雨がザーザーと降っている。
私は、車の中で、娘が乗ってくるのを待っていた。
今朝は、まだ朝ごはんを食べてない。
代わりに、クッキーを摘んだ。
目を覚ますと、看護師さんがやって来て、言った。
朝から、何も食べてないでしょう。
甘いものを食べたら、しっかり目が覚めるよ。
そう言って、2枚のクッキーをくれた。
20年前のあの日。
私は、手術台の上に乗って、呼吸器をつけられ、
3回ほど息をしたら、
眩しかったライトの光が遠のいて、
そして目が覚めたら、部屋のベッドの上だった。
あの子は、
私の子宮から、
かき出されたんだ。
あの日、
私の生理用ショーツは、いつも使ってる物だった。
お産の時のように、新しいものを買う気になれなかった。
そんなことまで全て、忘れずに覚えている。
思い出さないだけで、ちゃんと覚えている。
いま、なぜ、あの子が会いに来たんだろう。
助手席のドアが開いた。
雨の音が、私の耳に戻って来た。
娘が言った。
お母さん、44分発に乗れるかな?
時刻は、38分。
大丈夫!
私はそう言って、アクセルを踏んだ。