この間、また息子が一晩だけ帰省していました。
理由は、大学の友達と横浜スタジアムで野球を観戦して、そのままアパートに帰るのでは遅くなるので…
というか、どうかすると終電に間に合わなくなるかもなので…
いっそ実家に泊まって行こうか、ということでした。
(ちなみに彼は横浜DeNAベイスターズと、北海道日本ハムファイターズのファンです)
その野球観戦のとき、ハマスタの電光掲示板の両脇に映し出された広告…
健康増進をうたった、サプリメント食品のたぐいの、あるドリンクの広告なんですが…
それを見て、感想を帰りの車を運転しながら、いろいろ言っていました。
「典型的なニセ科学の見本を見せてもらって、思わず笑っちゃったよ」と。
具体的に彼が言っていた商品は「核酸」が入ったドリンクなんですけれど…
核酸というのは、よく聞き馴染みのある単語の、DNA、RNAという、大きく2種類に分類される物質ですね。
DNAは、生物のあらゆる部分を形作る情報=設計図が書き込まれた物質。
生物の体=器官は、アミノ酸が結合したタンパク質で出来ていますが…
生物の器官の機能と形は、どんなアミノ酸を、どうやって合成して作るかによって決められます。
その合成の材料と組み合わせ方が書かれた、設計図がDNAなんです。
DNAは、糖(デオキシリボース)と、リン酸と、塩基から出来上がっているものです。
(ただしすべてのDNAがいわゆる「遺伝子」として機能するわけではないのですが、ややこしくなるので割愛します)
もうひとつのRNAという核酸は、糖(リボース)と、リン酸と塩基で出来ています。
DNAの設計図を転写して、その情報を体の各部分に運ぶmRNA(新型コロナのワクチンにも応用されています)と…
mRNAの塩基に書き込まれた情報を受け取り、アミノ酸の合成方法に、いわば翻訳するtRNAと…
mRNAとtRNAを結び付ける橋渡しの役割をする、rRNA、この3種類があります。
まあ、そんな核酸に関する解説は、本題ではありません。
とにかく核酸(DNA、RNA)そのものを口から食べたり飲んだりするとして…
そもそも、その栄養剤の中に入っている核酸は、どこのどんな生物由来の核酸かわかりませんよね。
そんなものを、もし体内にそのまま取り込んで行き渡らせちゃったらどうなるのか。
もしや、豚の遺伝情報やハエの遺伝情報が書き込まれた状態のDNA、それが転写されたRNAが体内で仕事をして…
人間が、豚やハエに変身するんじゃないか?そんなホラーな想像もできてしまうかもしれません。
でも、ご心配なく。核酸は消化吸収器官の中で分解されて、核酸の形で吸収されることはありません。
つまり、何の害もなければ(たぶん…)益もないということです。
核酸=DNA、RNAといった、誰でも耳にしたことがある単語を使って…
「誰の体の中にもある物質ですよー、必須ですよー、飲むと健康にいいですよー」
というイメージを作っているだけ。
それでお水と同じぐらいに安いのならともかく、少量で結構なお値段をとるのですから…
「いい商売だ、というか果てしなく詐欺に近いよね」と息子。
あんなもの3万人も集まる球場で流して、いいものなのかねえ、と。
そもそも、そうした健康食品、健康ドリンクのビジネスの世界は…
それらしいでっち上げの理屈と、信じやすい上手な宣伝の文句を考え出して…
お金さえもらえれば何でもする学者(日本の学者は研究費がないので喉から手が出るほど欲しい)を連れて来て…
何か「お墨付き」になることを言ってもらって「権威付け」をすれば、ひとは簡単にダマされるんです。
「研究の結果、効果があるという証拠が得られました」と勝手に書きさえすれば、みんな信じますから。
研究論文というのは、その学問の世界で信用がある学術雑誌に掲載されたり、学会で公に発表されたりして…
その上で「査読」=間違いがないかどうかを他の学者に検証してもらい…
さらに、第三者の実験で再現性=同じことがちゃんと起きると確かめられて、初めて信用できる。
ということを一般の人は知らなかったりするから「博士」とかいう肩書だけで簡単に信じますが。
ニュースでも「〇〇ということがわかった、と△△研究所が公表した」とよく書いてあったりしますけど…
ふーん、という参考の情報にはなりますが、それだけで「信用」することはできないんです。
ニュースを書いている人間自身に、そういう科学リテラシーが欠けている場合も多いし。
よくある、人にその健康食品を摂取してもらった調査で、〇〇%の人に有効性が認められた、というのも…
統計学的に意味のあるサンプル数なのかどうか、というのが何より大事。
またいわゆる「プラセボ効果」、つまり「効きますよ」と言われたことを検体の人が信じてしまえば…
ただの水でもある程度本当に効いてしまったりする現象との、はっきりした差異を証明しないといけないんです。
そうした、科学としてちゃんとした手続きを踏んだ上で認められたものでない、効果をうたったものが…
サプリメントや健康食品の世界にはゴロゴロしている……というより、そういう物の方が多いんです。
核酸を経口摂取して健康になる、というのは、それ以前のレベルでの、あり得ないニセ科学。
日本には、薬事法というものがあって、何でもザルのように認められるわけではないのですが…
病気や、困った症状が「治る」と書いてしまうと、薬事法でアウトですが…
「健康増進になる」「〇〇を緩和して体調を整える」(ただし効果は人によって異なります)と書けばセーフ。
その辺の微妙な「勘どころ」を押さえた人が書けば、いかにも効きそうな宣伝が作れるんです。
そういう私も、週刊誌時代、健康食品やドリンク、サプリメントなどの「スレスレな」PR記事を作ってました。
いや、たしか週刊誌を辞めた後も、渋谷の裏の方にあった小さな編集プロダクションに出入りしていたとき…
本来は、旅行ガイドの『地球の歩き方』を作る仕事をする契約で働いていたはずなのに…
なぜか、雑誌の広告記事だったか、健康関係の書籍だったかの製作まで手伝わされたとき、またやりましたよ。
「経験があるから」ということで、薬事法に引っかからない範囲での、詐欺みたいなことを書くお仕事。
いま、真面目な科学の徒である息子がそれを見たら、さぞかし軽蔑されるでしょうね。
彼が生まれるずっと前のことです。
とにかく、健康食の世界は、そんなんばっかですよ。
卑近なところでは「コラーゲンを食べればお肌がつるつる」というのだって、コラーゲンは消化吸収の段階で…
アミノ酸に分解されてしまうんですから、もはやコラーゲンじゃなくなる。
結局は、普通の肉や魚を食べるのと同じことなので「コラーゲンたっぷり」と喜ぶのは意味ないんです。
「〇〇酵素」というのだって、酵素そのままで体内に吸収され、血液中に取り込まれるなんてわけはないので…
口から食べた酵素が、そのまま体に作用するということはまれだし…
まして体内に取り込まれることは、ほぼないんです。
たとえば「ナットウキナーゼ」には血圧降下の作用がある、とかいうのもそう。
納豆は、大豆の中に含まれる栄養素を、消化吸収しやすい形で取れる、と言う意味で優良健康食ではありますが…
納豆菌が出すという酵素としての「ナットウキナーゼ」の効用をうたっている「協会」まであるけれど…
私は、かなり怪しいと思います。
あれの場合、まず、サンプル数に疑問があるし。
まあいずれにせよ、健康食品やサプリの世界は、かなり眉唾なことだらけ、というのは確かです。
それこそ、プラセボ効果というか……「鰯の頭も信心」に近いものがある。
昔流行った紅茶キノコとか、うちの父もどっかからもらって来て飲んでましたけど、あれはグロテスクだった…笑
どっかの新興宗教が売りつける「聖水」みたいなのとか…
昔のインドの、サイババが振りかける「灰」とかだって、信じていれば、全く効果がなくはなかったのかも。
その程度のものだ、と思って付き合うことだと思います。
サプリや健康食品以外では、化粧品や美容器具のたぐいにも、そういうのが多いですね。
他人にしつこく勧めたり、ましてねずみ講みたいな売り方をしているのに、加担するのはやめましょう。
ついでながら「滝のしぶきを浴びるとそのマイナスイオンが健康にいい」というのも、ニセ科学です。
滝を見ることで心理的にリラックスしたりするのは、身体的にも良い効果をもたらすでしょうが…
マイナスイオンというのはねえ…笑
何で人は、というか日本人は、ストレスなどが及ぼす心理的効果については「気のせい」で済ませて軽視して…
それが身体的な悪さをしたり、病気を引き起こしたりすること…
および、様々な方法でのストレスリリースが、身体的に良い作用をすることについては信じないのに…
なんちゃらかんちゃら、という物質名が出てくると、とたんに本気で信じ出すんでしょうかねえ。
とにかく、だまされないためにはやっぱり、最低限の化学や医学の知識は身に着けておいた方がいいですね。
中学校の理科程度でいいから、きっちり頭に叩き込んでおくべきです。だまされなくなるために。ほかに…
ニセ経済学、ニセ政治学、ニセ法学、ニセ歴史学、ニセ心理学、などなど…
ニセ学問の世界は、純粋な自然科学以外にも、あらゆるところに及んでいます。
ひとをダマして、どこかへ、何かへと誘導するために。
やっぱり、学校で習ったことをしっかり身に着けていれば、人にダマされにくくなります。
だから、自分の身を守るために、お金を他人にかすめ取られないために、ちゃんと勉強はしないと。
勉強しても、お金持ちになれたり、社会的地位を得られたりする保証は全くないですから…
「勉強しないと偉くなれないよ!」と子どもに言うのは、半分以上、ウソになってしまいます。
でも「勉強しないと、将来ひとにダマされるよ!」は、ほぼ正しい。
それと、ネットで得た知識を鵜吞みにするのもダメ。
この核酸に関することで、今回改めてネット検索して気付いたんですけれ
ど。
たとえば一般の人が、核酸ドリンクの「核酸」って、ほんとに体にいいのかなと思って…
「核酸」というワードでググっても、検索上位にずらーっと並んでいるのは、それを使って商売をしている…
業者の息がかかったサイトですよ。
のらりくらりしながら、核酸を経口摂取するのは望ましいのではないか、という印象の知識を植え付けられます。
商売っ気のない情報を得るには、相当「下の方」まで辛抱強く検索しないといけない。
なんならウィキペディアにも、そういう記述があります。
どうしてこうなるかというと…
ネットでのワード検索は、なんといってもSEO(Search Engine Optimization)の技術に左右されているからです。
それに長けた、キーワードの出し方、リンクの貼り方、HTMLタグ使いの上手い人が作ったサイトばかりが…
検索上位に並んでいて、内容自体の確かさが、そこに反映されているわけではないです。
本当に信用の置ける情報は、ちょっとググってネット検索したぐらいではだめで…
やっぱり専門の書籍を読まないと手に入らないですね。
ネット時代だからこその、読書の大切さをあたらめて感じさせられました。