「鵺(ぬえ)」と呼ばれる鳥がいます。
正式名はトラツグミというそうで、夜の森に「ヒーヒー」と響き渡る鳴き声が古くから不吉だといわれ、「鵺(ぬえ)」と呼ばれているそうです。横溝正史原作の古い映画『悪霊島』でも「ぬえの鳴く夜は恐ろしい」とキャッチコピーに使われていました。
「鵺(ぬえ)」を検索してみると、
『平家物語』に登場し、サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持ち、尾はヘビで (文献によっては胴体については何も書かれなかったり、胴が虎で描かれる事もある)、 「ヒョーヒョー」という、鳥のトラツグミの声に似た大変に気味の悪い声で鳴いた、とされる。
ということは、平安時代からトラツグミの鳴き声は、不吉な前兆として例えられていたわけです。一度トラツグミの鳴き声を聞いてみたいものです。
と長年思っていたのですが、なんと先月の終わり頃に初めてその鳴き声を聞くことができました。最初はなんの音だろう?と不思議に思ったのですが、あの笛のような鳴き声、すぐに「鵺の声だ!」と気が付きました。
恐ろしいというより、私には幻想的でどこか神秘的な鳴き声にも聞こえました。ヒョーヒョーという憂いを含んだ物悲しい鳴き声でした。
そして、『平家物語』の冒頭を思い出しました。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
とても雰囲気があります。
そういえば、横溝正史先生の作品に『悪魔が来たりて笛を吹く』という作品もありましたね。やはりトラツグミの鳴き声からの着想でしょうか。私はホテルの一室でトラツグミの鳴き声を聞いたのですが、もしこれが、誰もいない別荘の一室で聞いたとしたら…?窓の外は漆黒の闇、なんの物音ひとつしない部屋で、あの鳴き声を聞いたとしたら…?
かなり怖いかもしれません。
ところで、西欧に伝わる不吉な女の妖精「バンシー」というのがいます。「泣き女」とも呼ばれており、バンシーの泣き声を聞くと死者が出ると言われています。
バンシーの正体もトラツグミということはないでしょうか。
と思い、トラツグミの分布を検索してみたら、主にアジアに生息しているようでした。バンシー伝説の発祥はアイルランドやスコットランド。さすがに違うか。バンシーは叫びに近いと云いますしね。
こちらはネットでお借りしてきた実際のトラツグミです。
あら、可愛いお姿なんですね。
ちなみに、トラツグミの鳴き声を聞いたあと私はひどい夏風邪にやられました。