「待ちやがれぇぇぇこの野郎ォォオォオ!!!!!!」
「怖いなぁ静ちゃん、やめてよも~」
喧騒の響く、日の落ちた池袋の街で、そんな声が聞こえてきた。
通行人は、またか、とでも言いたげにその二人を見た。
平和島静雄と、折原臨也。
見る度見る度、平和島静雄は折原臨也を追い掛けている。
その理由は―――まあ、彼ら通行人という一般人には、わからないところではあるのだが。
そうこうしているうちに、臨也が路地へ逃げ込み、静雄もそれを追ったので、二人の姿は見えなくなってしまった。
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「待てッ・・・このっ」
入り込んだ路地は案外狭くて物が多く、場慣れしているらしい臨也への距離はなかなか縮まらなかった。
だがそれもつかの間、少し開けたところで、じりじりと近づいていく。
「そろそろ疲れてきたし、ここいらで・・・」
臨也が何か呟くと、急に角を曲がった。
それを追い掛けようとすると。
「あれ、静雄さん」
臨也とは違う意味で聞き慣れた声が聞こえた。
――紀田正臣。
見かけたその姿に、つい立ち止まってしまう。
「最近会ってなかったけど、元気ですか?俺、会いたかったんです」
「ああ、そ、そうか・・・」
毒のない笑顔と『会いたかった』の言葉に、頬が緩みそうになった。
しかし。
「あーでも、俺忙しいから、これで・・・」
と言って、背を向けた。
いざ走り出さんとしたとき。
「・・・行っちゃうんですか?」
正臣が、服の裾を控えめに掴んでいた。
寂しげに上目遣いで聞いてくる。
(うっ・・・)
正直、この手のことをされると全く太刀打ちできなくなる。
よりによって、正臣。
どうしようもできなくて迷っていると、今度は静雄の手を軽く握りながら、言葉を続けた。
上目遣いで。
静雄は赤面する。というか、赤面せざるを得ない。とにかく心臓が高鳴っていた。
「今度会えたらたくさん話をしたいなとか思ってたんすけど・・・あ、でも静雄さん、仕事忙しいんですよね、すいません引き留めちゃって」
そういって俯き、手を離した。
でも。
「いや、もういいんだ」
「え?」
「どうせ仕事じゃねぇし・・・本当の仕事は終わってるし・・・その、俺もお前と一緒にいたほうが楽しいし・・・」
最後のほうが聞き取れなかったが、正臣が笑顔を明るくする。
その笑顔にまたやられそうになった。
「でも、ここじゃちょっとな・・・どこか移動するか?」
「オレ、静雄さん家に行ってみたいです」
「は!?」
取り出しかけた煙草を、一瞬落としそうになる。
「行ったことないし・・・それに、静雄さんと二人で話したいし」
「おい・・・・・・」
不覚。
きてしまった。
「何しちまうか、わかんねぇぞ・・・」
「いいですよ、むしろ大歓迎です」
言葉の意味をわかっているのかいないのか、いや、高校生だ、前者であろう。
噴いてしまいそうになるのをなんとか堪えた。
「・・・しゃあねぇな、連れてってやるよ」
「やったー!静雄さん大好き!!」
「おいっちょっ何言ってんだよ!!」
完全に正臣のペースに取り込まれる。
そんなことも楽しく思え、今日ばかりは正臣に免じて臨也は放っておこうと、会話を楽しみながら自宅の方向に足を向けた。
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「上手くいったなぁ・・・」
一人パソコン前で呟く男。
「絶妙かつ絶好かつ最高のタイミング・・・そして予想と寸分違わぬ反応・・・まさに計画通り!! 静ちゃんのリアクション、間近で見たかったなぁ~」
悲しいかな彼には話し相手はいなかったが、本人は気にしていなかった。
「二人は、セッティングした人に感謝すべきだよ・・・全く、二人とも楽しんじゃって薄情だなぁ・・・まぁ、逃げ切れたからいいんだけど」
静雄と正臣が出会うように仕向けた張本人―――折原臨也は、上手くいった計画に、ほくそ笑んだ。
次は何をしてみようかと、考えを張り巡らせながら。
そんなこととは知らないから、静雄と正臣は幸せな時間を過ごしたのだけれど。