むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所 「月星人」抜粋⑨

2019-06-03 13:20:34 | 小説
 おれは裸婦の絵を描いていた。おれには写実絵画を描く技術がない。絵の具が、ごみになる恐れがある。女の顔をできるだけていねいに描いて、からだと背景をおよそで描く。女の生首に興味を示す男は、他人の思考に関心がある。文字にして売っている物があることを知らないのかも知れない。おれの本業は文章を書くことだ。裸婦の絵は、文章との親密な関係を意味している。膣のぬめりに挿入して、かいま見える未来の可能性は文章にしないと、動物の交尾と同じだ。やり終わったあとに、女が男に「おもしろい話をして」と言う。ただでまたやるには「おれは・・と思ったけどさあ・・」と思考描写を入れる必要がある。おれは女の背景に本棚らしき物を描いて、SF小説の表紙を描く。読み書きが、ままならぬやつが思い浮かぶと送りがなでいちいちひっかかって、文字を読む速度が遅くなる。そして本の内容を覚えられない。おれは「特攻隊の記録」という本を読んだ。そんなことよりもファイルホルダーに反応するワームは防ぎようがない。これはワームの、発信もとの接続サーバーから除去指令が出されると閲覧履歴をたどって、こっちの回線が切断される。これを人間におきかえると、収束しない水かけ論になるだろう。おれは読み書きがままならぬやつに虚構の呼びかけ文句で、未来や若さの幻を見せることが果てしなくむだであると思いながら、女の背景に窓と太陽を描いて、太陽に目玉を描く。読み書きをする努力すらしないことと戦争がどう関係あるのだろう。文書作成装置が普及して、いまどきの若者はほとんど読み書きができる。おれの世代は読み書きがままならぬやつとともに滅びるかも知れない。読者は読み書きがままならぬやつとできるだけ強力で地雷原のような一線を画するために、本を読む。あるいは細菌兵器や想像を、絶する科学兵器を使って読み書きが、ままならぬやつが、一歩も近づけないようにする手順や方法が書いてあることを期待しているのだろう。おれは太陽に、鋭い歯をていねいに六四本描く。なにかしゃべるだろう。そのとき「もっと大きく描いて」と言う声が聞こえた。おれの脳裏に完成した絵が浮かぶ。人口一兆人の星だ。海がある星。四大陸で四〇億人だから大陸が千ぐらいある。無名な天才画家の作品だろうか。おれはさっきの声をもういちど聞こうとしたが、なにかの装置に、記録作業が終わったあとのように忘れた。