(1999/デヴィッド・リンチ監督/リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク、ハリー・ディーン・スタントン/111分)
夕べレンタルした「ストレイト・ストーリー」を観る。どう見てもハリー・ディーン・スタントンの方が年下だろうと思ったら、案の定6歳下だった。それでも、スタントンがやっと出てくるラストで泣いちゃうよね。あれって儲け役だ。
[ 9月 17日(→twitter で)]
アイオワ州に住む73歳の老人アルヴィン・ストレイト。
妻は既に亡くなっており、彼女との間に授かった14人の赤ん坊のうち大きく育ったのは7人だけだった。その7人の内の一人ローズと今は暮らしている。“とろい”と言われる事もあるローズは確かに吃音は酷いが、何にでも興味をもち、家事もちゃんと取り仕切っているしっかり者だとアルヴィンは思っている。
ある日、ローズが出かけている間にアルヴィンは家で倒れる。病院に行ってみると歳なりにあちこちガタがきており、とりあえず医者は歩行器を薦めた。腰が弱っている為に転倒したのだ。レントゲンさえも嫌がったアルヴィンは歩行器も断り、それまで一本だった杖をこれからは二本使うことにした。
病院から帰ってしばらくすると、今度はアルヴィンの兄が脳卒中で倒れたと甥っこから連絡が入る。アイオワから500キロ離れた隣のウィスコンシン州に住む三歳年上の兄ライル・ストレイト。10年前にある諍いから口喧嘩をして以来、絶縁状態だった。
翌日から、アルヴィンは何やら庭で作り出す。それは農業用の小さなトラクターに引かせる小さなトレーラーだった。車の免許を持っていないので、時速8キロのトラクターで500キロ離れた兄の所に行くというのだ。
言い出したら聞かない頑固者なので、ローズも町の友人達も強くは止めなかった。ガソリン、粗末な食料、そして“握り棒”を買って、アルヴィンの一人旅が始まるのだが・・・。
「イレイザーヘッド」、「ブルーベルベット」、TV映画「ツイン・ピークス」と怪しげで個性的な作風で有名なデヴィッド・リンチの、唯一と言っていいハートウォーミングな映画。実は僕自身は「エレファント・マン (1980)」と、途中でリタイアした「砂の惑星 (1984)」しか観てないので、映画の語りとしては規格外という印象は持っていない。「砂の惑星」の印象ではとにかく粘り強い語り口。そんなリンチのジイ様ロードムーヴィーは、地平線に向かって伸びていく田舎道の風景と叙情的なBGM(アンジェロ・バダラメンティ)も相俟って、本当にハートウォーミングな映画だった。
優れたロード・ムーヴィーは、方向性において統一感を持って作られているが、アルヴィンの旅も概ねスクリーンの右側から左側に向かって進んでいる。守るべきセオリーを外さないリンチはやはり名匠であると感心した。
旅の途中で色々な人々との交流があり、彼らとのふれあいの中でアルヴィンの人生が浮かび上がる。
生まれ育ったのは北部のミネソタの農場だったこと。ライルとは仲が良く、子供の頃には必死で両親の仕事を手伝い、夏の夜には二人で毛布にくるまって庭で寝たこと。星を眺めながら地球以外にも人間のいる星があるに違いないと、そんなことを語り合った。星の話は卑近な苦労を忘れさせてくれたのだ。
オープニングのタイトルバックが星空であり、映画の途中でも何度かアルヴィンが夜空を見上げるのは、終盤近くで彼が語るライルとの思い出話の伏線だったのだ。
子供の頃から狩猟も手伝っていたので、第二次世界大戦では狙撃手として前線に従軍していたこと。大勢の仲間が死に、終戦間近にはドイツ軍にも少年兵が増え、死んでいった彼らの顔が忘れられないこと。そして、人には言えない秘密を抱えてしまったのも戦時中のことだった。
ジイ様ロード・ムーヴィーの代表作「野いちご」程には技巧を凝らして心の奥深い部分を描いてはいないが、「ハリーとトント」のように自然とにじみ出る心情には味わい深いものがある。
旅慣れたアルヴィンは夜には道を外れた所で野営をする。枯れ木を集めて火をおこし、椅子に座って小枝の先にソーセージを刺して焦げ目を付け、メキシカン・コーヒーと一緒に流し込む。寝るのは、リアカーを一回り大きくしたようなビニールの幌付きのトレーラーだ。
旅の途中で出逢うのは、ヒッチハイクをする家出娘、自転車のツーリングをしている大勢の若者達、鹿が好きなのに7週間で13頭もの鹿をひき殺してしまったマイカー通勤の女性、そして、旅の終盤ではトラクターが故障し、数日間初めての町に滞在する。
最後の野営地は、ライルを知っている神父の居る墓地だった。数週間前にライルが入院した時に、たまたま病院に居合わせたという神父だったが、その後の経過は知らなかった。
はたしてライルは無事なのか? 無事だとしても、ずっと以前のように自分を受け入れてくれるだろうか?
実話だそうである。
お薦め度は★三つ半くらいだが、何度観てもホロリとするラストで★半分おまけ。
当時79歳のリチャード・ファーンズワースは、十代の頃からスタントマンとして映画界に入り、50歳の時に初めて台詞のある役をもらったとのこと。1999年のアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされたこの作品が最後の出演作である。
※ 追加のネタバレ備忘録はコチラです。

[ 9月 17日(→twitter で)]
*

妻は既に亡くなっており、彼女との間に授かった14人の赤ん坊のうち大きく育ったのは7人だけだった。その7人の内の一人ローズと今は暮らしている。“とろい”と言われる事もあるローズは確かに吃音は酷いが、何にでも興味をもち、家事もちゃんと取り仕切っているしっかり者だとアルヴィンは思っている。
ある日、ローズが出かけている間にアルヴィンは家で倒れる。病院に行ってみると歳なりにあちこちガタがきており、とりあえず医者は歩行器を薦めた。腰が弱っている為に転倒したのだ。レントゲンさえも嫌がったアルヴィンは歩行器も断り、それまで一本だった杖をこれからは二本使うことにした。
病院から帰ってしばらくすると、今度はアルヴィンの兄が脳卒中で倒れたと甥っこから連絡が入る。アイオワから500キロ離れた隣のウィスコンシン州に住む三歳年上の兄ライル・ストレイト。10年前にある諍いから口喧嘩をして以来、絶縁状態だった。
翌日から、アルヴィンは何やら庭で作り出す。それは農業用の小さなトラクターに引かせる小さなトレーラーだった。車の免許を持っていないので、時速8キロのトラクターで500キロ離れた兄の所に行くというのだ。
言い出したら聞かない頑固者なので、ローズも町の友人達も強くは止めなかった。ガソリン、粗末な食料、そして“握り棒”を買って、アルヴィンの一人旅が始まるのだが・・・。
「イレイザーヘッド」、「ブルーベルベット」、TV映画「ツイン・ピークス」と怪しげで個性的な作風で有名なデヴィッド・リンチの、唯一と言っていいハートウォーミングな映画。実は僕自身は「エレファント・マン (1980)」と、途中でリタイアした「砂の惑星 (1984)」しか観てないので、映画の語りとしては規格外という印象は持っていない。「砂の惑星」の印象ではとにかく粘り強い語り口。そんなリンチのジイ様ロードムーヴィーは、地平線に向かって伸びていく田舎道の風景と叙情的なBGM(アンジェロ・バダラメンティ)も相俟って、本当にハートウォーミングな映画だった。
優れたロード・ムーヴィーは、方向性において統一感を持って作られているが、アルヴィンの旅も概ねスクリーンの右側から左側に向かって進んでいる。守るべきセオリーを外さないリンチはやはり名匠であると感心した。
旅の途中で色々な人々との交流があり、彼らとのふれあいの中でアルヴィンの人生が浮かび上がる。
生まれ育ったのは北部のミネソタの農場だったこと。ライルとは仲が良く、子供の頃には必死で両親の仕事を手伝い、夏の夜には二人で毛布にくるまって庭で寝たこと。星を眺めながら地球以外にも人間のいる星があるに違いないと、そんなことを語り合った。星の話は卑近な苦労を忘れさせてくれたのだ。
オープニングのタイトルバックが星空であり、映画の途中でも何度かアルヴィンが夜空を見上げるのは、終盤近くで彼が語るライルとの思い出話の伏線だったのだ。
子供の頃から狩猟も手伝っていたので、第二次世界大戦では狙撃手として前線に従軍していたこと。大勢の仲間が死に、終戦間近にはドイツ軍にも少年兵が増え、死んでいった彼らの顔が忘れられないこと。そして、人には言えない秘密を抱えてしまったのも戦時中のことだった。
ジイ様ロード・ムーヴィーの代表作「野いちご」程には技巧を凝らして心の奥深い部分を描いてはいないが、「ハリーとトント」のように自然とにじみ出る心情には味わい深いものがある。
旅慣れたアルヴィンは夜には道を外れた所で野営をする。枯れ木を集めて火をおこし、椅子に座って小枝の先にソーセージを刺して焦げ目を付け、メキシカン・コーヒーと一緒に流し込む。寝るのは、リアカーを一回り大きくしたようなビニールの幌付きのトレーラーだ。
旅の途中で出逢うのは、ヒッチハイクをする家出娘、自転車のツーリングをしている大勢の若者達、鹿が好きなのに7週間で13頭もの鹿をひき殺してしまったマイカー通勤の女性、そして、旅の終盤ではトラクターが故障し、数日間初めての町に滞在する。
最後の野営地は、ライルを知っている神父の居る墓地だった。数週間前にライルが入院した時に、たまたま病院に居合わせたという神父だったが、その後の経過は知らなかった。
はたしてライルは無事なのか? 無事だとしても、ずっと以前のように自分を受け入れてくれるだろうか?
実話だそうである。
お薦め度は★三つ半くらいだが、何度観てもホロリとするラストで★半分おまけ。
当時79歳のリチャード・ファーンズワースは、十代の頃からスタントマンとして映画界に入り、50歳の時に初めて台詞のある役をもらったとのこと。1999年のアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされたこの作品が最後の出演作である。
※ 追加のネタバレ備忘録はコチラです。
・お薦め度【★★★★=年輩の映画ファンの、友達にも薦めて】 

いいな~
それだけに、リチャード・ファーンズワース自身の人生の幕切れには切ない想いになります。
末期癌を宣告されて、病院のベッドで人生を終わるのが嫌だったんでしょうかね。
そう考えると、レントゲンさえも断ったストレイトじっちゃんに似てますなぁ。
「砂の惑星」はわたしも途中、寝ました(笑)