日付で固定)
   二の鳥居付近での拝観可能時間は10:00頃から10分間程度

※小雨は決行、荒天は中止の場合があります。
※進行時間は当日の神事の進行や天候に左右される場合があります。

春日大社
【公式サイト】http://www.kasugataisha.or.jp/



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から拝観場所(二の鳥居付近)まで徒歩25分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間25分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場がありますが、行事開催時には閉鎖される場合があります。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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神秘的な青龍と古代装束が清水寺を練り歩く_3/14,15に青龍会

2019年02月25日 | 祭・行事・季節の花

京都トップの観光客数を誇る清水寺、その参道の賑わいを一層盛り上げる行事・青龍会(せいりゅうえ)が間もなく行われます。

  • 2000年から始まった新しい行事だが、日本仏教の源流の古代中国を感じさせる演出はお見事
  • 神秘的な古代風の装束と龍の動きは、歴史のある清水寺の境内に溶け込んでいる
  • 参道の店の中まで龍が練り歩き、間近で見る龍の練り歩きは完璧にSNS映えする


龍が古代から現在にタイムスリップしてきたようなイベントです。とてもよくできています。


西門から青龍がおりてくる

観光スポットとして日本トップクラスの入場者数を誇る京都の清水寺の境内や参道は、カラフルなレンタルきものに身を包んだ観光客でいつも一杯です。清水寺では法要や参拝を目的とする行事はたくさん行われていますが、意外なことに観光客が集まりそうな行事はほとんどありませんでした。節分の豆まきも行われず、8月上旬に行われる六斎念仏くらいでした。

青龍会が始まった2000年は、33年に一度の秘仏本尊・千手観音の御開帳の年でした。

清水寺の鎮守である地主神社の拝殿の天井絵の龍が、夜な夜な抜け出して音羽の滝の水を飲んでいるという故事があり、青龍は観音の化身とも考えられています。また奥の院に祀られている夜叉神が、本尊と青龍を守り、人々に良縁をもたらすという信仰があったことから、本尊開帳の年にあわせて青龍が造られます。境内と門前町を練り歩いて地域の発展と良縁を祈願するようになりました。

青龍会の主催は清水寺ではなく、参道の商店街の組合である清水寺門前会です。観光客が集まるイベントがなかったこともあり、京都の観音霊場として悠久の歴史を誇る清水寺にふさわしい企画を練り上げたのでしょう。祭りと言うと年1回のイメージがありますが、清水寺の青龍会は年に3回行われます。


とても古代的な装束が空間を盛り上げる

青龍や衣装の新調にはかなりの意気込みがあったようです。長さ18mの青龍は全身に経文が書かれており、とても神秘的です。緑を基調としたうろこの外周が黄色で縁取られており、天井絵の龍よりはるかにリアルでかっこよく見えます。

巡行に参加する、青龍を守護する四天王や、経典を守護する十六善神らの装束は緑とグレーが基調です。古代中国を感じさせるシックなデザインで、青龍の巡行に厳粛な雰囲気を醸し出しています。ド派手な衣装ではないことが、逆にモダンで斬新です。

行事の監修を昭和の名仏師・西村公朝(にしむらこうちょう)、青龍と装束のデザインを映画や舞台の衣装デザイナーとして日本トップクラスのワダエミが担当しました。演出の質がやはり違います。


参道を青龍が突撃

奥の院で儀式を終えた後、巡行がスタートします。先頭は観音の功徳を伝える意味がある法螺貝を吹く二人です。法螺貝の重厚な音色が非日常感を盛り上げます。地主神社や音羽の滝、三重塔を練り歩いた後、西門から石段をおります。西門の下は大きな広場になっているため、この時が最も見やすくなります。

参道に入ると店の中まで青龍は入っていきます。青龍が見物客にかぶりつくようなパフォーマンスもお手の物です。人をかき分けながら進んで行く18mもある青龍は迫力満点ですが、青龍や装束のデザインがその迫力を一層強めています。

龍は、中国・韓国では日本と同じく”よい象徴”ですが、西洋では翼が付いていて火を噴きながら飛び回る”悪い象徴”です。そのため欧米人はアジアで龍が人々の尊敬を集めているのがとても不思議に見えるようです。巡行時に参道にいた人はほぼすべてが写真撮影に熱中します。


修復工事中の清水の舞台

清水の舞台で有名な国宝の本堂は来年2020年3月まで、檜皮葺きの屋根の葺き替え工事中です。すっぽりと足場に覆われています。清水の舞台には入れますが、本堂の外観は何とも殺風景に見えます。最近は街のビルの建設現場の囲いにも、何らかのアートが施されていることが多くなっています。歴史的建造物の修理でも、景観と調和したアートが施されることを期待したいものです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



清水の風景を手作りできます

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清水寺
青龍会
【清水寺】青龍会
【清水寺門前会】青龍会

主催:清水寺門前会
会場:清水寺奥の院~本堂~三重塔・西門~清水寺参道三年坂付近まで
会期:毎年3月14・15日、4月3日、9月14・15日
開催時間:14:00  清水寺奥の院 巡行スタート
     14:45頃 清水寺参道 巡行
     15:30頃 本堂で巡行終了

※この寺は観光目的で常時公開されています。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「五条坂」「清水道」下車、徒歩15分
京阪電車「清水五条」駅下車、4番出口から徒歩25分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30~60分
京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/100/106/110/206系統→五条坂

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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