≪第98回全国高校野球選手権大会≫ ~甲子園~
【準決勝】
第1試合 作新学院(栃木) 10-2 明徳義塾(高知)
作新学院 203 311 000 -10
明徳義塾 001 100 000 - 2
作新得意の速攻で決める!打線鋭く、明徳は自分のペースに持ち込めず。
どっちが試合のペースを握るかに勝敗はかかると思って見ていたが、初回の攻防で作新が完全にペースを握り、逃げ切りの展開の持っていくことができた。作新は初回さっそくチャンスをつかむと、明徳の無失点エース・中野から藤野が2点タイムリー。そしてその裏、調子の出ない作新のエース・今井は1死満塁のピンチを迎えたが、1年生谷合を見事に遊ゴロ併殺に切って取り無失点。この時点で試合は8割方作新方向に傾いた。その後は疲れの見える中野を作新が一方的に打ちまくり4回途中KO。結局中盤までに10得点を挙げ、終盤は余裕で疲れの見える今井を降板させ、作新本来の形である宇賀神ー入江のリレーで快勝。決勝進出を決めた。
作新としては、まさに会心のゲーム運び。今大会すべてのゲームで機能している得意のゲーム前半での速攻の形がはまり、余裕のゲーム展開。左打者がそろう打線だけに、これまで尽誠・花咲徳栄・木更津総合と名うての左腕好投手と対戦してきたうっ憤を晴らすように、『右腕は俺たち、得意だぜ!』という攻撃を披露した。明徳・中野の速球、スライダーを完ぺきにとらえきる打線は、まさに作新の真骨頂。小針監督の『超攻撃的打線』の片りんを見せた形だ。エース今井はこの試合、球速は出ているものの抜け球が多く、今までの試合と比べて決して調子がいいようには見えなかったが、バックの大量点が最良のサプリになったようで、見事な投球で明徳に中盤まで付け入るスキを与えなかった。宇賀神、入江の本来の『投手3本柱』もここにきて甲子園のマウンドを経験。決勝を前に、完全にチーム状態をピークに持っていくことに成功したといえる。
明徳義塾にとっては、悔しい負けだろうが、『明徳の勝ちパターン』に持っていけなかったことで、残念ながら今年のチームの”弱さ”が出てしまった形となった。今年のチームは、明徳義塾の過去のチームと比較しても決してその能力は高くないチームだと思う。しかしながら、選抜での初戦大敗を経験して、その悔しさを糧にして、この大会では本当に成長した姿を見せてくれた。明徳義塾としては、02年の夏全国制覇を除いては、4強進出というのは甲子園での最高成績。それをこのチームで達成したことに、馬渕監督は悔しさの中にも満足感を得ているのではないだろうか。そして、『まだまだ明徳は死んじゃおらん』ということを強く意識できたのではないかと思う。これからの明徳も、また期待できるのではないか・・・・ということが感じられた。とはいえ昨日の試合は、何もできなかったという点で悔しさは残ったと思う。5番に起用した1年生の谷合選手は、練習などでは調子が良かったのではないかと思う。先発起用されたが、初回の1死満塁で併殺打を打って意気消沈してしまったか、拙守を連発。攻撃でも機能せず、試合に入ることができず試合でのポイントとなってしまった。つくづく選手の起用というのは難しいと痛感したこの試合であった。明徳としては、どうしても先取点がほしいと思ったのではないかと考えるが、試合の入りで作新得意の速攻にやられてしまい、後手後手に回ってしまい試合の主導権を最後まで握ることができなかった。
第2試合 北海(南北海道)4-3 秀岳館(熊本)
秀岳館 000 000 120 - 3
北 海 003 010 00× - 4
北海・大西、意地と気合で秀岳館の強打線を抑えた!北海は悲願の決勝へ!
どこにこんな力が残っているのだろうか。北海のエースで主将の大西は、クールに、冷静に、そして大胆に攻めて秀岳館の強力打線に、最後まで決定打を許さなかった。試合は初回から動いた。サイレンの鳴りやまぬ中、秀岳館の好打者・松尾の打球が右中間を切り裂き3塁へ。さらに俊足原田に四球を与えて無死1・3塁。『秀岳館が、疲れの残る大西を初回から捕えるな』と思われたのもつかの間、大西の女房役・佐藤大がスーパープレーを見せる。今大会でも有数の俊足ランナー・原田の2盗を、見事なストライク送球で刺した。そしてそのすぐ後、ワンバウンドで横にはじいた大西の投球を追うと、3塁ランナーをホームで刺し、その後の2死1塁からの4番九鬼の強烈な当たりはレフト布施が渾身のダイビングキャッチ。無死1・3塁で強打の3・4番を迎えたエース大西の絶体絶命のピンチを、バックがものすごい守備で無失点に切り抜け、試合の主導権を秀岳館に渡すことがなく試合を落ち着かせた。北海は1,2回、ともに満塁のチャンスをつぶして相変わらずの『ふん詰まり打線』の片りんを見せてはいたが、それを打ち破ったのはエース大西。3回2死2・3塁の場面で打席に立った大西は、ここで継投した秀岳館の2番手・中井の速球に絞ると、見事に右中間に持っていくタイムリー3塁打。先制の2点をたたき出すとともに、北海にぐっと試合のペースを持ってくる値千金の一打となった。前半から中盤にかけてはずっと北海のペース。秀岳館は全く強打線が機能せず、大西の投球に沈黙が続いた。大西は6回まではスイスイと80球程度でマウンドを楽しんでいるかのような投球を続けたが、そこはさすがに今大会一の野球力を誇る秀岳館打線。鍛治舎監督とともに、中学時代は『取れるタイトルは全部取った』素晴らしい選手たちが並ぶ打線。七回に一点を返すと、八回には2死二塁から、主砲・九鬼がライトへ糸を引くようなタイムリー。バックホームを焦ったライトがボールをトンネルする館に、何と打った九鬼までがホームに還って3-4と一点差に追いすがる展開となった。スタンドの雰囲気は一変。東邦vs八戸学院光星の試合がそうだったように、球場全体が秀岳館の反撃を期待するムードになり、ブラバンの応援に合わせて、三塁側、一塁側、そして外野スタンドと、波のような大声援に球場の雰囲気が”変わりつつ”あった。しかしそこで、この【北のクールな大黒柱】がそんなことにはひるまない見事な投球を披露。八回、そして九回と、異様な雰囲気をも楽しむように、疲れた体に鞭打ちながら、秀岳館の打線を抑え切って、”北の名門”北海を37回目の出場にして初めて、決勝の舞台に導きました。
敗れた秀岳館。大阪のボーイズ監督だった”高校野球の名解説者”鍛治舎巧氏を監督に招き、その監督を慕ってきた選手たちとともに『高校でも全国を取る』を合言葉に鍛え上げてきた軍団。春の選抜では4強で敗れたものの、『勝負は夏』を標榜する軍団にとって、その前途は洋々に見えた。しかしその後、熊本大地震が起こり、選手たちは練習を中断せざるを得ない時期が長く、そのプランは大きく軌道修正せざるを得なかったことだろう。しかしそんなハンデをものともせず、常に『熊本の人たちに喜んでもらうために』ということを合言葉に、ここまで上がってきたのは見事な成果だった。最後の最後で、春から夏にかけての実戦不足が厳しい形で出てしまった試合になったが、その功績はたたえられるものだと思う。鍛治舎監督は、この秀岳館を預かって高校野球監督として深紅の大旗を狙うのを『男のロマン』と表現した。その監督を慕い、熊本という地に渡り頂点を目指した選手たち。目標の頂点には届かなかったものの、見事な戦いぶりで『高校野球の21世紀の新しいチームの姿』を見せてもらった感じだ。
【決勝の見どころ】
作新学院(栃木) vs 北海(南北海道)
北海・大西の魂の投球がカギ握る。作新は速攻で勝負を前半に決めに来る!
さあ決勝戦。
大会前には考えもしなかった、作新学院と北海の対決となった。
両チームともにがっちりと安定したエースを立ててそのエースをがっちりと守り、打線は鋭い打球を連発する。
両チームとも、エースがほぼ一人でマウンドを守り続けているので、何か『古典的な絶対エース同士の対決』となり、オールドファンにとってはワクワク度が増してしまう対決だ。今大会両チームのとって大きかったのはその組み合わせ、ともに2回戦から登場し、1試合分少ないというのは、この構成のチームにとっては大きかったことだろう。大会での勝ち上がりぶりは、同じようなところもあるが、試合内容については対照的。まず作新学院は、初戦からずっと左腕の好投手との対戦が続き、正直しんどい大会だっただろう。しかしながら、この好投手たちとの対決を、チーム得意の『速攻』をキーワードにしのいできた。左打者中心の打線は、1回から相手に襲い掛かる。花咲徳栄戦、木更津総合戦、そして明徳義塾戦など、序盤で主導権を握りそのリードを今井の速球で守り切る戦い方が、今大会はスポッとはまっている。決勝でもこの『速攻堅守』の戦いぶりを堅持したいところだ。対する北海は、初戦から打線が『打てどもホームに還ってこない』という状況が続き、勝ち味の遅い試合で勝ちあがってきた。しかし、そんな苦しい接戦を後半突き放して勝ってきたところにチームの成長を感じる。なかなか相手を突き放せない展開の中、しぶとく、そしてクールにマウンドを守り続けた『頼れる主将』大西の存在が、とにかく大きい。大西は打線でも本来4番だが左手のけがで8番に座っている。しかし準決勝を見ると、本来の当たりも戻ってきており、ひょっとしたら決勝でも”打者・大西”が試合のカギを握るかもしれない。
さて、決勝は北海の大西がどこまで作新の速攻を抑えて試合の主導権を渡さないかというところが焦点か。
作新得意の形に持ち込ませると、ずるずると今井の剛球に抑えられそうなので、できれば昨日の秀岳館を破った時のように先取点は自分が奪っていきたいところだ。作新としては、今までの戦いぶりをこの決勝でも貫きたいところだ。小針監督は、ほとんどバントを使わずに強気の攻撃を仕掛けるのが特徴だが、ひとたびこの攻撃がはまると一気に相手を粉砕する迫力を持っている。それをさせないために、北海はこれまで同様の冷静な守りができるか。そして『ふん詰まり』ではなく、いいところでタイムリーが出るようだと、互角の戦いを挑めそうだ。それには1にも2にも、とにかくエース大西の踏ん張りが必要。疲れはピークだろうが、あと1戦、頑張ってもらいた。作新のエース今井も疲れはかなり蓄積されている感じだが、彼のいいところはピンチにギアを1段上げていけるところ。準決勝でも初回の1死満塁で140キロ後半以上の球を連発し、相手に得点を許さなかった。守備の精度は両チームともに決勝進出校らしい固さを誇り互角か。打線では、作新は右腕に強い左打線に期待。特に山本・山ノ井の1・2番が機能すると得点力も倍増する。5番藤野は準決勝で4打点。そこに3試合連続アーチの入江や下位の今井などの右打者も絡まり、打線はピークに近い状態だ。対する北海は、2番菅野から佐藤拓・佐藤大・川村の当たっているクリーンアップにつなぐ。そして下位にも”本来の4番”大西や俊足の鈴木などもおり、相手は気を抜けない。チーム打率は.346で、作新よりも5分以上上回る。打線に関しては、現状でまったくの互角と言えるだろう。
それにしても、両チームともにこの快進撃は見事というしかない。
両チームのこのチームのここまでの歩みは、本当に似たものがある。昨夏は北海は開幕戦敗退。作新も力を出し切れぬまま3回戦敗退。北海のエース大西は1死も取れずにKOという悔しいマウンド。一方作新のエース今井は、予選では投げていたのに甲子園メンバーを外されるという悔しさを味わった。この現在の両チームの『絶対的エース』もわずか1年前はこんな状態から出発。その悔しさを忘れず、1年後にここまで来るとは、高校球児とは1年間でこんなにもたくましくなるんだということに、あらためて気づかされる思いだ。
チームとしては、両チームともに昨夏の甲子園を経験しているとはいえ、今年のチームでは秋・春ともにまったく県レベルで勝てず、無冠の状態でこの夏を迎えている。そのチームをここまで引き上げた両指揮官の手腕に脱帽。
決勝は、4万6000人の大観衆の中、
自分たちのプレーを精一杯、発揮してほしいと思います。
ここまで来たら……どっちも勝て!!!
午後2時のプレーボール、待ちきれません。