タイがフルーツ天国であることは言うまでもなく、一年中美味しい果物を楽しむことができると思っている人は多い。事実その通りなのだが、タイには雨季、乾季、暑季があるため、果物にも旬がある。ちょうど今頃はドリアンやマンゴー、マンゴスチン、ラムヤイなどが一番美味しい時期であり、完熟マンゴーに目がない私には堪らない季節である。
スーパーマーケットや夜店を訪れると、実に様々な果物が売られている。タイに遊びに来た当初はとても物珍しく、名前すら知らないものも多々あった。チュラ大のタイ語講座でも、レベル1の二日目にして10種類の果物を覚えることになり、グアバ(タイ語でファラン)、ローズアップル(チョンプー)、パパイヤ(マラコー)など、モノと呼称を一致させるのに骨を折った。思えば子供の頃に慣れ親しんだ果物は、桃、柿、リンゴ、梨、葡萄、イチゴ、そしてバナナくらいである。このうちバナナは舶来品であり、台湾やフィリピンからの輸入であることは、子供ながらに知っていたが、バナナは黄色であると固く信じて疑わなかった。青い房のまま輸入され、室(むろ)と呼ばれる施設で追熟することによって黄色くなると知ったのは、中学生になってからであり、追熟にエチレンガスが関与すると知ったのは高校生活も半分を過ぎてのことだった。こんな有様なので、バナナという植物がどのように実を付けるのか、ついぞ目にする機会はなく、そのまま馬齢を重ねてしまった。
ある日の学校帰り、BTS(高架鉄道)バンチャーク駅下の食堂でおやつ代わりに米粉麺(クウェイティアオ)を賞味した私は、腹ごなしも兼ねて1km余りの距離を歩いて帰ることにした。バンコクの東の端に近いだけあって、幹線道路であるスクムウィット通りを折れて小さな脇道(ソイ)に入ると、都会の喧騒は全く感じられなくなり、住宅が点在する静かな区域に変わる。その一角にあったのがバナナ畑。軽く背丈の倍はあろうかというバナナの木(学問的には”木”ではなく”草”なのだそうだ)が列をなして植えられていて、それぞれに大きな葉を幾重にも茂らせている。さすがはバショウ科の植物。思いがけない光景に足を止めて目を凝らすと、写真のように茎(これも正確には偽茎と言うらしい)の先端に赤紫色のふくらみがあり、その周りをぐるっと囲むように、緑色のまだ小さい実が幾つも付いている。「おお、もしかしてこれがバナナの花なのか!?」。偶然の出会いとは言え、長年の疑問が解消されて、思い残すことが一つ減った瞬間であった。まさにアメイジングバンコク!
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