六小のいらいらしているような声を聞いても、夢は、まだ資料室でいろいろと見て
いました。そんななか、ある台の前で何かを見ていた夢の顔つきが変わりました。
その台には、各周年記念誌が置いてありました。夢は、読んでいた周年記念誌の
なかの一冊、二十周年記念誌に、夢が子どもの頃に何のメロディーかと気になって
いた『チャイム』に関する文章を見つけたのです。それは、夢が卒業した後に六小に
来た先生の書いた文章でした。そこには、こう書かれてありました。「六小の
チャイムは、今でも『田園』でしょうか。」と。この文を読んだとたん、夢のなかで
何かがストンと落ちました。そう、夢は腑に落ちたのです。「ああ、あのメロディーは
『田園』だったんだ。曲の冒頭部分を、チャイム風にアレンジしたものだったんだ。」
と。夢はその日、家に帰って早速『田園』を聴きました。確かにそうでした。六小の
チャイムは、確かに『田園』の冒頭部分をアレンジしたものだったのです。夢は感激
で言葉も出ませんでした。無理もありません。六小にいた頃、大好きだった
チャイムの音、いつも何のメロディーか気になっていたチャイム、それが、やっと、
卒業して三十六年たってやっと何の曲かわかったのですから。しかし、現在の
六小で、もうその音を聞くことはできません。それを知った時、夢は、ちょっと残念に
思いました。でも、あの頃の、あの六小独特のチャイムの音は、大人になってからも
ずっと耳に残っており、夢に時々、懐かしい響きを聞かせてくれています。そして、
夢には、六小のチャイムになぜ『田園』が使われたのか、わかるような気が
するのでした。夢のいた当時、六小の周りは家もほとんどなく、畑と林ばかりでした。
そんな田園風景から、当時、チャイムを決めるにあたって、係りの人の頭に
『田園』が思いうかんで、六小のチャイムに使われることになったのでしょう。ただし、
これはあくまでも夢の推測です。