1978年にはApple IIで史上初の商用RPGが出た。これはトルネコスタイルの、いわばローグライクの最初の商用製品でもあった。当時のパソコン(Apple II)の仕様のせいで、現代の目で見ると、遊びやすいにせよ、ちと不完全なカンジだけどね。
翌年の1979年。多分、だけど、史上2番目の商用RPGが出る。今度のプラットフォームはTRS-80/Commodore PET、だ。そして若干だが、Ultimaの作者、リチャード・ギャリオットの、今ではUltima 0と呼ばれてるAkalabeth: World of Doomのリリースより早い(※1)。
見た目は一見、Beneath Apple Manorを踏襲してるように見える(※2)。
しかしこのゲームは実はローグライクではない。迷路の自動生成はやってないんだ。
このゲームの舞台は4階層のダンジョンだ。「たった4階層」だと思う?Beneath Apple Manorとは違って1画面分じゃない。1画面で表示されるエリアは「Room」となってるんだが、その最大数は、各階層毎に60Room近くある。つまり、1階層が結構バカデカいんだよな。トータルで240面分くらいある、って事だ。
つまり、このゲームは後年のゲームに良くある「画面をまたぐ」形式となっていて、明らかにBeneath Apple Manorより新しい段階のゲームに突入してる。
ちなみに、マニュアルには、当然ダンジョンマップは掲載されてはいないが、その代わり、って言っては何だが、何故か各Roomがどういう性質なのか解説が書いてある(笑)。
何で(笑)?
そしてこのゲームでは、当然階層が深くなればなるほど敵も強くなって行くわけだが、各階層のRoom1は常に「入口」で、そこから宿泊所(Inn)にいつでも戻れるようになってて、そこからどの階層へ行くかは任意に選べる。つまりやろうと思えばいきなり最深部の4階層目に行く事も可能で、後年のUltimaやWizardryとは完全に違うアプローチとなっている。
つまりこのゲームは、「ダンジョンを踏破する」より、「各階層を完全に把握する事」、マッピングが大きな目的のゲームなわけだ。
作者はJim ConnelleyとJon Freeman の2人。2人とも例によってD&Dのヘビープレイヤーで、特にConnelleyはDM(ダンジョンマスター: D&Dのゲーム進行役)として仲間内だと有名だったそうだ。
従って、このゲームでのキャラ設計はBeneath Apple ManorのそれよりよりD&Dに近い。それどころか、このゲームが恐らく初めて、D&Dのキャラを持ってこれるゲームとして設計されている。
つまり、フツーに遊び始めると乱数でステータス(アトリビュート)が決まるんだが、"Enter thine own character"を選ぶと、自分でステータスを入力可能、となる。
Dを選ぶとステータスが直接入力可能となり、それどころか、持ってる経験値やゴールド、どんな武器や防具を持ってるか、まで入力出来る。とんだチート機能になっている(笑)。ちなみに、ThouとかThyとかYeとか言うのは古英語のYouとかYourの事で、日本語のニュアンスで言うと「汝」と言うアレだ。Ultimaプレイヤーにはお馴染みかもしれない。だから格変化が起きて、例えばWould youは古英語だとWouldst thouになる。この辺ももとこんぐさんが専門だろう(笑)。
アトリビュートの殆どはD&Dで見かけるものだが、IntuitionとEgoってのは見かけない。
平たく言うと、IntuitionはD&Dで言うWisdom、そしてEgoってのはCharismaだ。
面白いのがEgoって言うパラメータ。Innだと武器だ何だが売ってるんだが、実はこのゲーム、「値切れる」んだ(笑)。その「値切り」に影響を与えるのがEgo、っちゅーわけだな。つまり、Egoが高ければ高い程大阪人に近くなるわけだ(笑)。
さて、このゲーム。基本的にはコマンド入力方式ではあるんだけど、キャラがドラクエ以降のRPGのように「ひょこひょこ」歩く。
つまり、感触的には、ARPGとRPGの中間みてぇな感触になってて、恐らく「キャラが歩く」と言う実装としても初めてのゲームになってる筈だ。
コマンドは次のようになっている。
後発のローグに比べてもかなりコマンドは整理されてて、しかも分かりやすい。
ただ、キャラがアニメっぽい動きをする割には「向く方向を決めるのは」コマンドになっていて、(キャラから見て)右を向いたり左を向いたり、あるいは反対を向くのがちとややこしくなってる。
このコマンド表はカードになっていて、マニュアルには「遊ぶ時にはいつも傍に置いておこう」と書かれている。
ちなみに、Salveは「軟膏」の意味で、Healing Salveで「傷薬」だ。
ElixirはFFでお馴染みの「エリクサー」と言う事は分かるだろう。
このゲームもBeneath Apple ManorのようにいわゆるHPとかMPはない。そしてあからさまに戦士系キャラなんで、魔法は使えない。言い換えると、「魔法付きの武器」を宝箱から得られるかどうか、ってのが攻略の為のキーになる。
HPの代わりにあるのがWoundsと言う量で、敵との攻防でダメージを受けるとこれが減っていき、0%になると死亡する。
また、Fatigueと言うのが後年のCRPG、例えばWizardry BCFに出て来たスタミナ、のようなパラメータだ。これが0%になると行動不能に陥る。
さて、Beneath Apple Manorから遅れる事一年、で登場した本作だけど、何が一番Beneath Apple Manorから進歩したのか。
それは恐らくモンスター数だろう。Beneath Apple Manorではたった7種類のモンスターしかいなかったが、Temple of Apshaiだとその数が大幅に増えてて、23種類のモンスターが登場する。これなら現代の目から見ても許容できる数だろう。
- 蟻人間
- 死肉獣
- ムカデ
- グール
- 巨大スライム
- 巨大蟻
- 巨大爆撃甲虫
- 巨大炎撃甲虫
- 巨大蛭
- 巨大蚊
- 巨大鼠
- 巨大蜘蛛
- 巨大白蟻
- 巨大ダニ
- 巨大蜂
- ジェリー
- 骨蝙蝠
- スケルトン
- 蜘蛛
- 沼鼠
- 吸血蝙蝠
- レイス
- ゾンビ
日本じゃ殆ど無名、って言っていいようなゲームなんだけど、アメリカでは80年代を通じて「クラシック」として、比較的バカ売れしたゲームだ。
特に人によっては、Commodore Amigaへの移植版を最高だと推している(※3)。
Temple of Apshai Trilogy AMIGA OCS 1986)(Epyx) adf
なお、Temple of ApshaiはDunjonQuestシリーズの一つとして続編2作が制作されている(※4)。
現在ではSteamで安価で入手可能だ。
※1: 実際はかなり早い。
と言うのもAkalabeth: World of Doomの1979年発表、と言うのはまだ「同人状態」で、地元のソフトウェア販売店で売ってもらってただけ、だったからだ。
ソフトハウス「California Pacific」とリチャード・ギャリオットが契約を結んで、全米で流通するのは1980年になってから、の事となる。
結果、完全に「商用」として販売にこぎつけたのは、1980年、って事になる。
※2: 実際は、オリジナルのTRS-80版は、TRS-80自体がグラフィック性能が大して高くなかったせいで、もっとショボい見た目だった。
今知られてるグラフィックの基礎になったのは、1980年に出たApple II版から、だ。
※3: このAmiga移植版を担当したのがWestwood Studioで、後にSSIの下請けとしてEye of the Beholderを作ったり、SEGAの下請けとしてD&D: Warriors of the Eternal SunやTurbografx-16(海外版PCエンジン)用のD&D: Order of the Griffonを制作する。
D&D: Order of the Griffon
後にElectronic Artsに買収される。
※4: DunjonQuestはTemple of Apshaiで作られたゲームエンジンを流用して作ったシリーズモノ。Temple of Apshaiの続編2つと、他にそこそこの数の同形式のRPGがリリースされている。