見出し画像

Retro-gaming and so on

鈴木楽器製作所

ぴとてつ氏が面白い記事をあげていた。
ところで、「鈴木楽器製作所」と言う楽器メーカーを知らん人も多いかもしんない。
いや、実はここの楽器屋、さる筋ではとても有名で、殆ど寡占状態を形成している。
本来なら、「知る人ぞ知る」ではない楽器メーカーな筈なんだ。何故なら我々の殆どが、小学校低学年時にこの楽器メーカーのお世話になっている。
そう、音楽の授業で使われて、小学校低学年で個人購入指定されている鍵盤ハーモニカ、「メロディオン」のメーカーが「鈴木楽器製作所」なんだ。ガキなんでメーカー名に意識を払わなかっただろ(笑)?
メロディオンがあるが故、と言っていい程、小学校の音楽の授業用途でほぼ独占市場を形成してるのが「鈴木楽器製作所」と言う楽器メーカーなんだ。
結果、「教育用楽器」と言うかなり特殊な市場を鈴木楽器製作所は持っている。

元々、鈴木楽器製作所はリード楽器が得意なメーカーだった。リード楽器、とか言うと

「皆(バンドとか)を率いるポジションの楽器でしょ?リードギターとか言うしさ。」

と思う人も多いかもしんない。うん、確かにLead guitarと言うポジションはある。ロックでギターソロとか引きまくる人だよな(※1)。
しかしここで言う・・・いや、クラシックで言う「リード楽器」の「リード」のスペルはreedなんだ(笑)。楽器で有名なのはクラリネットとかサクソフォンとかだよな。これらは構造上、「リード」と呼ばれる振動板が「音源」になっていて、それを本体で増幅してるわけだ。
言わば、「アンプリファイア付き振動板」がリード楽器、の意味だ。決して「ソロ用楽器」だからリード楽器って言われているわけではない(いや、ソロもするけどさ・笑)。で、まぁ、一般にはほぼ木管楽器が被る。リード楽器ではない木管楽器は、フルートの類(含ピッコロ)くらいじゃなかろうかよく知らんけど(※2)。
いずれにせよ、リード楽器は「吹奏楽器」の一つであり、鈴木楽器製作所はそのテの楽器の製造を得意としてたわけだ。その技術の延長線上の一つがハーモニカで、そしてそれが更に鍵盤ハーモニカとして結実する。
もう一つの吹奏技術の結実が、オルガンだ(※3)。パイプオルガン自体がそもそも、和楽器で雅楽で使われる笙のようなリード楽器をルーツとしていて(※4)、それで言うと鈴木楽器製作所がオルガン製作に乗り出す、と言うのも自然な流れだろう。そしてそれが電子オルガン開発に発展する。


鈴木楽器製作所の「教育用」電子オルガン。品番はSOから始まっていて、これは1970年代から全く変わらない。
かつての小学生達には「教室に備え付けてあった足踏み式オルガンを代替するもの」と言えば、用途は自ずとからわかるだろう。


いや、発展するはするんだが、ここが鈴木楽器製作所の面白いトコで、後の電子楽器ブームに便乗してポピュラー音楽の世界には出ていかないんだよな(笑)。あくまで「教育用楽器市場」に残ろうとする。中でも鈴木楽器製作所の慧眼は、1970年代の時点で、「小学校の器楽部では低音楽器が弱い」と言うトコに着目するわけだ。

一般に低音楽器はデカイ(笑)。要は子供の小さな手には余るわけだ。ちびっこがコントラバスを使ったり、ってのは、まぁ体格がデカく手がデカイ上級生もいるだろうが数が限られるし難しい(大体背がデカいヤツらはバスケ部やバレー部にリクルートされるだろうし・笑)。金管のチューバなんかもデカいわ肺活量を要する、ってぇんでこっちもかなりキツイ(※5)。
ここに目を付けた鈴木楽器製作所は、「低音専用電子オルガン」なんかを開発するんだな。いわゆる「シンセベース」に近い。


鈴木楽器製作所の「低音専用オルガン」。品番のEBは恐らく「Electronic Bass」の略称で、これも1970年代から変わってない品番だ。小学校の「器楽部向け」に開発されている。

とまぁ、鈴木楽器製作所は基本的には圧倒的な教育用楽器市場のシェアを持っていて、そしてそのノウハウも他のメーカーの追随を許さないだろう。
あと、鈴木楽器製作所の有名なトコは、往年のロックで使われた超有名な楽器、ハモンドオルガンの権利を有してるトコだ。

ハモンドオルガン奏者として恐らくもっとも有名な、ハードロックバンド「ディープパープル」のジョン・ロード。かつて(1970年代)のハードロックでは、ギターに対抗してハモンドオルガンの(加工された)「爆音」がうねりを上げていた(※6)。

1986年に倒産したハモンドオルガンの製造会社、ハモンドの権利を1990年代に鈴木楽器製作所が取得する。以降、ハモンドオルガン「だけ」はハモンドスズキ名義で、鈴木楽器製作所が製作・販売することになる(※7)。
厳密に言うと、ハモンドオルガンは「電子オルガン」ではなく「電気オルガン」だ。つまり物理的に音を作って出す機構なんだけど、一方、鈴木楽器製作所が作ってるハモンドオルガンは「往年のハモンドオルガンの音をサンプリングして」利用した「電子オルガン」となってる。
よって、実のことを言うと、「往年のハモンドファン」にとっては現行の鈴木楽器製作所の「ハモンドオルガン」は「なんかちゃう」、と言う事になるんだが、まぁ、そこはそれ、鈴木楽器製作所の一部は現在でも世界的に超有名なブランドを握ってる、って事を書いておいてこの項は終了する。


※1: シンセサイザーの音色の中で、ソロ用のアナログシンセっぽい音を「リード・シンセ」とか「シンセ・リード」と呼ぶが、それはこっちの方の「Lead」だ。

※2: 「え?フルートって金管楽器じゃないの?金属製だし」って思う人も多いかもしれないけど、実は楽器の分類ってのは「その登場時にどんなモンだったのか」に拠る。
金属製のフルートが出てきた歴史は実は新しく、19世紀半ば頃の登場、と言われていて、それまでは木製だったんだ(つまり、金属製フルートの歴史は200年に満たない)。
また、実のことを言うと、フルートはそれこそ僕らが小学校高学年〜中学校でお世話になったリコーダーとルーツは同じで、リコーダーを「横向きで演奏するように」改良して、最後は金属製になった、と割に改良に改良を重ねてメカメカしくなった楽器なんだ。
フルートのキーの機構、なんかは考えてみればわかると思うが、「産業革命」を経過しないと登場出来ない機構で、鍵盤楽器を除くと割に「テクノロジー」の恩恵が大きい楽器ではある。そういう意味ではいわゆる民族楽器的な「伝統楽器である横笛」の範疇はとっくにはみ出ていて、まさしくモダンなテクノロジーの塊だとは言えるだろう。

※3: 驚くことに、オルガンの語源は人体の「臓器」(organ)だ。いや、厳密に言うと、organは「機構(あるいはその構成要素)」と言うのが元々の意味で、組織(オーガニゼーション: organization)もその意を共有する。

※4: 笙のような楽器はヨーロッパにも存在し、それをパン・フルート等と称する。当然これもリード楽器だ。

※5: そんなのもあって、通常、「吹奏楽」は体格が出来上がっていく中学校以降になるわけ。

※6: 恐らくもっとも有名な、ディープパープルでのハモンドオルガンソロが聴ける曲、は「ハイウェイスター」だろう。

Deep Purple - Highway Star

※7: ハモンド倒産前にシンセメーカーである日本ローランドに買収しないか?と話を持ちかけた、と言う噂もあった。
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「日記」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事