こちらの作品、江戸時代の人糞を集める下肥売りの青年たちと長屋住まいの訳あり武家娘が主人公です。
全編糞まみれのシーンの連続で苦手な方は心して観てください。苦手な僕も吐き気をこらえながら鑑賞しましたが、 モノクロシーンの美しい映像に救われて若手からベテラン、素晴らしい役者たちの名演に感動しました。
物語は江戸時代後期、下肥買いの矢亮と紙くず拾いの忠次、寺子屋で読み書きを教える長屋住まいの武家娘おきくが厠の雨宿りの中で出会います。銭の高い肥集めの矢亮の仕事を忠次が一緒にすることとなり、おきくも父親の事件に巻き込まれ声を失う中で、つらい人生を歩む三人の姿を淡々と描いています。
武家の娘きくを黒木華、矢亮を池松壮亮、忠次を寛一郎、きくの父を寛一郎の父佐藤浩市、長屋の住人に石橋蓮司、寺子屋の住職を眞木蔵人が演じています。つらい仕事を噺家好きの矢亮が笑い飛ばしながら続ける姿や兄のように慕う真面目な忠次、貧しくとも凛として気の強い娘をそれぞれ見事に演じていて好感が持てました。
また、声を失って絶望を味わいながらも周りの支えで徐々に元気を取り戻して黒木華の生まれ変わる演技は流石です。糞尿にまみれながらのシーンの連続をモノクロの世界に替えたのも、映画の持つ水墨画の世界と重なって先入観を持たせないことに成功しています。これは、江戸時代に作られた循環社会が言葉だけが先行するSDGs。とは違う一面を見事に表現していてよく出来た内容です。
江戸末期にある社会の矛盾や絶望を感じながら懸命に生きる市井の人々の人生を映画は「せかい」の言葉にある最果てにある希望を力強くも美しく描いています。また新たな日本が伝え残す時代劇の名作を生まれました。