Bokutoh ICU Blog

墨東病院集中治療科の日々の活動を広めていきます

多施設ジャーナルクラブ 2024年9月10日

2024-09-10 13:44:40 | 日記

全国約30施設で行われているJSEPTIC多施設ジャーナルクラブ、本日は当院救急科シニアレジデント1年目の堂前先生と集中治療科フェロー西村先生が発表してくれました。

 

本日のお題は、

静脈内アミノ酸投与は人工心肺を要する心血管手術患者において腎保護効果をもたらすか

で、イタリアのPROTECTION Study Groupによる研究です[NEJM 2024;391(8):687-98 ]。

 

心血管周術期患者でAKIは頻回に見られる事象であり、短期・長期予後へ悪影響を及ぼすことが知られています。

 

その主な機序として心血管術後の腎灌流低下が知られており、過去の基礎研究ではアミノ酸投与がAKI予防に有効である可能性があることから複数の先行研究が行われました。

 

先行研究では、術後AKIの期間やeGFR、尿量増加については有効である可能性が示されましたが、対象患者数が少なくAKI発生低下は証明できておらず今回の研究へ至りました。

 

本研究は、イタリアを中心とする国際間二重盲検無作為比較試験で、人工心肺を要する定時の心血管手術患者を対象に2019年1月~2024年1月まで行われました。

 

患者はアミノ酸投与(介入)群とリンゲル液投与(対照)群へ割り当て、タンパク投与量は2g/kg/day(最大100g/day)となるよう設定し、最長72時間まで投与を継続しました。

 

主要アウトカムは術後1週間以内に新規発生したAKI(KDIGO分類stage1以上)の割合、副次アウトカムはAKIの重症度(血清クレアチニン値のみ使用)、入院中の腎代替療法、ICU滞在期間と入院期間、人工呼吸期間、ICU退室時、退院時、30日・90日・180日時点での死亡率(%)と設定しました。

 

統計解析は一次解析としてITT解析、その後Per-protocol解析、As-treated解析を行い、それぞれのアウトカムはχ2検定とFisher正確確率検定で行い、相対リスク比と95%信頼区間を計算しました。

結果は4931例が組み入れ基準を満たし、そのうち除外基準の1279例、同意の得られなかった140例を除く3512例をアミノ酸投与群1759例、対照群1753例に割付け、以後ITT解析、per-protocol解析、as-treated解析を実施しました。

 

患者背景は両群間に有意差はなく、平均年齢は66歳、性別は男性が70%、術前血清クレアチニンは0.95mg/dL、NYHA分類はII群が最多、白人が98%、ACEI/ARBの内服歴は50%、術中ループ利尿薬の使用は40%、血管作動薬・強心薬の使用は65%、大半が冠動脈バイパス術と弁膜置換術、平均手術時間は230分、人工心肺時間は90分、大動脈遮断時間は70分、メチルプレドニン使用は13%、研究期間中の血圧や心機能に差はなく、アミノ酸の投与量は1260mL(126g)、投与時間は平均で30時間程度、介入中止の大半はICU退室でした。

 

主要アウトカムである術後1週間以内のAKI発生率はアミノ酸投与群で有意に低く(26.9%vs31.7%, 95%CI 0.77-0.94, p=0.002)、AKIの大半がStage1でした。

 

副次アウトカムでは、腎代替療法導入とその期間, 人工呼吸期間, ICU滞在期間, 入院

期間、死亡率、有害事象いずれにおいても両群間で有意差は見られませんでした。

 

以上の結果から、心血管手術が施行された患者において短期間の静脈内アミノ酸投与がAKIの発生率を低下させることが示唆されました。

 

本研究は、内的妥当性はいずれも満たしており、外的妥当性でも評価項目や投与薬剤が広く用いられており再現性に優れるものの、本研究でアジア系人種は殆ど含まれていないことがlimitationとして挙げられました。

 

また、私見として今後はより重症リスクのある患者に対する研究が望まれると考えられました。

 

今回発表をしてくれた堂前先生は、実は英論文の本格的な読み込みが初めての経験だったので驚くばかりです。

 

大学ではサッカー部で大型センターフォワードとして活躍していたとのこと、そのガッツで頑張ってくれました!今後の研修と活躍も乞うご期待です


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