「南京の真実」(ラーベ著:講談社)より
2月4日
今日は見張りに出なければ。うちの収容所と、裏のドイツ人学校、表の中学校の三ヶ所に目を光らせるのだ。それぞれ、ドイツ人学校には600人、中学校には5000人の難民がいる。日本軍に力ずくで入ってこられれば歯が立たない。だが、せめてこの目でしかと見届けることはできる。そうすれば、世界中の人に伝えることができるのだ。
恐れていた2月4日が過ぎた。何も起こらなかった。日本軍に不愉快な目にあわせられることもなかった。今日は、正月の最終日だ。雨や雪もなんのその、人々は庭で爆竹を鳴らしてにこにこしている。貧しい人というものは、こんなにも欲のないものなのだ。殴り殺されさえしなければ、もうそれで満足なのだ。
フィッチが、昨晩再び上海ラジオにでた。今回も日本に対して好意的なことを言っていたが、それは、1月28日から31日の間に強姦などの事件がさらに増えたことを知らないからだ。もし知っていたらああいう言い方はしなかったろう。なにしろ今までで一番ひどかった12月の数日間より多かったのだから。
それはそうと、日記帳は無事届いただろうか?ドーラはなんとも言ってこないが。本社からも音沙汰がない。3月の初めまでここにいてもいいのだろうか?
「南京事件の日々」(ヴォートリン著:大月書店)より
2月4日 金曜日
気の毒な女性たちにとって今日は恐怖の日だ。彼女たちがそれぞれの家に帰ることになっている日なのだ。この日がどんな結果を産むのか、私たちにはわからない。私たちとしては、無理やりに人々を帰宅させるつもりはない。彼女たちが責任を負わされることになる。
午前中、5人の若い女性が聖経師資培訓学校(聖書講師養成学校)からやってきて、きのうそこの収容所が閉鎖されたこと、彼女たちがそれぞれの家に帰ったこと、夜間、兵士たちが侵入してきたこと、彼女たちが家の塀をよじ登って聖経師資培訓学校に逃げ戻ったことを話した。彼女たちはここに来たがっている。私たちとしては、彼女たちを受け入れたら避難民が殺到することになろうし、その場合には、いまなおここにいる4000人ないしそれ以上の避難民にいっそうの危険がもたらされるのではないかと心配だ。このあと私たちは、彼らを受け入れることを決めた。よその収容所を出て帰宅した若い女性たちが、このあと数日たって、自宅にずっといることはできないと思ったら、私たちは彼女を受け入れ、その結果について責任を負わなければならないだろう。
10時と12時30分に憲兵2人がやってきて、いくつかの棟を査察した。彼らは、別状がないかを確かめにきた、と言った。もっとも彼らには、多分それ以外の目的があったようだが。私たちは、避難民は1万人いたが、今残っているのは4000人だけで、多くの避難民はすでに帰宅した、と説明した。避難民の中には、上海、無錫、その他の出身で、交通機関が開通しなければ帰宅できないものがいるし、一家の稼ぎ手である息子や夫が連れ去られ、生活手段のない者もいること、さらには、家を焼かれてしまい、帰るべきところのない者もいることも説明しようとした。
3時に大使館の警官二名と中国人一名がやってきて、避難民の帰宅計画について彼らに説明したいので全員を集めてもらいたい、と言った。私たちは、理科棟にいる避難民を大講義室に集めた上で、そのグループを手はじめに一棟ずつ説明していくことを提案した。彼らはこの案に賛成したが、しかし、最初の棟だけで説明をやめてしまった。避難民女性たちの理解を得るのは容易なことではない。要点は次の3点だ。
1、全員が帰宅しなければならない。憲兵、普通警察および特別地区維持会(南京には4つの特別地区がある)の関係団体(自治委員会の組織)が彼女たちを保護してくれる。
2、夫が連行されたり、家屋が焼かれたりした場合、もしくは極貧である場合には当該特別地区の関係団体に申し出ること。
3、今後は安全区に対する保護措置はとらない。4つの特別地区のみが保護される。家財を安全区に持ち帰ってはならない。
その中国人はわざわざ居残るようにして、若い女性は安全ではないから、引き続きキャンパスに留まらせるほうがよい、と小声で助言してくれた。
午後5時30分、救援計画について相談するためプラマーがやってきて、どこの収容所でも強制退去は行われていない旨を述べた。午後5時、若い女性200人ほどがやってきて頭を地面にすりつけ、ここにいさせてくれと懇願した。私たちは、彼女たちを強制的に帰宅させることは考えていなかった。このあとプラマーが立ち去る時、彼女たちは彼の車の前で涙を流し、頭を地面にすりつけて要請行動を行った。気の毒な人たちだ。
「Imagine9」【合同出版】より
はじめに
戦争のない世界なんて、夢ものがたりでしょうか。
いいえ。戦争は、人がつくり出すものです。だから、人は、戦争のない世界をつくり出すこともできるのです。
世界の人たちは、長い歴史の中で、戦争のない世界をつくるために、がんがえ、行動してきました。
戦争で傷つき、苦しんできたからこそ、もうこんなことはくりかえしてはならないとかんがえたのです。
日本は憲法9条で「戦争はもうしない。だから軍隊はもたない」と決めました。世界の多くの人たちは今、「自分たちも」と9条をえらび始めています。
それなのに、私たち日本に生きる者が見失ってはいけません。9条を失うことは、日本だけでなく、世界にとっての損失だからです。
世界中の国が憲法9条をもったらどんな世界になるでしょう。この本ではそのことを想像してみてください。
第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。