8月1日、格付会社フィッチが長期外貨建て米国債の格付けをAAAからAAプラスに格下げした(「米長期債格付けを「AAA」から「AA+」に引き下げ=フィッチ」 2023/8/1 ロイター)。世界でUSダラー決済離れが進んでいることもあるのだろう。軍事技術部門で西側諸国との協力が進むインドもUAEと現地通貨建て決済で合意するなど(「インド・UAEが首脳会談 現地通貨建てで貿易決済合意」 2023/7/16 日本経済新聞電子版)、USダラー防衛に協力する気はなさそうだ。
その格下げを受けて、2日には「米連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の長期発行体デフォルト格付け(IDR)と無担保優先債務格付けも「AAA」から「AAプラス」に引き下げた」(「フィッチ、ファニーメイとフレディマックを格下げ」 2023/8/2 ロイター)。株式市場が好調で、米国経済は軟着陸するとの見方もあるものの、米国の商業用不動産問題は深刻だ。米MSCIの不動産部門チーフエコノミスト、ジム・コステロ氏は「返済できる見込みがないローンの満期到来をただ座して待つ『ゾンビ』のようなオフィスビルが存在する」(「米商業不動産、迫る返済満期 5年で400兆円」 2023/8/2 日本経済新聞朝刊)という。米国経済軟着陸説は、こうした不都合な真実から目を背けているだけではないのか?また同記事には、「FRBによると22年末時点で米国の商業用不動産ローン債権総額の半分あまりを中堅・中小銀行が保有する。中堅・中小行全体の総資産の13%に相当する規模だ」とある。ホットマネーであるブローカー預金の多さといい、中堅・中小行の経営危機は収束していないと考えられる。1980年代のS&L(貯蓄貸付銀行)危機も、土地価格の崩壊に起因していた。なお、このことは、「こうして銀行はつぶれた 米国S&Lの崩壊 The Greatest-ever Bank Robbery」(マーティン・メイヤー著 篠原成子訳 日本経済新聞社 1991年)に詳しい(投資家の目線654(こうして銀行はつぶれた))。
1980年代は、東側諸国のルーブル経済圏が西側のUSダラー経済圏より相対的に弱くなっていく時期だった。しかし、現在は石油やガスを握る中東諸国、ウランを産出するニジェールなどは西側諸国と対立している。食糧の輸出制限も武器になっている。インドは一部を除いてコメの輸出を禁止しており、米国のインド系社会にも打撃を与えている。地下資源、食糧資源に乏しい西側経済の力が弱まっている現在は、1980年代とは異なった様相になるのではないだろうか?