アリ@チャピ堂 お気楽本のブログ

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「聖なる侵入」 良くできた小説

2010-10-27 22:40:29 | フィリップ・K・ディック
職業作家としてのディックの腕の確かさを感じる


「聖なる侵入」“The Divine Invasion” 1981年作品
大瀧啓裕訳 サンリオSF文庫 1982年発行


「聖なる侵入」“The Divine Invasion” 1981年作品
大瀧啓裕訳 創元推理文庫 1990年発行

「ヴァリス」は著者自身の混乱と
小説と告白の境界がどこにあるのか
そしてディックの事実がどこまでリアルなものなのか
彼は神に会ったのだろうか

「聖なる侵入」は打って変わってきちんとした小説である
先に書いたディックワールドが体験させる混乱の3つのパターン
1.時制の混乱(過去、未来)
2.並行世界の位置の混乱
3.現実が実は上位機構によって創造された虚構世界である
それを集大成した作品だ
そして善意に満ちている
神への期待なのだろうか

しかし、聖母であるリビスがあまりにも不当に扱われていないか
彼の信仰は父なる神に向けられているものであるのか
そこまでは配慮できなかったのか

「ヴァリス」三部作と言われるが
「ヴァリス」はディック自信に内在する虚構と現実のせめぎあい
善悪のを超えた存在への言及を含んだ作者の告解であるが
「聖なる侵入」を含むすべての小説は
ディックの混乱を翻訳し伝えるための外装であり
読者はこの装われた外皮をいささか透かし見し
時には作者自身が作った綻びによる隙間から
「ヴァリス」的なディックの懊悩、うめきを見ていることになるのではないだろうか

 久しぶりに登場!ちょっとまとまり過ぎている気はするが

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