投資家の目線

投資家の目線483(「沈黙のファイル」と日韓交渉)

 「沈黙のファイル」(1996年、共同通信社社会部編)は、故瀬島龍三元伊藤忠商事会長(元大本営参謀)の軌跡を中心に戦後史を追った本である。同書は「戦後賠償のからくり」という第一章から始まり、そこにはインドネシアや大韓民国との交渉過程が描かれている。


 「日韓請求権並びに経済協力協定(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)」の第1条1は、

1 日本国は、大韓民国に対し、
(a)現在において千八十億円(一◯八、◯◯◯、◯◯◯、◯◯◯円)に換算される三億合衆国ドル(三◯◯、◯◯◯、◯◯◯ドル)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、この協定の効力発生の日から十年の期間にわたつて無償で供与するものとする。各年における生産物及び役務の供与は、現在において百八億円(一◯、八◯◯、◯◯◯、◯◯◯円)に換算される三千万合衆国ドル(三◯、◯◯◯、◯◯◯ドル)に等しい円の額を限度とし、各年における供与がこの額に達しなかつたときは、その残額は、次年以降の供与額に加算されるものとする。ただし、各年の供与の限度額は、両締約国政府の合意により増額されることができる。
(b)現在において七百二十億円(七二、◯◯◯、◯◯◯、◯◯◯円)に換算される二億合衆国ドル(二◯◯、◯◯◯、◯◯◯ドル)に等しい円の額に達するまでの長期低利の貸付けで、大韓民国政府が要請し、かつ、3の規定に基づいて締結される取極に従つて決定される事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務の大韓民国による調達に充てられるものをこの協定の効力発生の日から十年の期間にわたつて行なうものとする。この貸付けは、日本国の海外経済協力基金により行なわれるものとし、日本国政府は、同基金がこの貸付けを各年において均等に行ないうるために必要とする資金を確保することができるように、必要な措置を執るものとする。
(出所:データベース『世界と日本』 日本政治・国際関係データベース 東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室)
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPKR/19650622.T9J.html

となっている。よって、日本から大韓民国への無償供与は日本企業や日本人への支払いに全額充当されていることがわかる。もう一方の長期低利貸付けも、日本からの生産物や役務の支払いに充当される「ひも付き融資」であるため、日本企業の利益につながる。「沈黙のファイル」では、岸信介(安倍首相の祖父)や佐藤栄作(岸信介の弟)などの官僚出身政治家が日韓交渉に前向きだったと書かれている。また、故小林勇一元伊藤忠商事ソウル支店長が韓国政界への政治献金が必要だったことも証言しており、大韓民国への経済援助で日本企業や日韓政界が相当潤ったのだろうと推察される(同書にはインドネシアではスカルノ側に10%のコミッションが渡ったことも書かれている)。


 2002年の日朝平壌宣言では、

「2.日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。
 双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。」(出所:外務省HP)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/n_korea_02/sengen.html

とされている。当時と違って完全な「ひも付き」は海外から批判を受け難しいだろうが、日朝経済援助でも日韓の時と同じような光景が繰り広げられるのではないかと思われる。


 「沈黙のファイル」では資料編として、元KCIA幹部の崔英沢氏のインタビューが掲載されている。彼と党人派の大野伴睦代議士の食事の席に読売新聞の渡辺恒雄記者が同席することがあったという。朝日新聞を叩いている暇があったら、当時の日韓交渉の中身について読売新聞が書いたらいいんじゃないかと思う。

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・「イスラム国」が米国人や英国人を斬首していることで残酷とみなされているが、池内恵東京大学准教授がブログで、サウジアラビアが毎週金曜日に斬首で公開処刑していることを書いている。中東地域で斬首刑はそれほど珍しいことではないのだろう。
http://chutoislam.blog.fc2.com/blog-entry-196.html
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