六小が開校して四年めの昭和四十五年、夢は六年生になりました。来年の春は、
もう六小ともお別れです。
『小学校生活も、あと一年かぁ。そしたら、もう六小さんともお話できないな。まあ、
静かになっていいけど。』
夢がこんなことを思っていると、さっそく六小がやってきました。
「ゆーめちゃん、お・は・よ・う!今日も元気に、いってみよーう!」
「はーい、おはよう。あいかわらず、元気なキャピキャピぶりだね。今日は何の用?」
夢が笑いながら返事すると、六小は、
「何の用って別に何もないけど。あ、そうだ。ねえ、夢ちゃん、逆上がりできるように
なった?」
と、逆に夢に訊いてきました。
「う・ん、知ってるくせに。見てのとおり、まだ。卒業までには何とかって
思ったんだけど、このぶんじゃ、きっとだめね。あ~あ、四小さんと約束したのに
何て言おうかな。」
すると六小は、体全体をキラキラ光らせながら言いました。
「ふ~ん、ま、いいじゃない別に。夢ちゃん、一所懸命練習してるのに
できないんだもの。きっと、四小さんだってわかってくれるよ。」
「そうかなあ。」
「うん、大丈夫だって。」
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そして・・・・翌年、桃の花咲く頃・・・・・・・・
夢は六小に言いました。
「うふ、やっぱりとうとうできなかったね。まあ、しかたない、か。」
六小が、笑って答えました。
「うふ、そうね。でも、ま、いいんじゃない?」
夢は、とうとう最後まで、逆上がりができませんでした。
そう、大人になっても・・・です。