60数年の歳月で一番哀しんだ日・・・!③
そんな繰り返しの日々紅葉も真っ盛りの午後、私の机の電話が鳴った。
「土曜日2時に見舞いにおいで」 と、それのみで電話は切れた。
課長にだけにその事を話し、病院までの地図を書いてもらい、二時に病室の
ドアを叩いた。
二人の部屋の 窓側に新聞を読む格好で顔を隠し、ベットに寝ていた。
私は持参した、ブーケの花籠を枕辺に置き、「如何ですか?」と問ふた?
「ウン!君が来るので、今朝女房が来てひげをソリ、 洗髪をし
パジャマを替えて帰ったよ。」
「そう!だからいつもの爽やかなオーデコロンが薫ります」
沈黙の後・・・・
照れくさいのか新聞はそのままで、顔を隠したまま・・・・・
「冷蔵庫に入っているものをご馳走してね・・・」と、
女房がそう言って帰ったという。
私はそのオレンジジュースを、ご馳走になりながら
間を空けない様に、何かしゃべり続けていたようだ。そこの記憶がない!
始めから30分と決めてお見舞いしたので、時計を見て「それでは早く元気になって
出て来て下さい」と挨拶をした。
所長はかぼそい手を差し伸べて「今日はどうもありがとう」と潤んだ目で微笑んだ。
〔細き手の温もりに触れ暇乞い余韻の後のさらに寂しゑ〕
帰り道・・・
私の何十通ものお見舞いの葉書の事は何にも言わなかった。果たして
手元に届いているのかしら?と不安にもなった。
もう晩秋と言えるだろう!11月終わりの雨の日曜日、
電話がなった。
C課長から、「今朝所長が亡くなりました。今夜が自宅でお通やです」と、知らせが来た。
私が見舞いに行ってまだ一月とたっていない。自分のお迎えがそう遠くではないと
分かっていて、私を呼んだのだろうか?
あぁ!涙が止まらない!
が 夫の手前我慢していると、
それを察してか!夫は心ゆくまで泣けという。
そして送っていくから・・・・・最後のお別れをしておいで、と進める。
雨降りしきる中 課長と待ち合わせの駅まで送ってもらった。
そして所長と最後のお別れをした。
アロエが庭先にあり葉をもいだ後があった。
数日後、本社から社長が来た。あたりに人がいなくなると・・・・・
「所長にお見舞の葉書を送ってくれて、彼には何よりのお見舞いだったようです。
ありがとう!私も感謝しています。」と礼を言われた。
葉書は届いていたのだ
所長は私の葉書を、枕の下から大事そうに出して、社長に見せたと言う・・・!
二度見舞いに行ったが、二度とも枕の下から出して、みんなの様子が
良く分かると見せたと言う。
そんな事をする人ではなかったのに、気弱になっていたせいもあろうが
嬉しかったせいでもあろう。よかった私は嬉しかった。 (完)