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*写真はどちらもデラックス・エディションではなく、通常版です。
「プリンス考」と題し、不定期に記事を書きます(今までプリンスに関して書いた3つの記事は改題し、このカテゴリーに収めてあります)。
今やロックの歴史を語るときにプリンスは欠かすことのできない存在ですが、生前はもちろんのこと、死後もたくさんのアルバムが発売され、生前から聞いていない人にとっては、どれを聞いたらいいのか、どうしてこんな状況になっているのか、混乱するばかり。
そこで、その助けになるべく、プリンスについて知っていることを書いておこうかなと。ネットでは基本的な情報があまり書かれていないので、というのもこうしたサイトは皆、熱狂的なファンがやっているので、そんなの常識だよねということで、触れられていないのが現状で、かつては熱心なファンだった私が、プリンスに関する基本的な知識や情報を書いておくのは意義があるかなと。
もちろんこうした常識は、プリンスの音楽を聞く上で何の必要もありませんが、事前に知っていれば、より理解が深まるのは確実なので、これからプリンスを聞くときの参考にしてもらえれば大変嬉しいです。
前置きが長くなってしまいました。では早速「プリンス考」としては第1回目となる今回の記事を始めたいと思います。
プリンス最大のヒットで彼を世界的なロックスターにしたアルバム「パープルレイン」は当初、2枚組の予定だった。
映画「パープルレイン」のサントラとして発売され、全世界で1500万枚以上売り上げたこのアルバムだが、プリンスが思い描いた構想とは、サントラとしてではなく、別のアルバムとして制作することだった。
つまりはアルバム「パープルレイン」は映画「パープルレイン」のサントラではなく、それとは別の、別個のアルバムとして制作する方針だった。
映画で使われていない、つまりは映画とは全く関係ない曲も収め、2枚組の「パープルレイン」というアルバムを発売しようとした。
実際にプリンスがどんな曲を組み入れるつもりだったかは不明だが、そうした曲の大半は他のミュージシャンに提供されたり、自身のシングルのB面になったりして発表されたと思われる。
恐らくは、パープルレイン・ツアーで演奏された「Irresistible Bitch」「Possessed」や、シーラ・Eのアルバムに提供された「A Love Bizarre」、アルバム「パープルレイン」からシングルカットされた「Let's Go Crazy」のB面「Erotic City」、といった曲が含まれたんじゃなかろうか。
だとすれば、プリンスの当初の構想通りの「パープルレイン」は、壮大なスケールを持った、2枚組の大伽藍であり、その誕生はまさに1980年代の、あのポップカルチャーを音楽で表現した歴史的な記念碑になったに違いない。
こうした曲が収録された2枚組の「パープルレイン」は、ファンならずとも魅力的で、ファンならば想像するだけで、どんなに素晴らしいアルバムになっただろうと、垂涎し、妄想の限りがない。
もちろん、こうした方針はワーナーに却下され、実際には映画「パープルレイン」のサントラとして1枚にすっきりまとめられ、それはプリンス自身も納得したであろうし、ビジネスとしても正論だから、それはそれで良いのだけれど、もし時代が違えば、例えば映画のようにヴァージョン違いを楽しむ今の時代なら、サントラとして実際に発売された「パープルレイン」と、プリンス自身が構想した2枚組の「パープルレイン」の2種類が発売されてもおかしくなかったと想像してしまう。
で、ここからが肝心な点なのだが、ファンならこうした事情は知っているわけで、それにかこつけてプリンスの死後に「パープルレイン デラックス・エディション」が4枚組で発売されたわけ。
ファンならば、あの当初の2枚組が再現されるんじゃないかと期待するのだが、実際に発売されたのは4枚組で、1枚目が実際に発売されたアルバム「パープルレイン」のリマスター版(ただしプリンス本人が行った)、2枚目が同時期の未発表曲集、3枚目がエディット版およびB面集、でもって4枚目がパープルレイン・ツアーの様子を収めたライヴDVD(初DVD化)という、ある意味、身も蓋もない内容。
私は2枚組の「パープルレイン」が聞きたかった。あのプリンスの構想通りを実現してほしかった。別にそれに未発表曲が含まれていなくてもいいではないか。それで売れないということはあり得ないし、どうせファンは買うだろうし、メガヒットにならなくても、細く長く愛される、ロングセラーの名盤になったことは想像に難くない。
同じことは「サイン・オブ・ザ・タイムズ スーパー・デラックス・エディション」にも言える。この「サイン・オブ・ザ・タイムズ」は当初3枚組の予定だった。
「パープルレイン」の次作「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」以降、アルバムセールスが急激に下降している、商業的にうまくいっていない状態での3枚組発売を渋ったワーナーが「2枚組でなら何とか」とプリンスと話し合い、互いに妥協して発売された経緯がある。
アルバム「パープルレイン」が2枚ではなく、1枚で発売されたことに関しては、とても残念だけど、筋の通った話で仕方ないと思うものの、この「サイン・オブ・ザ・タイムズ」に関しては、ちょっと納得がいかない。
というのも過去ロックのアルバムで3枚組で発売されたものはヒットしているという法則があるわけで、これは開き直りになるのだが、どうせ売れないというなら、いっそプリンスの思い通り3枚組で発売してしまう方がいいのではないかという考えも十分ある。
というのも、「パープルレイン」の後に発表された2枚のアルバム、「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」と「パレード」の音楽的評価は当時から一部とはいえ高かったわけで、ただの売れないアルバムとはわけが違う。
だからここで思い切って大勝負してもよかったんじゃないか(もうこうなるとワーナーへの恨み節でしかない)。
多様性が一つのテーマだったと思われる「サイン・オブ・ザ・タイムズ」が、もしプリンスの思い通りの3枚組で発売されたなら、どんなアルバムになっていただろうかと想像の翼を広げてしまう。
実際に発売された2枚組の「サイン・オブ・ザ・タイムズ」が素晴らしかっただけに、残念、無念。とはいえこちらも「パープルレイン」同様、当初収録されるはずであった曲はシングルB面などの何らかの形で放出されたと思われる(未発表もあるかもしれないが)。
だから私はプリンスの当初の構想通りの3枚組の「サイン・オブ・ザ・タイムズ」が聞きたかった。ごてごてといろんなものが盛られた9枚組、約2万円もする「サイン・オブ・ザ・タイムズ スーパー・デラックス・エディション」など欲しくもない(だから「パープルレイン デラックス・エディション」同様、かっかりして私は買ってません)。
ファンは当然、もともと「サイン・オブ・ザ・タイムズ」が3枚組だったことは知っており(「クリスタルボール」という題名で、後に日本では日本クラウンから発売された同名のアルバムとは別物)、それにかこつけてマニアしか買わないような、ある意味でいびつな9枚組が発売されたのである。
その内容は、既発の「サイン・オブ・ザ・タイムズ」のリマスター版2枚、エディットとB面集1枚、未発表曲集3枚、ライヴ音源2枚、これらCD8枚に加え、ライヴDVDが1枚となっている(価格を含め、その内容も完全にマニア志向で、私のような一時期熱心なファンで、ちょっと気になる程度の者が手を出すものではない)。
こうした行為はファンを食いものにする行為に私には思えてならない。もちろん、ワーナーは生前のプリンスに多額の投資をしたわけであり、その元を取ろうという企業精神はよくわかる(プリンスはワーナーの副社長になったことがある)。
もちろん買っちゃう方が悪いのであるが、欲しくなるファン心理というのは、痛いほどわかる。そこを衝いてワーナーも発売するわけで、これは致し方ないところ(確実に売れるものだから、そりゃ売るわな、これは)。
ただし、本当にそれだけのお金を払ってでも買う価値があるかは微妙。普通はここで、良いものは先に(プリンスの生前に)発表されているはずだから、こうした未発表曲(敢えて言うなら残り物)にさほどの価値はないと言うところなのだが、プリンスは例外で、どんなに良い曲でもアルバムの趣旨に合わないものは絶対に入れない主義なので、こうした未発表曲に、どんでもないお宝が眠っている可能性は十二分にあり、ここが始末の悪いところなのだ。
だから微妙なのである。9枚組とはいえ、約2万円もする。しかもうち2枚はファンなら既に持っている「サイン・オブ・ザ・タイムズ」、そのリマスター版。すると残りは7枚。エディットとB面集、未発表曲3枚組、ライヴ2枚組、DVDと分けてバラ売りしてもいいはず。
どうせマニアは全部買うから、9枚組でまとめて発売してもいいんだとか、その方が便利でいいんだとか、言い草はいろいろあると思う(私なら未発表曲3枚組だけ欲しいところで、あとは要らないというか、急がないという感じ)。
ただ一つ言えるのは、こうした形でのデラックス・エディション発売は、これからプリンスを聞いてみようという人に敷居の高さを感じさせる行為であり、結果として新しいファンの獲得を遠ざけることになりはしないか。そういう危惧を私は持っている。
今はインターネットで簡単にいろんな情報が手に入るから、そうした心配はさほど要らないと言うかもしれないが、実際に大手レコード店で売られているプリンスの現在のラインナップを見れば、不安にならない古手のファンは少なくないはず。
プリンスの死後発売されたものばかりで埋め尽くされ、派手な宣伝ポップがつけてあり、こちらが中心で、あとは「Musicology」「3121」、そしてデビューから10年までのアルバム(「For You」から「Lovesexy」)が名盤扱いでちょろっと置いてあるだけ(それもあったりなかったり)。
これでは何が何だかわからない。一部のファン、マニアだけがついていっているだけの、一言さんお断りの小難しいミュージシャン。それがプリンス。そんな印象。1ファンとしてとても悲しい。
要するに当初「パープルレイン」は2枚組、「サイン・オブ・ザ・タイムズ」は3枚組として構想されたアルバムだった。そして実際には前者は1枚、後者は2枚組で発売された。
そうした事情はファンなら知っており、そうしたファン心理をくすぐる形で、デラックス・エディションが登場することになったわけで、完全にファン、マニア向けに他ならない。
とはいえ、今はこうしてマニア向けに高価な形で、ある意味小出しにしか発売されていないが、いずれおいしいところだけまとめて、すっきりした形で発売し直しされると私は予想している。
そうすればワーナーも一粒で二度おいしいわけで、こうした手を逃すわけはないはず。案外近い将来に出すんじゃないかなと。そのときにはさすがに買おうかなと思っている(あくまで内容と価格次第だが)。
えっ、結局買うの? という話になってしまうが、そりゃ私もプリンスのファンの端くれなので、それは買うわよ。でもね、デラックス・エディションみたいな餌でワーナーに釣られるのは嫌、ただそれだけ。
それに、こうして蔵出しされるのはプリンス本人の本意ではないはず。でもそれもプリンス自身、死後誰かが発掘、勝手に発表するのはわかっていたと思うけど(「やりたければ、やれば? でもそれは俺じゃない、俺はやらない」という感じかな)。
生前、ストックが数百曲あると公言していたプリンスのことだから、今後もこうした未発表曲の発売は続くと思うし、っていうか現在進行形で続いているわけで、それ故、これからプリンスを聞こうという人は、あまりこうしたデラックス・エディションに惑わされることなく、生前発表されたアルバムに真摯に向き合ってもらえたらと思う。
以上、長文になりました。お読みいただき、ありがとうございました。
注)実はこの記事も、これを書こうと決めた後に「プリンス考」というカテゴリーを立てての連載を思いついたので、「プリンス考」として改題し、このカテゴリーに収めた3つの記事同様、やや小難しい内容になってしまいました。
付)最初に書くべきは「プリンスを最初に聞くならどのアルバムがいいか」ですが、その肝心な話は次回にいたします。急に始めた連載なのでばたばたしております、スミマセン。
「プリンス考」と題し、不定期に記事を書きます(今までプリンスに関して書いた3つの記事は改題し、このカテゴリーに収めてあります)。
今やロックの歴史を語るときにプリンスは欠かすことのできない存在ですが、生前はもちろんのこと、死後もたくさんのアルバムが発売され、生前から聞いていない人にとっては、どれを聞いたらいいのか、どうしてこんな状況になっているのか、混乱するばかり。
そこで、その助けになるべく、プリンスについて知っていることを書いておこうかなと。ネットでは基本的な情報があまり書かれていないので、というのもこうしたサイトは皆、熱狂的なファンがやっているので、そんなの常識だよねということで、触れられていないのが現状で、かつては熱心なファンだった私が、プリンスに関する基本的な知識や情報を書いておくのは意義があるかなと。
もちろんこうした常識は、プリンスの音楽を聞く上で何の必要もありませんが、事前に知っていれば、より理解が深まるのは確実なので、これからプリンスを聞くときの参考にしてもらえれば大変嬉しいです。
前置きが長くなってしまいました。では早速「プリンス考」としては第1回目となる今回の記事を始めたいと思います。
プリンス最大のヒットで彼を世界的なロックスターにしたアルバム「パープルレイン」は当初、2枚組の予定だった。
映画「パープルレイン」のサントラとして発売され、全世界で1500万枚以上売り上げたこのアルバムだが、プリンスが思い描いた構想とは、サントラとしてではなく、別のアルバムとして制作することだった。
つまりはアルバム「パープルレイン」は映画「パープルレイン」のサントラではなく、それとは別の、別個のアルバムとして制作する方針だった。
映画で使われていない、つまりは映画とは全く関係ない曲も収め、2枚組の「パープルレイン」というアルバムを発売しようとした。
実際にプリンスがどんな曲を組み入れるつもりだったかは不明だが、そうした曲の大半は他のミュージシャンに提供されたり、自身のシングルのB面になったりして発表されたと思われる。
恐らくは、パープルレイン・ツアーで演奏された「Irresistible Bitch」「Possessed」や、シーラ・Eのアルバムに提供された「A Love Bizarre」、アルバム「パープルレイン」からシングルカットされた「Let's Go Crazy」のB面「Erotic City」、といった曲が含まれたんじゃなかろうか。
だとすれば、プリンスの当初の構想通りの「パープルレイン」は、壮大なスケールを持った、2枚組の大伽藍であり、その誕生はまさに1980年代の、あのポップカルチャーを音楽で表現した歴史的な記念碑になったに違いない。
こうした曲が収録された2枚組の「パープルレイン」は、ファンならずとも魅力的で、ファンならば想像するだけで、どんなに素晴らしいアルバムになっただろうと、垂涎し、妄想の限りがない。
もちろん、こうした方針はワーナーに却下され、実際には映画「パープルレイン」のサントラとして1枚にすっきりまとめられ、それはプリンス自身も納得したであろうし、ビジネスとしても正論だから、それはそれで良いのだけれど、もし時代が違えば、例えば映画のようにヴァージョン違いを楽しむ今の時代なら、サントラとして実際に発売された「パープルレイン」と、プリンス自身が構想した2枚組の「パープルレイン」の2種類が発売されてもおかしくなかったと想像してしまう。
で、ここからが肝心な点なのだが、ファンならこうした事情は知っているわけで、それにかこつけてプリンスの死後に「パープルレイン デラックス・エディション」が4枚組で発売されたわけ。
ファンならば、あの当初の2枚組が再現されるんじゃないかと期待するのだが、実際に発売されたのは4枚組で、1枚目が実際に発売されたアルバム「パープルレイン」のリマスター版(ただしプリンス本人が行った)、2枚目が同時期の未発表曲集、3枚目がエディット版およびB面集、でもって4枚目がパープルレイン・ツアーの様子を収めたライヴDVD(初DVD化)という、ある意味、身も蓋もない内容。
私は2枚組の「パープルレイン」が聞きたかった。あのプリンスの構想通りを実現してほしかった。別にそれに未発表曲が含まれていなくてもいいではないか。それで売れないということはあり得ないし、どうせファンは買うだろうし、メガヒットにならなくても、細く長く愛される、ロングセラーの名盤になったことは想像に難くない。
同じことは「サイン・オブ・ザ・タイムズ スーパー・デラックス・エディション」にも言える。この「サイン・オブ・ザ・タイムズ」は当初3枚組の予定だった。
「パープルレイン」の次作「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」以降、アルバムセールスが急激に下降している、商業的にうまくいっていない状態での3枚組発売を渋ったワーナーが「2枚組でなら何とか」とプリンスと話し合い、互いに妥協して発売された経緯がある。
アルバム「パープルレイン」が2枚ではなく、1枚で発売されたことに関しては、とても残念だけど、筋の通った話で仕方ないと思うものの、この「サイン・オブ・ザ・タイムズ」に関しては、ちょっと納得がいかない。
というのも過去ロックのアルバムで3枚組で発売されたものはヒットしているという法則があるわけで、これは開き直りになるのだが、どうせ売れないというなら、いっそプリンスの思い通り3枚組で発売してしまう方がいいのではないかという考えも十分ある。
というのも、「パープルレイン」の後に発表された2枚のアルバム、「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」と「パレード」の音楽的評価は当時から一部とはいえ高かったわけで、ただの売れないアルバムとはわけが違う。
だからここで思い切って大勝負してもよかったんじゃないか(もうこうなるとワーナーへの恨み節でしかない)。
多様性が一つのテーマだったと思われる「サイン・オブ・ザ・タイムズ」が、もしプリンスの思い通りの3枚組で発売されたなら、どんなアルバムになっていただろうかと想像の翼を広げてしまう。
実際に発売された2枚組の「サイン・オブ・ザ・タイムズ」が素晴らしかっただけに、残念、無念。とはいえこちらも「パープルレイン」同様、当初収録されるはずであった曲はシングルB面などの何らかの形で放出されたと思われる(未発表もあるかもしれないが)。
だから私はプリンスの当初の構想通りの3枚組の「サイン・オブ・ザ・タイムズ」が聞きたかった。ごてごてといろんなものが盛られた9枚組、約2万円もする「サイン・オブ・ザ・タイムズ スーパー・デラックス・エディション」など欲しくもない(だから「パープルレイン デラックス・エディション」同様、かっかりして私は買ってません)。
ファンは当然、もともと「サイン・オブ・ザ・タイムズ」が3枚組だったことは知っており(「クリスタルボール」という題名で、後に日本では日本クラウンから発売された同名のアルバムとは別物)、それにかこつけてマニアしか買わないような、ある意味でいびつな9枚組が発売されたのである。
その内容は、既発の「サイン・オブ・ザ・タイムズ」のリマスター版2枚、エディットとB面集1枚、未発表曲集3枚、ライヴ音源2枚、これらCD8枚に加え、ライヴDVDが1枚となっている(価格を含め、その内容も完全にマニア志向で、私のような一時期熱心なファンで、ちょっと気になる程度の者が手を出すものではない)。
こうした行為はファンを食いものにする行為に私には思えてならない。もちろん、ワーナーは生前のプリンスに多額の投資をしたわけであり、その元を取ろうという企業精神はよくわかる(プリンスはワーナーの副社長になったことがある)。
もちろん買っちゃう方が悪いのであるが、欲しくなるファン心理というのは、痛いほどわかる。そこを衝いてワーナーも発売するわけで、これは致し方ないところ(確実に売れるものだから、そりゃ売るわな、これは)。
ただし、本当にそれだけのお金を払ってでも買う価値があるかは微妙。普通はここで、良いものは先に(プリンスの生前に)発表されているはずだから、こうした未発表曲(敢えて言うなら残り物)にさほどの価値はないと言うところなのだが、プリンスは例外で、どんなに良い曲でもアルバムの趣旨に合わないものは絶対に入れない主義なので、こうした未発表曲に、どんでもないお宝が眠っている可能性は十二分にあり、ここが始末の悪いところなのだ。
だから微妙なのである。9枚組とはいえ、約2万円もする。しかもうち2枚はファンなら既に持っている「サイン・オブ・ザ・タイムズ」、そのリマスター版。すると残りは7枚。エディットとB面集、未発表曲3枚組、ライヴ2枚組、DVDと分けてバラ売りしてもいいはず。
どうせマニアは全部買うから、9枚組でまとめて発売してもいいんだとか、その方が便利でいいんだとか、言い草はいろいろあると思う(私なら未発表曲3枚組だけ欲しいところで、あとは要らないというか、急がないという感じ)。
ただ一つ言えるのは、こうした形でのデラックス・エディション発売は、これからプリンスを聞いてみようという人に敷居の高さを感じさせる行為であり、結果として新しいファンの獲得を遠ざけることになりはしないか。そういう危惧を私は持っている。
今はインターネットで簡単にいろんな情報が手に入るから、そうした心配はさほど要らないと言うかもしれないが、実際に大手レコード店で売られているプリンスの現在のラインナップを見れば、不安にならない古手のファンは少なくないはず。
プリンスの死後発売されたものばかりで埋め尽くされ、派手な宣伝ポップがつけてあり、こちらが中心で、あとは「Musicology」「3121」、そしてデビューから10年までのアルバム(「For You」から「Lovesexy」)が名盤扱いでちょろっと置いてあるだけ(それもあったりなかったり)。
これでは何が何だかわからない。一部のファン、マニアだけがついていっているだけの、一言さんお断りの小難しいミュージシャン。それがプリンス。そんな印象。1ファンとしてとても悲しい。
要するに当初「パープルレイン」は2枚組、「サイン・オブ・ザ・タイムズ」は3枚組として構想されたアルバムだった。そして実際には前者は1枚、後者は2枚組で発売された。
そうした事情はファンなら知っており、そうしたファン心理をくすぐる形で、デラックス・エディションが登場することになったわけで、完全にファン、マニア向けに他ならない。
とはいえ、今はこうしてマニア向けに高価な形で、ある意味小出しにしか発売されていないが、いずれおいしいところだけまとめて、すっきりした形で発売し直しされると私は予想している。
そうすればワーナーも一粒で二度おいしいわけで、こうした手を逃すわけはないはず。案外近い将来に出すんじゃないかなと。そのときにはさすがに買おうかなと思っている(あくまで内容と価格次第だが)。
えっ、結局買うの? という話になってしまうが、そりゃ私もプリンスのファンの端くれなので、それは買うわよ。でもね、デラックス・エディションみたいな餌でワーナーに釣られるのは嫌、ただそれだけ。
それに、こうして蔵出しされるのはプリンス本人の本意ではないはず。でもそれもプリンス自身、死後誰かが発掘、勝手に発表するのはわかっていたと思うけど(「やりたければ、やれば? でもそれは俺じゃない、俺はやらない」という感じかな)。
生前、ストックが数百曲あると公言していたプリンスのことだから、今後もこうした未発表曲の発売は続くと思うし、っていうか現在進行形で続いているわけで、それ故、これからプリンスを聞こうという人は、あまりこうしたデラックス・エディションに惑わされることなく、生前発表されたアルバムに真摯に向き合ってもらえたらと思う。
以上、長文になりました。お読みいただき、ありがとうございました。
注)実はこの記事も、これを書こうと決めた後に「プリンス考」というカテゴリーを立てての連載を思いついたので、「プリンス考」として改題し、このカテゴリーに収めた3つの記事同様、やや小難しい内容になってしまいました。
付)最初に書くべきは「プリンスを最初に聞くならどのアルバムがいいか」ですが、その肝心な話は次回にいたします。急に始めた連載なのでばたばたしております、スミマセン。
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