「南京事件の日々」(ヴォートリン著/笠原解説:大月書店)より
うちつづく悲劇ー南京安全区解消までの日記からー
春たけなわとなり、南京城の内外に散乱する死体の腐乱が激しく、病気の流行の原因ともなりかねなかったので、慈善団体を総動員しての埋葬作業が急ピッチで進められた。死体埋葬の状況について、ヴォートリンの日記は以下のように記している。
2日ー今日、紅卍字会だけで、1月23日から3月19日までに32,104体の死体を埋葬し、そのうち3分の1は民間人の死体であったという報告が作成された。
6日ー国際救済委員会は救済事業を推進している。200人の男性が紅卍字会の死体埋葬作業に雇われている。とくに農村地域においてはまだ死体が埋葬されないままになっている。
15日ー紅卍字会の本部を訪ねると、彼らは以下のデータを私にくれた。ー彼らが死体を棺に入れて埋葬できるようになった時から、すなわち1月の中旬ごろから4月14日まで、紅卍字会は城内において1793体の死体を埋葬した。そのうち約80パーセントは民間人であった。城外ではこの時期に39589体の男性、女性、子どもの死体を埋葬した。そのうち約25パーセントは民間人であった。これらの死体埋葬数には私たちが極めてむごい殺害があったことを知っている下関、三汊河の地域は含まれていない。
22日ー金陵大学の馬文煥(音訳)博士が訪ねてきた。彼と彼の家族は、およそ5ヶ月にわたって農村地域で避難生活を送ったが、強姦、殺害、放火、略奪が同地ですべて行われた。くわえて地方の警官が逃げた後では匪賊に苦しめられるというつらい、悲痛な体験をした。(中略)彼は、長江河岸に沿って膨大な数の死体が埋葬されない恐ろしい状態で現在も放置されたままであり、今でも多くの死体が長江を漂って流れていると、確証に基づく話をした。
模範刑務所に捕らえられている民間人を、その家族を明らかにすることで、元兵士ではないことが証明できれば、釈放させられるのではないか、そう考えたヴォートリンはあらゆる可能な方法を追求した。ドイツ大使館のローゼン書記官には日本大使館へ働きかけてくれるように要請し、許伝音博士には上海の日本軍上級機関に請願書を送付してもらい、南京市政公署の仕事をしている信頼できる中国人には、同公署の幹部が民間人の釈放のために動いてくれるよう懇願する手紙を書いたりした。
そんなヴォートリンを、神戸のミッションスクールを卒業し、妻がクリスチャンだという日本兵が日曜の兵営休日の日に訪れた。2人は今度の戦争が日本と中国の双方の民族をいかに傷つけ、互いの憎しみを増大させているかについて真剣に語り合った。彼は中国も日本も互いを理解していないから戦争になったと思っていたが、それは間違いで、日本のほうが誤っていることがわかったと言った。その日本兵が、最近模範刑務所の警備の任につくことになったので、入獄者の名簿と、ヴォートリンの集めた女性の嘆願書にある男性の名前とを照合して、一致する何人かの名前を教えてくれた。ヴォートリンは探している名前が判明したそれらの婦人をつれて、刑務所に面会に行かせることを考えた。
「この事実を・・・・」(「南京大虐殺」生存者証言集:侵華日軍南京大遇難同胞紀念館/編
加藤 実/訳)
1、日本軍の狂暴な集団的虐殺
漢中門外、江東門、上新河一帯での集団虐殺
孟憲梅(女、53歳)の証言
1937年12月に、私は父の孟兆才と漢中門外の大街に難を逃れていましたが、その頃日本軍にやられないようにと、父は私のために頭を剃ってくれました。
私は壷を持って細い流れに水を汲みに行った時に、日本軍がトラックでラオパーイシン(老百姓=まったくの庶民、ごく普通の人たち)を何台も何台も今の漢中門の新橋の橋の下に連行するのをこの眼で見ました。その頃は、そこは荒れ地でした。日本軍は捕まえて来た人を、みんな機銃掃射して殺しました。それを見てからは、とても恐くて、それに堪えられなくて、日本軍ってなんて残忍なんだろうと思いました。家に帰って父に話しましたら、父に「お前、日本軍に殺されるんが恐くないんかや」と怒鳴られました。(高潮と何学珍が記録)
「Imagine9」【合同出版】より
戦争にそなえるより
戦争をふせぐ世界
また、資源などを狙う外国が、その国の中の武力紛争を悪化させることも少なくありません。平和づくりはその国の人々が主人公になるべきであり、人々が自分たちの土地や資源に対してきちんとした権利を持つ事が重要です。貧しい国に「援助してあげる」のではなく、人々の権利を保障していく事が、平和の基盤をつくるのです。
いわゆる「テロ問題」も同じです。テレビでは連日、イラクなどでの「自爆テロ」が報道されています。それに対して軍が投入されても、「テロ」はなくなるどころか、かえって増えていってしまいます。「テロリスト」と言う言葉が独り歩きしていますが、このような暴力をふるう人たちは、いったいどのような動機からそうしているのでしょうか。
「貧困、不正義、苦痛、戦争をなくしていくことによって、テロを行おうとする者たちの口実となる状態を終わらせる事ができる」と、コフィ・アナン国連前事務総長は語っています。暴力に対してさらに大きな暴力で対処しようとすることは、結果的に暴力を拡大させ、人々の命を奪い、人々を大きな不安の中におとしいれます。どうすれば人々が暴力に走ることを予防できるのか考える事が大事です。
そのための鍵は、軍隊の力にあるのではなく、市民どうしの対話と行動にあるのです。
第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。