投資家の目線

投資家の目線333(Economic Hit Manに学ぶ)

 「エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ」(ジョン・パーキンス著 古草秀子訳 東洋経済新報社 2004年、日本版は2007年)は、エコノミック・ヒットマン(EHM)だった著者の話である。EHMである彼の仕事の主要な目的は、

引用開始

「第一に、巨額の国際融資の必要性を裏付け、大規模な土木工事や建設工事のプロジェクトを通じてメイン社ならびに他のアメリカ企業(ベクテルやハリバートン、ストーン&ウェブスター、ブラウン&ルートなど)に資金を還流させること。第二に、融資先の国々の経済を破綻させて(もちろんメイン社や工事を請け負った企業に金を支払わせたうえで)、永遠に債務者の言いなりにならざるをえない状況に追いこみ、軍事基地の設置や国連での投票や、石油をはじめとする天然資源の獲得などにおいて、有利な取引を取り付けることだ。」 同書P47

「クローディンと私はGDPがじつにあてにならない数字であることについて、率直に話しあった。たとえば、GDPが上昇しても、利益を得るのはガスや電気など公益事業を所有する有力者だけで、圧涛I多数の人々はかえって負債の重荷に苦しむ結果になりうる。金持ちはますます豊かに、貧乏人はますます貧しくなるのだ。それでも、統計上からいえば、経済は発展しているとみなされる」 同書P48

引用終了

という(メイン社は当時の著者の勤務するコンサルティング会社)。後者の部分は原発問題を想起させる。

 また、著者はイランで石油産業の国有化を行ったモサデク政権の転覆について、「暴動や過激なデモを起こさせ、モサデク首相は不人気で無能だというイメージを作り出した」と書いている。この記述は、在沖米海兵隊の辺野古移設問題で2010年に鳩山由紀夫元総理が「ルーピー」などと散々たたかれ、政権が転覆させられたことを思い起こさせる(2002年以前、上に出てくるベクテル社が辺野古基地の計画図を作っている 沖縄はもうだまされない 真喜志好一)。イランでは最終的に親米のパーレビ国王が唐ウれたが、日本で基地の無理強いを続けるのは米国にとって有効なのだろうか?


 2002年には、ベネズエラのチャべス大統領の失脚を狙い大規模なストライキが起こったが、ブッシュ政権の当局者が関わっていた。その件を考慮すると、欧米に資産を置いていたカダフィー一族がリビアで失脚していくなか、次の記事のようにチャべス大統領が欧米から金(きん)を送還するのも分かる気がする。

ベネズエラのチャベス大統領:金準備8400億円相当、欧米から送還へ Bloomberg 2011/8/17

 開発援助という意味で、ODAについても考えてみたい。小泉政権のとき、日本国は朝鮮民主主義人民共和国と「平壌宣言」を結んだ。最も重要な点は、賠償金ではなくODAでの国交交渉を行うことだと思う。ODAであれば、日本国にとって望ましい、少なくとも害はない開発目的のものに資金援助を限定できるだろうからだ。ひも付き融資ならば、日本企業に資金を還流させることも可能だが、現在そこまでやるのは難しそうだ。同書はアメリカの意に沿わない相手政府を転覆させるために動く「ジャッカル」と呼ばれる人々の存在や、それが失敗した場合には米軍を動かすことにも言及している。日本国は「ジャッカル」は養成できても、米国と違い軍事組織としての自衛隊を派遣するのは難しいのではないか。そこまでの強制力がないので、ODA融資で相手国の経済を破綻させることはしないだろうとは思うが…。

 それにしても、今はEHMを生んだ米国自身が中華人民共和国に多額の債務を負っているのは皮肉なことだ。

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・前原民主党政調会長が、TPP交渉において途中で離脱する可能性もほのめかしている。しかし、米国の交渉官は日本の途中離脱論を牽制している(「TPP交渉、日本の途中離脱論をけん制 米交渉官」2011/10/29日本経済新聞)。TPP交渉の途中離脱は困難と考えるべきだろう。
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