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曜変だけではない!藤田美術館展が後半戦_奈良国立博物館 6/9まで

2019年05月17日 | 美術館・展覧会

奈良国立博物館の「藤田美術館展」が後期展示に入っています。会期後半になるにつれ「世界に3つしかない」のコピーが効いているのでしょう、曜変天目を求めて人波は増しているようです。

  • 後期展示では国宝「紫式部日記絵詞(えことば)」にまずは注目、保存状態が良く彩色がとても美しい
  • 重文「春日明神影向図(えこうず)」など、宗教画コレクションの充実度はさすが
  • 最大の目玉「曜変天目」は通期展示、何度見ても”世紀の大珍品”とうならさられる


藤田美術館は国宝・重文はもちろん、名品があまりに多すぎて前後期に分けないと展示しきれないくらいの充実したコレクションを所蔵しています。前後期、2回行く価値があると思います。



展示第1章「曜変天目茶碗と茶道具」は展示品の入れ替えはありません。「交趾大亀香合」「古伊賀花生 銘 寿老人」の輝きには前期に引き続き着実に足を止められます。展示室が特別にしつらえられた「曜変天目」を見る行列は、前期訪問の際よりかなり長くなっている印象を受けました。

曜変は、最前列ではなく後方からでよければ、ほぼ待ち時間ゼロで見ることができます。行列して最前列で見た後に、行列せずに後方から見るのがおすすめです。視線の角度が異なり、曜変の異なる表情が見えるからです。藤田美術館の曜変は、静嘉堂文庫蔵のものほど瑠璃色に輝く紋様が派手ではありません。より幽玄に感じられることが藤田の曜変の個性です。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「雪舟自画像(模本)」

曜変の特別展示室の前に、ひっそりとどこかで見たことがある肖像画が佇んでいます。重文「雪舟自画像(模本)」です。禅宗の頂相のように、師が跡を継ぐ弟子にその証として与えた自画像を、落款も含めて別人が模写したものと考えられています。

法衣を身に付けていますが、中国の禅僧の帽子をかぶっているところが、日本の禅僧の頂相には見られない描写です。雪舟が絵師としてのイメージを強調するように描いたのだろうと感じられます。筆線は繊細で、とても柔和で落ち着いた表情にまとめられています。模写であっても、室町時代の肖像画の傑作であることは間違いありません。


鹿が店内の様子に興味津々

第3章「物語絵と肖像」では、国宝「玄奘三蔵絵」が前期から場面を替えて展示されています。高僧の絵伝としては日本最高クラスの傑作です。王朝文学の絵巻とはモチーフや雰囲気が異なりますが、表現力には目を見張るものがあります。「紫式部日記絵詞」とぜひ見比べてみてください。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「紫式部日記絵詞」

国宝「紫式部日記絵詞」は鎌倉時代の作品で、平安時代の絵巻に比べ描かれた画面が大きくなっています。人物の動きには躍動感があり、引目鉤鼻(ひきめかぎはな)の目の描写は豊かになって、各人物の表情の個性までも見て取ることができます。絵具の質も上がったのでしょう、彩色は綺麗にのこり、平安時代の絵巻よりも明らかに進歩していることがうかがえます。

日本の古典の絵巻は、時間の積み重ね/保存状態のよさ/表現の美しさのバランスは、鎌倉時代のものが一番とれていると感じられます。

重文「春日明神影向図」は、鎌倉時代末期の宮廷絵所(えどころ)・高階隆兼(たかしなたかかね)の作品です。同じく隆兼の作品と考えられている「玄奘三蔵絵」のように、豊かな色使いが目を引きます。春日明神がドラマチックに牛車から姿を現さんとする神々しい様子が、今見ても見事に伝わってきます。


5月の奈良は遠足シーズン

第4章「仏像」も長期展示に耐えやすい美術品です。前後期で入れ替えはありません。

【展覧会公式サイトの画像】 快慶「地蔵菩薩立像」

快慶「地蔵菩薩立像」は像高60cmほどの小像ですが、展示室入口正面でひときわ輝いています。興福寺に伝来した晩年の作品で、優美で洗練された快慶の表現が円熟味を増しています。美しくのこる彩色も制作当初のもので、長年秘仏として光をあてずに伝えられてきたものでしょう。

快慶「地蔵菩薩立像」の裏には、こちらもいかにも快慶の洗練された表現を感じさせる美仏「阿弥陀如来立像」がいらっしゃいます。こちらは快慶真作とは断定されていないようです。快慶が最も得意とした像高1mほどの三尺阿弥陀像で、極楽浄土へ導いてくれる仏の表情としては最も完成されていると思えてなりません。藤田平太郎が山県有朋から入手したもので、椿山荘に置かれていました。

著名な京都の六波羅蜜寺のものとそっくりな「空也上人像」も、その奇異なポーズからとても目立っています。イギリス王室所蔵の写真から、奈良の隔夜寺(かくやでら)にあった像である可能性が高いことが会場内で紹介されています。

【展覧会公式サイトの画像】 「花蝶蒔絵挾軾」

工芸品では国宝「花蝶蒔絵挾軾(かちょうまきえきょうしょく)」が不思議なオーラを放っています。挾軾とはひじをもたせかけて休む肘掛のことです。蒔絵では最古クラスの平安時代前期の作品で、正倉院の宝物のような風格をたたえています。

一見全面黒漆塗りに見えますが、よく見ると金やすずで表現された紋様はとても高貴な印象を受けます。桃山時代の作品のように光に反射して艶やかに見せる技術が未発達だったのです。

奈良・薬師寺・休ヶ岡八幡宮の伝来品と考えられています。藤田美術館の館長がセミナーで「一見真っ黒にしか見えないこの作品を見た来客の誰もが国宝とは信じてくれなかった」と話していたことを思い出し、思わず笑みがこぼれました。

藤田美術館は江戸時代の作品は少なめですが、所蔵しているものはさすがです。尾形乾山作/尾形光琳画「銹絵絵替(さびええがわりかくざら)角皿」は、角皿の淵を立てて額縁のように見せており、実用ではなく鑑賞用に造られた作品でしょう。

光琳が、色を使わず水墨画のように花鳥を中心としたモチーフを統一された趣で描いていることから、全部並べてみるととても引き締まって格好よく見えます。10枚一組の作品ですが、箱の裏書によると元は20枚あったようです。



この展覧会開催のきっかけとなった藤田美術館の建て替えにあたって、建て替え資金獲得を目的に2017年に行われたオークションでの売立が静かな話題になっていました。

【藤田美術館公式サイト】 ART TALK 山口桂さん

美術館が、リニューアル資金の獲得を目的に所蔵品をオークションにかけることは、欧米では一般的です。日本ではこの手法は一般的ではありませんが、売却品の質の高さから予想を大きく上回る高額でオークションが成立しました。売却されたのは中国美術です。

オークションを手掛けたクリスティーズ社の山口桂氏は、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」でも紹介された、現代の最先端の”美術商”です。

オークションと言うと、日本人はすぐに”海外流出”という負のイメージを抱きがちです。オークションは、流通することで新たなコレクションが形成される道筋を付ける場になっています。オークションが、美術品を大切に保存してくれる安住の地を見つける機会として、これからも機能し続けることを願ってやみません。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


近代数寄者系美術館のコレクション展に行きたくなる

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<奈良県奈良市>
奈良国立博物館
特別展
国宝の殿堂 藤田美術館展
-曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:奈良国立博物館、朝日新聞社、NHK奈良放送局、NHKプラネット近畿
会場:東新館・西新館
会期:2019年4月13日(土)~6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金曜~18:30)

※5/12までの前期展示、5/14以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

<大阪市都島区>
藤田美術館
【公式サイト】 http://fujita-museum.or.jp/
※2022年3月までの予定で、リニューアル工事のため休館中です。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から徒歩15分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間15分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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2 コメント

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Unknown (よし)
2024-06-28 21:18:10
世界に3椀しかない曜変天目茶碗との事ですが、今のところ4椀となってるみたいです。国宝は3椀であと1つはミホミュージアムの物で重要文化財になってます。藤田美術館の曜変天目の説明文にも4椀となってました
返信する
Unknown (主催者より)
2024-06-29 12:18:21
展覧会当時は「3椀」としていました。その後変更されたのだと思われます。
返信する

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