投資家の目線

投資家の目線877(世界がバイデン離れする中で開催されるクアッド首脳会議)

 5月20日の日本経済新聞朝刊の第一面は、中国が砂漠地帯に、航空自衛隊が保有するAWACSと同じ形状の構造物を設置しているという記事だった。訓練用の仮想標的という指摘もある(「中国、空自機形の標的設置か」 2022/5/20 日本経済新聞朝刊)。中国空母の艦載機が沖縄沖で発着艦を繰り返しているという記事も出た(『中国空母、沖縄沖発着艦「300回以上」 防衛相』 2022/5/20 日本経済新聞WEB版)。西のスカンジナビア半島では、フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請している。クアッド首脳会議開催を目前に、ウクライナがロシアに対して圧倒的不利に陥る中、第二戦線を開いて事態を打開したいと考えている勢力がいるのだろう。

 

 日米安保条約は憲法や手続きに従って発動され、自動的に発動するものではない。西ではトルコが2か国のNATO加盟に反対しており、加盟前に何か問題が発生すればウクライナのように孤立する羽目に陥るだろう。ウクライナとの軍事衝突発生直後はロシアを非難する国が多かったものの、事態の推移に伴ってロシアに批判的な国連決議に反対や棄権に回る国が激増した。もはやロシアから攻撃を受けても、ロシアが圧倒的多くの国から非難を受ける状況になることは期待できない。昨日バンコクで開催されたAPEC貿易相会合でも、ロシアの閣僚の発言中退席したのは参加する21か国・地域中、日、米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのわずか5か国にすぎなかった(「APEC貿易相会合、ロシアの発言時に日米など5カ国退席 ウクライナ侵攻に抗議」 2022/5/21 日本経済新聞WEB版)。

 

 ウクライナでは極超音速ミサイルが使用された(「ロシアがウクライナに発射した極超音速ミサイルについて知っておくべきこと」 2022/3/23 CNN)。「初日の攻撃でウクライナの警戒監視レーダー網は壊滅した。だが攻撃が徹底を欠いていたため、戦闘機はかろうじて全滅は免れた。ただし航空戦力はシステムであり、警戒監視レーダーがなければ、戦闘機はほとんど役に立たない」(「空自元最高幹部が解説、ロシアが制空権を取れない驚くべき理由」 2022/5/18 JBpress 織田邦男)という。自民党の佐藤正久外交部会長が航空自衛隊基地の防空強化を訴えているが(『「空自基地の防空強化を」 自民・佐藤正久外交部会長』 2022/5/21 日本経済新聞WEB版)、ウクライナの例を見れば極超音速ミサイルの前に既存の防空システムなどどれだけの意味があるのかは疑わしい。トランプ政権で国家通商会議委員長などを務めたピーター・ナヴァロ氏の著書「米中もし戦わば 戦争の地政学」(赤根洋子訳 防衛省防衛研究所主任研究官 飯田将史解説 p.228)には、『「抵抗力を高める」とは、「中国のミサイル攻撃の第一撃(特に、第一列島線上の基地インフラに対するもの)を確実に吸収できるようにすること」である、とトシ・ヨシハラは説明している』(トシ・ヨシハラ氏:米海軍大学教授・アジア太平洋研究部長などを歴任)とある。第一列島線には日本も含まれる。ロシアとの軍事衝突となれば、日本に打ち込まれるミサイルが中国からロシアに代わるだけである。ロシアの政党党首発言にある、北海道割譲で済めば御の字かもしれない。まあ、東北まで占領して原発事故の後始末のような面倒事は抱えたくはないだろうが。

 

 クアッド首脳会議では、安保色を薄めた共同声明が出される見通しだ(「クアッド、安保色薄め共同声明へ 奨学金創設で合意」 2022/5/20 日本経済新聞WEB版)。オーストラリアは政権交代が起こったばかりで、中身のある内容になりにくいという事情はあるのだろう。また、インドといえば、先ごろ通関待ちやエジプト向け以外の小麦の輸出を禁止した(「インド、通関待ちの小麦は輸出容認」 2022/5/17 ロイター)。一方、インドネシアがパーム油輸出を禁止した時、『世界有数のパーム油輸入国であるインドの食用油生産団体の代表は「この措置は残念であり、全く予想していなかった」と話した』(「インドネシア、パーム油の輸出を禁止 国内供給確保で」 2022/4/22 ロイター)。インドネシアは小麦の輸入国である(「ウクライナ情勢、在インドネシア企業の小麦輸入や物流などに影響(インドネシア、ウクライナ、ロシア)」 ビジネス短信 – 2022/3/16 ジェトロ)。その後インドネシアはパーム油輸出の再開を発表したが(「インドネシア、23日にパーム油輸出禁止解除へ=大統領」 2022/5/19 ロイター)、インドネシア政府はクアッドをどう評価しているのだろう?

 

 グアテマラのジャマテイ大統領は、6月開催予定の米州首脳会議への欠席を発表した。「米州首脳会議をめぐっては米政府高官が3日にキューバとニカラグア、ベネズエラを招待しない可能性に言及した。メキシコのロペスオブラドール大統領はこの発言を受け、全ての国が招待されなければ自身は出席しないと表明した。ホンジュラスとボリビアの大統領も一部の国の排除に反対している」(「グアテマラ大統領、米州首脳会議に欠席 米と政治対立」 2022/5/19 日本経済新聞WEB版)。同会議にはブラジルのボルソナーロ大統領も欠席の可能性がある(”Bolsonaro May Skip Regional Summit in Another Blow to Biden” 2022/5/13 Bloomberg)。バイデン政権は中南米から距離を取られている。

 

 米民主党は11月の中間選挙で壊滅的な敗北が予想されている。任期2年を残して、早くもレイムダック化が必至のバイデン政権をあてにして何の利益があるのだろう?チャンスがあるとすれば、サウジアラビアをロシアとの同盟から引きはがすことができる場合だろう。バイデン大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の会談の可能性が報じられている(「バイデン米大統領、6月にもサウジ皇太子との会談を検討-関係者」 2022/5/20 Bloomberg)。バイデン大統領がムハンマド皇太子への今までの対応を詫び、今後は対応を変えることを表明すればうまくいくかもしれないが、望みは薄いだろう。

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