さて、前回の記事でも書いたし、何度か言及してるんだけど、改めてこのゲーム、Beneath Apple Manorの話をまとめておこう。
このゲーム、Beneath Apple Manorは1978年にApple IIで登場したゲームなんだけど、史上初の商用CRPGだ。そして、繰り返すが、ローグライクのクセにローグより2年も早く登場している。
いわば、例えば家庭用コンソールのRPGとして、いきなりトルネコの大冒険がデビューするようなモンだよな(笑)。
そして噂に拠ると、1978年にこのゲームが登場した時、Apple IIではバカ売れしたらしく、その数はWizardryをも上回った、と言う話があるくらいだ。
これはある種想像付くかもしんない。「もし」だけど、ファミコンで、仮にドラクエが出る前にトルネコの大冒険が出てたとしたらあっという間に市場を席巻してて、似たようなゲームが市場に溢れかえる状態になってたかもしんない。
作者はDon Worthと言う人。
実はこの人はPLATO文化圏にいなかった。PLATO文化圏にいなかったにも関わらず、1977年のApple II発売でAppleIIを即刻購入し、そしてBASICと、速度が必要な部分はアセンブリを使ってこのゲームを作り上げたわけだな(※1)。
もちろん、この人は、インタビューとか読むとD&Dの大ファンだったらしい。
そしてD&Dにインスパイアされてこのゲームを作り上げたそうだ。
加えると、やっぱりD&Dの複雑なメカニクスをかなり単純化してこのゲームに落とし込んでいる。
当時の難点から言うと、初代Apple IIが最大で16kBくらいしかメモリを持てなかったらしく、相当端折らなきゃならなかったわけだ。初代ドラクエでさえメモリは64kB前後だったトコを鑑みても、初代Apple IIだとドラクエIさえ動かない(笑)。
相当厳しい環境だった、と言うのは想像に難くないと思う。
さて、このゲームを何故に改めて取り上げようと思ったのか。
このゲームはApple IIとATARI 400/800向けに「商用作品」としてリリースされたわけなんだけれども。
実は未公開のIBM-PC版が存在する。つまり「作ってはみたけど売らなかった」製品だな。それで実はそれがパブリックドメインで公開されてるわけだ。
DOS-BOXなんかのMS-DOSエミュレータがあれば、実際今手元でプレイも可能だ、ってぇんで紹介しようと思ったわけだ。
さて、ストーリーはあってないようなモンなんだけど、一応紹介しておこうか。
怪物の軍団を自在に操り、数百年にもわたって略奪を繰り返していたアップル家。今ではその血筋も絶えて久しいが、その力の源泉であった「黄金のリンゴ」や蓄財した富は何処かに隠されたまま眠っているとの噂が広まる。ゲームの主人公はこの財宝を求める数多くの冒険家の一人である。焼け落ちたアップル邸の跡に地下への階段を発見した主人公は、ここから地下迷宮「ビニース・アップル・マナー(アップル邸の地下)」へと足を踏み入れていく。--- Wikipedia より
訳そうか、とか思ったんだけど、メンドクセェから止めた(笑)。
さてこのゲーム、上にも書いた通り、「非常にメモリがキツイ中」で実装されてるし、初代Apple IIで16kBに「メモリを増設せな」プレイ出来なかった、ってぇんで当時では「大容量」ゲームだったのは事実だ。
ただし、それでも相当端折っていて、特にモンスターの数が少ない。7種類くらいしか存在しないんだ。
それはこれらだ。
- グリーン・スライム
- ゴースト
- トロール
- パープル・ワーム
- インビジブル・ストーカー(透明人間)
- 吸血鬼(ヴァンパイア)
- ドラゴン
2年後登場のローグが27種もモンスターがいるのに比べると「ショボ!」って思うかもしんない。
しかし繰り返すが、当時のApple IIのメモリ容量だとこれが限界だったんだろう。そしてそもそも、UNIXが動いてたミニコンと当時のパソコンを比較してはイカン(笑)。
このゲームもRogueと同様に、基本的にはコマンド入力方式のゲームだ。
まず自キャラの移動方法だが、これが現在の観点だとひっくり返るインターフェースだ(笑)。
左に移動するのがW(西)、右に移動するのがE(東)、上に移動するのがN(北)、下に移動するのがS(南)となっております(笑)。
「え?」とか思うかもしんない。Ultimaとかだとこうだったけどね。
これ、何でか、って言うと、当時のPCのキーボードだとカーソルキーとかテンキーが無いのが多かったから、なんだよ(笑)。少なくともApple IIにはそのテのキーが無かった。
しかし、この辺の「直感に反する」インターフェースって日本人に取っては余計「?」ではあるよな。
同じく、カーソルキー無し、テンキー無しのUNIX環境で生まれたローグがh(左)、j(下)、k(上)、l(右)と配置してるのに比べても直感性がない(笑)。
カリフォルニア大学バークレー校で使われてた端末。キーマップは以下のようになっている。UNIXで生まれたテキストエディタ、viのカーソルがh、j、k、lなのはこの端末だとカーソルキーと兼用だったのがその由来。ローグはviのカーソルのインターフェースを基にしてて、それに加えてu(左斜め上)、i(右斜め上)、n(左斜め下)、m(右斜め下)と計8方向に自キャラを移動する事が出来る。
キャラのステータスはローグより細かく確かにD&D寄りなんだけど、ちと意味が違う。と言うか、良くあるHPやMPってのがこのゲームにはない。
- Strength: 敵と戦ったり、ドアを蹴り開けたり、モノを持ち運ぶ際に「使う」パラメータ。従って使ってる内にその数は減っていく。
- Intelligence: 魔法を唱える際に「使われる」パラメータ。いわゆるMP代わり。
- Dexterity: 移動する時に使うパラメータで、「移動してる」ウチに減る。0になると動けなくなる。
- Body: いわゆるHPに当たる。
つまり、D&Dだと何らかの「成功率」なりを計算する為にパラメータが存在するんだけど、このBeneath Apple Manorの場合は、パラメータ自体が戦闘を含む「行動」で減る対象になってんだ。
そういう意味ではD&DよりTunnels & Trollsの構成にむしろ近いかもしんない。
ダンジョン生成は一画面分で、同種のゲームであるローグより一階層分は狭い。特にスクロールするわけでもない。
後発のローグに比べるとダンジョン生成もちと不完全だ。と言うよりやっぱ使えるメモリの量の問題の気がするが(※2)。
ローグの場合、「扉」には意味があった。そこを通過すると部屋があるなり通路に繋がってるわけだが。
一方、Beneath Apple Manorの場合、結構な確率で「扉はただそこにあるだけ」だったりする(笑)。開いてみたから、っつってもそこで行き止まりだったりするんだよな。
あと、ローグとの大きな違いは「階段」の扱いだ。
ローグの場合、上階層から下りてきて「下へ降りる階段」を見つけ、決して上に戻る事が出来ない。
ところが、Beneath Apple Manorの場合、「階段」は常に一箇所しかない。つまりある意味入口 = 出口なんだ。
そしてその「階段」で何故か、武器や防具が購入出来る。また、「経験値を消費して」各ステータスの上限値を上げるのも「階段で」となる。これはなかなか不思議なシステムだ。
なお、初期ヴァージョンはローグと同様、セーブが出来ない仕様だったらしいが、1983年に出版された「改良版」ではセーブが出来るようになった(Scanコマンド・※3)。セーブも階段で行われる。
ただし、「セーブするにも金がかかる」と言うのがこのゲームの特徴で・・・まぁ、元々「セーブ出来なかった」仕様な以上納得するしかないんだけど、この「セーブ料金」もダンジョン深く潜れば潜る程、金がかかるようになっている・・・・・・。
なお、敵と遭遇した場合、攻撃コマンドはAだ。敵に囲まれてない限り、Aだけで方向は自動判定してくれる。
また宝箱を開けるコマンドはO。
他に重要なコマンドは0。これを叩くとステータスが「敵に襲われなければ」フルで回復出来る。
Zがライトニングボルト。Hが回復魔法。Xが透視魔法。Tがテレポート。テレポートはマジヤバイ場合の脱出魔法なんだけど、持ってるお金が全消失する、と言うリスクがある。
ローグと比べると、グラフィックはともかくとして、ある意味Apple IIの限界のせいで完成度が低い、と言う見方も出来るかもしれないけど、現在でも、特にローグに挫折した人でも「低難易度」って意味では遊べるゲームだ。十二分にAcceptableだと思う。
いずれにせよ、上に書いたけど「パブリックドメイン」なんで、入手して遊んでみたらどうだろうか。
※1: この人のインタビューを読む限り、超古典的なプログラマで、高級言語はBASICしか知らないけど、他の高級言語は使う気がない、と言っている。
「必要があればアセンブリを使うよ。その方が"他の言語じゃ出来ない事"を出来るからね」
※2: あと、ローグとの違いは、「迷路の隠された部分」の見せ方だろう。
ローグの場合、通路が「見えづらい」だけで、ある部屋に入ったら部屋自体は全景を見渡せる。
一方、Beneath Apple Manorの場合、自キャラが一歩進む毎に回りが一つづつ見えていく、と言う演出になっていて、見た目的には(全く同じではないが)、ローグよりUltimaに近いかもしんない。
※3: Brain Scan、つまり、脳みそをスキャンして、「生き返らせる」と言う設定らしい(笑)。