ああ、ついにこの瞬間がやってきてしまった……
そんな感想を持つ、
琴奨菊の負け越しの瞬間でした。
昨日の一番は好調の関脇・玉鷲と。
立ち合いまさに頭で当たりあう、
押し相撲同士のガチンコ対決。
しかし決着はあっけないもの。
何も知らない人が見たら、
明らかに玉鷲の方が大関だろうと思うような、
圧倒的な圧力を見せられての、
琴奨菊の完敗でした。
これで残念ながら、
琴奨菊は6年以上にわたり守ってきた大関の地位を明け渡し、
来場所は関脇に陥落することになりました。
思えば昨年の初場所。
生まれ変わったような鋭い出足で、
並みいる横綱を蹴散らし、
日本人力士として10年ぶりに賜杯を抱いたのはこの琴奨菊でした。
場所後にきれいな奥さんをもらい、
まさに幸せ独り占めで”人生の絶頂期”を迎えた琴奨菊でしたが、
春場所での『綱とり』に早々と失敗すると、
そこからはまたいつもの『クンロク大関』に戻ってしまい、
わずか1年後のこの初場所で、
大関の地位を失いました。
現在の年齢は32歳。
しかしケガが多く体調万全で土俵に上がることが困難な現状を鑑みると、
このあたりが土俵人生も潮時なのかな?
と思ったりしますね。
実年齢よりも彼の『相撲年齢』は、
ずっと高齢のような気がします。
思えば琴奨菊。
やっぱり大関に上がるときが一番強かったですかね。
大関に上がってからはケガとの戦いに終始しているように見えて、
まさに地位を維持することにきゅうきゅうとする『クンロク大関』そのものでした。
この『クンロク大関』という言葉、
最近は耳にすることもありませんが、
古くから相撲界で言われていた言葉です。
要するに『毎度毎度、9勝6敗ぐらいの大関』という意味で、
その言葉の中には、
『上(横綱)を目指せるほどの器ではなく、何とか9勝6敗で大関の地位を維持することにいっぱいいっぱい。』
というような揶揄する意味が隠されています。
『大関の勝ち越しは10勝』
とも言われていましたので、
寂しい成績であるのは間違いありません。
琴奨菊も、
今場所を含めて大関を務めた32場所で、
二ケタ以上の勝ち星を挙げた場所はわずかに9場所でした。
『たまに、思い出したように勝つ場所もある』
ぐらいの感じでワタシも眺めていました。
ちなみに同じ時期に大関に上がった稀勢の里。
今場所まで大関を務めた31場所で、
2ケタ以上の勝ち星を挙げたのは何と24場所。
その間皆勤で、9勝6敗が6場所、負け越したのはただの1度です。
なんという安定感。。。。。。
なぜ優勝できないのか、本当に謎です。
そして昭和の古い時代から、
こういったクンロク大関の為、
なんだか『互助会』のように、
負け越しそうになると星を回すということが行われていたというのは、
”相撲好きの公然の秘密”
みたいに語られていました。
そういえば、
優勝に絡まないのに、
本当に長く大関の地位を張ってるなあ……
と思われていた多くの『名(迷)大関』、
たくさんいますよね。
大関という地位が半ば既得権化されていて、
その公然の秘密も、
相撲ファンは『まあ、いいじゃないか・・・・・』なんて、
温かい目で見守っていた・・・・・
今考えると、そんな気がします。
コンプライアンス、コンプライアンスばかりが言われ続け、
少しの失敗や曲がったことも決して許さないという現在の社会とは、
違った匂いのする時代ですね。
見ている方にも余裕がありました。
そんな中で土俵を務めてきた琴奨菊。
正直言って、
横綱を狙える器の力士ではないというのがワタシの見立て。
しかし昨年の初場所、
体調も、モチベーションも、そして場所の展開も、
すべてが揃った『一生に一度、あるかないかの場所』で、
琴奨菊は見事に光を放ち、
優勝に輝きました。
その一瞬の燃え上がった炎、
それこそが琴奨菊が、
いつまでも相撲ファンに語り継がれる存在になった証。
それがある限り、
琴奨菊の相撲人生は、
本当に素晴らしいものだったのではないかと思います。
来場所関脇で10勝すれば、
大関への復帰がかないます。
あるいは、
一度陥落して、
また大関に復帰した力士も、
過去にはいました。
理事長を歴任した放駒親方の魁傑。
彼は内臓を痛めて大関を陥落しますが、
不屈の闘志でカムバック。
そんな例もあります。
しかしながら、
琴奨菊については、
わたし自身としては『もうやり切ったのではないか』そんな思いを抱いているところです。
たくさんの若手が力をつけてきた今場所。
ほとんどの力士が30代を迎えている横綱・大関陣の世代交代、
どんどん加速していく1年になるかもしれませんね。
嵐の予感のする、
初場所の土俵です。
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