10/1にオープンしたばかりの、京都・嵐山・福田美術館。
オープン記念の展覧会「福美コレクション展」が、ほとんどの展示作品を入れ替え、II期に入っています。
福田美術館の江戸・近代の日本美術の素晴らしいコレクションには、I期でもかなり手応えを感じました。
そんな福美コレクションの手応えをさらに実感させくれる名品が、II期でも目白押しです。
目次
- II期の名品その1:木島櫻谷「駅路之春」
- II期の名品その2:長沢芦雪「海老図」
- II期の名品その3:葛飾北斎「人物像」
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II期の名品その1:木島櫻谷「駅路之春」
このしまおうこく「うまやじのはる」と読みます。
近年、温かみのある動物画で注目を集めている木島櫻谷は、自身の名前も超難読ですが、作品にも超難読のタイトルが多い、とても個性の強い画家です。
六曲一双の巨大な屏風「駅路之春」の前に立つと、そんな櫻谷の個性の強さを強烈なオーラとして感じます。
左隻は、街道の駅で休息をとる旅人の様子を描いたものでしょう。
しかし旅人の顔は描かれず、桜の太い幹の間からわずかに足元だけを見せるという、ドラスティックな構図です。
一方、右隻はベーシックな構図、駅で休息をとる馬二頭の全身をほのぼのと描いています。
両隻とも桜の花は描いていません。
明るい色彩と、地面に落ちた花びらだけで、春真っ盛りであることを見事に観る者に伝えています。
構図の妙と、洗練された色使い。
同じ頃、京都画壇に君臨していた竹内栖鳳の、今にも動き出すようなリアルな動物画とは対照的な画風が、木島櫻谷の魅力です。
【美術館公式サイト:コレクション】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
福美コレクションの近代日本画では他に、速水御舟の二点が注目されます。
ツツジの見事な花の下ですやすや眠る猫を描いた「春眠」、夏の朝しか咲かない黄蜀葵(とろろあおい)ほのかな黄色い花弁を描いた「露潤」。
いずれも速水御舟らしい生命力にあふれた緻密な描写が見事です。
観る者を惹きつける「駅路之春」 ※館内は原則、写真撮影OK
II期の名品その2:長沢芦雪「海老図」
縦長の軸の左下から右上に、ウルトラマンの怪獣のように見える巨体の海老を描いています。
ボディは、生きている時のナチュラルな色ではなく、いかにも食欲をそそるゆであげた後の「真赤」
背景は一切描かれず、タイトルも一切脚色がない、ずばり「海老図」
一方で波打つような海老独特の繊細な紋様の描写はきわめて緻密
長沢芦雪らしい「奇想」が見事に伝わってきます。
そんな弟子・長沢芦雪の作品を見て、一緒に並ぶ師匠・円山応挙の作品からは「やれやれ、もっと写生しろ」というぼやきが聞こえてくるようです。
「黄蜀葵鵞鳥小禽図(おうしょっきがちょうしょうきんず)」は、円山応挙の人柄を表すような、細心なテクニックがふんだんに用いられています。
背景のとろろあおいのほのかな黄色い花びらの下で鳴いているガチョウが、妙にリアルなのです。
羽毛の淵を白い絵の具で描くことで表現した、絶妙なフワフワ感が作品全体を引き締めています。
匂いまで描くと言われた竹内栖鳳は「きっとこの作品を見て学んだのだ」、と思ってしまいました。
あと一つ、岸駒(がんく)が鹿のつがいを描いた「福禄寿図」もお忘れなく。
長澤芦雪とほぼ同世代ですが、円山応挙との関係は希薄と考えられており、長崎で隆盛していた中国絵画の影響を受けている画家です。
力強く中国風に描かれた背景の岩や松の前で、まるで体温まで伝わってくるように精緻に描かれた鹿の毛並みが観る者を惹きつけます。
しかもつがいの視線は真逆、岸駒らしい構図の妙も抜群です。
II期の名品その3:葛飾北斎「人物像」
天球儀を横にして堂々と座るいかにも知識人のように見える男性。
誰の作品かと思いきや、葛飾北斎と聞いて驚きました。
葛飾北斎による男性の肖像画はほとんど見た記憶がなく、葛飾北斎のマルチな才能をあらためて感じさせます。
指と目線の繊細な描写からは、モデルの人柄までが伝わってくるようです。
葛飾北斎の弟子・蹄斎北馬の美人画三部作「雪月花」は、どこか普通の美人画とは違います。
喜多川歌麿のような美人画の主流とは一線を画す「大人の表現」に見応えがあります。
渡月橋から見た福田美術館
福美コレクション展II期は1/13まで行われています。
年末は29日(日)まで、年始は2日(木)からと、他に比べ福田美術館のお正月休みは短めです。
歩き疲れた時には、館内のカフェから楽しめる嵐山の絶景が、カラダをいやしてくれます。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
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利用について、基本情報
<京都市右京区>
福田美術館
開館記念
福美コレクション展
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:福田美術館、日本経済新聞社、京都新聞
会期:2019年10月1日(火)~2020年1月13日(月・祝)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※11/18までのI期展示、11/20以降のII期展示で展示作品/場面が全面的に入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅下車、南口から徒歩12分
京福電鉄・嵐山本線(嵐電、らんでん)「嵐山」駅下車、徒歩4分
阪急電鉄・嵐山線「嵐山」駅下車、徒歩11分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
京都駅→JR嵯峨野線→嵯峨嵐山駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には障がい者や車いすの方だけが利用できる駐車場があります。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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