きいろをめでる

黄瀬、静雄、正臣の黄色い子達を愛でる同人二次創作短編小説中心。本館はAmebaです。

疲れを癒してくれるモノ、(静正)

2010-06-09 19:14:53 | 小説―デュラララ
「お前、いつも通り本当に調子いいなぁ」

今日は、そんなことを一体何人に言われただろうか。

・・・むしろ、いつにないほど疲れているのだが。


誰もいない公園のベンチに何となく腰掛け、新しい煙草に火をつけてゆったりと味わう。

最近、仕事が多いのとうぜぇのがよく出没しているせいで、疲れ気味だ。

だが、人にはいつも通りに見えているらしい。

「帰るか・・・」
今日はもう仕事はない。

サイモンのところへは昨日行ったから、今晩は家で食べるか、と足を向ける。
いざ家で食べるとなると、いつの間にか「自分で作る」という考えは消滅していた。
自分で作っても、美味くない。




吸い殻を捩込み、公園を出ると、急に声をかけられた。

「あ、静雄さん!」
「・・・あ?」
見ると、青のブレザー制服を身に纏った、金髪とも言えるほどの明るい茶髪の少年が、こちらへ駆け寄ってきた。

紀田正臣。

「よかったー!探してたんですよ」
肩で息を切りながら言う。
何もそんなに急ぐことないのに、とは思いつつも、その姿を見てふと思い付いた。

「お前って・・・」
「なんですか?」
「犬みたいだな」
「え」
ぽんぽんと、頭を撫でる。
日を浴びて光を返す髪の、さらさらとした手触りに、どうしようもなく癒された。

「ちょっ・・・静雄さんっ」
赤面しながら抵抗しつつも、その払いのける手には拒否の意思が感じられなかった。

おそらく、触れられていること自体は嬉しいのだが、「犬」発言と、和やかな静雄の表情に、恥ずかしく思っているのだろう。

「犬っぽいじゃねぇか。嬉しそうに走り寄ってきて、こっち見上げてくんだか・・・ら・・・・・・」
語尾がどんどん小さくなっていく。
言っていて自分も恥ずかしくなってきた。

二人して黙ってしまう。
お互い、顔には朱を残して。

急に、頭を撫でていた手は後頭部へ回り、正臣は力強く静雄の身体のほうへ引き寄せられた。
ばふっ、と空気の潰れる音が聞こえる。
密着して、さらに心拍数が上がっていく。

さらに、静雄は密着してもなお、頭を撫でていた。

手触りを楽しむように。
自分よりも小さなその少年を愛おしむように。

突然のことに驚いた。
でも、正臣は少しの間だけ、抵抗するのをやめておこう、と、素直に体を預けた。




しばらくの間そうした後、やんわりとした力で静雄から離れる。
静雄のほうも気が済んだのか、意思を見せるとすぐに離してくれた。

そして、自分が何のために静雄を探していたのか、急速に思い出した。

「そ、そうだ静雄さんっ。オレ、これを渡そうと思って」
差し出されたのは、袋に入ったカップケーキ。
「家庭科の調理実習で作ったんですよ。ほとんどオレ一人で作ったんで、班の奴らが余り持っていってって」

受けとったケーキを眺めた。
美味しそうな色と香りが、食欲をそそる。

「ありがとな」
「静雄さん疲れてるみたいなんで、ちっちゃいけどそれ食べて、ゆっくり休んでくださいね」
「・・・っ」

疲れていると見抜かれていたなんて。
驚いたが、流石だなと感心もする。

「ご飯もちゃんと食べてくださいね。あ、なんならいつでも作りに行きますよ」
男子高校生らしからぬ発言に少し頬が緩んでしまったが、すぐに頬を持ち上げて微笑みに変える。

「ああ、ありがとう、な」

ぽん、とまた頭に手をのせたら、嬉しそうに笑う。
自分だけに向けられたその笑顔が、つい可愛く思えた。
可愛いと思ったから、上半身を屈めて額に唇で優しく触れたら、笑顔が紅潮に変わる。

そんな様子もまた、可愛く思えた。


最後に、指通りのいい髪をぐしゃっと掻き回して、
「じゃあな。おやすみ」
と、夕陽には少し早い挨拶をする。
性急な感じもしたが、
「おやすみなさい、静雄さん」
と正臣は笑顔で返した。





・○・○・○・○・○・○・○・





今度、夕飯を作りに来てもらおうと、ケーキをかじりながら静雄は思った。

呼ぶほどの家でもないし、来てもらうほどの時間があるかどうかはわからない。
それに、自分が何かしてしまうかもしれないという考えだって、浮かんで来る。

でも。
この優しい味を、また食べたい。

そう、思った。





いつの間にか、疲れなど忘れてしまっていた。

優しげな夕刻の出来事と、気持ちの詰まったカップケーキは、ここ数日の疲れを癒すのには十分すぎたのである。