むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター③

2019-06-29 10:24:04 | 小説
 昭和九年八月未明。香港の研究所で、実験用の、巨大水槽のなかで研究員が、胴体が真っ二つになって、死んでいる事件が起きた。死体は蝋人形のように、水に浮かんで、二つの肉片が陣とりゲームをしているようにも見える。公安(中国の警察)は他の研究員に事情を聞く。そこの研究室では、溺死した死体の身もとを、特定する研究をやっていて死んだ研究員がひとりで管理していたという。現場には石灰を敷いた検死台があったけど、稼働している形跡がなかった。骨の標本はあるが、土がついている。遺品に金貨が、一枚あったがめずらしいタイプらしい。公安は金貨のにおいをかぎながら、さっき死体を見て、錯覚したことを後悔した。小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)がいることは、文章としておかしいが、小学生の息子が「おまえがよけいなことを考えるからわからなくなっただろ」と言っている。公安は建物を調べた。事件の現場は、研究所の二階で入り口に、鉄の扉があるけどいつも開放されているみたいだ。床はコンクリートだが、壁はペンキを塗ったベニヤ板で仕切られていて釘があちこち出ていた。廊下の壁に、書類の箱が重ねて並べられていて、窓からさし込む日光で日時計のように明暗をつくっている。公安が書類を調べると、「思考を停止させて、死体の身もとをわり出す方法」と思われる文章が書かれていた。つまり呼びかけても返事がない人物を消去法で捜すことみたいだ。公安が骨の標本は、なんのために、あるのか書かれている文章を探すと、どうやら透視能力がある人物によって戸別訪問で骨格の住民台帳をつくるらしい。小学生の息子が「おまえがよけいなことを考えるからわからないんだ」と言った。別な箱の書類を見ると、「射幸心の研究」というテーマだが、読み書きがままならない人間の、霊魂が若者に憑依する現象の、考察が書かれている。公安は憑依してくる霊魂を、退治する正義の味方や能力を期待して読んだけど書いてない。公安が書類を全部読んで、廊下を入り口から一〇mぐらい進むと階段があった。階段の下に、石灰の大きな箱が置かれている。公安が思考を停止させながら、石灰の箱を調べると、そこにいたのはさめだった。死んだ研究員は死体をさめのえさにしていて、あやまって水槽に転落して、さめに胴体を食われたあと、さめが水槽から飛び出して廊下をうねうねと移動して階段から落ちて石灰の箱に飛び込んだようだ。公安は死亡原因が判明するまでの文章を紙に書いて、書類の箱に入れた。