いまから三十うん年前、小学校高学年になったとき、校内は「すっごくすごく
怖い映画を見させられるよ」。上級生のきょうだいがいる子を中心にヒソヒソ
広まった。そしてそれは本当だったし、タイトルは「震える舌」だった。
ある日、授業時間の余ったタイミングで「みなさんにある映画を見ていただき
ます」と先生が切り出したとき、クラスはどよめいた。「千葉県には風土病が
あります」「風土病、意味わかりますか?」「ある地域でよく見られる病気、
ということです」「破傷風です」「破傷風、聞いたことある人?」「この映画
は、あまりにも怖いので少し先生たちが見るところを区切ってます。遊びで
見るんじゃないですよ。小さい子にはかわいそうだから高学年になったあなた
たちにだけ見せるんです。」と続けると学年の先生方が手分けして機材を運び、
あれよあれよで始まった。
内容は「ある女の子が破傷風にかかって回復するまで」。学校で見たのは闘病
シーン中心。途切れ途切れで前後関係もなにもよく分からなかった。Amazon
Primeで初めて通しで見られて長年不明だったいきさつがわかってスッキリした。
現在のドラマや映画では暑さで汗がしみ出た衣装は見なくなった。男性俳優陣の
シャツにしみた汗の大きさは常にリアルでこれがフィクションだということを
忘れさせるほど凄みをうんでいた。我が子の破傷風発症と壮絶な闘病を見守る側
になった両親の細菌への恐怖感、打ち消しても浮かぶ不安。反転ぶりを強調する
序盤に描かれた若夫婦の日常。先生がたが見せないと決めたのは、ボロボロと
崩れていく両親の精神的つながりや我が子を愛するがゆえに母親が錯乱状態に
なっていく諸々の描写だったと判明。
今回の心象スケッチは、十朱幸代さんと渡瀬恒彦さんの意表をついた一瞬のキス
シーン。ドキッとしますよ。2人とも息の長い役者さんとなったのも納得のキャー
キャー言いたくなっちゃうワンシーン、ぜひ見ていただきたい。
さて、親子の接し方や夫婦の会話などに所々時代背景の違いが濃く出ているとは
いえ、いま見ても怖いのは、親も医師も症状と病名に心あたりがなくなって久しい
こと。歩行が困難になったり、歯を食いしばって体に力が入ってアーチ型に背中を
そらせ、次第に音に敏感になり悲鳴をあげてギリギリと口をつぐみ、舌をかんで
しまい、口元から血が溢れる。そんな姿を見て、ああこりゃ破傷風だとピンとくる
だろうか。
時代は変わっても、こどもに自然と触れ合う時間を与えたい、大人も山や川や海へ
出かけて行ってリフレッシュしたい。そうでなくてもガーデニングが趣味で土を
いじる人もいる。
当時の教員たちが思い切って教材としてこれを見せたことに「怖すぎる」「ひどい」
と口々に恨みごとをいう同級生がいたけれど、あれ以来、この映画を忘れたことは
ないし、今となっても感謝が先に立つ。
ここで改めて調べてみると国立感染症研究所は「日本では、現在は年間約100人が破傷風を発病し、このうち5-9人は破傷風が原因で死亡しています。破傷風にかかる人は、1968年より前に生まれワクチン接種をしていない人に多く、この感染症の予防には、ワクチンの接種が重要であることがわかります。」とあり、日本血液製剤機構では「破傷風予防接種の対象となる【昭和42年以前に生まれた方・10年以上追加接種を行っていない方・長期海外赴任、途上国への渡航を予定している方】は保健所あるいは医療機関にご相談ください。」と解説。
何も千葉県だけに限られた話でなく日本の国内事情として手洗いや傷口の消毒と
いったごく日常的な清潔の基本が昔もコロナ禍に喘ぐ今に至ってもいかに重要か
気づかされる。
いまだに撲滅されていない病気を真正面に扱っており、もう少しマイルドにアニメ
作品などで取り扱われない限り、伝説の映画はこの先も伝説であり続けると思う。
参考URL:
「破傷風とは」国立感染症研究所HP
「日常生活に潜む破傷風」一般社団法人 日本血液製剤機構HP
1980年公開。「震える舌」松竹チャンネル 予告編
怖い映画を見させられるよ」。上級生のきょうだいがいる子を中心にヒソヒソ
広まった。そしてそれは本当だったし、タイトルは「震える舌」だった。
ある日、授業時間の余ったタイミングで「みなさんにある映画を見ていただき
ます」と先生が切り出したとき、クラスはどよめいた。「千葉県には風土病が
あります」「風土病、意味わかりますか?」「ある地域でよく見られる病気、
ということです」「破傷風です」「破傷風、聞いたことある人?」「この映画
は、あまりにも怖いので少し先生たちが見るところを区切ってます。遊びで
見るんじゃないですよ。小さい子にはかわいそうだから高学年になったあなた
たちにだけ見せるんです。」と続けると学年の先生方が手分けして機材を運び、
あれよあれよで始まった。
内容は「ある女の子が破傷風にかかって回復するまで」。学校で見たのは闘病
シーン中心。途切れ途切れで前後関係もなにもよく分からなかった。Amazon
Primeで初めて通しで見られて長年不明だったいきさつがわかってスッキリした。
現在のドラマや映画では暑さで汗がしみ出た衣装は見なくなった。男性俳優陣の
シャツにしみた汗の大きさは常にリアルでこれがフィクションだということを
忘れさせるほど凄みをうんでいた。我が子の破傷風発症と壮絶な闘病を見守る側
になった両親の細菌への恐怖感、打ち消しても浮かぶ不安。反転ぶりを強調する
序盤に描かれた若夫婦の日常。先生がたが見せないと決めたのは、ボロボロと
崩れていく両親の精神的つながりや我が子を愛するがゆえに母親が錯乱状態に
なっていく諸々の描写だったと判明。
今回の心象スケッチは、十朱幸代さんと渡瀬恒彦さんの意表をついた一瞬のキス
シーン。ドキッとしますよ。2人とも息の長い役者さんとなったのも納得のキャー
キャー言いたくなっちゃうワンシーン、ぜひ見ていただきたい。
さて、親子の接し方や夫婦の会話などに所々時代背景の違いが濃く出ているとは
いえ、いま見ても怖いのは、親も医師も症状と病名に心あたりがなくなって久しい
こと。歩行が困難になったり、歯を食いしばって体に力が入ってアーチ型に背中を
そらせ、次第に音に敏感になり悲鳴をあげてギリギリと口をつぐみ、舌をかんで
しまい、口元から血が溢れる。そんな姿を見て、ああこりゃ破傷風だとピンとくる
だろうか。
時代は変わっても、こどもに自然と触れ合う時間を与えたい、大人も山や川や海へ
出かけて行ってリフレッシュしたい。そうでなくてもガーデニングが趣味で土を
いじる人もいる。
当時の教員たちが思い切って教材としてこれを見せたことに「怖すぎる」「ひどい」
と口々に恨みごとをいう同級生がいたけれど、あれ以来、この映画を忘れたことは
ないし、今となっても感謝が先に立つ。
ここで改めて調べてみると国立感染症研究所は「日本では、現在は年間約100人が破傷風を発病し、このうち5-9人は破傷風が原因で死亡しています。破傷風にかかる人は、1968年より前に生まれワクチン接種をしていない人に多く、この感染症の予防には、ワクチンの接種が重要であることがわかります。」とあり、日本血液製剤機構では「破傷風予防接種の対象となる【昭和42年以前に生まれた方・10年以上追加接種を行っていない方・長期海外赴任、途上国への渡航を予定している方】は保健所あるいは医療機関にご相談ください。」と解説。
何も千葉県だけに限られた話でなく日本の国内事情として手洗いや傷口の消毒と
いったごく日常的な清潔の基本が昔もコロナ禍に喘ぐ今に至ってもいかに重要か
気づかされる。
いまだに撲滅されていない病気を真正面に扱っており、もう少しマイルドにアニメ
作品などで取り扱われない限り、伝説の映画はこの先も伝説であり続けると思う。
参考URL:
「破傷風とは」国立感染症研究所HP
「日常生活に潜む破傷風」一般社団法人 日本血液製剤機構HP
1980年公開。「震える舌」松竹チャンネル 予告編
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