21世紀新訳・仏教経典(抄)

西川隆範編訳・桝田英伸監修

この世の由来-世記経   ~地獄 その6 〈十六小地獄・11“灰の河”〉

2012-03-18 20:10:39 | 経典
第十一小地獄「灰の河」

ある者は、宿罪に引かれていつの間にか「灰河(かいが)地獄」にいる。
この地獄も広さ500ヨージャナ(約3500km)四方。
また、深さも500ヨージャナある。

目の前に〈煮えたぎった灰の河〉がある。
“おぞましい悪い気”がたちこめ、
“波同士ののたり打つ音”さえ恐ろしく響き渡っている。

河の底には“鉄の鉾(ほこ)先”が、びっしりと並んでいる。
刃渡りは八寸(約24cm)。
河の岸辺にも“刀剣”が草のようにびっしりと生えている。
そして、
その岸辺を、獄卒たちと狼などの悪獣がうろうろしている。
さらには、
岸から上がると、“剣で出来た樹の林”が広がっている。
この樹は、
枝も葉も花も実も、
すべて“刀剣や鉾”で出来ているのだ。


罪人は河へと入れられる。
すると、
波の上下に合わせて浮き沈みを繰り返す。
沈むたびに河底の“鉄の鉾”に貫かれるのだ。
皮や肉もただれ、
血や膿が流れ出る。
ここでの苦痛は、
泣き叫び・辛酸・苦しみの毒が合わさって、万倍にもなるが、
罪の償いが終わらないので死ぬことも出来ない。

永らく苦しんで〈灰の河〉からはいずり上がるも、
岸には〈鋭い刀剣の草〉が生えているので、
手足は傷つき、壊れてゆく。
そこへ
獄卒がやって来て問いかける。
「おまえは何を求めてここへ来たのだ?」
と。
罪人は思わずこう答える。
「おなかがすいているんです」
と。
とたんに
獄卒は罪人を捕まえ、
殴り倒して熱い鉄板の上に寝かせる。
そして
かぎ爪で口をこじ開け、
“ドロドロに溶けた銅”を流し込むのだ。
唇も舌も喉も焼きながら銅は腹の中へと流れ込む。
爛(ただ)れないところはない。

その次には、
罪人の所に山犬や狼たちが群がる。
鋭い牙で、罪人の生きた肉を食らうのだ。


〈灰の河〉で煮られ、
〈剣の草〉で刺され、
獄卒には溶けた銅を飲まされ、
獣たちには食らわれる。

恐怖にかられ、走り出す。
目の前の木によじ登り始めるも、
それは
〈剣の樹〉。
登ろうとすると、
“剣の葉”がすべて下を向いている。
降りようとすると、
今度は“剣の葉”がすべて上を向いているのだ。

手が触れれば手が落ち、
足で踏めば足が無くなる。

“剣の葉”は身に深々と突き刺さり、
肉は削がれ、
血や膿が吹き出す。
そして、
ついには
白い骨や、筋肉の筋までもがあらわになるのだ。
さらに悪いことには、
〈剣の樹〉の上には〈鉄のくちばしの鳥たち〉がおり、
罪人を見つけて舞い降り、罪人の頭蓋骨を割って脳髄を食べだすのだ。
苦しみの毒と辛酸は測り知れない。
声の枯れるまで泣き叫んでも、
罪の償いが終わるまでは死ぬことも出来ないのだ。


この地獄では、これらを何度も繰り返す。
また
〈灰の河〉へと転がり落ちる。
すると、
波にもまれて浮き沈みする。
そのたびに河底の刃に貫かれて肉はちぎれ、血や膿が流れ出す。
そこから逃れても、
また〈草の剣〉に刺され、煮えた銅を飲まされ…。


やがて
白骨となり、
河に浮かぶこともあるが、
冷たい風がひとたび吹けば
、たちまちに元通りの肉体となってしまうのだ。



永らく苦しみを受けた後に、「灰河地獄」を出る。


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