アリ@チャピ堂 お気楽本のブログ

日々の読書記録を勝手きままに書き記す

A RIVER RUNS THROUGH IT

2012-08-30 08:28:17 | 釣りの本
なぜ「マクリーンの川」なのか?



「マクリーンの川」ノーマン・マクリーン著 渡辺利雄訳 集英社 1993年発行


A RIVER RUNS THROUGH IT Norman Maclean 1976 TheUniversity Chicago Press 1989

映画「リバー・ランズ・スルー・イット」が公開されるにあたり
その原作本として出版されたのが「マクリーンの川」である
とすると余計、映画の邦題とも異なるこのタイトルになぜなったのか判然としない

カバーには紛れもなく映画のシーンが使われている
そして映画では絶対に使われなかった(原作にも出てこない)
サーモンフライが飾られている
翻訳者の後書きでいささかこの経緯について言及されていて
「編集者の意向による」となっている
さらに本来ならば「マクレイン」が発音として近いそうだが
それもマクリーンとするように指示があったらしい
このことが本の価値を減ずるものとはいえないが
大手出版社の編集者のレベルがこんなものかなと
出版社が違っていたらもっと本を所有する喜びにもつながったろうに

「A RIVER RUNS THROUGH IT」はamazonで買ったんだと思う
シカゴ大学出版部発行の本である
この経緯についても訳者あとがきにある
著者であるノーマン・マクレインは
シカゴ大学の英文科の教師であった
大学を辞して引退してからこの自伝的小説を書き上げ
いくつかの出版社に断られた後に
彼が教鞭をとったシカゴ大学の出版することになった
教授時代の実績や人柄が功を奏したこともあるのだろうが
作品の素晴らしさに気づき出版を決断する
編集者の存在がなければ実現しなかったはずだ

カバーのイラストはフライフィッシングをまったく経験したことがない人が見ると
日本語訳のカバーのサーモンフライのようにも見えなくもないシルエットだが
ちょっと調べればこれが違う種類の
対象とする魚が異なるものであること
そして当然ながら原著のものが正しいということが分かるはず
原作に対して礼を失しているとはいえ
出版されたことは良かったのだとう思うが
日本語版でもきちんとした編集者に恵まれたらどれだけよかったろうか

フライフィッシャーマンにとって
本当にフライフィッシングを知っている著者が
多くの釣り師が自分のつりを人生に重ねあわせるように
川とロッドとラインと魚と自分が一体となる瞬間を
(残念ながら魚が欠けることが多いが)
そして、そこに流れる哲学を感じさせてくれる名著に違いない

イギリスにホイットレーというフライボックスを作る会社がある
そこが出したリバーランズスルーモデルのフライボックスに
小説から一文が引用がされ刷り込まれている

書かれているのは小説の最後の一段落だと思っていたが
手にしてみたら小説の冒頭部分であった
タイトルの“a river runs through it.”を含む一文は
フィッシングベストに入れて持ち歩くには確かに重いものがあるかもしれない
最初に語られる信仰とフライフィッシングに区別をつけない
フライフィッシングの中に信仰があるという教理が
小説の最後まで貫かれた人生の通奏低音であるとすれば
いささかのユーモアも含んだ冒頭部分もまた
引用するに同じほどの重さを持つかもしれない

最後に小説の終わりの一文を記す

Eventually,all things merge into one,and a river runs through it.
The river was cut by the world's great flood and runs over rocks
from the basement of time. on same of the rock are timeless raindrops.
Under the rocks are the worlds,and some of the words are theirs.
I am haunted by waters.

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