昭和一四年三月未明。北京の博物館で、紀元前の、黄金の板が、盗まれているという事件が起きた。文字が刻まれた黄金の板は四枚あって、一枚だけ裏側に人類発祥前の、宇宙人からの伝言が刻まれていて、盗まれたのはそれだ。公安(中国の警察)は担当していた学芸員に事情を聞く。黄金の板はガラスケースに入っていてかぎがかかっていた。しかし学芸員は新入りで閉館後に裏側の文字を写しと、照合するためにかぎをあけていたらしい。公安が写しはどうしたか聞くと、学芸員は「ケースに置き忘れた」と言う。学芸員は照合をしていて気ぶんが悪くなって、お茶を飲んでいて忘れてそのままにしたようだ。学芸員が「これ賄賂なのですけど受けとってください」と言って公安に金貨を三枚渡す。古代皇帝の彫像があって箱を置いておくと、ときどき金貨が入っているという。公安は地金価格の領収書を書いて、金貨を受けとった。こういう物は資源の寄附として受けとって、日本の恵まれない子供たちに送金する。黄金の板は、金の含有量が少なくて、警備が手薄だから犯人は入場者の誰かみたいだ。黄金の板は日本軍が「価値なし」と判断しただけあって二千年以上蓄積された黄金にまつわる想念を、砲撃や怒号でかきまぜて毒性が、強い卑金属がまざっているかのような光線を放射している。その存在を認識しようと、すると思考が虫食いになって、読み書きがままならない下級官吏の目にどう見えるか、考えるだけになる光だ。あるいは囚人の、呪いのような毒々しい手変わりがある金貨を、紀元前に転送してつくったのかも知れない。数日後に骨董商からそれらしき物を入荷したという届け出があった。公安が確認すると、確かに本物だが、裏側の文字が削りとられている。翌日に「文字盤を盗んだのはおれだが」と言う男が自首してきた。男は博物館の近所に住んでいて、奥さんの、看病の気晴らしで博物館に入場してかぎがかかってないケースを見て「家内が病気になった原因は文字盤の呪いだ」と考えて、盗み出したという。事件のうわさを聞いて、奥さんの病気がよくなったから自首してきた様子だ。公安が削った文字と、写しはどうしたか聞くと、「文字はスコップでけずって、けずりかすと紙はすぐストーブで燃やしたからなにが書いてあったか覚えてないよ」と言う。公安が新入りの学芸員や、他の関係者に書いてあった文字を聞くと、へんやつくりが微妙に違う古代文字で、他に写しがなくて誰も覚えてなかった。