
ダリア
むかし、むかしのことだ。
縁側に長い夕陽の影が差していた。
祖母はハルピンにいた幼い頃、藁をいっぱい積んだ荷車に祖母の母と一緒に乗っていたことを思い出した。
その時、祖母は三歳になったばかりだったという。
ボクも三歳だった。
祖母と縁側で夕陽を観ていた。
「ハルピンの夕陽は、日本と違う太陽だったんだよ。太古の昔、太陽は八つあったんだ。あの夕陽は長男の太陽だとばあちゃんは思うんよ」
ボクは首を捻って、
「じゃ、今見ている太陽は何個目の太陽なんかな?」
祖母の膝に座ってボクは思った。
「ねぇばあちゃん、今見ている太陽は何個目の太陽なの?
「ねぇばあちゃん、今見ている太陽は何個目の太陽なの?
」
三歳のボクは恐る恐る祖母に訊いた。
祖母は笑い声をあげて手を叩いた。
「ばあちゃんにも分からんさ」
今でもボクは、
太陽は八つ在るんやろな。
と、思っている。