むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所 「ボルケーノ再」

2019-06-07 10:15:01 | 小説
 昭和一一年一一月未明。上海で食品倉庫の作業員が、行方不明になる事件が起きた。公安が関係者から事情を聞くと、その男は半年前に姿が見えなくなったという。まじめな性格でいちども無断欠勤をしたことがないらしい。公安が倉庫を見ると、大型の冷蔵庫が八台あった。公安の脳裏に「食品の恐怖にはかかわるまい」として、まじめに徹する男の姿が浮かぶ。責任者が声にならない声で「なかに死体があるのはわかってる。冷蔵庫の償却費用が供養代だ」と、いっているので公安が責任者に「開かない冷蔵庫があるだろ」と、聞いたら「故障してて半年前から開かないのが一台あるけど」と言う。公安が見ている前で工具を使って、冷蔵庫を開ける。公安は届け出があった昨日に「未来社会の食品店について」という論文を書いた。食品店の店員がやることは、商品は自ぶんの物で、現金は会社の物だという原則を守ることだ。自ぶんの物としていらない物や不明な物があった場合は、店長や他の店員と話し合う。問題は原則がよくわからなくて、現金が自ぶんの物になる猛獣みたいな店員だ。商品が自ぶんの物じゃないことから、当然仕入れや値づけで間違いの原因になって、客にくさった物を売りつけようとする。そのような店員からおつりをもらうと、現金と商品が逆だからいらない商品をまるごともらうことになりかねない。もちろんくさっている。公安はそこで猛獣につける鎖として「悪魔のルール」を考えた。「食品店で買い物をするときはその店において、一番頭が悪い人の頭脳で商品を選ぶこと」もちろんそんなルールなどない。これだと猛獣を飼育係が管理できる。公安はそこまで書いてから「これは華僑が外国で使ってる手口だ」と気づく。論文はそこで終わりだが、公安がこの、二段階のひねりが、外国でどのように見られているか考えていると、冷蔵庫のドアが開いた。なかから猛獣のえさみたいなねずみが数百匹出てくる。白骨死体があって作業服に行方不明の、男の名前が刺繍されていた。公安は死んだ男がドアを内側から開けるための工具で開閉していて、ドアを閉めた状態で作業してねずみに襲われてあわてて脱出しようとして、ドアの開閉金具を曲げてしまって閉じ込められて死んだと断定する。ドアの鉄板は二重になっていて、死んだ男は内側のレバーをとり外した穴に、工具をさし込んで開け閉めしていたようだ。死んだ男にも華僑の手口が、見えていたのかも知れない。