朝の京都駅のバス乗り場は混雑がひどい
2018年3月17日(土)から、京都の市内交通にとてもよく使われていた「一日乗車券」の体系が大きく変わります。
市内交通の主力となる京都市交通局の「市バス」は、外国人観光客の伸びに伴い混雑が激しくなっています。満員で乗車できない積み残しも多発しています。「安すぎて乗客が増えすぎた」とも指摘されていたバスのみの一日乗車券を値上げし、地下鉄・バス双方が利用できる一日乗車券を値下げします。バスから地下鉄への利用転換を図る政策ですが、公営事業特有のプロモーション下手は否めません。
京都市内での日常の足や観光はまだまだバスが主力で、主要な繁華街や観光地にすべて行けます。一方地下鉄は市内を十文字に2路線が走っていますが、主要な繁華街や観光地を網羅しているわけではなく、主力にはなりえていません。
京都市内のバス路線のほとんどを占める「市バス」で、ごく一部の郊外区間を除いて230円の均一料金で乗車できます。2018年3月16日まではバスのみ一日乗車券が500円、地下鉄もあわせて乗れる一日乗車券は1,200円でした。
この価格設定が現実の利便性をふまえて果たしてリーズナブルなのか。それを実感するためにおおむね京都市内・大阪市内・東京23区内を利用対象エリアとする一日乗車券を比較してみます。
|
京都市内 |
大阪市内 |
東京23区内 |
バスのみ(市バス・都バス) |
600円 |
なし |
500円 |
地下鉄のみ |
600円 |
なし |
(*) 都営地下鉄500円 |
地下鉄+バス |
900円 |
(平日)800円 |
都営地下鉄+都バス700円 |
JR+地下鉄+バス |
なし |
なし |
(都営&メトロ)1,590円 |
JR+私鉄+地下鉄+バス |
1,300円 |
なし |
なし |
JRのみ |
なし |
なし |
750円 |
長距離旅行者向け割安パス |
なし |
なし |
都営&メトロ4/48/72H券 |
(*) 都営地下鉄一日券は、多客期週末のみ発売
3エリアで主力となる券種に水色マーカーをひいています。大阪の週末(土日祝)の安さが目立ちますが、京都・東京に比べお出かけ・観光スポットが一部に集中していて分散しておらず、一日乗車券のメリットを実感できるシーンは少なくなりがちです。
京都と東京は価格では同じ900円です。両者ともほとんどすべてのお出かけ・観光スポットをカバーしますが、京都はバスへの依存度が高いため、所要時間の不安定さや混雑の印象が強くなります。東京の「都営&メトロ」の一日乗車券はJRが利用できないため、遠回り経路を余儀なくされることはありますが、それでもバスに比べた定時性や窮屈感ははるかに分があります。
東京ではパスポートを提示した外国人、羽田空港到着ANA国内線利用客、熱海駅以遠からの東海道新幹線会員制ネット予約サービス利用客向けに割安の「都営&メトロ」24/48/72H券を発売しています。72Hは1,500円ですので価格的なメリットがとても大きくなっています。京都には長距離旅行者向け割安パスはありません。
京都は東京と価格が同じでも、バスに依存しているため使い勝手の印象では明らかに見劣りします。
清水寺は年間1,000万人の観光客が来るとみられています。この数字はパリのルーブル美術館の入館者数とほぼ同じです。世界トップクラスの観光スポットですが、交通機関はバスしかありません。
近年は外国人観光客の増加で曜日・時間帯を問わず、2mほどしか幅がない東山通の歩道に設置されたバス停に乗客があふれています。危険でもあります。特に週末の午後には京都駅方面に向かう東山通は大渋滞で一向に進みません。やっと来たバスも満員で積み残しが多発しています。最寄りの「五条坂」バス停から京都駅までは通常15分で着きますが、ひどい時には1時間かかります。
距離にして3kmもないため歩いたほうが早いです。清水寺方面からだけでなく、あらゆる観光地からのバスやタクシーが京都駅に向かって集中するため、バスの遅延はどうしようもありません。
これ以上頼るとバスがかわいそう
外国人観光客で旺盛な京都の交通需要には、バスの能力ではもう応えられません。人口100万人を超え、年間5,000万人以上の観光客が訪れる世界有数の大都市にしてはあまりに公共交通網が貧弱です。抜本的な対策としては地下鉄しかないでしょう。
地下鉄は2路線ありますが、いずれも観光利用は多くありません。地下鉄烏丸線は6両編成で休日1時間に8本の運転ですが、山手線は11両編成で休日1時間に17本の運転です。東京の地下鉄と比べると利用キャパには格段に余裕があります。
新規路線建設も検討しなければなりませんが、ローマと同じく掘れば何か遺跡が出てきて建設がストップします。また第二次大戦の空襲を免れたことで古くからの複雑な土地の権利関係が残り、用地買収が困難です。建設費用と時間は大きくなりがちですが、乗り越えない限り前には進みません。
地下鉄建設は計画から完成まで10年以上かかります。造るにしろ造らないにしろ、目先のバスのキャパオーバー問題を解決するしかありません。どうやって目先の問題を解決するか、今回の一日乗車券リニューアルはその大きな一歩と評価できます。しかし料金面のメリットはわかりますが、所要時間や混雑緩和など他のメリットは伝わってきません。
表に新旧の一日乗車券の利用条件をまとめました。
一日乗車券 |
バスのみ |
地下鉄・バス双方 |
||
適用期間 |
旧)~3/16 |
新)3/17~ |
旧)~3/16 |
新)3/17~ |
料金 |
500円 |
600円 |
1,200円 |
900円 |
利用対象バス会社 |
市バス、京都バス |
市バス、京都バス |
||
バス利用不可エリア |
高雄、大原、山科醍醐、洛西 |
なし |
||
バス車内での購入 |
できる |
できない |
旧「バス一日券」では適用外エリアだった高雄・大原などが、新「地下鉄・バス一日券」は含まれます。しかしこれらエリアに足を運ぶ頻度は多くても年に数回しかなく、乗客としてほとんどメリットは感じませんが、清算に伴う運転手の負担はかなり下がります。
一方旧「バス一日券」は乗車後車内で運転手から買えましたが、新「地下鉄・バス一日券」は買えなくなっています。しかもこの事実は大きくPRされていません。運転手の負担を下げるためと推察できますが、旧「バス一日券」の購入方法に慣れた人からは逆に反発を買います。一日券を買えないため余計な230円を支払わなければならないためです。
また地下鉄利用のメリットもほとんどPRされていません。清水寺に地下鉄で向かうことは非現実ですが、金閣寺・二条城・銀閣寺・南禅寺・嵐山など地下鉄を組み合わせて利用することで、定時・短時間・混雑緩和を実感できるスポットは多数あります。金閣寺には北大路で、銀閣寺には今出川で地下鉄からバスに乗り換えて向かう方がはるかに快適です。
観光客は土地勘がないため時間の予測ができません。そのためバスは不向きです。たとえ乗換の手間があっても、時間に確実な地下鉄経由の方がフレンドリーなのです。
世界の観光トレンドの常識からかけ離れたシステムは他にもたくさんあります。これらは東京メトロが一日乗車券を24時間制にするなど、東京では少しずつ改善が見られますが、京都のほか全国でほとんど変化がありません。
- 一日乗車券の有効期間が24時間ではなく日付単位
- クレジットカードで一日乗車券や切符を買えない
- ICカード政策の失敗から関西では普及が遅れ、時間のかかる現金精算が混雑に拍車をかける
- ICカードに一日券を搭載できず、コストのかかる磁気券改札機や自販機をなくせない
支払いが現金主義なのも明らかに世界の潮流からは遅れています。みなさんが海外旅行に行った時のことをイメージしてみてください。コインの図柄がわからなくて現金精算はとても大変ですよね。
外国人観光客の急増で「日本っていいな」と感じるのは自己満足と私は思っています。観光地も世界的に競争しています。使い勝手の悪い国には人は来てくれなくなります。日本は欧州のように歴史遺産や食文化など、そこにしかない価値がすでに重要な産業になっています。観光関連産業に従事していないからと言って他人ごとではありません。
京都観光の将来像をどうするかは京都市民のみなさんが決めることです。どう決めるかで将来の成長と衰退が決まってきます。よく考えていただくことを願ってやみません。
京都市交通局 地下鉄・バス一日券
https://oneday-pass.kyoto/