すべて『ステランティス・ジャパン=Stellantis Japan』という会社が統括して運営することになりました。
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ついでに、プジョー、シトロエンといったフランスのブランドも…
ジープ(含むチェロキー)も…すべてステランティス・ジャパンが展開するブランドになりました。
「ステランティスってなんじゃい?」
……という方が多いかと思います。
自動車、とくに外国車についてそれなりに詳しい人なら、30年以上前からイタリアの車のブランドはほとんど…
というかすべてに近いぐらい、フィアット社の傘下に、グループ会社として吸収されていたことはご存じかと。
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その後フィアットが、アメリカでかつて「ビッグ3」と言われたアメ車のグループのひとつ、クライスラーと合併したのを知っている方は、どれぐらいか…。
合併と言っても実際は、経営破綻したクライスラーが、フィアットに「買われた」ような形でした。
そして去年の1月、フィアット・クライスラーグループ(FCA)と、プジョー・シトロエングループ(PSA)が合併して出来た…
世界第4位の自動車会社のグループが、ステランティスなんです。
本社はオランダのアムステルダムにあります。
去年の合併が「吸収」ではなく、対等の合併だということを強調するために…
あえてFCAの本拠地イタリアでも、PSAがあったフランスでもない、第三国に本社を置いたのかもしれません。
(筆頭株主はフィアット関係の団体ですけど)
それに伴ってフィアット社も、イタリアのトリノにあった本社をアムステルダムに移しました。
正確に言うと、もうフィアットとそのグループは「イタリアの会社」じゃないんです。
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いや、本社はオランダにあっても経営者や社員はイタリア人でしょ……と、思うでしょ?
それがそうでもないんです。
まあ昨年の合併前からフィアットグループの多国籍化は進んでいて…
国籍はイタリアだけれど、生まれも育ちもアメリカ(ユダヤ系)の人物がCEOになったりしていたし。
その前の名物社長、マルキオンネ氏はイタリア系カナダ人でした。
今のステランティスは、カルロス・タヴァレスCEOがポルトガル人、チェアマンのジョン・エルカーン氏はアメリカ人。
43人いる「トップ・エグゼクティブ・チーム」のうち、イタリア人は…たったの7人ですよ!
イタリアとフランスのグループが合併したのに、両方の国籍の人合わせても、半分に遠く満たない。
チーフ・テクノロジー・オフィサーは、Amazonや、戦闘機などを作るノースロップ・グラマン社を経て来たアメリカ人。
チーフ・エンジニアリング・オフィサーは、フォルクスワーゲン出身のドイツ人。
チーフ・デザイン・オフィサーは、フランス人とアメリカ人。
サプライチェーン担当のオフィサーは、中国系アメリカ人です。
車づくりの根幹をなす技術部門のトップはイタリア人でもフランス人でもない。
ちなみに傘下のアルファロメオは、創業の地であるミラノから、フィアットが出て行ったトリノに本社を移しましたが…
インパラート社長はフランス人です。
そして、日本でアルファを売るステランティス・ジャパンの社長さんは、北欧・スウェーデンの人。
これほどまで徹底的に「多国籍企業」になった今…
「イタリア車」って、いったい何でしょうね。
まあフランス車も…そしてドイツ車も、現実をつぶさに見ると同じなんですけれど。
フォルクスワーゲンの基幹工場のひとつが、スペインにあるのはそれなりに有名な話だし。
ブランドの国籍は違っても、それぞれの会社がほぼ同じコンポーネンツを使って…
(ブレーキはブレンボ、ダンパーはビルシュタインとか)
同じようなプログラムで動く工場で、同じCADマシンでデザインしたものを、同じような工作機械を使って作られている。
私は、アルファロメオの工場や、マラネッロのフェラーリの工場も実際に見て取材して来ましたけど…
手作業をする部分の現場労働者は、イタリア人より移民の工員さんのほうが多い印象で…
それは、どこの国のどのメーカーでも同じことだと思います。
そうなると、この車はドイツ車だからとか、フランス車、イタリア車だから、という言い方や考え方にどこまで意味があるのか。
正直言って、みんなひっくるめて「欧州車」というカテゴリーに入れたほうが、現実に即していると思いますよ。
私の印象では、たとえばアルファロメオでも、最新のジュリアとかステルヴィオは、もう完全に「欧州車」です。
あえてアルファロメオの「DNAを継承する」ということで(それが「売り」なので)、かつてのアルファのテイストに沿った「味付け」を加えた商品開発をしているだけかと。
アルファロメオは「良く曲がる」「コーナリングが気持ち良い」のが伝統だから、そういう風に作りましょう、と。
「多国籍軍」のスタッフがね。
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よく私たちは、イタリア車が故障すると、イタリア車「だから」壊れたんだ、やっぱりなーと言い…
ドイツ車が故障すると、ドイツ車「なのに」壊れたよ、おかしいなーと言う。
もうこの状況では、それって確率の問題とは関係なく、先入観、ある種の「バイアスがかかった」感想なんじゃないでしょうか。
アルファロメオ・ジュリア(現行の2代目)の初期生産車はトラブルが多いと言われますが…
それも理由は「イタ車だから」「イタリア人が作ったから」じゃなくて…
リリースを急ぎ過ぎて、細かい部分の詰めが甘いまま出さざるを得なかったからだと思われます。
だって「イタリア人が作った」んじゃないんだから。あえて「イタリア風に」作っただけだから。
車の特性、味付けはともかく、壊れるところまで「イタリア風に」作る必要なんて、あります?
たとえばアルファロメオの場合、良い意味でも悪い意味でも「イタ車」だったのって、ぎりぎり159やブレラまで、でしょうね。
それ以後のモデルは、イタリア風に味付けた「欧州車」です。
それが悪い、と言ってるんじゃないですよ。ただ、そういうものだということです。
むしろイタリア車の良い所を保持しつつ品質や信頼性を高めたのなら、理想的だとも言えるでしょう。
アルファロメオの現行モデルも、数値データやラップタイムといったものとは別の、体感的なドライビング・ファンとは何か、よくわかった人たちが作っている様子ですしね。
それでもなお私の場合は、個人の趣味として、昔のイタリア車が好きですけれど……
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これから、各メーカーの「欧州車」化はさらに進むでしょう。間違いなく。
だって会社のトップから現場の工員さんに至るまで、使う機械やQCコントロールのシステムも、ぜーんぶ似たり寄ったりで、国の特性はますます薄まるんですから。
で、本当のところ私が何を言いたいのかというと。
海外メーカーはここまで「多国籍化」が進んでいるのに、日本のメーカーは相変わらず「純血主義」に留まっているんじゃないかということです。
もちろん、多国籍化の弊害はありますよ。
でも野球に例えると、いろんな国からすべての人種の優秀な選手を集めてる現代のメジャーリーグと…
昔の「外人選手は1球団2名まで」という縛りがあった時代の日本のプロ野球みたいなもの…
になりはしまいか、ということです。
これは自動車メーカーだけの話ではないです。
日本の企業全体、なんなら大学や学術の研究機関に至るまで、あまりにも「外の血」を入れることに消極的過ぎるんじゃないかと。
何の縛りもなく優秀な人材が集まった集団と、純血主義にこだわった集団、世界を舞台に競争するとなると、どちらが有利かは明らかです。
その辺、我々もよく考えてみる必要があります。
この世界は競争だけで出来ているわけではないです。
ただ、もし競争がしたい、そして勝ちたいと思うのなら……
集団、組織を閉鎖的なものにしてしまうのは、悪手でしかないことに気づかないといけないです。
集団、組織を閉鎖的なものにしてしまうのは、悪手でしかないことに気づかないといけないです。