厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会は、2023年度の最低賃金の目安を全国平均で時給1002円にすると決定した（「最低賃金、全国平均1002円 働く人の5割超が1000円以上」 2023/7/28 日本経済新聞電子版）。健康で文化的な生活できるような賃金にすることは必要だが、賃上げが容易に価格転嫁されるようになると歓迎できるものではなくなる。
第一次世界大戦後、ドイツはハイパーインフレに見舞われた。「クーノは履行政策を放棄し、二二年後半からの急速なマルク下落にも積極的な対策をとらなかった。大戦中から始まった通貨インフレは戦後も緩慢に進行したが、それには労使が労働者の急進化を防ぐために賃上げを認め、それを価格に転嫁させる方法をとったことにも原因があった。しかし、賃上げはもはや急激な通貨下落に追いつけず、労働者の実質賃金は低下して、労使紛争は激化した」（「ドイツ史 新版世界各国史13」 木村靖二編 山川出版社p297～298）。安易な価格転嫁は実質賃金を低下させることがわかる。フランス・ベルギーによるルール進駐もそれに拍車をかけた。「ドイツは進駐軍への協力を拒む消極的抵抗策で対抗したが、それを支える巨額な費用を紙幣増刷でまかなったため記録的な通貨インフレが起こり、億マルク単位の紙幣がつぎつぎと発行されて、二三年夏以降には通貨は事実上その機能を失った。賃金・給与で生活する労働者・ホワイトカラー層、利子生活者、預貯金で財産を蓄えていた中間層は大打撃を受ける一方、製品や生産物など現物をもつ企業や農民は大きな利益をあげた。ルール工業界の大企業家シュティネスは利益をつぎつぎと再投資して一大コンツェルンを組織し、農民は負債を一掃したといわれる。国家もまたインフレ受益者であり、二二年に六六七五億マルクあった負債（国債など）は、二四年にはわずか二七億マルクにまで減少した」（同p298）という。巨額の債務を抱える現在の日本政府も、ウクライナに対してメリットの乏しい財政支援を行っており、当時のドイツと似ている。ハイパーインフレは大企業や政府に利益になる一方、賃金労働者、ホワイトカラー、年金生活者には不利益をもたらすだろう。
中国はフィリピンに合同軍事演習を提案している（“China Offers Military Drills With Philippines Amid Sea Tensions” 2023/7/27 Bloomberg）。サウジアラムコと中国のシノペックは協業を拡大中。エネルギー安保の問題は、台湾近海のシーレーン防衛以前の問題ではないか？また、ロシアとイランの間に緊張が走った。『イランが実効支配し、UAEが領有権を主張しているペルシャ湾の三つの島について、「UAEの主導と努力を含む、平和的解決に向けたあらゆる努力を支持する」との一文が盛り込まれていた』（『イラン、島巡るロシアの声明に反発 蜜月一転? 「口論寸前」報道も』 2023/7/27 朝日新聞デジタル）ことに反発したためである。しかし、日本はUAEから石油を輸入しているが、イランからはしていない。日本にとって、ロシア側に付かれたら困るのはどちらの国だろう？イランとロシアの対立を揶揄している場合か？ラオスでは、「北のボーテンでは、中国紙幣はラオス通貨のキップと同じくらい日常的に使用されており、看板はラオス語と北京語の両方で書かれている」（「【焦点】ラオス中国鉄道が快走、「一帯一路」なお健在」 2023/7/25 ダウ・ジョーンズ配信）ように、中国の影響は東南アジアに広がっている。
ラテンアメリカはEUとのサミットで、ウクライナのゼレンスキー大統領の招待とロシア非難を拒んだ（「中南米が組んだ予想外の戦線 ロシアが米国にパンチ＝マスコミ」 2023/7/21 SPUTNIK）。「ロシア-アフリカ」サミットの最中、ウランの産地ニジェールではクーデターが勃発した。『米情報当局の高官は、ニジェールがサヘルにおける米仏軍の「最後の主要拠点」だとし、「ニジェールは、倒れないことを願う最後のドミノだ」「もしニジェールが倒れたら、どうなるのかよくわからない」と述べ』（「ニジェールの軍事クーデター、ロシアに戦略的優位性も」 2023/7/28 ダウ・ジョーンズ配信）、ワシントンにとって計算違いの事態のようだ。西アフリカではセネガルで野党指導者が拘束された（” Senegal Opposition Leader Charged With Fueling Deadly Protests” 2023/7/28 Bloomberg）。国際社会は西側の価値観でまとまってはいない。
