投資家の目線

投資家の目線976(セルビアとポーランド)

 セルビアがフランスからラファール戦闘機を購入する契約が合意に近づいている。セルビアがロシア寄りからNATOのほうに近づいていると見られている(“Serbia says it’s close to a deal to buy French-made fighter jets. That would be a shift from Russia” ASSOCIATED PRESS • April 9, 2024 Stars&Stripes)。第二次世界大戦前、フランスはチェコスロバキア、ルーマニア、ユーゴスラヴィアで結ばれた安全保障協力体制である小協商を支援していた。

 

 第一次世界大戦は、セルビア人青年がオーストリア皇太子夫妻を暗殺したサラエボ事件が導火線になったとされる。第二次世界大戦の直接的な引金ではないが、1934年には独裁体制を敷いて国民統合をはかろうとしていたセルビア人のユーゴスラヴィア国王アレクサンダルが、ハンガリーに避難したクロアチア人にマルセイユで暗殺された。「イーデン回顧録Ⅲ 独裁者との出あい 1931~1938」(南井慶二訳 みすず書房p101)では、このテロルはハンガリーかイタリアの支持を受けていると疑い、さらに小協商の弱体化が予想されている。小協商はチェコスロバキアの解体(ドイツが前面に出ているため一般的にはドイツによるチェコスロバキアの解体と表現されるが、実際には、ポーランド、ドイツ、ハンガリーによるもの(投資家の目線911(ポーランドをハイエナに例えたチャーチル))で消滅した。セルビアは世界大戦の勃発に縁があるようだ。

 

2024/4/26追記:

中華人民共和国の習近平国家主席が、中国大使館が空爆された5月7日近辺にセルビアを訪問するようだ。

 

習近平氏が5月にセルビア訪問、中国大使館誤爆から25年の節目 2024/4/24 (Bloomberg)

 

2024/5/9追記:

↓フランスはセルビアにラファール戦闘機を売却しようとしていたが、中華人民共和国はセルビアに最新鋭ステルス戦闘機J20を供与する可能性があると報じられている。セルビアはどちらを選ぶのか?

 

中国の反NATO鮮明 習近平氏がセルビア訪問、軍事協力も協議 2024/5/8 日本経済新聞電子版

 

 

 なお、当時のポーランドは強力な騎兵隊を持つ欧州有数の陸軍大国であった。1920年~21年のポーランド・ソビエト戦争では騎兵の活躍でポーランドが勝利し、ウクライナやベラルーシの西部を獲得した。「1939年。ポーランド外交と諜報」(松川克彦)によれば、1939年ドイツのポーランド侵攻時、ポーランドの雰囲気は「ドイッ領への進攻もあり得る。ブレスラウだけでなく,ベルリンさえも行動範囲にふくまれているという楽観的なものであった」と、対ドイツ戦には自信をもっていた。また、「戦車を例にとれば,1933年までポーランド軍の機械化はドイッまたはソ連のよりも進んでいた」という。しかし、「ポーランド軍の機械化にとって最大の障害となったのは,騎兵側からのものであった。機械化に反対した騎兵擁護派の論拠は,戦車は夜戦において弱点を持っ,または補給の必要性によってその行動が制限を受けるというものであった」という。当時、騎兵優位の考え方はポーランド特有のものではなかった。アメリカ軍(1940年時点で、陸軍の軍事力は世界18位程度)の騎兵隊士官によって発行された「騎兵ジャーナル」でも、「兵士は外部からの補給なしで容易にいつまでも馬を健康に保ち、利用できるが、重油やタイヤは飼葉とは違って地元で手に入れることはできない」と、補給等の問題で馬の優位性を主張していた(「フランクリン・ローズヴェルト 上 日米開戦への道」ドリス・カーンズ・グッドウィン 砂村榮利子/山下淑美訳 中央公論新社p75~76)。

 

追記:

2024/8/21

青山学院大学の福井義高教授が『 特に、第二次大戦勃発の責任はヒトラーだけに帰することはできません。英米の後ろ盾の下、「東欧の盟主」たらんとしたポーランドが対独強硬外交によって、ヒトラーを挑発したことも開戦の大きな要因です。 第一次大戦後に誕生した多民族国家ポーランドは、戦争で疲弊したドイツとソ連をよそに東欧の覇者として大国路線を追求します。これが欧州に第二次大戦をもたらす悲劇となるのですが、ヒトラーに戦争責任のすべてを押し付けた今日の正統歴史観ではこの事実が見えません。 ポーランドは戦間期に、ラトビアとルーマニアを除き国境を接するドイツ、ソ連、チェコスロバキア、リトアニアと領土紛争を抱える好戦的な国家でした。』(『知ってはいけない、世界の《残酷な常識》日本人は気付かない、ゼレンスキー英雄説の「危ない実態」…専門家が警告』2024/8/20 現代ビジネス)と発言している。ドイツの電撃戦の前にあっけなく敗北したのでポーランドは大国に翻弄されるかわいそうな国と思われているが、実際には覇権主義国家だ。第二次大戦後の世界の体制づくりにはドイツを一方的な悪者にする「物語」が必要だったのだろうが、「物語」ではなく実際に起こったことを見なければ、これからも失敗を重ねることになるのではないだろうか?

 

2025/1/13

「真珠湾からバグダッドへ ラムズフェルド回想録」(ドナルド・ラムズフェルド 江口泰子+月沢李歌子+島田楓子訳 谷口智彦解説 幻冬舎p478)には、2001年の米国によるアフガニスタン攻撃の時、B52爆撃機をGPSとレーザー光線で誘導したのは馬に乗った米軍の小チームだという。戦場によっては、21世紀になっても騎兵の活躍が必要になることがあった。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「政治」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事