≪第85回選抜高校野球大会≫
【総合展望】
大阪桐蔭 前人未到の3季連続制覇に挑む
今年の冬は、本当に寒かった。春の訪れがこんなに待ち遠しかった冬というのも、久しぶりの気がします。
北日本や日本海側の地方を襲った豪雪は、少なからず高校野球の世界にも影響を及ぼしたことでしょう。
そんな中開催される85回目の春。今年の春は、5年に1度の記念大会ということで、例年より4校増の36校が出場します。
36校の中には、4校の21世紀枠の学校もあります。厳しい震災後の年月を、歯をくいしばって耐えてきたいわき海星の姿あり、何度も聖地に手をかけながらその都度スルリと手からこぼれ落ちる悔しい経験を積み上げてきた遠軽の姿もあります。”文武両道の雄”土佐は、昔と変わらぬ純白のユニフォームに身を包み、甲子園のグラウンドを全力疾走で駆け抜けることでしょう。そんな85回目の春は、一つの焦点を元に語られる大会となります。その焦点とは、昨年の春夏、圧倒的な強さを見せて連覇を飾った大阪桐蔭の、前人未到の3季連続制覇が成るか、ということです。大阪桐蔭は、3季連続という偉業を狙って、また今年のセンバツも、甲子園に帰ってきてくれました。
かつて春夏連覇を成し遂げた学校は、全部で7校。その中で、新チームになった次の春も甲子園に戻ってきたのはわずか1校。その1校は、98~99年の、横浜高校です。横浜は98年に怪物・松坂を擁して春夏連覇。春見事に選抜に帰還してきましたが、圧倒的な戦力を誇った前年とは違ったチームになっており、初戦で敗退をして甲子園を去りました。
近年では、09年興南が春夏連覇を達成したものの、翌春の甲子園に戻ってくることはできませんでした。82年のPL学園、79年の箕島、66年の中京商、62年の作新学院らも、翌センバツに戻ってくることはできませんでした。
反対に夏、春と連覇して夏に3季連続Vをかけたケースは、83年の池田、61年の法政二がありますが、優勝が有力視されていたにもかかわらず、いずれも準決勝で一敗地にまみれ、3季連続Vを達成することは、できませんでした。
戦後、幾多のチームが挑んでは敗れ、また挑み続けるもついぞ達成されたことのない『三季連続優勝』という偉業に、今年の春大阪桐蔭が挑むことは、高校野球ファンならずとも、注目されることなのです。
大阪桐蔭の特徴は、昨年のチームと毛色は違うものの、今年のチームも明らかに前出のチームたちとは違う『本物のチカラ』を備えていること。ということは、≪大会の風に乗る≫ことが出来れば、この偉業が夢ではないということを表しています。とにかく、今大会の焦点は≪成るのか、3季連続優勝≫この一点に尽きるのではないでしょうか。
大阪桐蔭。むしろ昨年よりも伸びしろの大きい猛打線
その大阪桐蔭の今年のチームカラー、ひとことで言うと『打ち合い上等!』の猛爆打線を前面に押し出し戦う打撃のチーム。その打線は昨年猛威を振るった打戦よりもさらにグレードアップ。昨秋、エースが定まらないうえ、しっかり練習する時間すら取れないほどの過密スケジュールを乗り越えて、激戦の近畿を勝ち抜き選抜キップを獲ったことがそのことを証明しています。ひと冬超えて『大阪桐蔭流』に鍛えられた選抜では、秋とは全く違ったチームになっている公算が大。この秋の『ドラ1確実』と言われる安打製造機、森捕手から始まり、笠松、水谷、近田ら力と実績を持った選手が居並ぶ打線の破壊力は間違いなく大会NO1。秋は形の見えていなかった投手陣に一定の目途が立てば、今大会も『選手の質・野球の質』で他校を上回り偉業が達成されることも十分に考えられます。心配の残る投手陣は、足を骨折したエース葛川が本番に間に合うかが心配の種。しかしその投手陣とて他校に比べ抜群に層は厚く、網本、高西らの中で軸になる投手が出てくる可能性も大きいと考えられます。そしてその、チーム内でのレベルの高い激烈な争いが、大阪桐蔭を大阪桐蔭たらしめているところ。果たして3季連覇という偉業を成し遂げ、あのPLを名実ともに抜き去ることが出来るのか。これこそが今大会の焦点と言えるでしょう。
出場校の半分近くが【本気で優勝を狙う】混戦模様
さて、その大阪桐蔭の3連覇をどこが止めるのか。一言で『このチーム』と言えるほど整った戦力を持つチームは見当たらないものの、『一芸に秀でたチーム』や、『バランス感抜群』のチームが多く、その数は両手でも足りないぐらいです。そんな中、まず名前が挙がるのが明治神宮大会優勝の仙台育英。チャンスに強い打撃力と得点能力が高く、東北勢初の日本一を視野に入れています。特に長谷川、神林、水間のクリーンアップは、明治神宮大会で対戦した各地区のエースたちを震え上がらせました。東北大会決勝から、石井(聖光学院)、藤田(県岐阜商)、大串(北照)、児山(関西)という今大会でも”好投手”として名前が上がる相手投手から、秋の段階で4試合33得点。恐ろしいばかりの破壊力を持っています。そして鈴木、馬場の2枚看板が控える投手陣の精度も、大阪桐蔭以上と言われています。佐々木監督をして『今年のチームは勝ち運を持っている』と言わしめるこのチームで、狙いは一つしかないところでしょう。その仙台育英と双璧と言われるのが報徳学園。秋の近畿大会では何と大阪桐蔭をコールドで下す大殊勲。しかも観戦者曰く、『報徳の方が投攻守どれも上回っていた』というんだからすごい。今年の報徳、例年以上にディフェンス力が高いのが特徴。エース乾は球速がMAX146キロ。その速球とスライダーで打ち取る、報徳らしい正統派の投手。打線は小粒だが得点能力が高く、10年の夏4強のチームを彷彿とさせます。そして、何より報徳の武器となるのは伝統の試合運びのうまさと粘り強さ。これが今まで、力は劣るといわれたチームでさえも甲子園で上位の成績を収めてきた報徳の勝つノウハウ。今年のチームは、優勝候補の力をそのまま発揮できれば、”打倒大阪桐蔭”の1番手に推されることになることでしょう。そしてワタシがひそかに注目しているのは、潜在能力抜群の広陵。3年ぶりの出場となるが、もともと『春の広陵』と言われた仕上げのうまいチーム。近年はまとまりの良さという伝統のチームカラーに、【好投手】が加わった。前回の有原(早大)、そして野村(広島)、西村(巨人)を見るまでもなく、広陵の本格派エースは高い能力を有している。そこで今年のエース下石を見てみると、これまでのエースたちと変わらないような潜在能力を持っている。わずか投手転向1年にも満たないが、経験の浅さをむしろ伸びしろと見れば、彼が今大会で大ブレークするにおいがプンプンしてくる。今年のチームは、秋の大事な試合を落として苦戦したが、春に向かって仕上げの段階で聞こえてくるのはポジティブな面ばかり。名将・中井監督は今大会も【本気で優勝】を狙っています。
この3校のほかにも、旋風を巻き起こしそうなにおいのするチームは数多い。まずは九州の沖縄尚学と濟々黌。どちらもなかなかいいチームです。沖縄尚学はエース中心の守り勝つ野球。比嘉・宇良の左右のエースで試合をきっちり作る。濟々黌は昨夏の甲子園で話題をさらったエース・大竹が健在。精度の高いコントロールが武器の技巧派だが、球速は140キロまで上がったとか。細身の体から、腕も折れよと投げる姿は頼もしい限りです。県岐阜商、関西の両名門校も今年はチャンス。特に関西は下級生中心のメンバーながらよく野球を知っている選手が多く、試合の運び方がうまいのが特徴。秋の大阪大会で大阪桐蔭を破った履正社は、一昨年の4強進出チーム以上にディフェンスが整備されていて、期待が持てる布陣。秋55試合をこなした実戦での経験値はだてじゃない。どんな相手でもまず2点以内に抑えるという強固なディフェンスを武器に、狙いは過去最高の、決勝進出。
東北勢では、小粒になったといわれながらも、聖光学院の戦いぶりが注目されます。特に旧チームからメンバーだった八百板を中心とした打球の速さは群を抜いており、スルスルと混戦を抜け出して頂点を狙いたい。関東勢では、花咲徳栄の評判が高い。まだまだ潜在能力を出し切っているとは言えないエース関口が本格化するようだと一気に優勝戦線に加わってくる。打線は、キャッチャーでもある若月が要。その2塁への送球と並び、長打力のあるバットでもチームを引っ張る。関東大会を制覇した浦和学院は、まだまだ殻を破れていない印象です。選手の潜在能力は高く、良く野球を知っている感じもするのだが、なぜか甲子園に行くと萎縮した野球しか見せることが出来ない。この悪癖を取り除かない限り、頂点は見えてこないでしょう。逆に『甲子園での勝ち方を知る』常総学院が久しぶりに戦力を充実させてきたのは面白いところ。近年は絶対的な戦力の不足に泣いていたが、このチームは去年のメンバーが多く残り、甲子園での勝利の味も知った飯田-内田のバッテリーを中心に、【ニュー常総】の進撃が見られるかもしれない。2年連続の春となった北照は、エース大串の左腕が頼もしい。明治神宮大会で京都翔英、沖縄尚学の強豪を連破した的を絞らせない投球は、春のセンバツでこそ輝こうというもの。冬場の雪の多さが心配だが、まともに組み合えれば3年前の8強以上の活躍も期待できる。
名門、新鋭入り乱れて激しい大会になる予感
新しいグラウンドで新しい歴史を積み上げる第一歩にしたい龍谷大平安は、やや迫力不足ながら練習量の上積みがいい方に作用するかに注目。同じ京都から初出場の京都翔英は、近畿大会を制した注目株。神戸国際大付、履正社、平安、報徳と名門をことごとく倒してきた原動力はエースで4番の榎本。背番号18を背負うこのプロ注目の大黒柱が”本気”を出すと、上位校を震え上がらせる存在になるかもしれない。大物ということで言えば、済美の154キロエース・安楽を忘れるわけにはいかない。”来秋のドラフト超目玉”になりそうな大物クンを生かすも殺すも、弱いとされる打撃陣の力か。選抜優勝を飾った時ぐらいの力があれば、2度目のVはすぐそこにあるのだが。2年連続出場の高知は、4番に長距離砲・和田が控える。明治神宮大会の浦和学院戦での大爆発は、彼のポテンシャルの高さを見せつけるものだった。大和広陵の150キロ右腕・立田は2年生ながら、中学時代に日本代表メンバーのつわもの。菰野の浦蔦は故障からの回復途上だが、ポテンシャルは満点。将来はプロに行く器だ。初出場・創成館の大野は秋の九州大会3連続完封の離れ業。初出場と言ってなめると、痛い目に合う。
秋に一躍全国区に躍り出た春江工は、基本的には守りを中心とした小差のゲームが得意だが、明治神宮大会・浦和学院戦で見せたような爆発力も兼ね備える面白いチームだ。その春江工と同じ福井から連続出場の敦賀気比は、昨年よりも打線の破壊力は1枚上。今年は打ち勝つこともできるよう、準備に怠りがない。ここ数年甲子園で実績を残し続けてきた東京からは安田学園と早稲田実が選抜キップを射止めたが、今年は両チームともどうにも小粒で全国レベルに達しているかどうか。早実は個々の選手の能力は高いので、冬場に底上げが出来ているか。両校とも残念ながら現時点ではとても『夏(の東京大会)を勝ち抜いていける』力は備えていないと見受けられるので、今大会をチーム力アップの起爆剤にしたい。
大隅半島から初の甲子園を射止めた尚志館は、打ち勝つ野球が得意。2年連続の鳴門とともに、快音を響かせる腹積もりだ。潜在能力の高い常葉菊川は、かつての『大阪桐蔭の好敵手』という地位を守れるか。久々登場の宇都宮商は、選抜ではかつて、鮮烈な印象を残している。なんとしてでも”甲子園1勝”を狙うのは10度目の挑戦の盛岡大付。甲子園ワースト記録に終止符を打てるか。3年前に春夏甲子園に初出場した山形中央は、まだ念願の1勝をあげてはいない。狙いはただ一つだけだ。
岩国商は春は初出場。昨年の宇部鴻城に続き、旋風を狙う。21世紀枠では、遠軽の戦力が良さそう。フルスウィングを標榜しているだけに、甲子園に新鮮な風を吹き込みそうだ。益田翔陽は、昨秋の戦いぶりが出来れば甲子園でも十分勝負になる。
さあ、待ちきれない選抜の開会式は3月22日。
”陽は舞い踊る”甲子園で、高校球児たちの熱いプレーが展開されること、期待しています。
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