むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所 「月星人」抜粋⑩

2019-06-04 19:00:59 | 小説
 おれは昔のSF小説を読んでいる。おもしろみの原因はときどきかいま見える読み書きがままならぬやつだ。七三%ぐらいおもしろいけど欠点がある。それは思考描写に読者の重要事項がはまって、読み書きがままならぬやつと、読者があとで遭遇することだ。この手法は現代や未来において嫌がられる。つまり具体的に表現するしかないわけだ。読み書きがままならぬやつとの間に、高さ八mくらいになる防波堤を築く必要がある。おれは読み書きがままならぬやつの話し相手に直立熊五番目を考えた。直立熊は「二本足で立って歩くと人間のことばをしゃべれるようになる」と言う。直立熊の毛は化学繊維でできていた。読み書きが、ままならぬやつがさわるとひっかかれて神経痛になる。直立熊は挙動不審者を見かけるごとに、読み書きができるかどうかを確認した。直立熊は挙動不審者の学生時代を透視して、黒板の文字を、紙に書いてない場面を注意深く観察する。直立熊は読み書きがままならぬやつの学生時代に時空移動して同級生から聞きとりをした。直立熊は爪で黒板をひっかいて、読み書きがままならぬやつのことを知る生徒と筆談して、読み書きがままならぬやつはしゃべるときに、なにと一体化しているかについて話し合う。話し合うときは口に鋼鉄製の覆いをする。パソコンの起動が遅くなった。新しいワームだろうか。検索デバイスのだな。おれはワームと思われるファイルを片っぱしに削除した。ごみ箱をカラに見せるのは、きっと強力なワームに違いない。もう大丈夫だろう。インターネットが使えなくなった。読み書きがままならないやつと同じ世界だ。インストールしなおした。おれは直立熊に恋人をつくる。二体並んで町なかを歩かせた。郊外の住宅地で、本物の熊に襲われることがあると警告するためだ。おれは直立熊に装身具をつけようと思ったがやめた。歩くぬいぐるみのままがいい。代わりにせりふをつけた。「読み書きが、ままならぬやつがあなたの声に聞き入ってる気配を感じたら、僕たちに言ってください」。このまぎらわしい気休めが、直立熊の特徴だ。おれは針金を直立熊の恋人にぐるぐると巻いた。恋人は、なんだか怪しい。直立熊は国語辞典を持ち歩いている。直立熊が「どれほど読み書きがままならないのか少しずつ説明するわけだな」と言う。そういうことだ。直立熊は読み書きがままならぬやつの声にかたずをのんで聞き入る。がんばれ。直立熊は読み書きがままならない挙動不審者をいつも見張っている。