花咲徳栄の、
埼玉県勢として初の夏制覇で幕を閉じた今年の夏の甲子園。
地方大会前は、
とにかく≪清宮一色≫といった風情でしたが、
その清宮が予選で敗退して姿を見せなかった甲子園。
大会前は『スター不在』ということが言われて、
『盛り上がりに欠ける』ぐらいの感じの報道もありましたが、
中村という新たなヒーローの出現や、ありえないような大逆転の連続、
そして大会新記録をたたき出したホームランの数々。
例年以上に『盛り上がる大会』になったと実感する大会でした。
そんな『プレ100回大会』となった今年の第99回全国高校野球選手権大会を振り返ってみましょう。
1.花咲徳栄が猛打と継投で、頂点に駆け上がる。
まずは花咲徳栄の優勝から。戦前から『力は持っている』と思われていた花咲徳栄ですが、『優勝候補の一角』に上がっていたわけではありませんでした。戦前の予想のほとんどで『5強』に上がっていたのは、春夏連覇を目指す大阪桐蔭に、3季連続4強進出の秀岳館、夏の連覇を狙う作新学院に最多優勝の記録を持つ中京大中京、そして予選15本塁打が光る強打の横浜といったところでした。こうしてみるとこの5校、どこも『抜群のネームバリュー』という共通した強みを持つ学校でしたが、『この夏のチーム力、そしてコンディション』ということだけに絞った場合には、花咲徳栄であり広陵、東海大菅生であり・・・・・・・といったところが、よかったという結果となりました。そのあたりが、予想の難しいところだなあという実感です。
花咲徳栄は、初戦の初回から決勝まで、とにかく自分たちの野球を貫く強さがありました。『速攻で試合の主導権を奪い、安定した2本柱で逃げ切る』という堅守速攻のスタイルで勝ち上がるチーム。県大会の3回戦からずっとこのチームの戦いは見ていましたが、綱脇と清水という”投の2枚看板”は、県大会の時よりもさらに甲子園でコンディションを上げて、最後は本当にチームに『揺るぎない投手力』をもたらしました。打線については、はっきり言って甲子園は出来すぎという感がありますが、これまでの練習の成果が、その打線の大爆発を生んだのでしょう。『5点打線』が『10点打線』に大変身しましたね。関東のチームは、とかく大会で乗ってくると、こういった感じで『だれもストップできない』状態を作ることがありますが、花咲徳栄はまさに、そんなノリノリの状態で甲子園を駆け抜けていきました。
2.『不滅の大記録』を破った広陵・中村の凄みのあるバッティングとスローイング
広陵の中村選手は、本当にこの夏大ブレークしました。もともと力は誰もが認めていて、ドラフト候補と言われていました。更に大会前の時点でU-18候補・・・・・というよりも、日本のホームベースを守るのは彼だろうということは予想されていましたが、何しろ甲子園でファンの前に姿を現すのは初めて。『なんだか、すごいやつがいるらしいぞ』と言われてはいても、『でも、見たことはないけどね』という、いわば”注釈付き”の存在でした。更に大会前の抽選で、『初戦が優勝候補の中京大中京、勝ち上がってもドラフト候補の2枚看板が待ち受ける秀岳館との対戦。』という、いわば『もっともついていないくじを引いた』チームとなったため、大会前に大ブレークが予感されることはありませんでした。しかし。。。。。。大会が始まってみると、すべての注目は彼の一挙手一投足に。初戦の中京大中京戦で価値ある2本塁打で5打数4安打。その”甲子園デビュー戦”でファンのハートをがっちりと捕まえると、2回戦の秀岳館戦では、最終回に秀岳館の息の根を止める特大の3ランを相手エース田浦から放ち、まさに度肝を抜きました。そして度々『2塁へのスーパースロー』を披露して、その超絶な肩と守備の凄さをも見せていましたから、『中村フィーバー』が全国に巻き起こりました。そして3回戦の聖光学院戦では、苦しい試合の中同点タイムリーを放つと、最終回には特大の決勝ホームラン。この時点で今大会4本目のアーチ。『どんだけすごいやつなんだ』とファンに言わしめて準々決勝へ。この試合では、今大会初めての2安打に終わった(!)ものの、先制タイムリーを放ち勝利に貢献。そして準決勝へ。準決勝の天理戦、期待を込めて見守る満員のファンの前で、ついに清原を破る2打席連続となる6号アーチ。日本中を熱狂の渦に巻き込みました。細身の体から放たれる素晴らしい打球。その打球の質を見ていてワタシ、清原というよりも、報徳学園の金村(元近鉄ほか)が甲子園を席巻して優勝した大会のバッティングを思い起こしました。『どこに投げても打たれる』ということと、『打球がマッハの速さで飛んでいく』ということや『レフト線へあれだけすごい打球が飛んでいく』当たりを、金村以来あまり見たことがなかったので。。。
甲子園の歴史に名を残すとともに、秋に巻き起こるであろうドラフトでの大フィーバーが、いまから楽しみです。いったいどんな選手になってくれるのか?計り知れないポテンシャルを感じる選手です。
3.逆転、逆転、また逆転。甲子園にはもはや、セーフティーリードなんてものは、存在しない。。。。
好試合も相次ぎましたが、印象に残っているのは、とにかく追い詰められた最終回2死からの大反撃ですね。日本航空石川が木更津総合相手にやってのけた最終回2死からの大逆転は『数大会に1試合、あるかないか』なんて思っていましたが、今大会はそれ以上の試合が続出しました。明豊と神村学園の九州対決も、本当に『最後まで分からない』を体現する大逆転でした。延長戦で3点リードを奪った神村学園がその裏2死まで取って、そこから逆転が起こるなんて、誰が想像できましょうか?とんでもない試合という語尾に!!!!がいくつもついちゃうような、すごい試合でした。そしてその明豊は、次の試合では敗れますが天理相手に9回6点を返すという離れ業。しかし何といっても、『球史に残る』と言ってもいいような大激戦は、仙台育英と大阪桐蔭の大激戦でしたね。9回2死ランナーなしの状況から、仙台育英が反撃を開始して1・2塁のチャンス。そこで次打者が放ったショートゴロを、ショートが1塁に送球。誰もが大阪桐蔭の勝利を確信したとき、1塁塁審の手はさっと左右に開いてセーフのジェスチャー。一瞬何が起こったのかわかりませんでしたが、別角度から見るとやはり1塁手の足はベースから離れており、ここで満塁のチャンスが残りました。そこで仙台育英の途中出場の馬目が、渾身の一撃を左中間に放ってのまさに『ありえない逆転サヨナラ勝ち』でした。大阪桐蔭は、この敗戦で目指してきた春夏連覇の夢がついえたという瞬間でした。『野球は最後の最後、下駄をはくまで分からない』なんていうことがずっと長い間言われ続けてきましたが、そのことを『背筋がヒヤッとする』ほど身に染みた、今大会でした。
4.大会最多の68本塁打が乱れ飛んだ大会で、しびれる投手戦の面白さを見せてくれた試合。
今大会は、大会最多の68本塁打が乱れ飛ぶ大会となりました。かつてと違うところは、本当に下位打者でもしっかりと振り切り、打球が飛ぶというところです。トレーニング方法などの進化によって、『ホームランを打てるのは中軸』という概念は、すっかりどこかに飛んでいってしまって、どの打者でも、しっかりと球をとらえていい角度で上がれば、ホームランになるということが実証されましたね。今後の大会は、ずっとこの傾向が続いていくんだと思います。今年の甲子園を見ていると、かつて、金属バットを使用していた時代の都市対抗野球を見ているようです。今よりも段違いにレベルの高かった社会人野球で、金属バットを使い、しかも狭い後楽園球場で行っていた都市対抗野球。ホームランが乱れ飛ぶ打撃戦が『お約束』の大会でした。今年の高校野球も、こうした傾向が見られます。まさに『投手受難の時代』と言えるでしょう。しかし当時の社会人野球では、そんな『金属を持った強打者』たちを抑えるために、投手のレベルが著しく向上したという副産物も生みました。投手受難の時代(大会)だからこそ、投手も成長できる。。。。。そういう観点で高校野球を楽しむのも、いいかもしれません。
そんな中、まさにその通り『しびれるような投手戦』という戦いが、甲子園でも繰り広げられました。2回戦の大阪桐蔭vs智弁和歌山の対戦です。大会屈指の打線を持つ大阪桐蔭と、かつて超強力打線で一世を風靡した智弁和歌山の対戦と言えば、予想されるのは打撃戦しかありませんでしたが、試合は始まってみるとしびれるような投手戦。。。。。というよりも守り合い。1点を争う、ロースコアの好ゲームとなりました。ワタシは両校の本当に質の高い守備を、ゲームの間中堪能していました。ゲームセットの瞬間まで、どちらに転ぶかわからないという試合展開は、『打ち合いだけじゃない野球の面白さ』のいっぱい詰まったゲームでした。その大阪桐蔭は、次の試合の仙台育英戦でも、同じようなしびれるロースコアゲーム。看板の打線は決して本調子ではなかったとはいえ、大阪桐蔭はこういうゲームでもしっかり勝ちに結びつく試合ができるという、本当に野球の質の高いチームでしたね。天理と神戸国際大付属の関西勢同士の延長にもつれ込む試合も、投手戦の醍醐味がいっぱいに詰まった好ゲームだったと思います。関西勢同士という、勝手知ったる相手だからこその、こういうゲームなのかもしれませんが、本当に質の高い試合でした。
5.春は関西、夏は関東?
ここ数年の高校野球の”傾向”が、今年も如実に表れた大会となりました。現在の高校野球界、ワタシはこう思っています。
『現在の高校野球において、突き抜けた王者は大阪桐蔭。実力が他校とは段違い。それを追うのは群雄割拠だが、傾向としては、春の選抜は圧倒的に関西勢が強く、夏の選手権で関東勢が巻き返す。九州勢と東北勢は実力を持つが、一つ殻を破ることができない。』
2011年以降を見てみると、選抜では大阪桐蔭の2度を含めて、関西勢が7年間で4回の優勝。特にここ数年では、関西勢が上位を独占している傾向にあります。ワタシの印象としては、かつては関東勢が選抜に強く、夏の選手権では関西勢が圧倒しているという傾向があったように思っていましたが、ここのところ逆の傾向が見て取れますね。選手権では、7回の大会で関東勢が5回制覇。その他の2回は、大阪桐蔭ということになっています。要するに、大阪桐蔭か、関東勢か……という優勝争いですね。しかし関東勢は、優勝する学校を見てみると、2011年の日大三、2015年の東海大相模は戦前から優勝候補に挙げられていましたが、その他の前橋育英、作新学院、そして花咲徳栄は優勝候補という扱いのチームではありませんでした。大会中に勢いで駆け上がったというような戦いぶりで、頂点まで駆け上がっています。ワタシは以前から、『ほかの地区、特に関西勢に比べて、関東のチームというのは、粘りに欠けて、とかく淡泊な試合をしやすい傾向にあると思う。それ故、負ける時は実にあっさりと去っていってしまうのだが、逆にもし勢いに乗ったら、どこまでも突っ走っていってしまうという傾向もあり、大会でチームが”はまる”と面白い戦いになる。』なんて思っていたのですが、この3校の優勝校を見ると、まさに『関東のチームだなあ』なんて思っちゃいますね。
ワタシが考えている関東のチームで、これに続くことができる、つまり勢いに乗れば全国制覇も可能というチームは、『早実・日大三・関東一・横浜・東海大相模・東海大甲府・山梨学院・浦和学院・花咲徳栄・作新学院・前橋育英・健大高崎・常総学院・習志野・木更津総合』あたりだと思っています。特に健大高崎、浦和学院、山梨の2校当たりは、虎視眈々と狙っているんじゃないでしょうかね。まあ、3年も経つとこの顔ぶれ、ガラッと変わっているかもしれませんが。。。
大阪桐蔭は、野球の質から何から他校の一歩上を行っていると思うので、これからも高校野球界に君臨する存在だと思っています。かつてPL学園が昭和50年代から60年代にかけて、甲子園で勝率9割を誇り『絶対甲子園では負けない』オーラを醸し出していたのに近いチーム作り、大阪桐蔭ならできるのではないかと思っています。特に悔しさを持って臨む来年度のチームは、本当に楽しみですね。『大阪桐蔭に挑んでいく、関東のチーム』という戦いが、ワタシにとっては最も見ていて楽しい高校野球です。
一方関西勢では、『まだまだ終わるわけにはいかん』と意気軒高だった智弁和歌山の高嶋監督、あのベンチでの仁王立ちの姿が見られるのは、楽しみですね。そしてすっかりファンになってしまった神戸国際大付属の青木監督。初の夏1勝を上げて、これからアゲアゲのチームになっていってくれることを期待しています。天理も中村監督で完全に新時代に入ったようで、実力を上げている智弁学園との県内でのつばぜり合い、面白そうですね。それから気になるのは、秀岳館の監督を退任した鍛治舎監督の動向。コメントを見る限り、『まだまだやり足りない』という感じ、バリバリに見えていましたからね。いっちょ今度は、地元関西で勝負をかけてみたら面白いのになあ・・・・・というのがワタシの望みです。大阪のチームを率いることになったら、いったい大阪桐蔭や履正社とどんな戦いをするのだろう、なんて思いますね。
ということでいろいろあった今年の高校野球。
以下は勝手に選んでみました。
大会MVP チーム;花咲徳栄
個人 ;中村奨成(広陵)
最高試合 大阪桐蔭 vs 仙台育英
最高の場面 仙台育英、馬目選手のサヨナラヒット(大阪桐蔭戦)
来年の大会まで、もう待ち切れません。
U-18でも見て、余韻に浸ることにしましょうか。