美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

中之島香雪美術館「上方界隈、絵師済々」_後期は大坂画壇

2020年02月05日 | 美術館・展覧会

大阪・中之島香雪美術館で行われている展覧会「上方界隈、絵師済々Ⅰ」に行ってきました。
後期になって京都画壇から大坂画壇に展示作品が総入れ替えされています。
大坂画壇の絵師たちの知名度は正直、そうそうたる京都画壇の絵師からは見劣りします。
しかし素晴らしい作品の数々を見ると、「なぜ知名度が低いのか」に大きく関心を持つようになるでしょう。





目次

  • 沈南蘋(しんなんびん)を知っていますか?
  • 木村蒹葭堂(きむらけんかどう)を知っていますか?
  • 大坂でも四条派は町衆にバカ受けした
  • 大坂画壇の絵師たちの実力に圧倒される




沈南蘋(しんなんびん)を知っていますか?

展覧会は三章構成で、第一章は「沈南蘋到来」です。
読めない漢字をあえて前面に押し出すことで、異国情緒を強調する演出でしょう。
そう、沈南蘋(しんなんびん)とは徳川吉宗に招聘された清朝の宮廷画家で、1731(享保16)年から2年間だけ長崎に滞在しました。

宋・元時代の古典的な画風で花鳥画を描き、当時マンネリ化していた狩野派にはない画風がたちまち人々を魅了します。
伊藤若冲や円山応挙が一世風靡した写実的な表現も、実は沈南蘋の影響を強く受けているのです。
わずか2年の滞在の間に長崎の絵師・熊代熊斐(くましろゆうひ)が南蘋の画風を習得し、南蘋派(なんぴんは)と呼ばれた熊代の門人たちによって、写実的で優雅な画風が日本中に広められました。
熊代の門人では、宋紫石(そうしせき)/森蘭斎(もりらんさい)/鶴亭(かくてい)ら、近年注目度が上がっている個性的な絵師がいます。

第一章は、大坂で人気を博すようになった南蘋派の作品です。
沈南蘋「梅月図」、熊斐「鶴性松見図」、鶴亭「牡丹小禽図」と、実に上品で優雅な花鳥画が並んでいます。
多くの人が、異国情緒にあふれたセンスのよい画風に驚くでしょう。


木村蒹葭堂(きむらけんかどう)を知っていますか?

木村蒹葭堂(きむらけんかどう)は大坂の商人ですが、沈南蘋と同じくらいの難読人名です。
「枇杷に小禽図」一点だけが出展されていますが、大いに注目されます。

蒹葭堂も沈南蘋と並んで知名度は低いですが、江戸時代を通じて全国でも一番の知識人と称される「浪速のスーパースター」でした。
文学や書画といった芸術はもちろん、本草学(=博物学)などの自然科学全般に造詣が深く、膨大な書物/地図/楽器/標本など、いわゆる博物館に収蔵されるような珍品の日本一のコレクターとして、全国に知られるようになります。
彼の自宅は、武士から町人まで身分にかかわらずあらゆる知識人が全国から集まる、日本一の文化サロンでした。

蒹葭堂は鶴亭から南蘋派の画風を学んでいます。
本草学の標本を写実的に表現できる画風として注目したのでしょう。
蒹葭堂が活躍したのは18c後半で、円山応挙とほぼ同世代です。
上方の絵師たちが写実画になびくのに、蒹葭堂の及ぼした影響ははかりしれなかったと考えられています。

蒹葭堂は伊藤若冲とも交流がありました。
若冲が描く鶏の絵に、日本の伝統的なやまと絵の趣よりも、中国的な異国情緒を感じませんか?


美術館が入居するフェスティバルタワー


大坂でも四条派は町衆にバカ受けした

第二章は、大坂で大流行した四条派作品を、松村景文(まつむらけいぶん)を中心に紹介しています。
四条派の祖・呉春の異母弟の松村景文は、花鳥画で京都や大坂の町衆に絶大な人気がありました。

兄弟弟子の岡本豊彦が得意とした「山水画」は、モチーフを理解するにはどうしても「難しい」と感じられがちです。
その点、景文が得意とした花鳥画は誰にでも理解しやすく、しかも飾った室内に華やぎを与えます。
景文の洗練されたタッチは、応挙→呉春とバージョンアップを続けてきた写実絵画の魅力をさらに増しました。
肩ひじを張らなくても、誰もがその上質な表現を理解できたのです。


松村景文の「牡丹小禽図」白鶴美術館や「箭竹図」香雪美術館は、景文の個性がとてもよくわかる作品です。
応挙や呉春よりもさらに洗練されていると、強く感じられます。




大坂画壇の絵師たちの実力に圧倒される

第三章は、京都ではなく大坂で活躍した絵師たちを紹介しています。
森狙仙(もりそせん)や西山芳園(にしやまほうえん)ら、実力をたっぷりと感じることができる作品が揃っており、大坂画壇にスポットがあたる絶好の機会を提供してくれています。

昨年も京都・八幡の松花堂美術館で「ご存知ですか?大坂画壇」という絶妙のネーミングの展覧会が行われていました。
私が、大坂画壇の絵師たちの知名度の低さの理由に関心を持つようになったのは、この展覧会がきっかけです。


猿で有名な森狙仙の「子犬図」「猪図」からは、動物の毛のモフモフ感を描かせたら右に出る者はいない、狙仙の超絶技巧をしっかりと感じることができます。
西山芳園「花鳥図」は、京都の四条派とは異なる筆致が魅力的です。
かなりさっぱりしています。


美術館のロビー


江戸の絵師たちの個性は奥が深い。
これからも無名の絵師たちにスポットをあてる展覧会を、期待してやみません。


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


なぜこれほど「知」が集まったのか? 驚きの交友ネットワーク




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利用について、基本情報

中之島香雪美術館
企画展「上方界隈、絵師済々 Ⅰ」

主催:香雪美術館、朝日新聞社
会期:2019年12月17日(火)〜2020年3月15日(日)
原則休館日:月曜日、12/29-1/7
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※2/2までの前期展示、2/4以降の後期展示ですべての展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。


◆おすすめ交通機関◆

大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車、4番出口から徒歩3分
京阪中之島線「渡辺橋」駅下車、12番出口から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、7番出口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→肥後橋駅


※この施設が入居するビルに有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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カラヴァッジョ展 巡回のフィナーレを大阪で見て思うこと

2020年01月03日 | 美術館・展覧会

札幌・名古屋と巡回してきたカラヴァッジョ展。
 フィナーレをかざる大阪展があべのハルカス美術館で始まっています。
 出展予定作品のドタキャンで注目を集めた展覧会ですが、ルネサンスに幕を下ろしたスーパースター・カラヴァッジョの本物の名品の迫力はやはりケタ違いでした。
 展覧会を見終わった後に、私が思いを強めたこともあわせてお読みいただければ幸いです。




 目次

  •  カラヴァッジョはなぜ光と闇を強烈に表現できたのか?
  •  カラヴァッジョのDNAを最も感じたのはリベラ
  •  斬新な企画とドタキャンへの思い



 


 カラヴァッジョはなぜ光と闇を強烈に表現できたのか?

 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio)は、1571年にミラノで生を受けました。
 ミラノ近郊にあるカラヴァッジョ村で少年時代を過ごしたことから、カラヴァッジョという”あだ名”の方が本名より有名です。
 イタリアの人名ではよくあり、レオナルド・ダ・ヴィンチもヴィンチ村出身であることにちなんでいます。

 彼は若い頃からとても激しい気性の持ち主だったようです。
 ミラノからローマに出てきたきっかけ、ローマからナポリに逃避行した理由、ともに喧嘩や殺人といったトラブルや犯罪でした。

 【展覧会公式サイト】 カラヴァッジョ「リュート弾き」個人蔵

 「リュート弾き」個人蔵は、当時のローマの美術界で大きな影響力を持っていたデル・モンテ枢機卿がカラヴァッジョのパトロンとなった頃の作品です。
 デル・モンテ枢機卿に気に入られるという幸運で、カラヴァッジョは出世の階段を駆け上がります。

 枢機卿の館にいたスペイン人の歌手をモデルに描いた作品です。

  •  人物を理想化せずにモデルの表情そのままに描く
  •  画題のドラスティックな瞬間の演出に光と影を極限にまで駆使する

 動画を日常的に目にする私たち現代人が見ても、劇的な瞬間にピタリとポーズ・ボタンを押したかのように、圧巻のドラスティックな迫力が伝わってきます。
 若き日のカラヴァッジョの激しい気性がキャンバスに向かうと、このようなとても若々しく力強い表現に生まれ変わるのです。
 「リュート弾き」は同様の構図の作品が複数存在しますが、この作品は日本初公開です。

 【展覧会公式サイト】 カラヴァッジョ「執筆する聖ヒエロニムス」ボルゲーゼ美術館

 カラヴァッジョによるキアロスクーロ(明暗法)と呼ばれる光と闇の強烈なコントラストは、ルネサンス後のマニエリスムの冗長な表現に飽きていたローマの人々を驚愕させます。
 「執筆する聖ヒエロニムス」ボルゲーゼ美術館は、カラヴァッジョに最も脂がのっていた頃の作品です。

 若さ溢れる「リュート弾き」とは対照的に、齢を重ねてこそ得ることができる「静寂」が表現されています。
 しかし聖ヒエロニムスの横にはさりげなく死の象徴・ドクロが。
 静寂の中にも、ドラスティックな劇場感の表現を忘れてはいません。
 大阪展だけの展示です。



 ハルカス16F展望台


 カラヴァッジョは織田信長のような、強烈な気性と劇的な運命を持ち合わせていたような人物に思えてなりません。
 普通の人では理解できないような考え方があったからこそ、賛否両論あってもとにかく人を惹きつける表現ができた「天才」だったのです。



2019年の年の瀬、ハルカスに設置された「誰でも弾けるピアノ」が大注目


 カラヴァッジョのDNAを最も感じたのはリベラ

 カラヴァッジョのキアロスクーロ(明暗法)は、ルーベンスやレンブラントら、17cのバロック画家の多くが取り入れました。
 カラヴァッジェスキとは、その中でも特に影響を強く受けた画家のことです。
 17cのヨーロッパの美術界はまだイタリアが中心で、多くの画家が訪れていました。

 スペインのジュゼペ・デ・リベーラはその代表格で、この展覧会にも名品が登場しています。
 「洗礼者聖ヨハネの首」ナポリ市立フィランジェリ美術館蔵は、皿の上に置いた生首を描くという、なんとも衝撃的な構図です。
 聖なる殉教というシーンの表現を極限まで追求すると、こんな構図になるのでしょう。
 カラヴァッジョも顔負けの発想です。



 ハルカス美術館の「展示不能」のお知らせ


 斬新な企画とドタキャンへの思い

 今回の展覧会は、カラヴッジョ日本初公開作品を多く含む展示構成もさることながら、「首都圏をとばす」という会場選定が大いに話題になりました。
 国内外の知名度の高い画家の展覧会で、「首都圏をとばす」という話はまず聞いたことがありません。

 「首都圏をとばす」と、見込み入場者数の関係から作品のレンタル予算は抑え気味にせざるをえないでしょう。
 出展リストを見ても、個人蔵はさておき、イタリアにある美術館からしかレンタルしておらず、予算の制約を感じざるをえません。

 今回の展覧会では、リベラ以外のカラヴァッジェスキの作品の充実に、正直物足りなさを感じました。
 展示構成と予算のバランスが取れなかった苦肉の策という印象が残りました。
 展覧会の総合評価は見る人によって印象は異なるため、みなさんなりにご判断いただければと思います。

 展覧会の主役となるカラヴァッジョの名品の出展がドタキャンされるという、悲劇にもあいました。
 日経などの新聞報道では「イタリアの文化財行政機関による出展許可の調整不調」が憶測されていますが、レンタル契約を結ぶ段階で通常はクリアされている問題です。

 この展覧会の主催者は深い反省の念にさいなまれていることと拝察されます。
 私として強く願いたいのは「同じ轍を踏まないためにはどうすればよいか?」の一点だけです。

  •  日本の展覧会に所蔵品を貸し出すと、扱いは万全だしレンタル収入も見込める

 長い時間をかけて日本と世界の美術館の間で築き上げてきた信頼関係です。
 今回の展覧会をきっかけに、こうした信頼関係が新たな段階に昇華していくことを願ってやみません。



 ハルカス美術館、次回は薬師寺


 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 イタリア美術と言えば著者の宮下教授、とても表現力が豊か


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 利用について、基本情報

 あべのハルカス美術館
 カラヴァッジョ展
 【美術館による展覧会サイト】
 【主催者による展覧会サイト】

 主催:あべのハルカス美術館、読売新聞社、読売テレビ
 会期:2019年12月26日(木)~2020年2月16日(日)
 原則休館日:2019/12/31、2020/1/1、1/14
 入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(火~金曜~19:30)

 ※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
 ※この展覧会は、2019年10月まで札幌・北海道立近代美術館、2019年12月まで名古屋市美術館、から巡回してきたものです。
 ※会場毎に展示作品が一部異なります。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。



 ◆おすすめ交通機関◆

 JR・大阪メトロ「天王寺駅」、近鉄「大阪阿部野橋」駅、阪堺電車「天王寺駅前」駅下車
 あべのハルカスB1Fシャトルエレベーター乗り場まで徒歩3分、エレベーターで16Fへ
 JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
 JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→天王寺駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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婦人画報が伝えた京都の魅力の展覧会_えきKYOTO 1/20まで

2020年01月02日 | 美術館・展覧会

京都駅の伊勢丹にある美術館「えき」KYOTOで、日本最古の女性誌「婦人画報」が伝えてきた京都の魅力を、13の家元をキーワードに紹介する展覧会が行われています。





目次

  • 「婦人画報」ってすごい
  • 婦人画報が京都に注目する理由
  • 「和」を伝える圧巻の13の家元



「婦人画報」ってすごい

婦人画報。
女性なら誰でも知ってる、男性でも誰もが聞いたことがある、日本有数の雑誌です。
いささか「レトロ」を感じさせるネーミングですが、あえて創刊以来のタイトルを使い続けていることに、「令和」の時代にあっては逆に惹きつけられます。

【婦人画報 公式サイト】

創刊は日露戦争で日本海海戦に勝利した1905(明治38)年、日本国中が湧きたっていた頃です。
初代の編集長は、小説家・ジャーナリストとして活躍した国木田独歩。
日露戦争後に日本が一等国の仲間入りするのを見越して、女性のライフスタイルの向上を社会に提案しようとしたのでしょう。

さらに驚くことに、婦人画報は創刊以来、一度も休刊したことがありません。
第二次大戦中にも発行し続けたということは、よほど上流階級のマダムからの支持が強固だったと考えられます。

えきKYOTOの展覧会場の外側回廊には創刊以来の表紙がピックアップされており、入館チケットを買わなくとも見ることができます。
「時代の鏡」という言葉をよく耳にしますが、婦人画報の表紙を見ているとまさに「時代の鏡」です。
会場内の展示を見終わった後、外側回廊の表紙の展示を「絶対に見忘れない」ようおすすめします。




婦人画報が京都に注目する理由

創刊当時からの長い歴史のなかで、日本文化の継承と女性の生活を豊かにするための提案をしてきたこと。
婦人画報の媒体資料にコア・コンピタンスとして定義されている美しい文章です。

上質な和の文化を提案するためには「京都」が欠かせません。
数えきれないほど京都で取材をし、先端の和の文化のサプライヤーと密接な関係を築いてきました。

婦人画報の公式サイトでは、「上質な京都の今」を伝えるコラム「きょうとあす」に、すべてのページの先頭行からジャンプできるようリンクを配置しています。
婦人画報が京都をいかに大切にしているか、ありありと伝わってくるWeb戦略です。

【婦人画報 公式サイト】 「きょうとあす」

そうした先端の和の文化のサプライヤーとの密接な関係が、今回の展示のメインテーマです。
13の家元をあげ、取材時のエピソードや掲載時に伝えた和の文化の魅力を、掲載当時の写真や記事を交えて紹介しています。
あわせて各家元が生み出した最高峰の作品を目の前にすると、和の文化の素晴らしさに誰もがため息が出ることでしょう。



展示会場入り口の池坊の立花(写真撮影OK、展示は1/2-5)


「和」を伝える圧巻の13の家元


この展覧会で紹介されている家元は以下です。
いずれも多くの人が耳にしたことがある名前でしょう。

  • 池坊家(華道家元)
  • 石田家(ガラス)
  • 伊東家(御所人形)
  • 井上家(京舞井上流)
  • 上村家(日本画)
  • 江里家(截金)
  • 志村家(染織)
  • 千家(茶道裏千家)
  • 徳岡家(京都吉兆)
  • 中村家(塗師)
  • 森口家(友禅)
  • 樂家(樂焼窯元)
  • 冷泉家(冷泉流歌道)


【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

池坊家では、江戸時代後半に新たなスタイルの提案で門弟を大きく増やした家元・池坊専定が描いた「鶴図」にまず目を奪われます。
四条派の一流の絵師の作品かと思ったら、なんと家元の自筆です。
自然の生き物を美しく表現しようとする心は「いけばなも絵画も同じ」とあらためて実感できます。

上村松園のあでやかな「鼓の音」も多くの人を惹きつけています。
黒髪と衣装の色のコントラストが絶品です。

江里家による截金(きりかね)作品「「截金盒子 截金まり香盒」」は、球形の「まり」に表現した紋様が輝いている逸品です。
その文様は直線状に切った金・銀・プラチナの薄い箔で表現されています。
伝統的な和のデザインと、宇宙空間を思わせるようなどこまでも奥深い空間表現の調和が見事な作品です。

井上家では、祇園甲部の芸妓・舞妓がハレの日にまとう「黒地松竹梅留袖」が、その漆黒の色合いから、展示空間を引き締めています。
黒は色の中で、最も表現が難しい色です。
すべての色の印刷は理論上CMYの三原色の組み合わせで表現できますが、黒だけはCMYで表現せずに独自のインクを使っていることからもおわかりでしょう。
この留袖の黒は、まさに最高品質の「黒」を表現しています。

最後に、紙面に幾度も登場している作家の瀬戸内寂聴を、14番目のキーパーソンとして紹介しています。
氏との対話のエピソードから、とてもほのぼのとした気分を味わえること間違いなしです。



京都駅改札も新春モード


雑誌づくりの視点で見た京都の魅力が、とてもわかりやすく紹介されています。
つなぎ、つたえる『人』と『家』。
展覧会のテーマに、京都の魅力が集約されています。


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



婦人画報ファンの目線で選ばれた「おいしい!」


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利用について、基本情報

<京都市下京区>
美術館「えき」KYOTO
婦人画報創刊115周年記念特別展
婦人画報と京都
つなぎ、つたえる「人」と「家」
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催者による展覧会公式サイト】

主催:美術館「えき」KYOTO、ハースト婦人画報社、京都新聞
会期:2020年1月2日(木)~20日(月)
原則休館日:会期中なし
開館(拝観)受付時間:10:00~19:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




◆おすすめ交通機関◆

JR/近鉄/地下鉄 京都駅下車、ジェイアール京都伊勢丹7Fへ
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:5分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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中之島香雪美術館「上方界隈、絵師済々」_円山・四条派は奥深い

2019年12月18日 | 美術館・展覧会

大阪・中之島香雪美術館で、円山・四条派の隠れた名品を集めた展覧会「上方界隈、絵師済々Ⅰ」が始まりました。
前期展示は派が芽生えた京都、後期展示は派が独自の発展をとげた大坂と、絵師の活躍した地域で作品が総入れ替えされるという、興味深い展示構成が注目されます。
普段なかなか見れない個人蔵作品の多さも、この展覧会の特徴です。
「隠れた名品がこんなにあったのか」と、驚く方がきっと多いでしょう。



フェスティバルホール


目次

  • 円山・四条派の名品はどこまでも奥深い
  • 円山応挙の名品「芭蕉童子図屏風」
  • 原在中の名品「旭日双鶴図」






円山・四条派の名品はどこまでも奥深い

今年2019年は、全国で円山・四条派の展覧会が目白押しでした。
このブログでも、

とご紹介してきたように、円山・四条派の作品を「これでもか」と見続けていたのです。

普通ならば「そろそろ見飽きた」と感じてしまうのですが、「上方界隈、絵師済々Ⅰ」には迷うことなく足を運んでいます。

  • 円山・四条派は絵師がとても多く、時がくだるほど描写が洗練されていくことがわかる
  • 現存する作品が多く、多種多様な画風やモチーフが楽しめる
  • 版画の錦絵とは異なり、同じ作品を目にすることはない

と期待したためですが、そんな期待を裏切らない「隠れた名品」が展示会場に勢揃いしていました。

前期展示の京都画壇では、円山・四条派のDNAの原点である円山応挙の作品を出発点に、DNAが京都でどのように伝播していったのかを味わうことができます。
長澤芦雪や呉春ら著名な弟子の名品はもちろんですが、源琦や原在中といった「隠れたすご腕」の弟子たちの名品が見逃せません。
円山・四条派のDNAの奥深さをしっかりと実感することができるからです。





円山応挙の名品「芭蕉童子図屏風」


前期展示のタイトル「京都画壇の立役者たち」を象徴する作品は、やはり円山応挙でしょう。
前期展示では、展示期間が限られている作品もありますが、9点が出展されています。


【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

「芭蕉童子図屏風」個人蔵は、円山応挙が本格的に絵師として活動を始めた、いわゆる「円満院時代」と呼ばれる頃の名品です。

円満院(えんまんいん)とは、滋賀県大津市の三井寺の近くの門跡(もんぜき)寺院で、今も続いています。
円山応挙の出世への階段は、当時の円満院の住職・祐常(ゆうじょう)が、絵を習うために円山応挙を呼び寄せたことで、始まりました。
祐常は関白二条家出身で、円山応挙にとっては自身の名を公家社会に広めてくれた大恩人です。
また祐常は当時流行していた博物学に詳しく、植物や動物の姿を「写生」する面白さを円山応挙に目覚めさせた人物でもあります。
祐常との出会いがなければ、円山応挙はスーパースターにはなりえなかったでしょう。

「芭蕉童子図屏風」は、童子が仙人を見つめる視線が印象的です。
円山応挙が得意とした「愛くるしい」表現は、若い頃からかなりの領域に達していたことがわかります。

【所蔵者公式サイト】 円山応挙「棕櫚図」香雪美術館

「棕櫚(しゅろ)図」香雪美術館蔵は、円山応挙の「写生」への執念を感じさせます。
棕櫚とはヤシであり、薩摩の島津家からプレゼントしてもらい、京都の庭園に植えることが江戸時代に流行していました。
植物ながら、その描写には生命感があふれており、温かみさえ感じさせます。
観察する能力と表現する能力、ともに極めようとした円山応挙の画業人生を集約したような名品です。
展示は12/28まで。



フェスティバルプラザ


原在中の名品「旭日双鶴図」

原在中(はらざいちゅう)は、数多い円山応挙の弟子とされる絵師の中でも、本当に弟子であったか諸説ある謎の人物です。
画風は、伝統的なやまと絵表現・中国絵画から写実画まで幅広く取り込んでおり、絵の注文も寺や公家からが中心でした。
さまざまな伝統の知識である有職故実(ゆうそくこじつ)に明るかったこともあり、18cの京都画壇の絵師の中では異色の「王朝趣味」を感じさせます。
町衆からの注文が多かった円山・四条派の絵師たちとは随分個性が異なります。

「旭日双鶴図」村山コレクション蔵は、太陽の方向を見る鶴と言うモチーフ設定に加え、やまと絵と中国絵画をブレンドしたような表現から、とても洗練された趣に仕上げられている名品です。
背景の松の枝は写実的にとても緻密に描かれており、絵の全体の印象を引き締めています。



茶室「玄庵」を館内に原寸大再現


円山応挙の弟子の中で、美人画で知られる二人の名品も注目されます。
唐美人図で有名な源琦(げんき)の「西王母図」個人蔵、日本美人画で有名な山口素絢(やまぐちそけん)の「美人図」個人蔵は、とても興味深く画風を対比することができます。

「隠れた名品がこんなにあったのか」と確実に実感できる展覧会です。
来年2020年2月からは展示作品が総入れ替えされ、後期展示「独自の展開 大坂画壇」が始まります。
前期展示「京都画壇の立役者たち」を見て、大いに期待感が高まりました。
また来年2020年9月からは「上方界隈、絵師済々ⅠI」の開催が予告されています。
こちらはどんな展示構成になるのでしょうか、同じく楽しみです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



「奇想」を提案した著者は18c京都にルネサンスを見出した


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利用について、基本情報

中之島香雪美術館
企画展「上方界隈、絵師済々 Ⅰ」
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:香雪美術館、朝日新聞社
会期:2019年12月17日(火)〜2020年3月15日(日)
原則休館日:月曜日、12/29-1/7
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※2/2までの前期展示、2/4以降の後期展示ですべての展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車、4番出口から徒歩3分
京阪中之島線「渡辺橋」駅下車、12番出口から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、7番出口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設が入居するビルに有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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嵐山 福田美術館にさらなる手応え_福美コレクション展 II期 1/13まで

2019年11月27日 | 美術館・展覧会

10/1にオープンしたばかりの、京都・嵐山・福田美術館。
オープン記念の展覧会「福美コレクション展」が、ほとんどの展示作品を入れ替え、II期に入っています。
福田美術館の江戸・近代の日本美術の素晴らしいコレクションには、I期でもかなり手応えを感じました。
そんな福美コレクションの手応えをさらに実感させくれる名品が、II期でも目白押しです。




目次

  • II期の名品その1:木島櫻谷「駅路之春」
  • II期の名品その2:長沢芦雪「海老図」
  • II期の名品その3:葛飾北斎「人物像」






II期の名品その1:木島櫻谷「駅路之春」

このしまおうこく「うまやじのはる」と読みます。
近年、温かみのある動物画で注目を集めている木島櫻谷は、自身の名前も超難読ですが、作品にも超難読のタイトルが多い、とても個性の強い画家です。

六曲一双の巨大な屏風「駅路之春」の前に立つと、そんな櫻谷の個性の強さを強烈なオーラとして感じます。
左隻は、街道の駅で休息をとる旅人の様子を描いたものでしょう。
しかし旅人の顔は描かれず、桜の太い幹の間からわずかに足元だけを見せるという、ドラスティックな構図です。
一方、右隻はベーシックな構図、駅で休息をとる馬二頭の全身をほのぼのと描いています。
両隻とも桜の花は描いていません。
明るい色彩と、地面に落ちた花びらだけで、春真っ盛りであることを見事に観る者に伝えています。

構図の妙と、洗練された色使い。
同じ頃、京都画壇に君臨していた竹内栖鳳の、今にも動き出すようなリアルな動物画とは対照的な画風が、木島櫻谷の魅力です。

【美術館公式サイト:コレクション】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

福美コレクションの近代日本画では他に、速水御舟の二点が注目されます。
ツツジの見事な花の下ですやすや眠る猫を描いた「春眠」、夏の朝しか咲かない黄蜀葵(とろろあおい)ほのかな黄色い花弁を描いた「露潤」。
いずれも速水御舟らしい生命力にあふれた緻密な描写が見事です。



観る者を惹きつける「駅路之春」 ※館内は原則、写真撮影OK


II期の名品その2:長沢芦雪「海老図」

縦長の軸の左下から右上に、ウルトラマンの怪獣のように見える巨体の海老を描いています。
ボディは、生きている時のナチュラルな色ではなく、いかにも食欲をそそるゆであげた後の「真赤」
背景は一切描かれず、タイトルも一切脚色がない、ずばり「海老図」
一方で波打つような海老独特の繊細な紋様の描写はきわめて緻密
長沢芦雪らしい「奇想」が見事に伝わってきます。

そんな弟子・長沢芦雪の作品を見て、一緒に並ぶ師匠・円山応挙の作品からは「やれやれ、もっと写生しろ」というぼやきが聞こえてくるようです。

「黄蜀葵鵞鳥小禽図(おうしょっきがちょうしょうきんず)」は、円山応挙の人柄を表すような、細心なテクニックがふんだんに用いられています。
背景のとろろあおいのほのかな黄色い花びらの下で鳴いているガチョウが、妙にリアルなのです。
羽毛の淵を白い絵の具で描くことで表現した、絶妙なフワフワ感が作品全体を引き締めています。
匂いまで描くと言われた竹内栖鳳は「きっとこの作品を見て学んだのだ」、と思ってしまいました。

あと一つ、岸駒(がんく)が鹿のつがいを描いた「福禄寿図」もお忘れなく。
長澤芦雪とほぼ同世代ですが、円山応挙との関係は希薄と考えられており、長崎で隆盛していた中国絵画の影響を受けている画家です。
力強く中国風に描かれた背景の岩や松の前で、まるで体温まで伝わってくるように精緻に描かれた鹿の毛並みが観る者を惹きつけます。
しかもつがいの視線は真逆、岸駒らしい構図の妙も抜群です。





II期の名品その3:葛飾北斎「人物像」

天球儀を横にして堂々と座るいかにも知識人のように見える男性。
誰の作品かと思いきや、葛飾北斎と聞いて驚きました。
葛飾北斎による男性の肖像画はほとんど見た記憶がなく、葛飾北斎のマルチな才能をあらためて感じさせます。
指と目線の繊細な描写からは、モデルの人柄までが伝わってくるようです。

葛飾北斎の弟子・蹄斎北馬の美人画三部作「雪月花」は、どこか普通の美人画とは違います。
喜多川歌麿のような美人画の主流とは一線を画す「大人の表現」に見応えがあります。




渡月橋から見た福田美術館

福美コレクション展II期は1/13まで行われています。
年末は29日(日)まで、年始は2日(木)からと、他に比べ福田美術館のお正月休みは短めです。
歩き疲れた時には、館内のカフェから楽しめる嵐山の絶景が、カラダをいやしてくれます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



現代の京都画壇の人気の実態や如何に?


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利用について、基本情報

<京都市右京区>
福田美術館
開館記念
福美コレクション展
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:福田美術館、日本経済新聞社、京都新聞
会期:2019年10月1日(火)~2020年1月13日(月・祝)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※11/18までのI期展示、11/20以降のII期展示で展示作品/場面が全面的に入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




◆おすすめ交通機関◆

JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅下車、南口から徒歩12分
京福電鉄・嵐山本線(嵐電、らんでん)「嵐山」駅下車、徒歩4分
阪急電鉄・嵐山線「嵐山」駅下車、徒歩11分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
京都駅→JR嵯峨野線→嵯峨嵐山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には障がい者や車いすの方だけが利用できる駐車場があります。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。

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国宝彦根屏風と国宝松浦屏風 見事な競演_奈良 大和文華館 12/25まで

2019年11月26日 | 美術館・展覧会

奈良 大和文華館で、江戸初期風俗画の二大傑作が競演する「国宝彦根屏風と国宝松浦屏風」展が行われています。
両屏風はすぐ近くに展示されており、究極のオーラの違いを見比べて楽しめる、またとない機会です。
後世の浮世絵につながる江戸初期風俗画の魅力を、しっかりと味わうことができます。



秋色に染まる大和文華館の海鼠壁


目次

  • 江戸初期に大流行した風俗画「遊楽図」は時代の鏡
  • 国宝彦根屏風と国宝松浦屏風、オーラの違いをとくとご覧あれ
  • 風俗画に描かれた人物はどんどん大きくなっていった





江戸初期に大流行した風俗画「遊楽図」は時代の鏡

美術用語で、市井の人たちの暮らしぶりや生活を楽しむ様子をモチーフとして描いた作品を指すのが「風俗画」です。
日本では、京の都の様子を描いた「洛中洛外図」がそのはしりと考えられています。
戦国時代真っただ中16c前半の「歴博甲本」国立歴史民俗博物館蔵が、現存最古の洛中洛外図です。

「洛中洛外図」は、当初は戦国大名が京の街の様子を家来や客人に見せるために描かせましたが、戦国の世が終わると、豊かな町衆たちから注目されるようになります。
モチーフも、観光ガイドのように京の都全体の名所をもれなく描くのではなく、四条河原など特定のスポットに絞って、遊びを楽しむ様子を描くよう変化していきました。
これが「遊楽図(ゆうらくず)」です。
ようやく訪れた平和と街の繁栄を謳歌する、新しい時代の到来の象徴のようなモチーフでした。

  • 芝居見物や酒宴を楽しむ人々の表情や着物の描写は緻密
  • 役者や見物人の着物のデザインは今見てもかっこよく、まるでファッションショーのよう
  • 現存しない建物の姿や配置もわかり、歴史的にもとても貴重な資料

当時の最新トレンドがとてもよくわかり、今にも人々が飛び出してくるようにリアルに描かれている。
何と言っても「遊楽図」の最大の魅力でしょう。



銀杏の黄葉が絵になる大和文華館


彦根屏風と松浦屏風、オーラの違いをとくとご覧あれ

桃山時代から江戸時代初期に大流行した遊楽図の最高傑作と並び称されているのが、今回の展覧会のツイン主役である「彦根屏風と松浦屏風」です。
同じ展覧会で「ご一緒」するのは、3年前2016年秋の彦根城博物館「コレクター大名 井伊直亮-知られざる大コレクションの全貌-」以来ですが、その際展示室は別でした。
しかし今回の展示では、彦根屏風の一隻と松浦屏風の左隻が同じ視界に入るよう展示されており、まさに「競演」です。
風俗画ファンにはたまらない「しつらえ」になっています。

【所蔵者公式サイトの画像】 「彦根屏風(風俗図)」彦根城博物館

彦根城博物館で「彦根屏風」を最初に見た時、遊里で遊ぶ男女がとても「上品」に描かれているという印象を受けたことを、私は記憶しています。

  • この時代の遊楽図屏風に多い1mほどの高さで、一隻だけの作品、コンパクトさはちょうどよい
  • 余白が大きく金箔以外に何も描かれていない、主役に自然と目が行く
  • 余白を活かした人物の配置とその着衣のデザインはとても優雅、描写も緻密で洗練されている
  • 唯一背景のように描かれた屏風は中国の山水画で、文人趣味をうかがわせる

寛永年間(1624-44)の狩野派の絵師によると考えられている「彦根屏風」は、上流階級のサロンのような高級な遊里を描いたものでしょう。
そうでないと、こんな「洗練」された描写はできません。



彦根城


もう一人の主役「松浦屏風」は、「彦根屏風」とは対照的に「妖艶」なのです。

【所蔵者公式サイトの画像】 「松浦屏風(婦女遊楽図屏風)」大和文華館

  • 同じく遊里を描いたものだが、遊女と禿(かむろ)だけで、客の男性は描かれていない
  • 高さ150cm超の屏風に描かれた人物はほぼ等身大、しかも一双なので彦根屏風の2倍の圧巻のスケール
  • 髪の毛や着物の文様の描写は、画面が大きいだけに彦根屏風よりさらに緻密、輝くような絵具の発色も驚愕
  • 客の殿方を夢の国にいると錯覚させる「あやしい」女性の表情や目線は一人一人異なる、モナリザの微笑のように観る者をとりこにする

着物のデザインは桃山時代風ですが、制作年代は桃山時代から江戸半ばまで様々な説があることも、この作品の不思議な魅力を高めています。
西洋絵画にはよく見られる何かの暗示を、この作品から感じてなりません。

彦根屏風の「洗練」、松浦屏風の「妖艶」。
オーラの違いをぜひ楽しんでください。




風俗画に描かれた人物はどんどん大きくなっていった

この展覧会は、遊楽図が時代を追って作品が展示されています。
モチーフの描き方の変遷、すなわち時代の鏡の映し方がどのように変わっていくかを楽しむことができます。
描かれる空間の範囲はどんどん小さくなり、描かれる人物はどんどん大きくなるのです。

風俗画のはしり「洛中洛外図」は、範囲は京の街全体を描きました。
クローズアップされた名所の周辺に描かれた人物は小さく、まるでアリのようです。

続く遊楽図では、北野天満宮の境内や四条河原といった、特定の娯楽スポットだけを描きます。
おのずと範囲は狭くなり、人物は大きくなりました。
何を楽しんでいるのか、どんなファッションで着飾っているか、わかるようになります。
モチーフの主役が、街の風景から人物に、移り変わっていることが見逃せません。

次に流行する、個人の屋敷の中だけを描いた「邸内遊楽図」や、さらに範囲の狭い松浦屏風のような室内だけを描いた遊楽図にも、この傾向は受け継がれます。
行きつく先は、寛永時代から約20年後に現れた、背景がなく人物だけを描いた「寛文美人」と呼ばれる美人画です。
浮世絵にも、美人画人気は引き継がれていきます。

  1. 狩野孝信「北野社頭遊楽図屏風」個人蔵
  2. 「邸内遊楽図屏風」奈良県立美術館蔵
  3. 「松浦屏風」大和文華館蔵
  4. 「舞妓図」大和文華館蔵

と順に見比べてください。
とっても面白いですよ。




西洋絵画で風俗画と受け止めることができる最初期の作品は、くしくも日本の洛中洛外図と同じ頃、フランドルでブリューゲルが描いた「農家の婚礼」ウィーン美術史美術館でしょう。
風俗画が市民の間で大流行したのも日本と同じ頃、16cのオランダです。
ハルス、レンブラント、フェルメール、本当に輝くような時代でした。

風俗画は「時代の鏡」、400年前にタイムスリップしてみましょう。


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本美術はとても多様、整理してみませんか?


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利用について、基本情報

<奈良県奈良市>
大和文華館
特別展国宝彦根屏風と国宝松浦屏風
―遊宴と雅会の美―
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:大和文華館
会期:2019年11月22日(金)~12月25日(水)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00

※12/8までの前期展示、12/10以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「学園前」駅下車、南口から徒歩7分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→学園前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。


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ハプスブルク展、欧州随一の名門の至宝の数々_西洋美術館 1/26まで

2019年11月20日 | 美術館・展覧会

上野・国立西洋美術館で「ハプスブルク展」が行われています。
 展覧会の主人公は、オーストリアとスペインのハプスブルク家の8人の王族。
 ヨーロッパ随一の名門の栄光の歴史を、8人にまつわる驚きの至宝を通じて堪能できる展示構成に仕上がっています。





 目次

  •  名門、ハプスブルク家にこそふさわしい称号
  •  15c、政略結婚で版図を一気に拡大したマクシミリアン1世
  •  17c、ベラスケスを寵愛したフェリペ4世
  •  18c、マリー・アントワネットをフランスに嫁がせたマリア・テレジア
  •  19c、世紀末ウィーンの繁栄をもたらしたフランツ・ヨーゼフ1世



 


 名門、ハプスブルク家にこそふさわしい称号

 ハプスブル家って、聞いたことはあるが、すごい一族?

 多数の民族や国家がひしめきあうヨーロッパには、ものすごい数の王家があります。
 そんな中で、ルネサンスの時代から第一次大戦まで600年にわたり、欧州大陸のど真ん中を支配、欧州指折りの「名門」として称えられるのがハプスブル家です。

  •  イタリアとバルト海を結ぶ南北の「琥珀の道」、欧州大陸の東西の交流軸となった「ドナウ川」、この2つの道の交点に位置する首都ウィーンはには、常に先端文化が流入していた
  •  ハプスブル家は19c初頭まで約400年間、ドイツ全体の象徴的な君主となる「神聖ローマ皇帝」を兼ねており、「名門」としての影響力を誇示し続けた
  •  16cにはスペイン/オランダ/ナポリも支配、「太陽の沈まぬ国」の繁栄を強く印象付けた


 16cに繁栄の絶頂を迎えて以降、ハプスブル家は領土の縮小が相次ぎ、第一次大戦の敗戦で王家としての役割を終えます。
 ハプスブル家の歴史を見ていると、日本の天皇家にどこか似ている気がしてなりません。
 互いに政治権力を縮小させながらも脈々と命運を保ち続け、国民に絶大な人気があります。

 世界でも稀有な「名門」ハプスブル家の悠久の歴史を、この展覧会できちんとたどってみませんか?





 15c、政略結婚で版図を一気に拡大したマクシミリアン1世

 1493年、日本では「応仁の乱」が終わった頃、この展覧会の1人目の主役が神聖ローマ帝国の皇帝になります。
 ハプスブル家の隆盛の礎を築いたマクシミリアン1世です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作「ローマ王としてのマクシミリアン1世」ウィーン美術史美術館

 甲冑に身を包みまっすぐに前を見つめる描写は、ハプスブル家を名門に押し上げた偉人の威厳が見事に表現されています。
 「中世の騎士」の如く武力で領土を拡大したように印象付けられますが、版図の拡大に最も効果的だったのは「政略結婚」でした。
 自らは欧州で最も豊かだったフランドルを支配するブルゴーニュ公の娘と結婚、フランスに対抗する思惑で一致したスペインには息子を婿入りさせ、欧州最強の王家になる布石を打っていきます。

 平安時代に天皇への輿入れ競争で勝利して絶大な権力を手にした藤原道長と同じ。
 展覧会のプロローグを飾る彼の肖像画からは、偉大な功績を今に伝えるオーラを圧倒的に感じることができます。



 西洋美術館の前庭・ロダン作品


 17c、ベラスケスを寵愛したフェリペ4世

 16c、大航海時代に世界を制覇した「太陽の沈まぬ国」スペイン。
 中南米の銀山からの収入を新産業育成に活かせず、最大の税収源であるオランダが独立したこともあって、17cにはヨーロッパの先進国としての地位を失いつつありました。
 歴史は皮肉なもので、一旦強国になった国が傾き始めると、過去の蓄積の効果が表れはじめ、芸術を中心とした文化が栄えるようになります。
 17cのスペインはその代表例です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベラスケス「スペイン国王フェリペ4世の肖像」ウィーン美術史美術館

 展覧会3人目の主役は、時のスペイン王・フェリペ4世。
 ベラスケスとルーベンスのパトロンという文化面での実績が、政治的な実績以上に強く記憶に残る王です。
 フェリペ4世の肖像画には、マクシミリアン1世の肖像画のような「近寄りがたい」威厳はありません。
 しかしはるかに国王としての”洗練”を感じさせます。
 ハプスブルグ家が積み重ねた悠久の歴史を見事に表現したベラスケスはやはり、天才です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベラスケス「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ」ウィーン美術史美術館

 オーストリアとスペインに分かれて相続されたハプスブル家は、家の繁栄をもたらした「婚姻」を重視し続けました。

  •  同族内で婚姻している限り、他家に所領が乗っ取られることはない
  •  同じカトリックで家の格が見合うフランス王家は宿敵、婚姻はありえない
  •  近親結婚が増えたことで障害を持つ子供が続出したことも、家の凋落の一因に


 展覧会4人目の主役「マルガリータ・テレサ王女」は、父フェリペ4世に溺愛され、オーストリア皇帝への「見合い写真」としてベラスケスに幾度も描かれました。
 8歳の少女の可憐な表情を見事に描き出したこの肖像画は、ベラスケスの最高傑作の一つです。
 青いビロードのドレスの立体的な輝きは、ヨーロッパ最高の家柄の娘であることを完璧に表現しています。

 【所蔵者公式サイトの画像】 Velazquez「Las Meninas」プラド美術館

 ちなみに、かの有名な「ラス・メニーナス」の主役も、マルガリータ・テレサ王女です。



 プラド美術館・ベラスケス銅像


 18c、マリー・アントワネットをフランスに嫁がせたマリア・テレジア

 5人目の主役は、女王マリア・テレジアです。
 男子でないと皇位継承が認められなかった時代に、オーストリア継承戦争や七年戦争を戦い抜き、女王としてオーストリアを統治することをヨーロッパ中に認めさせました。

 【展覧会公式サイトの画像】 マルティン・ファン・メイテンス(子)「皇妃マリア・テレジアの肖像」ウィーン美術史美術館

 「皇妃マリア・テレジアの肖像」には、「国母」と呼ばれた彼女の人生が集約されているように感じてなりません。
 当時きわめて珍しかった恋愛結婚をし、16人もの子を産んだ「肝っ玉母さん」でもあります。

 マリア・テレジアは、オーストリアの外交を大きく転換させました。
 ドイツ全土に影響を及ぼすようになったプロイセンに対抗すべく、永年の宿敵フランスと手を結んだのです。
 その象徴として、ルイ16世の妃となるべくパリに送り込まれたのが、かのマリー・アントワネット。
 この展覧会の6人目の主役です。

 【展覧会公式サイトの画像】 マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン「フランス王妃マリー・アントワネットの肖像」ウィーン美術史美術館

 当時のパリで最も著名な女性肖像画家・ルブランが描いた肖像画には、23歳の姿ながらも王妃としての貫禄が見事に表現されています。
 38歳で断頭台の露と消えることになる彼女は、嫁入り当初はフランス人に熱狂的に歓迎されました。
 それがいつのまにか、彼女の優雅な暮らしぶりが民衆の不満の象徴へと、どんでん返しするのです。
 一緒に展示されている彼女が身に付けていた豪華な宝石は、そんな彼女の運命を今に伝えています。



 マリー・アントワネットが断頭台にのぼったパリ・コンコルド広場


 19c、世紀末ウィーンの繁栄をもたらしたフランツ・ヨーゼフ1世

 展覧会の主役の最後の2人は、19cの世紀末に今日のウィーンの街並みを造った最後の皇帝・フランツ・ヨーゼフ1世と皇妃エリザベトです。
 今年9月に大阪・国立国際美術館「ウィーン・モダン展」で見た二人の肖像画には強く印象付けられましたが、改めて輝かしいウィーンの世紀末の時代をイメージすることになりました。

 【展覧会公式サイトの画像】 ヴィクトール・シュタウファー「オーストリア・ハンガリー二重帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の肖像」ウィーン美術史美術館

 国民に絶大な人気があった「最期の皇帝」の最晩年の姿を描いた肖像画です。
 オーストリアの国運をしっかりと受け止めた「おじいちゃん」のような彼の存在感を、完璧に表現しています。
 第一次大戦は、欧州屈指の「名門」ハプスブルグ家の終焉の時。
 その最期を如実に表現した肖像画には、オーストリアのみならずヨーロッパの雄大な歴史が詰め込まれているように思えてなりません。

 【展覧会公式サイトの画像】 ヨーゼフ・ホラチェク「薄い青のドレスの皇后エリザベト」ウィーン美術史美術館

 この王妃の肖像画を見て、みなさんはどのような印象を持たれるでしょうか?
 ヨーロッパ宮廷随一と言われた女性としての美しさ、女性ならではの威厳、国民を統べる選ばれた人としての緊張感、これらすべてがこの絵で表現されています。
 日本でも度々、宝塚劇団のミュージカルの主人公として、その人生を語り継がれてきました。
 彼女は1898年に暗殺される運命にあります。
 オーストリア帝国の落日を象徴するような人生でした。





 2019年は日本・オーストリア友好150周年で、年初から「世紀末ウィーンのグラフィック」「クリムト展」「ウィーン・モダン」と続いた大型美術展のラッシュが記憶に残っている方も少なくないでしょう。
 「王族」をストーリーの軸とした「ハプスブル展」は、そんなオーストリア展「ラッシュ」の最後にふさわしく、オーストリア帝国の栄光の歴史をきっちりとたどっています。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 悠久のハプスブルク家の歩みを多彩なビジュアルでしっかり解説


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 <東京都台東区>
 国立西洋美術館
 日本・オーストリア友好150周年記念
 ハプスブルク展
 600年にわたる帝国コレクションの歴史
 【美術館による展覧会公式サイト】
 【主催メディアによる展覧会公式サイト】

 主催:国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社
 会場:B2F企画展示室
 会期:2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金土曜~19:30)

 ※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 JR「上野駅」下車、公園口から徒歩2分
 東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩8分
 京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩8分

 JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
 東京駅→JR山手/京浜東北線→上野駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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神戸市立博物館リニューアル_神戸観光の目玉に大変身

2019年11月15日 | 美術館・展覧会

約2年間の改修工事を終えた神戸市立博物館がリニューアルオープンしました。
南蛮美術を筆頭に、館が誇る至宝を一堂に展示する「名品展」が、リニューアルの「披露宴」として行われています。



1Fホールは来館記念写真スポット

目次

  • 神戸市立博物館はリニューアルでどう変わった?
  • 神戸の至宝:南蛮美術の池永コレクション
  • ザビエルと銅鐸の部屋もできた
  • 1Fは入りやすく使いやすくなった


ここ数年は、全国的に美術館・博物館のリニューアル休館が目立っていました。
神戸市立博物館は、展示スペースが大きいことから、関西の大規模企画展の主要会場のひとつです。
2年近くに渡った休館中は、会場不足に起因する大物企画展の「関西飛ばし」を感じたことは否めません。
これには、同じく箱が大きい京都市美術館ならびに京都国立博物館の明治古都館と、休館時期が重なったことも影響しています。
京都市美術館も来年2020年3月にリニューアルオープンします。
展示会場としての箱は揃いました。
「関西飛ばし」はありえない。
そんな期待に、リニューアルした神戸市立博物館が応えてくれる予感を感じさせます。




神戸市立博物館はリニューアルでどう変わった?

神戸市立博物館の建物は何と言っても、旧外国人居留地を象徴するような重厚でレトロな印象が特徴でしょう。
それもそのはず、1935(昭和10)年に竣工した旧横浜正金銀行神戸支店が、1995年の阪神大震災にもびくともせず、今も使い続けられているのです。
今回のリニューアルは耐震補強が主目的ではありません。
1982(昭和57)年の開館以来、時代にそぐわなくなった利用者視点の使い勝手の改善に主眼が置かれました。
神戸市立博物館が誇る至宝の常設展示と、時代に応じたトイレやミュージアムショップといったアメニティの改善が、目に見えて「よくなった」と感じられるポイントです。



泰西王候騎馬図屏風の展示室


神戸の至宝:南蛮美術の池永コレクション

リニューアルオープンを飾る展覧会「名品展」は、自館コレクションの至宝を圧巻のスケールで披露する構成になっています。
新しくなったお披露目として、忠実に自館コレクションの魅力をプレゼンしています。
神戸市立博物館の「実力」をうかがい知る絶好の機会です。

神戸市立博物館は、1982(昭和57)年に「神戸市立南蛮美術館」と「神戸市立考古館」を統合し開設されました。
源流となった2つの館名は、現在も神戸市立博物館が誇る二大至宝を象徴しています。
その一つ「南蛮美術」は、神戸の資産家・池長孟(いけながはじめ)が蒐集したものです。

安土桃山時代から江戸初期にかけて、ヨーロッパからはるばるやって来た、今まで見たこともない異国文化を表現した作品が多数制作されました。
神戸市立博物館は、そうした「南蛮美術」では、日本最高峰のコレクションを誇ります。

【所蔵者公式サイトの画像】 「泰西王侯騎馬図」神戸市立博物館

「泰西王侯騎馬図」は、池長コレクションの最高傑作の一つでしょう。
サントリー美術館所蔵品と対を成す屏風です。
ヨーロッパの強国の帝王を描いたもので、当時の世界情勢がどのように日本に伝わっていたかをうかがい知ることができます。

こうした歴史の生き証人は、他にも多数展示されています。
「四都図・世界図屏風」は、リスボン・セビリア・ローマ・イスタンブールの4都市の繁栄の様子を描いた作品です。
400年前に遠く離れたヨーロッパの繁栄を伝えたこの絵を見た日本人は、どんな印象を持ったのでしょうか?
とてもロマンが拡がります。
「都の南蛮寺図」は、京都に1576(天正4)年に開設された教会を描いたものです。
秀吉が警戒する前、信長が受容したキリスト教の姿を見事に今に伝えています。

【所蔵者公式サイトの画像】 狩野内膳「南蛮屏風」神戸市立博物館

狩野内膳「南蛮屏風」は、南蛮美術の最高傑作として教科書でも頻繁に取り上げられています。
保存状態がよく、彩色のはがれはほとんどありません。
描写は緻密です。
黒人や虎の毛皮など、当時の日本人にとっては衝撃の「出会い」を、400年後の今に見事に伝えています。
重要文化財です。展示は前期のみです。

【所蔵者公式サイトの画像】 宋紫石「寒梅綬帯鳥図」神戸市立博物館

池長コレクションは、長崎を通じて日本の絵師たちに刺激を与えた絵画にも、目を見張るものがあります。
宋紫石「寒梅綬帯鳥図」はその中でも、傑作の一つです。
宋紫石は、1731(享保16)年に長崎に招かれて日本の絵師たちに衝撃を与えた清朝の宮廷画家・沈南蘋の画風を江戸で広めました。
それまでの日本には見られなかった写実表現を、中国から学び取っていることがストレートに伝わってきます。

【所蔵者公式サイトの画像】 沼尻墨僊「大輿地球儀」神戸市立博物館

池長コレクション以外にも、観る者を納得させる名品が揃っています。
日本最古の地球儀「大輿地球儀」は注目です。
木版印刷された世界地図を球体に張り合わせたもので、幕末に造られました。
サイエンスがいかに江戸時代に発達したかを今に伝える大珍品です。



ザビエル展示室


ザビエルと銅鐸の部屋もできた

今回のリニューアルの最大の目玉が、2F「コレクション展示室」です。
これまでなかった神戸市立博物館の主要なコレクションの常設展示エリアが設けられました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「桜ヶ丘4号銅鐸」神戸市立博物館

日本に4つしかない国宝・銅鐸の一つで、動物や農耕の様子を表した紋様の美しさが感動的です。
昨年2018年の東京国立博物館「JOMON」展では、縄文時代の土器や土偶の神秘的な美しさを強く印象付けました。
縄文の次は弥生の「銅鐸」、次のブームを予感させる見事な展示室が設けられました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「聖フランシスコ・ザビエル像」神戸市立博物館

「聖フランシスコ・ザビエル像」は、安土桃山時代にキリスト教が日本で根付いたことを明確に物語る傑作です。
大阪府茨木市の隠れキリシタンの旧家の蔵で、永らく眠っていました。
保存状態は極めてよく、400年以上前に出会った西洋文化の印象を見事に今に伝えています。
本物の展示は約2か月間ですが、それ以外はレプリカを鑑賞できます。



1Fカフェ&ミュージアムショップ


1Fは入りやすく使いやすくなった

1Fは、神戸の歴史を3次元で体感できる展示室に生まれ変わりました。

  • 国宝銅鐸が出土された古代
  • 平清盛が目を付けた天然の良港
  • 幕末の開港で花開いた異国情緒

旧居留地(横浜の関内に該当)時代を時系列に追ったジオラマは、日本の近代の発展をとてもわかりやすく表現しています。
常設展示でも2Fは有料ですが、1Fは無料です。
歴史的な建物空間の中で、館のある旧居留地の魅力をたっぷり堪能できます。

昭和の趣をひきずっていた「売店」が、令和の「ミュージアムショップ」として大変身したことも、リニューアル成果の象徴の一つです。
鑑賞する/しないに関わらず楽しめる「カフェ」は、とても入りやすい雰囲気にしつらえられています。
神戸の最大の魅力である異国情緒をしっかり楽しむことができます。

【神戸市立博物館公式サイト】 ミュージアムショップ
【神戸市立博物館公式サイト】 TOOTH TOOTH 凸凹茶房



博物館正面

神戸は横浜と共に、近年のインバウンド観光ブームに後れを取っていた感が否めません。
神戸ビーフ/スイーツ/パン/中華料理、日本を代表するような文化は神戸にはたくさんあります。
神戸市立博物館は、神戸の魅力を伝えるゲートウェイとして観光客に推奨できるスポットに、見事に「ヘンシン」しました。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



博物館の周辺、旧居留地は神戸の魅力のるつぼ


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利用について、基本情報

<神戸市中央区>
神戸市立博物館
リニューアル記念
神戸市立博物館名品展
-まじわる文化、つなぐ歴史、むすぶ美-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:神戸市立博物館、神戸新聞社
会場:3F/2F/1F展示室
会期:2019年11月2日(土)~12月22日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(土曜~20:30)

※11/24までの前期展示、11/26以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
【美術館による常設展示案内】 コレクション展示室 <2F有料エリア>
【美術館による常設展示案内】 神戸の歴史展示室 <1F無料エリア>




◆おすすめ交通機関◆

JR神戸線「三ノ宮」駅下車、西口から徒歩10分
阪急神戸線「神戸三宮」駅下車、東口から徒歩10分
阪神「神戸三宮」駅下車、西口から徒歩10分
地下鉄西神・山手線「三宮」駅下車、西出口1から徒歩10分
地下鉄海岸線「三宮・花時計前」駅下車、徒歩10分
ポートライナー「三宮」駅下車、徒歩15分
JR神戸線・阪神「元町」駅下車、東口から徒歩10分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:40分
大阪駅→JR神戸線→三ノ宮駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京都 泉屋博古館「花と鳥の四季」展_江戸花鳥画の写実表現はスゴイ

2019年11月11日 | 美術館・展覧会

京都・泉屋博古館で、住友コレクション自慢の江戸時代の花鳥画を披露する企画展「花と鳥の四季」が行われています。
狩野派・土佐派・琳派・文人画・円山四条派・若冲、江戸時代のオールスターによる花鳥画を俯瞰できる展示構成が素晴らしい展覧会です。





目次

  • カチョウガ(花鳥画)、そのモチーフの魅力とは?
  • 江戸の絵師たちに衝撃を与えた沈南蘋(しんなんびん)とは?
  • 花鳥に込めた江戸の絵師たちの思い






カチョウガ(花鳥画)、そのモチーフの魅力は?

絵に詳しくなかった頃、ハナトリガと読んでしまい、「お前は花鳥風月を知らないのか?」と、とても恥ずかしい思いをした記憶があります。
「カチョウガ」、確かにとても「風流」を感じさせる発音です。
絵画としてもやはり、生きものが持つ美しさを最大限に引き出した「風流」な表現が最大の魅力でしょう。

花鳥画は、大自然を雄大に描く山水画と共に、中国絵画の伝統的なモチーフです。
花鳥画が最も盛んになったのは宋代で、宮廷画家による写実的で緻密な画風「院体画」の主要モチーフとして今に伝わる名品が多く制作されました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「秋野牧牛図」泉屋博古館

本展には出展されていませんが、泉屋博古館の至宝である国宝「秋野牧牛図は、宋代の超一級品です。
大自然の中で生きる牛をモチーフに雄大に描いており、花鳥画とも山水画とも解釈できます。

日本では室町将軍が「唐物(からもの)」として珍重したこともあり、宋~元代の中国の花鳥画が盛んに輸入されました。
以来、伝統的なやまと絵と融合させた画風が狩野派で確立され、花鳥画は日本絵画においても主要なモチーフとして、すっかり定着していきます。

なお花鳥画には、植物や鳥だけでなく、動物・魚・昆虫といった生きもの全体を含めます。





江戸の絵師たちに衝撃を与えた沈南蘋(しんなんびん)とは?

江戸時代になると、生活を楽しむ余裕が町衆にまで広がり、生活空間や茶会を彩るツールとして、屏風・掛軸の形式で花鳥画のニーズがとても高まります。
動植物のモチーフは、季節感があって誰でも親しみやすいからです。
武家の間でも同じ頃、狩野派にマンネリが目立つようになっており、新しい画風が求められていました。

そんな花鳥画ニーズが高まるタイミングの1731(享保16)年、招かれて長崎にやって来たのが清朝の宮廷画家・沈南蘋です。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →沈南蘋「雪中遊兎図」に注目!

沈南蘋による「雪中遊兎図」はかなり古風な趣があります。
沈南蘋は、清代に中国で主流だった文人画ではなく、宋~元代の院体画のような画風を得意としていました。

写実的で緻密な画風は、室町時代の唐物趣味を思い出させるように、瞬く間に人気に火が付きます。
沈南蘋自身の作品のほか、南蘋派と呼ばれた弟子たちの作品は、狩野派の次を担う絵師たちに大いに刺激を与えました。
その代表例が、伊藤若冲と円山応挙です。

特に応挙は、それまでの日本絵画には見られなかった、徹底的な写生を重視した描き方を確立します。
以降の日本画の主流として、円山・四条派が隆盛は続けることになります。

【美の五色】 円山応挙から近代京都画壇へ、すべては応挙から始まる_京近美

京都国立近代美術館で本展とほぼ同時並行で行われている「円山応挙から近代京都画壇へ」展でも、沈南蘋の影響が強い名品が多数展示されています。
泉屋博古館から徒歩15分ほどの距離です。
鹿ケ谷から岡崎にかけて、秋空の下で楽しむ京都の散策はいかがでしょうか?



泉屋博古館にほど近い紅葉の名所・永観堂


花鳥に込めた江戸の絵師たちの思い

今回の展覧会では、花鳥画の中でも写実表現が見事な作品が特に目立っています。

【所蔵者公式サイトの画像】 彭城百川「梅図屏風」泉屋博古館

彭城百川(さかきひゃくせん)は、柳沢淇園らとともに日本文人画の祖の一人で、与謝蕪村より20歳ほど年上の絵師です。
「梅図屏風」では、画面いっぱいの巨大な幹と枝を、きわめて緻密に表現しています。

「梅」は中国では「高潔の士」の寓意です。
文人画らしいモチーフをダイナミックに表現した名品と言えます。
その後池大雅など、文人画でも緻密な表現を得意とした絵師たちが、育っていくことになります。

【所蔵者公式サイトの画像】 伊藤若冲「海棠目白図」泉屋博古館

「海棠目白図(かいどうめじろず)」は、若冲作品の中でも愛くるしい表現が際立つ作品です。
描写は明らかに中国の花鳥画の影響を受けており、若冲が得意とした鶏の緻密な表現にもつながっていることがうかがえます。

淡い花びらが美しい中国のリンゴの仲間・海棠は、「美女」の寓意です。
その美女に花を添えるように、愛くるしいメジロが身を寄せ合うように枝にとまっています。
「目白押し」の語源となった様子は、若冲の手にかかると完璧な写実画に変身するのです。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →円山応瑞「牡丹孔雀図」に注目!

何という美しい孔雀の羽のグラデーションでしょうか。
応挙の長男・応瑞(おうずい)にも、写生を重視する血が受け継がれていることがわかります。
孔雀に隠れるように地面から高すぎない位置に描かれた可憐な花びら、孔雀の胸のふくらみがわかる立体感ある表現、写真がなかった江戸時代には極上の写実画だったことは間違いありません。

この展覧会を見ると、同じ江戸時代でも時代が下るほどに、絵師たちは写実の腕を高めていることがわかります。
浮世絵でも同じですが、平和な時代にあって、絵師たちはたっぷりと先人の作品を見て学ぶ機会に恵まれていました。
そんな江戸絵画の潮流まで見えてくる素晴らしい展示構成を、泉屋博古館は自館コレクションだけで、できるのです。
館の実力を「否応なく思い知らされる」展覧会です。





泉屋博古館は来年2020年で開館60周年、館内では大々的な展覧会が予告されていました。
秋の「名品展」は住友コレクションの名品オールスターになるようです。
大注目です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



江戸の花鳥画はなぜ洗練されているのか?


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利用について、基本情報

<京都市左京区>
泉屋博古館
秋季企画展
花と鳥の四季
住友コレクションの花鳥画
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:泉屋博古館、日本経済新聞社、京都新聞
会期:2019年10月26日(土)~12月8日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「宮ノ前町」バス停下車徒歩1分、「東天王町」バス停下車徒歩3分
地下鉄東西線「蹴上」駅1番出口からから徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30~40分
京都駅烏丸口D1バスのりば→市バス100系統→宮ノ前町

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には無料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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円山応挙から近代京都画壇へ、すべては応挙から始まる_京近美

2019年11月09日 | 美術館・展覧会

秋色の京都国立近代美術館で「円山応挙から近代京都画壇へ」が行われています。
応挙はなぜスーパースターと呼ばれるのにふさわしいか?
近代までつながった円山・四条派の潮流を俯瞰したこの展覧会から、その答えを知ることができます。




 目次

  •  応挙の写生画はなぜ大流行したのか?
  •  すべては応挙にはじまる。
  •  この展覧会はなぜ円山・四条派の潮流がわかりやすいのか?



 


 応挙の写生画はなぜ大流行したのか?


 徳川幕府が全国の支配体制を完全に確立した大坂夏の陣から101年後、1716(享保元)年は江戸絵画の大きな節目の年になります。
 琳派のスーパースター尾形光琳が亡くなったのに対し、伊藤若冲と与謝蕪村が生まれました。
 この3人の名前を見ると、特に江戸絵画のファンの方は、江戸絵画の潮流の変化を連想されることでしょう。

 光琳までの江戸時代の最初の100年は、絵画は公家/寺社/御用商人といった一握りの上流階級だけのもでした。
 しかし若冲と蕪村が生まれた次の100年は、江戸/京都/大坂の三都で人口が増え、新興の町衆が増加していきます。
 そんな時代を象徴するのが、伊勢の松阪から京都に出て大成功を収めた三井家です。

 同じ頃、京都では若冲や蕪村の作品が脚光を浴びるようになりますが、両者の作品には中国文化をモチーフにした作品が少なくありません。
 新たな町衆は、暮らしを華やげるツールとして絵画に目を向けますが、中国文化は知識人のような教養がないと理解がしづらく、まだ敷居が高いものでした。
 時代はまさに「わかりやすい絵画」を求めていたのです。

 【展覧会公式サイト みどころ】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →円山応挙「写生図巻」千總蔵に注目!


 そんな時代にさっそうと登場したのが、応挙の「写生画」です。
 若冲と蕪村より17歳年下の応挙は若い頃、奉公先で遠近法を駆使した風景画「眼鏡絵」を描いていました。
 また最初に応挙のパトロンとなった三井寺円満院門主・祐常のために、動物や草花といった本草学、今で言う博物学の絵を描くようになります。
 祐常は、平和な時代サイエンスに目が向けられたことで当時流行していた、本草学に造詣が深い人物でした。

 出展されている「写生図巻」は、祐常のために描いた作品を、後に応挙自身が写したものです。
 正確に写し取ることが大好きだった応挙の個性が実によく表れています。
 この作品、博物学のためのスケッチではありますが、驚くなかれ重要文化財です。

 こうした影響で、応挙は写生画に本格的に取り組むようになったと考えられています。
 応挙はまさに時代のニーズに目覚めた「寵児」だったのです。



 京近美の前の大鳥居が青空に映える


 すべては応挙にはじまる。


 展覧会の序章のタイトルです。
 鑑賞を終えた後、展覧会の魅力を凝縮したすばらしいネーミングだと感じました。
 数多の近代日本画家の源流をたどると、ほとんどが応挙にたどり着くと言っても過言ではないからです。

 【所蔵者公式サイトの画像】 円山応挙「松に孔雀図」大乗寺
【所蔵者公式サイトの画像】 円山応挙「郭子儀図」大乗寺

 展覧会は、いきなり大作から始まります。
兵庫県の日本海側にある古刹・大乗寺に描いた襖絵です。
 大乗寺では普段レプリカがはめられていますが、本物が京都に24年ぶりにやってきました。
 前後期でほとんどの作品が展示替えされる中で、この大作は通期展示されます。
 主催者の特別な思い入れを感じさせる、重要文化財です。

 「なぜこの大作を最初に持ってくるのだろう?」と当初感じましたが、展覧会を見終わるとその理由がひらめきました。
 大乗寺の襖絵は165面もある大作で、応挙が応瑞/呉春/芦雪など主要な弟子を総動員して完成させています。
 まさに応挙がいかに多くの弟子たちを育てたかを象徴する、記念碑的作品なのです。
 「すべては応挙にはじまる。」というタイトルに、最もふさわしい作品にほかなりません。

 近年の研究では、応挙は実際に大乗寺を訪れていないと考えられています。
 本物の襖絵の他、会場には大乗寺の室内写真も多く展示されていました。
 部屋によって大きく異なる襖絵の趣が、全体としてはとても調和していることがわかります。
 実際の空間を見ずに、これだけ完璧にきめる応挙のプロデュース能力の高さには、驚愕以外の言葉が見当たりません。



 並行開催コレクション展の近代京都画壇作品(一部を除き写真撮影OK)


 この展覧会はなぜ円山・四条派の潮流がわかりやすいのか?


 「異なる画家による同じモチーフの作品がまとまって展示されている。」
 会場で足を進めると、まもなく気づきます。
 応挙から近代にいたるまで、後世の画家たちがどのように先人に学んだかがとてもわかりやすくなっています。

 例えば、前期展示では、呉春「海棠孔雀図(かいどうくじゃくず)」京都国立博物館蔵と、長澤芦雪「牡丹孔雀図」逸翁美術館蔵が並んで展示されています。
 後期ではこれが、円山応挙「牡丹孔雀図」相国寺蔵と岸駒「孔雀図」千總蔵に入れ替わります。

 応挙「牡丹孔雀図」は、2年間だけ長崎に滞在した清の画家・沈南蘋(しんなんびん)に刺激されて描いた作品と考えられています。
 沈南蘋は写実的な花鳥画の大家で、応挙以外にも若冲が大いに刺激を受けています。
 若冲の鶏の絵の多くに、どこか中国的な趣を感じませんか?

 応挙は四条河原の見世物小屋で孔雀を見たと考えられていますが、観察力の高さには目を見張ります。
 緑の羽根の無段階グラデーションを、水彩の岩絵具で描いたテクニックも感動的です。
 応挙はとんでもなく「すごい」のです。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 呉春「海棠孔雀図」京都国立博物館

 呉春の「海棠孔雀図」には文人画的な趣が残っており、呉春が洒脱な写生画を完成させる以前の見応えのある作品として秀逸です。
 芦雪の「牡丹孔雀図」は、雀が目立って多く描かれています。
 どこか敷居の高い孔雀のモチーフから少し息抜きさせるような、芦雪らしい遊び心が感じられます。
 岸駒は写生画の正統派として、御所にも出入りしていました。「孔雀図」には、師の応挙を上回る気品の高さが感じられます。





 近代の京都画壇の名品にも釘付けになります。
 多すぎてとてもすべての魅力を伝えきれませんが、以下の作品画像をぜひご覧になってください。
 応挙のまいた種がいかに見事に後世に咲き誇ったかが、本当によくわかります

 前期展示
 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 木島桜谷「しぐれ」東京国立近代柔術館
 【所蔵者公式サイトの画像】 鈴木松年「瀑布登鯉図」敦賀市立博物館

 後期展示
 【所蔵者公式サイトの画像】 幸野楳嶺「敗荷鴛鴦図」敦賀市立博物館
 【所蔵者公式サイトの画像】 塩川文麟「嵐山春景平等院雪景図」京都国立博物館

 この展覧会の魅力をもう一つ。
 作品の所蔵者に「株式会社千總(ちそう)」という名前がとてもたくさんあります。
 戦国時代の1555(弘治元)年に創業した京友禅(呉服)の老舗で、江戸時代から京都を代表する富裕な町衆として知られています。
 いわば三井家と同じような家柄であり、江戸時代に蒐集した美術品を多数、今に伝えています。

 驚きの質の高いコレクションは、烏丸三条にある本社のギャラリー内で、作品を入れ替えながら公開されています。
 京都の優れた美術館として穴場中の穴場です。ぜひ訪れてみてください。

 【公式サイト】 千總ギャラリー





 来年春2020年3月21日に、3年に渡った改修工事を終え、リニューアルオープンする京都市京セラ美術館の地下入口が、京都国立近代美術館の前で姿を表していました。
 地下から入るとはルーブル美術館のようです。
 来年春が楽しみです。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 行けなくなったら、買い忘れたら、展覧会公式図録


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 利用について、基本情報

 <京都市左京区>
 京都国立近代美術館
 円山応挙から近代京都画壇へ
 【美術館による展覧会公式サイト】
 【主催メディアによる展覧会公式サイト】

 主催:京都国立近代美術館、朝日新聞社、京都新聞、NHK京都放送局
 会場:3F展示室
 会期:11月2日(土)~12月15日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)

 ※11/24までの前期展示、11/26以降の後期展示でほとんどの展示作品が入れ替えされます。
 ※会場毎に展示作品が一部異なります。
 ※この展覧会は、2019年9月まで東京藝術大学大学美術館、から巡回してきたものです。
 ※会場毎に展示作品が一部異なります。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
 【美術館公式サイト コレクション展案内】



 ◆おすすめ交通機関◆

 地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
 JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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京博「佐竹本三十六歌仙絵」展:後編_かけがえのない歴史の生き証人

2019年11月08日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館で開催中の特別展「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」のレポート、先日の前編に引き続き、後編をお届けします。
会期後半の展示室をひときわ華やげているのは女流歌人「小大君(こおおきみ)」、100年の流転を経て京都で行われている同窓会最大の人気者です。
佐竹本三十六歌仙絵のメンバーは人気者を囲みながら、残り少なくなった集う時間をしっとりと楽しんでいるようです。



秋色の京博


目次

  • 「佐竹本」を華やげる歌仙たち(後編)
  • 三十六歌仙絵は「佐竹本」だけではない
  • 「切断」はやはり、すべきでなかったのか?






「佐竹本」を華やげる歌仙たち(後編)

バラバラになった佐竹本三十六歌仙絵を集めた展覧会=同窓会は、以前にも一度だけ開かれています。
今から30年以上前の1986(昭和61)年、東京・サントリー美術館で全37点の内20点が出展され、同窓会への出席率は54%でした。
今回は全37点の内31点が出展、出席率は83%と大幅に上昇しました。
ひとえに主催者による所蔵者への働きかけの努力の”たまもの”です。
展示替えが行われた会期後半戦も、そんな努力がひしひしと伝わってくるとても内容の濃い展示が続いています。

【展覧会公式サイト みどころ】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

2F展示室で目立って人だかりができているところがあり、もしやと思ったらやはり、「小大君」大和文華館蔵でした。
十二単のような重ね着の、すべての裾が少しずつ見えるグラデーションのような描写は、それをまとう女性の気品を否応なく高めています。
またその裾は画面いっぱいに描かれており、ウェディングドレスのように、あるいは羽をいっぱいに広げた孔雀のように、それをまとう女性の美しさを演出しているように思えてなりません。
後ろ姿で描かれた「小野小町」に比べ、ストレートに女性らしさを表現しているところが「小大君」の最大の魅力でしょう(展示は11/6-24)。





【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 大中臣頼基」遠山記念館

大中臣頼基(おおなかとみのよりつね)は、顔の描写がまず目を引きます。
目がとても細いのに対し、眉はとても太いのですが、その両極端が妙にバランスが取れているのです。
京から遠く離れた筑波山の紅葉の美しさを読んだ見識の高さも、表情に見事に表現されています(展示は10/29-11/24)。

【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 源順」サントリー美術館

源順(みなもとのしたごう)は、都の風流人としての茶目っ気をも感じさせる、目線の描写が見事です。
池に映る中秋の名月を詠んだ歌にあわせ、絶妙の角度で水面を見つめる目線を描いています(展示は11/6-24)。

【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 「公家列影図」京都国立博物館

歌仙たちの豊かな表情にはまさに驚きの連続ですが、それを可能にしたことをうかがわせる証(あかし)が、1Fで展示されています。
「公家列影図」は、似絵(にせえ)のような写実的な表現で、著名な公家の顔の特徴を集団的に描いたものです。
平安時代は人物の顔の描写はみな同じでしたが、鎌倉時代になると一人一人描き分けるようになりました。
「公家列影図」は、そうした表情の描き分けを学ぶ手本になったと考えられています(通期展示)。





三十六歌仙絵は「佐竹本」だけではない

著名な歌人をその作品と共に描いた「歌仙絵」は、中世以降のやまと絵のモチーフとして江戸時代まで人気を保ち続けました。
この展覧会では、佐竹本以外にも見事な歌仙集や歌仙絵が多数出展されています。

「三十六人家集」本願寺蔵は、平安時代末期に写本された現存最古の三十六歌仙の歌仙集です。
歌仙の肖像はありませんが、料紙そのものや金銀泥による草花の下絵の美しさと上質感は際立っています。
三十六歌仙分がほぼ完存していることもあり、文句なしの国宝です。

背景を装飾するために紙をコラージュのように貼り合わせており、平安貴族の美意識を見事に今に伝えています(頁替、通期展示)。

【所蔵者公式サイトの画像】 「上畳本三十六歌仙絵 源重之」MOA美術館

上畳本(あげだたみぼん)とは、貴人専用の一枚の大きな畳(上畳)に歌仙が座った姿を描いていることにちなんだ名称です。
佐竹本よりやや制作時期が降る上畳本も江戸時代以前に分割されており、佐竹本より少ない16点しか現存していません。
この展覧会には内4点が出展されています。

「源重之」は、佐竹本もこの展覧会に出展されていますが、描写はわずかに異なります。
髪の毛や目線の繊細さや紙の光沢は佐竹本ほど認められませんが、上畳に座っているという構図が何と言っても個性的です。
古風な趣と気品の高さが見事に伝わってきます(展示は11/6-24)。

江戸琳派の天才・鈴木其一の名作「三十六歌仙図屛風」が、展覧会のトリを務めています。
三十六人を一堂に描いており、歌は書かれていません。
其一らしい華やかな色使いが見事で、まるで同窓会のように集まって談笑している描写が強く印象に残ります。



佐竹本の分割が行われた応挙館(現在は東京国立博物館に移築)


「切断」はやはり、すべきでなかったのか?

展覧会を見終わった後もやはり、「もし分割されずに絵巻で残っていたら」という思いを禁じることはできませんでした。
みなさんはいかがでしょうか?

現代人の常識では、物理的に美術品の形を変えてしまうことはありえません。
しかし江戸時代までは、絵巻や冊子になった歌集を分割して交換・贈答することが普通に行われていました。
安土桃山時代以降に茶会が盛んに行われるようになると、床の間を飾る掛軸の需要が高まります。
季節や客人の好みに応じて掛軸を使い分けられる方が便利であり、分割にためらいをもたなかったのです。
掛軸を中心に作品名に断簡(だんかん)と付くものをよく耳にしますが、「分割したきれはし」という意味です。

【所蔵者公式サイトの画像】 「手鑑 藻塩草」京都国立博物館

この展覧会にも出展されている国宝・手鑑「藻塩草」京都国立博物館蔵(頁替、通期展示)は、「本願寺本三十六人家集」の内の人麻呂集が、安土桃山時代に分割されたものの一部です。

佐竹本の分割が行われた1919(大正8)年は、こうした常識の過渡期だったと思われます。

  • 分断しなければ、日本人には高すぎて買い手が現れない
  • アメリカの大富豪なら買えるが、かけがえのない傑作が日本から流出してしまう
  • 分割は昔から行われてきたこともあり、許してもらえるだろう

益田鈍翁や画商たちは苦渋の決断をしました。
新聞も「切断」というセンセーショナルな見出しで報道し、世間を驚かせました。

益田鈍翁は1929(昭和4)年にも「分割」を主導しています。
西本願寺が大学設立資金を得るために、「本願寺本三十六人家集」の一部売却を鈍翁に相談したのです。


【所蔵者公式サイトの画像】 藤原定信「石山切 貫之集下」和泉市久保惣記念美術館

本願寺が「三十六人家集」を天皇から下賜された際の本拠地にちなんで、鈍翁が「石山切」と名付けた断簡が3点、この展覧会にも出展されています。
和泉市久保惣記念美術館の所蔵分は、二頁対になっており、一般売却ではなく特別に配給されたものです(展示は11/12-24)。

経済的事情により文化財に手を加えることは、実は現在でもゼロではありません。代表例は建物です。
ビルや町屋など、老朽化や使い勝手の悪さから、取り壊して建て替えられる例が続出しています。
近年は外壁を再利用して趣を残すような工夫はされていますが、取り壊していることには変わりはありません。
欧米では、地震がなく石造りで頑丈な建物が多いこともあり、文化財として価値のある建物を取り壊すようなことはありえません。



来年春の京博は「西国三十三所」

日本は建物以外では世界一、いにしえの美術品を今に伝えている国です。
流転の運命にさらされた佐竹本も、日本で生まれたからこそ、生き延びてこられたのでしょう。
世界の中でもかけがえのない歴史と文化の生き証人です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


展覧会でも一番人気の小大君(こおおきみ)


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<京都市東山区>
京都国立博物館
特別展
流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:京都国立博物館、日本経済新聞社、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿、京都新聞
会場:平成知新館
会期:2019年10月12日(土)~ 11月24日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:30(金土曜~19:30)

※会期中6回に分けて一部展示作品/場面が入れ替えされます。
 詳細は「展示替えリスト」PDFでご確認ください。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
JR「京都」駅から徒歩20分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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中国仏像、かけがえのない造形_大阪市立美術館「仏像 中国・日本」展

2019年10月16日 | 美術館・展覧会

天王寺・大阪市立美術館で「仏像 中国・日本」展が行われています。
大阪市立美術館が誇る中国の美仏コレクションを中心に、悠久の中国の仏像造形の歩みをしっかりと体感できる展覧会に仕上がっています。





目次

  • 大阪市立美術館の美仏コレクションの魅力
  • 中国で最初に仏教美術が花開いた北魏時代
  • 日本仏像のルーツ、隋唐時代にあり
  • 江戸時代になっても日本に影響を与えていた






大阪市立美術館の美仏コレクションの魅力

この展覧会に出展されている中国の仏像はすべて日本にあるもので、全国の美術館や寺から貸し出されています。
うち半分近くを大阪市立美術館の所蔵品が占めており、中国石仏では日本屈指の名品揃いで名高い「山口コレクション」が中でも秀逸です。

山口コレクションは、戦前に関西屈指の財閥だった山口家の中心人物の一人・山口謙四郎が蒐集したものです。
ちなみに謙四郎の兄・吉郎兵衛(四代目)は山口家の当主で、芦屋のモダンな邸宅は現在、彼の収集した日本の古美術コレクションを展示する適翠(てきすい)美術館になっています。

大阪市立美術館は、日本でも有数の個人コレクションの寄贈が多い美術館でもあります。
この展覧会で、社会党の衆議院議員だった田万清臣(たまんきよおみ)、小野薬品工業社長だった小野順造、両コレクションの美仏にもお会いすることができます。





中国で最初に仏教美術が花開いた北魏時代

展覧会のプロローグは、中国に仏教が伝来する前、紀元前3-4cの春秋戦国時代です。
仏像を偶像の一つととらえ、仏教礼拝の対象として造立される前に着目しているところに、この展覧会の奥の深さをうかがわせます。

【展覧会 公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

「銀製男子立像」永青文庫は、兵馬俑よりも古い今から2300年以上前の銀の像です。
古代人の魂が今に伝わるように感じさせる造形は、10cmほどしかない小さい像ながら、圧巻のオーラを放っています。重要文化財です。

中国で最初に本格的に仏教美術が興隆したのは5-6cの北魏の時代です。
世界遺産の雲崗と龍門の石窟が、中国仏教美術の至宝としてよく知られています。

【Google Arts & Culture の画像】 「石造如来坐像」大阪市立美術館

北魏時代466年に造られた銘が刻まれている「石造如来坐像」も目が離せません。
石仏らしいおおらかな温もりのある表現には、思わず手を合わせてしまいます。
山口コレクションの名品の一つです。

【Google Arts & Culture の画像】 「石造如来三尊像」大阪市立美術館

「石造如来三尊像」は、日本古来の仏像配置の基本となった「三尊」形式の原点のように見受けられます。
どんな人々の祈りをも受容できると思わせる、包容力のある表現は感動的です。





日本仏像のルーツは隋・唐時代にあり

日本に仏教が伝来したのは、飛鳥時代が幕開けする直前の6c半ば。
聖徳太子が活躍する時代のおよそ半世紀前です。
遣隋使・遣唐使を通じて、仏教を軸とした中国の最先端文化が怒涛のように日本にもたらされます。
飛鳥・奈良時代は、日本が最も中国の文化を吸収していた時代でした。

「石造菩薩立像」大阪市立美術館は、隋時代初期のすましたような顔立ちが印象的な石仏です。
彩色が部分的に残されており、後の唐三彩のカラフルな描写を彷彿とさせます。
明らかに日本の仏像ではないと感じさせる名品です。
山口コレクションの重要文化財です。

「観音菩薩立像」堺市博物館は、隋時代の「木造」仏像として現存する世界唯一の作例とみられています。
日本の白鳳仏と共通する、エキゾチックなボディラインと抽象的な表情が印象的です。重要文化財です。

【所蔵者公式サイトの画像】 「銅造薬師如来坐像」奈良国立博物館

「銅造薬師如来坐像」は奈良時代に日本で制作されたものですが、お顔の表情は同時代の仏像とは異なります。
中国的な頬のふくよかさがあり、唐時代の中国仏像を範としたようです。

【Google Arts & Culture の画像】 「石造如来立像頭部(河南・龍門石窟奉先寺洞将来)」大阪市立美術館

「石造如来立像頭部」は、唐時代に造営された竜門石窟にあったものです。
西域文化の影響を強く受けた、唐時代らしいお顔立ちが強く印象付けられます。
実際に西域の人の顔を見ることがない日本の仏師には、なめらかな頬のラインや深い目の彫りは絶対に表現できないでしょう。
小野コレクションの名品です。





江戸時代になっても日本に影響を与えていた

遣唐使による交流が終わっても、留学僧を通じて中国文化は常に日本に持ち帰られていました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「木造観音菩薩坐像(楊貴妃観音)」泉涌寺

京都・泉涌寺の至宝「楊貴妃観音」が放つまばゆい輝きは、常に観る者に安らぎを与えます。
正面から見ると伏し目がちに見えますが、下から見上げるとちょうど目線が合うように計算された造形も独特の趣です。
展示は10/12-10/20ですが、展覧会には泉涌寺留学僧が南宋から持ち帰った他の仏像が多数展示されています。
日本と一味異なる南宋仏の造形は、仏像という偶像芸術の魅力を一層高めてくれるでしょう。

「木造観音菩薩坐像」清雲寺も南宋仏の名品です。
片膝を立てて座りながら、観る者を誘惑するような目線が何とも艶めかしく感じられます。

【所蔵者公式Instagramの画像】 「木造韋駄天立像」萬福寺

江戸時代の中国仏像は、長崎の華僑寺院や京都・萬福寺の建立により、多くがもたらされました。
「木造韋駄天立像」は、まさに空から飛んでやって来たような躍動感の表現が抜群です。
歌舞伎役者が見えを切ったような目線とポーズの造形も、日本ではなかなか見られません。


日本の仏像を交えながら、中国仏像の変遷を追いかけた展示には、好奇心が全く途切れることはありませんでした。
加えて中国の美仏がこんなにも日本に伝来していることにも驚かされます。
大阪市立美術館の「仏像」をテーマにした企画展は、やはり奈良国立博物館と並んで「格別」です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



どんな部屋にも合う不思議なほとけ様


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<大阪市天王寺区>
大阪市立美術館
特別展
仏像 中国・日本
中国彫刻2000年と日本・北魏仏から遣唐使そしてマリア観音へ
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:大阪市立美術館、読売新聞社、NHK大阪放送局、NHKプラネット近畿
会期:2019年10月12日(土)~12月8日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

JR・大阪メトロ「天王寺駅」、近鉄「大阪阿部野橋」駅、阪堺電車「天王寺駅前」駅下車
各駅から天王寺公園内を通って徒歩5~10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→天王寺駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。有料の天王寺公園地下駐車場が利用できます。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京博「佐竹本三十六歌仙絵」展_中世の超絶技巧に驚愕:前編

2019年10月14日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館で特別展「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」が行われています。
 歌仙絵の最高傑作がちょうど100年前にバラバラになって以降、37作品中31作品が揃うという、過去最高の出席率を記録している”同窓会”です。



 目次

  •  「佐竹本」はなぜ美しいのか?
  •  「流転100年」、佐竹本の数奇な運命とは?
  •  「佐竹本」を華やげる歌仙たち(前編)


 「かけがえのない美術作品がどのようにして今に伝わっているのか」、展覧会では流転のいきさつにきちんとスポットをあてています。
 三十六歌仙絵の最高傑作の美しさは、歴代のオーナーはもちろん、観る者全員の心をとらえて離しません。
 内容が濃いだけにレポートも濃くなります。今回は前編です。





 「佐竹本」はなぜ美しいのか?

 日本美術は西洋美術とは異なり、単にモチーフを作品名としてきたため、同名の作品が数多く存在ます。
 そのため「~本(ぼん)」という、過去や現在の主だった所有者もしくは作者を指す表現で区別します。
 江戸時代の久保田(秋田)藩主・佐竹家に伝来したので「佐竹本」です。

 「三十六歌仙絵」とは、名立たる歌人の中から36人を厳選した、いわば”歴代歌人オールスター”です。
 平安時代半ばの藤原道長の時代に、文化人として最高峰にあった藤原公任(きんとう)が選定しました。
 鎌倉時代半ばにラインナップが定着し、現代に至るまで信奉を集めています。

 数ある三十六歌仙絵の中でも、佐竹本が最高傑作と目されるのは、何と言っても絵画としての美しさです。
 例えば、平安時代の絵巻物の登場人物は、皆一様に蟇目鉤鼻(ひきめかぎばな)で描かれており、顔の個性の違いはほとんどわかりません。
 一方、鎌倉時代半ばに造られたと考えられる佐竹本は、それぞれ顔つきが異なります。
 当時流行していた似絵の影響で、絵師は歌仙の個性をより明確に描き出そうとしたのです。

 各歌仙の顔の大きさは5cmほどしかありません。ぜひ単眼鏡を用意していきましょう。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 平兼盛」MOA美術館

 大晦日の慌ただしさをなげく平兼盛のうつむいた表情には、風流に長けた一流の文化人ならではの憂いを見て取れます(展示は11/10まで)。
 目線や唇の動きを交え、音や風に振り向くような一瞬をとらえた描写は、あたかも写真のように、歌に詠まれたシーンを感じさせます。
 佐竹本の絵師は藤原信実(のぶざね)と永らく伝えられてきましたが、最新の研究では否定的です。
 いずれにしろ、鎌倉時代の絵師の超絶技巧が強烈に印象付けられます。

 紙や絵具も超一級品で、贅沢な金泥もふんだんに使われています。
 鑑賞された多くの方は、中世の絵巻物としてはかなり美しいという印象を持つでしょう。
 高級で頑丈な素材に加え、保管状態が永らく良好でした。
 このように絵画作品を成立させるほとんどの要素とコンディションが、超一級なのです。

 現在は佐竹本のほとんどの作品は重要文化財です。
 100年前に「切断」されておらず、全員分が現存していれば、すでに国宝になっていた可能性が高いと思えてなりません。



 京博広報担当「トラりん」、営業お疲れ様です


 「流転100年」、佐竹本の数奇な運命とは?

 鎌倉時代半ばに製作されたと考えられている佐竹本は、江戸時代に京都・下鴨神社で見たという記録がある以外、佐竹家が所蔵することになった由縁を含め、伝来はまったく不明です。
 そんな謎めいた伝来に加え、現在の価値観では信じがたい絵巻の「切断」が行われたことが、佐竹本の流転の運命を強く印象付けています。

 絵巻/屏風/襖絵といった複数の画面に描かれた作品を「分割」することは、日本では古来、珍しくありません。
 大正時代に益田鈍脳によって行われた佐竹本の「分割」は、余りに高額なため、ばら売りで買い易くする方法として採用されました。
 佐竹本は刃物で物理的に「切断」したわけではなく、絵巻の継ぎ目をはがしています。厳密には「分割」が正しい日本語です。

 【展覧会 公式ミニ動画】 NHK もっと、佐竹本 三十六歌仙絵。

 1919(大正8)年の切断からちょうど100年後の今年2019年、展覧会図録の解説によると、全37点中3品が行方不明と見られます。
 残る13点が個人所有、17点が私立美術館・寺社所有、国所有が4点です。
 超一級の日本美術の所蔵先としては、個人所有が目立って多く、国所有がかなり少なくなっています。
 私立美術館・寺社所有の多くは、佐竹本を入手した数寄者が設立した美術館です。
 数寄者=茶人の間での佐竹本の人気の高さは、脈々と続いています。

 一方佐竹本の「流転の運命」を如実に物語る数字もあります。
 100年前の切断・分割販売から、まったく所有者が変わっていないのは、わずか2点しかありません。
 野村証券の創業者・野村徳七が引き当て、現在は京都・野村美術館に収まる「紀友則」と、住友家当主・春翠が購入し、現在は京都・泉屋博古館に収まる「源信明」です。
 自分を本当に大切にしてくれる主人と出会い、一級の美術品が安住の地を得るのはとても困難なのです。





 「佐竹本」を華やげる歌仙たち(前編)

 佐竹本三十六歌仙絵は、平成知新館の2Fに集中して展示されています。
 作品の配置にはかなり余裕があります。

 【展覧会公式サイト みどころ】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

 大伴家持、在原業平、紀貫之、小野小町といったビッグネームの歌人が続々登場します。
 「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」、雅な言葉の響きに記憶がありませんか?
 そう、古今和歌集の在原業平の名歌です。佐竹本にも登場します。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」出光美術館

 中世の歌人にとって、万葉集の時代の「柿本人麿」は、歌聖と呼ぶに等しい伝説的な存在です。
 古くから歌会に掛ける歌人の肖像画として珍重されたため、佐竹本以外にも多数が出展されています。佐竹本では、仙人のように悟りを開いたかのような表情で描かれています(展示は10/29-11-10)。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 源信明」泉屋博古館

 源信明(みなもとのさねあきら)は、月を詠んでいるにもかかわらず、どこか浮かない表情で下を向いています。恋心が通じない信明の表情の描写が絶妙です(通期展示)。


 


 一人一人表情が異なるのが、やはり見事です。
 佐竹本の他の歌仙、他の歌仙絵、歌の名筆、江戸時代の歌仙絵と見応えはまだまだあります。
 100年前の「切断」で使われたくじ引き道具といった、珍品もあります。

 後期展示の作品を交え、後日後編として続きをレポートします。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 35年前に初めて絵巻の消息をたどったNHKの伝説のドキュメンタリー番組を書籍化


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 入館(拝観)受付時間:9:30~17:30(金土曜~19:30)

 ※会期中6回に分けて一部展示作品/場面が入れ替えされます。
  詳細は「展示替えリスト」PDFでご確認ください。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



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 京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
 京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
 JR「京都」駅から徒歩20分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
 京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
 ※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
 ※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
 ※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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「日本の素朴絵」展 ゆるかわの名品が勢揃い_京都 龍谷ミュージアム

2019年10月11日 | 美術館・展覧会

京都・龍谷ミュージアムで行われている「日本の素朴絵」展を見てきました。
展覧会のサブタイトル「ゆるい、かわいい、たのしい美術」の通り、アニメのようにほのぼのとした日本美術を楽しむことができます。



目次

  • 美術用語としての「素朴絵」に注目
  • 素朴な”ゆるかわ”日本美術をテーマにした展覧会がこんなにも
  • ”ゆるかわ”絵巻は鳥獣戯画より面白い
  • 庶民も知識人も”ゆるかわ”を楽しんだ
  • 埴輪や仏像にも”ゆるかわ”が



美術用語としての「素朴絵」に注目

この展覧会では、「うまい・へた」の物差しでははかれない、「ゆるく・とぼけた・あじわいのある」絵画を「素朴絵」と定義しています。
展覧会を監修した跡見学園女子大学・矢島新教授が、松涛美術館の学芸員時代以来、長年取り組んできたテーマです。
最初にこの用語を耳にしたとき、とても上手なネーミングだと感じました。
「ゆるかわ絵」というとベタすぎるのに対し、洗練されていてとても知的な美術用語っぽく聞こえます。

西洋絵画でも「素朴派」という用語がありますが、画家の特徴を示します。
アンリ・ルソーに代表される、19c末に活躍したプロの画家ではない、素人の日曜画家たちです。

「素朴派」という言葉はあまり知られておらず、そもそも西洋絵画のオールドマスターには「素朴絵」に該当する作品はほとんどありません。
展覧会を見て、日本美術の新しいジャンルの定義として「素朴絵」という用語がもっと知られるよう、応援したくなりました。
日本人も外国人もみんな、アニメを彷彿とさせる「素朴絵」を知ると、必ずや魅了されます。




素朴な”ゆるかわ”日本美術をテーマにした展覧会がこんなにも


2019年は、本展以外にも「素朴絵」にスポットをあてた展覧会が非常に目立っています。

  • 3月「ゆるカワ日本美術」福岡市博物館
  • 3月「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」府中市美術館
  • 7月「本展 東京会場」三井記念美術館
  • 7月「かわいいかわいい妖怪展」三次もののけミュージアム
  • 10月「大津絵 -ヨーロッパの視点から-」大津歴史博物館


他にも、江戸時代の”ゆるかわ”の画僧・仙厓(せんがい)にスポットをあてた展覧会が、近年は少なくありません。
「素朴絵」は、もはや日本美術の「サブカル」ではなく、広範囲にファンを獲得できるまでに進化してきたとまで感じさせます。



龍谷ミュージアムの中庭はいつ見ても心が落ち着く


”ゆるかわ”絵巻は鳥獣戯画より面白い

展覧会は5つの章で構成されています。

  • 第1章 絵本と絵巻
  • 第2章 庶民の素朴絵
  • 第3章 素朴な異界
  • 第4章 知識人の素朴
  • 第5章 立体に見る素朴


【公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第1章「絵本と絵巻」では、全国の美術館から集められた「素朴絵」の名品がずらり並んでいます。

日本民藝館蔵「つきしま絵巻」「うらしま絵巻」は室町時代の説話集・御伽草子の絵巻の一つです。
庶民にも理解しやすいよう、紙芝居のように物語がほのぼのと表現されているところが注目されます。
両作品を見ていて鳥獣戯画との違いが気になりました。
鳥獣戯画を楽しんだのは主に知識人です。
そのため動物によるパロディであっても、描写は洗練されています。
両絵巻のほのぼのとした人間臭い表現は、鳥獣戯画とは真逆です。
素朴さというたまらない魅力は、鳥獣戯画にはありません。

【所蔵者公式サイトの画像】 「鼠草子絵巻」サントリー美術館

「鼠草子絵巻」も御伽草子ですが、こちらの描写には人間臭さは感じられません。
物語内容にあわせ、さまざまな描写の「素朴絵」が存在することに、見入ってしまいます。




大人も子供も展覧会を楽しめます


庶民も知識人も”ゆるかわ”を楽しんだ

第2章「庶民の素朴絵」では、大津絵(おおつえ)の名品が楽しめます。

【所蔵者公式サイトの画像】 「大津絵 鬼の三味線引図」大津市歴史博物館

大津絵とは、京都の一つ手前の東海道・大津宿で、江戸時代に旅人の土産物やお守りとして名物となった風刺画です。
「鬼の三味線引図」は放蕩する男性を風刺した作品で、まるでピクトグラムのように戒めへの思いが伝わってきます。後期のみ展示です。

第4章「知識人の素朴」では、江戸時代の知識人や著名な絵師も「素朴絵」を楽しんでいたことがわかります。

【所蔵者公式サイトの画像】 尾形光琳「竹虎図」京都国立博物館

「竹虎図」は、京都国立博物館のゆるキャラ「トラりん」になったことですっかり有名になりましたが、筆者はあの尾形光琳です。
琳派を代表する洗練された表現からは想像がつかないほど、ゆるく表現されています。
遊び上手だった光琳ならではの、”粋”でしょう。


埴輪や仏像にも”ゆるかわ”が

高槻市立今城塚古代歴史館蔵の埴輪は「力士」と名付けられています。
古墳時代に「力士」がいたのか?と叫びそうになりますが、その造形を見るとすぐに納得です。
あんこ型のおなかを手でたたこうとするような造形は、確かに「力士」にしか見えません。

満願寺蔵「薬師如来坐像」は、巨大な団子鼻が強烈な印象を醸し出します。
しかし仏像にしてはかなり胸板が厚く造形されており、団子鼻と妙にバランスがとれているところが、”傑作”です。



ミュージアムの裏にこんな絵になる建物があります

実に内容のしっかりした展覧会で、”素朴な”日本美術の名品を、これほどまでに多様に集めたことに驚かされます。
日本美術の多様性は」中世からすごかった」と、叫んでしまう展覧会でした。


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



展覧会監修・矢島教授が届ける”ゆるかわ”の決定版


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龍谷ミュージアム
特別展
日本の素朴絵 -ゆるい、かわいい、楽しい美術-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:龍谷大学龍谷ミュージアム、毎日新聞社、京都新聞、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿
会場:2,3階展示室
会期:2019年9月21日(土)~11月17日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※10/20までの前期展示、10/22以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、2019年9月まで三井記念美術館、から巡回してきたものです。
※会場毎に展示作品が一部異なります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




◆おすすめ交通機関◆

JR/近鉄/地下鉄・京都駅から徒歩15分
地下鉄烏丸線・五条駅から徒歩15分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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「聖域の美」奈良 大和文華館_寺社の境内図は時代の記録写真

2019年10月09日 | 美術館・展覧会

奈良・大和文華館で特別展「聖域の美」が行われています。
寺社の境内図というあまり聞きなれないモチーフを主題とした展覧会ですが、展示の質の高さは大和文華館ならではです。



 目次

  •  中世の寺社は、大学であり企業でもあった
  •  宗教施設の境内図は西洋絵画では見かけない
  •  Ⅰ章 聖域の静謐と荘厳
  •  Ⅱ章 物語をはぐくむ場所 縁起と境内
  •  Ⅲ章 境内の記憶と再興
  •  Ⅳ章 にぎわう境内


 境内図や登場人物から、大河ドラマの時代考証のような生き生きとした空間の描写を楽しむことができます。
寺社境内図はいわば、いにしえの空間の記録写真のようなものです。


 中世の寺社は、大学であり企業でもあった

 現代の感覚で寺社と言えば、荘厳な空間、積み重ねた歴史、自然との調和といった、祈りと観光の場です。
 現代のようになったのは江戸時代になってからで、それまでの中世ははるかに大きい存在感を示していました。

 中世以前の日本は、最先端の知識は寺社に属するほんの一握りの人しか持っていませんでした。
 平安時代半ばに遣唐使を廃止して以降、中国から最先端の知識を持ち帰ったのはほとんどが留学僧だったからです。
 科学や産業から芸術に至るまであらゆる”知”を有し、現在の大学と企業を併せたような存在でした。
 大河ドラマで尊敬される「和尚さん」が描かれるのも、町一番の物知りだからです。


 宗教施設の境内図は西洋絵画では見かけない

 この展覧会を見て「西洋絵画で境内図を見たことがない」と、ふと感じました。

 聖堂を描いた絵画はたくさんありますが、組織としての教会の存在感をアピールすると言うよりも、町の名所を描いた風景画のように感じられます。
 聖堂の中に描かれた絵画でも、神話や聖書のシーンをモチーフにしたもの以外、見た記憶がありません。

 日本の寺社の境内図は、正倉院に東大寺の境内図が収められており、奈良時代にまでさかのぼることができます。
 中世から膨大な数の作品が現在に伝わっており、「寺社の境内図」というテーマで展覧会を構成できるほどです。

 この違いはなぜなのか、歴史や文化の違いから考察してみました。

  •  キリスト教の聖堂は町の中心の広場に面してあり、特別なエリアという概念はない。日本の寺社は郊外にあって壁で囲まれており、境内が特別なエリアと感じさせる。
  •  中世のキリスト教会は、領主をもひれ伏せさせる権力を持っており、ブランドをアピールする必要がなかった。日本では政治権力を握る寺社はほとんどなく、貴族や武家など有力な支援者の獲得を競った。
  •  キリスト教は宗祖・キリストと聖書という絶対的な信奉対象がある。仏教は宗祖・釈迦がのこした聖典がなく、釈迦よりも各寺院の開祖を重んじることが多い。

 日本では寺社の境内の壮麗さや賑わいを絵画で伝えることによって、自らのブランドをアピールしてかったと感じています。
 信者や経済的利益の獲得競争という、リアルな歴史が生み出した産物の一つが「境内図」でしょう。

   


 Ⅰ章 聖域の静謐と荘厳

 展覧会は4つの章で構成されています。
 日本の寺社境内図の変遷を、時代背景を追いながら理解できるようになっています。

 Ⅰ章「聖域の静謐と荘厳」では、鎌倉時代までの作品で構成されています。
 神聖な場所として境内の様子が荘厳に描かれた作品が多く、高貴な趣が感じられます。
 仏教はまだ庶民からは距離があったことをうかがわせます。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「一字蓮台法華経」大和文華館

 大和文華館が、原三渓から受け継いだトップクラスの名品が展覧会の幕を開けます。
 いちじれんだいほけきょう、平安時代末期に制作された経典です。国宝です。
 絵巻物語のように貴族と僧侶が祈りをささげる姿が描かれており、仏教に深く帰依していた当時の貴族階級の空気を見事に表しています。
 色彩がよくのこり、大切に守られてきた作品だと感じさせます。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「日吉曼荼羅図」大和文華館

 ひえまんだらず、比叡山の守護神である日吉大社の境内図で、それぞれの社殿に鎮座する本地仏(ほんじぶつ)が描かれています。
 平安時代は、仏が人々を救うために神の姿で現れると信じられおり、本地仏とは神の本来の姿を指します。
 如来や菩薩として描かれた神の姿は緻密で、金泥で装飾されていることからとても荘厳です。
 高貴な人の祈りの対象として制作されたと考えられています。重要文化財です。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 「高野山水屏風」京都国立博物館

 こうやせんずいびょうぶ、金剛三昧院に伝わった屏風で、大門から奥の院に至る高野山上の全景を描いた珍しい屏風です。
 僧侶や人々に加え動物の様子までもがリアルに描かれており、さながら洛中洛外図の高野山版といった趣の名品です。
 重要文化財です。



 大和文華館の玄関


 Ⅱ章 物語をはぐくむ場所 縁起と境内

 Ⅱ章「物語をはぐくむ場所 縁起と境内」では、鎌倉時代後半から制作されるようになった大型の掛幅(かけふく)に描かれた縁起物語や境内図が登場します。
 掛幅とは天井からつるす巨大な掛軸のような絵画で、一度に大勢に布教するために製作されたと考えられています。
 庶民にも仏教が拡がっていく時代だったことがうかがえます。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「かるかや」サントリー美術館

 かるかやとは説教の物語の一つで、遍歴僧らが中世に各地で布教するために用いた、現代で言う紙芝居のような趣の作品です。
 マンガのように親しみやすく人物や風景が描かれており、とてもほのぼのとしています。


 Ⅲ章 境内の記憶と再興

 Ⅲ章「境内の記憶と再興」は、室町時代に製作された境内図で構成されます。
 寺社は戦乱・火災・天災で伽藍を失うことが幾度もあり、再建時に往時の姿をイメージするために造られた境内図も少なくないようです。
 「慧日寺絵図」恵日寺蔵は、会津で中世に繁栄した、今はなき巨大伽藍の姿を目にすることができます。とても重厚感のある作品で、発掘調査の際にも参考にされました。


 Ⅳ章 にぎわう境内

 Ⅳ章「にぎわう境内」は、戦国の世が終わり平和な生活を謳歌する人々の様子が生き生きと描かれた作品が登場します。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 狩野松栄「釈迦堂春景図屏風」京都国立博物館

 しゃかどうしゅんけいずびょうぶ、春の嵯峨釈迦堂に参拝する人々がとても明るい表情で描かれています。
 桜の下では酒宴が開かれており、商店で品定めをしている人もいます。
 今まで見た境内図に比べ、描かれた人の多さとにぎやかな雰囲気は一目瞭然です。





 寺社の境内図と言う一見不思議なテーマ設定に惹かれて鑑賞しましたが、寺社の姿から日本の歴史を学べたように感じられ、大いに満足できました。
 展示作品は全国の美術館や寺社から集まっており、名品がきちんと選りすぐられていることもわかります。
 是非お勧めです。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 中世の寺社境内でどのような文化や経済が行われていたのか?

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 利用について、基本情報

 <奈良県奈良市>
 大和文華館
 特別展
 聖域の美 ―中世寺社境内の風景―
 【美術館による展覧会公式サイト】

 会期:2019年10月5日(土)~11月17日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:10:00~16:00

 ※10/27までの前期展示、10/29以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
 ※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 近鉄奈良線「学園前」駅下車、南口から徒歩7分

 JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
 JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→学園前駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には無料の駐車場があります。
 ※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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