毎週火曜日に全国30施設がウェブ上で集まり最新の医学論文を批判的吟味する多施設ジャーナルクラブ、今週は当院集中治療フェローである飯塚医師が発表してくれました。
外傷性脳損傷(TBI)による急性硬膜下血種で緊急手術を要する症例に対して、“骨片を戻す開頭術(Craniotomy)”と“骨片を戻さず硬膜を開放する減圧開頭術(Craniectomy)”のどちらが1年後の神経学的予後(GOSE)に優れるかというお題でした(RESCUE-ASDH trial N Engl J Med 2023; 388:2219-2229)。
読者のみなさまは、減圧開頭術を要するTBIのうち急性硬膜下血種がその原因として最も多いことをご存知でしたか?(自分は知りませんでした…)
急性硬膜下血腫では、血種の厚さが10mm以上、midline shiftが5mm以上、GCSが3~8点 + GCSが2点以上低下(or 瞳孔不同 or ICPが20mmHg以上)のいずれかを満たした場合に手術適応とされています。
先行研究では、ICP管理が困難なTBIに対する減圧開頭術が神経学的予後を改善しなかったとする研究(DECRA trial)と死亡率を改善したとする研究(RESCUE icp trial)があり、減圧開頭術の有意性は確立されておりません。
減圧開頭術は、一般的に開頭術と比較しICP管理がしやすい一方、骨片を戻す手術が必要であり、またSinking skin flap syndromeから脳ヘルニアをきたすリスクがあります。
開頭術は一期的な手術で済む一方、脳腫脹をきたした場合に再開頭術が必要になることが難点です。
現在、欧州で血種除去を要する外傷性の急性硬膜下血種に対して早期減圧開頭術を行っている割合は2~4割と低く、そのエビデンスも低いため英国の施設が主導し今回の研究が行われました。
本研究は11か国40施設450名、開頭術群(228名)と減圧開頭術群(222名)を対象に、主要評価項目として受傷12か月後のGOSE、副次評価項目として受傷6か月後のGOSEや退院時/受傷6か月/12か月後のQOL(EQ-5D)などに設定しました。
GOSE(Extended Glasgow Outcome Scale)は、脳損傷後の機能的転帰を評価したスケールであり、本研究を含む先行研究で用いられています。
サンプルサイズは、両群間での絶対差を8%と見込み990名を予定していましたが、参加した脳外科医から14%の絶対差を推奨され、研究途中に目標が440名へ変更されました。
結果は順序ロジスティック解析・ITT解析で実施し、GOSEは比例オッズ法で評価しました。
結果は、対象患者の背景に両群間の差はなく、年齢の中央値は48歳で、約15%の患者で抗血栓薬を内服していました。
主要評価項目はOR 0.85 (95%CI: 0.6-1.18; P=0.32)と両群間に有意差はなく、スライド二分法解析と共変量解析でも有意差は認めませんでした。
副次評価項目では、いずれも両群間に有意差を認めず合併症として減圧開頭術群で有意に創部合併症が多かったほか、開頭術群で晩期に脳浮腫に対する減圧開頭術が多いという結果でした。
本研究の限界は、臨床医が盲検化されていないこと、転帰結果が郵送アンケートや電話で取得しており実状を反映していない可能性があること、両群間でのクロスオーバーが開頭術群で減圧開頭術を実施した患者が8.8%、減圧開頭術群で開頭術を実施した患者が5.4%見られたこと、が挙げられていました。
本研究の内的妥当性としては、アウトカム収集時の想起バイアスや研究途中にサンプルサイズが変更されたこと、外的妥当性としては対象患者の平均年齢が48歳と若年者だったこと(わが国では60歳)、抗血栓薬の内服患者が15%と低かったこと(わが国では30%)、骨弁の大きさが13cmと小さかったこと(わが国では15cm以上)、受傷時間や手術までの時間の記載がないこと、などを挙げました。
以上を総合すると、“外傷性急性硬膜下血腫で緊急手術を要する症例に対して、減圧開頭術は(開頭術と比較し)1年後の神経学的予後(GOSE)を改善しなかった”という結論となりました。
飯塚先生は、病室の天井からぶる下がっている点滴棒にも手が届くほど高身長の先生ですが、身長だけではなく目下医学的知識もぐんぐん伸び盛りで、これからの一層の成長が楽しみです。