投資家の目線

投資家の目線878(ウクライナの終わりと終わらない食糧・エネルギー不足)

 ヘンリー・キッシンジャー氏がダボス会議でウクライナの分割を提言した(『キッシンジャー氏「ウクライナ分割も」 大統領は猛反発』 2022/5/27 日本経済新聞WEB版)。世界経済フォーラムの創設者クラウス・シュワブ氏は、キッシンジャー氏の教え子である。ウクライナの現大統領の猛反発など無視して、グローバルエリート層はウクライナ分割へ向けて動きだすだろう。『今月初め、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領とウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、両国が「もはや国境を持たない」という希望を表明し、キエフはポーランド国民に特別な法的地位を与える計画を発表した』(”Earlier this month, Polish President Andrzej Duda and his Ukrainian counterpart Volodymyr Zelensky expressed hopes that the two countries would no longer have a border between them, while Kiev announced plans to grant special legal status to Polish citizens.” Ukraine risks merging with Poland – ex-president 2022/5/27 RT)。東部はロシアの勢力圏となり、それ以外の部分の大半は「ポーランド・リトアニア王国」に回収されそうだ。

 

 ロシア産ガスの代替調達は難しいようだ。「カタール、アルジェリア、リビアといった主要生産国との交渉が難航しているためだ」(「【焦点】欧州のロシア依存脱却に暗雲、代替ガス確保難航」 2022/5/27 ダウ・ジョーンズ配信)という。この冬、液化天然ガスは歴史的な不足に陥ると懸念されている(「LNG市場、冬に歴史的不足に陥る方向-世界で確保急ぐ動き」 2022/5/24 Bloomberg)。例年なら冬に備えて夏場は在庫を増やす時期であり、そろそろ調達の目途をつけなければならないと思われる。ガスが不足したまま冬を迎えれば、大量の凍死者が出る可能性がある。

 

 サウジアラビアは、エネルギー相も(「サウジ石油相、ロシアのOPECプラス参加国の立場に支持示す-報道」 2022/5/23 Bloomberg)、経済企画相もロシア寄りの発言をしている(『サウジアラビア経済相「ロシアとも関係維持」 原油増産は否定的』 2022/5/24 日本経済新聞WEB版)。G7がOPECに増産を呼びかけているが(「G7、原油増産をOPECに呼びかけ-温暖化対策推進との両立目指す」 2022/5/27 Bloomberg)、代金さえちゃんと払ってくれればG7諸国だろうと他の国々だろうと同じ顧客。G7にはもはやブランド価値などないのではないか?財政危機のスリランカは、割安なロシア産石油頼みだ(”Bankrupt Sri Lanka Takes Russia Oil as Fuel Crisis Persists” 2022/5/27 Bloomberg)。

 

 イランもロシアと緊密な経済関係を維持している(”Russia, Iran Tighten Trade Ties Amid US Sanctions” 2022/5/25 Bloomberg)。ロシアが値引き輸出でイランの液化石油ガスの顧客を奪っていると報じられているが(「液化石油ガス、ロシアが値引き輸出 イランから顧客奪う」 2022/5/25 日本経済新聞WEB版)、「ロイター通信は27日までに、情報筋の話として、ロシアが運航するイラン船籍のタンカーをギリシャ当局が拿捕、積まれていたイラン産原油を米国がギリシャ沿岸で押収したと伝えた」(「米、イラン産原油押収 革命防衛隊が報復措置」 2022/5/28 日本経済新聞WEB版)など、ロシアは損失に対する代替をイランに対して用意しているのだろう。また同記事は、「米司法省がタンカーの貨物がイラン産原油であるとギリシャ側に通知。原油は米国が雇った別の船に積み替え、米国に送られる」、『イラン革命防衛隊は27日、「報復措置」(国営イラン通信)として、原油を運ぶギリシャ船籍のタンカー2隻をペルシャ湾で拿捕したと発表した』ことも報じている。ガソリン価格高騰に悩む米国は、イランからでも原油を輸入したいところだ。またイランは対岸のオマーンともガス田開発プロジェクトの復活交渉などを行い(”Iran Seeks to Revive Gas Project With Oman Ahead of Raisi Visit” 2022/5/23 Bloomberg)、関係を強化しようとしている。

 

 プーチン大統領は独仏との電話会談で、制裁解除を条件に穀物輸出を検討すると発言している(『プーチン氏「制裁解除で穀物輸出も」 独仏首脳に』 2022/5/28 日本経済新聞WEB版)。同記事は、「仏側の発表によると、電話協議は仏独が提案した」ことも伝えている。『英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のリサーチディレクター、ティム・ベントン氏は、オデーサ(オデッサ)港の封鎖を解除するのは制裁が緩和された場合のみとしたロシアの主張を念頭に「これは世界的なレバレッジを通じて食料を戦争の武器として使っているということだ」と述べた』(『食料危機を深刻化させるロシアが得る利益-穀物を「戦争の武器」に』 2022/5/25 Bloomberg)と泣き言を言っても何の解決にはならない。インドは小麦に加えて砂糖も輸出制限に乗り出した。砂糖の主な輸出先にはインドネシアも含まれている(「インドが砂糖輸出を制限へ、国内供給を優先-関係者」 2022/5/24 Bloomberg)。食糧の囲い込みはコメにも及んでいる(”Rice Giant Thailand Wants to Coordinate Price Hikes With Vietnam” 2022/5/27 Bloomberg)。「ほぼすべての大陸において、小麦、トウモロコシ、食用油、豆類、砂糖などに新たな輸出規制や禁輸措置が導入された」(「【焦点】世界で輸出規制広がる 食料高騰に拍車も」 2022/5/26 ダウ・ジョーンズ配信)という。「食糧の武器化」は各国で進んでいる。ロシアとの関係が急速に悪化した無資源国の日本は、食料やエネルギーを外国から手に入れることができるだろうか?

 

 NATOでは、トルコがクルド人勢力と関係するスウェーデンやフィンランドの加盟に難色を示したうえ、クルド系武装勢力等の拠点のあるシリアへの再攻撃を検討しているようだ(「トルコ、シリア再攻撃検討 北欧NATO加盟で駆け引きも」 2022/5/25 日本経済新聞WEB版)。トルコはエーゲ海の島々をめぐりギリシャとも緊張が高まっている(”Turkey Warns Greece Over Aegean Island Forces as Spat Grows” 2022/5/27 Bloomberg)。エルドアン大統領は、ギリシャのミツォタキス首相との会談を中止するとも伝えられた(「[FT]トルコ大統領、ギリシャ首相との会談をキャンセルへ」 2022/5/24 日本経済新聞WEB版)。パキスタンでは不信任決議で失職したカーン前首相主導で反政府デモが発生した(「カーン前首相、反政府デモを主導 パキスタン」 2022/5/26 日本経済新聞 WEB版)。「2018年に首相に就任したカーン氏は、中国やロシア寄りの外交姿勢でアメリカとは対立関係にあり、今回の不信任決議の裏には野党と結託したアメリカの動きがあると主張していました」(「“経済危機対応に批判”パキスタン・カーン首相が失職」 2022/4/10 日テレNEWS)。世界各地で軋みがみられる。

 

 バイデン大統領の支持率は就任以来最低の36%まで低下した(「バイデン大統領の支持率36%、過去最低=ロイター/イプソス調査」 2022/5/24 ロイター)。米国人民の支持を失ったバイデン政権には世界で主導権を発揮する能力がない。太平洋島嶼国は中華人民共和国と関係を深めている(『中国、南太平洋要衝で滑走路改修 キリバスは「民生用」』 2022/5/28 日本経済新聞WEB版)。無能を味方にするほど危険なことはないことを思えば、中華人民共和国側につく方がマシという判断なのだろう。

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