1)
あふっ…。っと、眠気を噛みしめながら、クオラは睡魔と戦っていた。場所は、アネモネ魔法学院の魔法科の教室に据えられた窓際の彼女の席。
時刻は、朝のホームルームを過ぎ、一時限目の魔法理論の時間のことだ。チョークが黒板に叩く単調なカツカツという音が、クオラの睡魔に活力を与える。
「 魔法の使用には、大気中の三分の二を占める魔素(マギオン)を体内に取り入れ、活性化させる必要があります。」
いかにも、インテリ魔女と言う感じの女教師が、教壇に上り、教鞭をとっているが、その熱弁は、クオラの耳には届かなかった。
Zzzzz―――
「 ……ですが、近年では、大気中のマギオンの量が極端に減っていますので、従来の魔法理論では、通用できない現象も起きています。代表的なのは、いわゆる、【魔女の狩場】ですね。
原因としては、魔素機関を取り入れた発電所、車、冷暖房機器の普及と関係があるのではという仮説もありますが、これは、社会科の授業になるので、この授業では割愛します。
では、教科書の21ページ…。クオラさん、読んでみてください。」
Zzzzz―――
「 クオラさん?」
Zzzzz―――
睡魔に負けて爆睡しているクオラに、後ろの席の女生徒が、親切からか小声で彼女の背を何度かつついた。
「 くぅちゃん、せんせ~呼んでるよぉ~。くぅちゃん。」
Zzzzzz―
「 クオラさんっ!」
あまりにも起きないクオラに業を煮やした女教師が、大声で彼女を怒鳴ると、ようやく、もぞもぞと彼女は目を覚ました。
「 ふぇ…???? (ノД`)・゜・。乙れふぅ~。ごめ~ん、寝落ちしたった~。」
クオラは、寝起きのとろんとした顔で女教師を見つめ、寝ぼけた声で要領を得ない返事をした。
「 寝落ちしたった~じゃありませんっ!授業中ですよ。」
「 ひっ!せんせ~っ!ごめんなさいっ!うち、朝までチャッ…。いや、そうじゃなくて、睡眠学習。そう、睡眠学習中だったの~。」
怒髪天という表情でクオラをにらむ女教師に、彼女は、慌てて言い訳をした。
「 ほぉ?いい心がけですね?なら、教科書のどこを読むかもわかるでしょう。読んでくださいね。」
「 へっ?????」
そんなことを言われても、熟睡というより爆睡していたクオラには、分かりようもなく、動きが固まってしまった。
案の定といった表情で、女教師は嘆息すると、クオラにかかづりあうのをやめて、後ろの席の女生徒を指名する。
「 まったく、そんな態度じゃ、この弱肉強食の社会では生きていきませんよ。じゃあ、後ろのあなた。お願いね。」
そうして、クオラは、一日バツの悪い思いをすることとなった。
2)
それから、何日か立った日の夜、女子寮のクオラの部屋では、タフィの笑い声が響いていた。
「 きゃははははははははっ!やるじゃない。さっすが、私の後継者っ。」
「 た、たふぃ。笑うことないじゃない?それに、後継者っていうのは、やめて。」
いつものように、ベッドの上で、意思を持つ風船のタフィを対面に、その日の出来事を聞かせていたら、なぜか、ツボにはまったらしく、この仕打ちである。
全くをもって、恥ずかしいったらなかった。
「 何をふさぎ込んでいるのかと思えば、朝日が出るまで、エレカネットで、連日、チャットしてるほうが悪いんでしょ?」
電気を操ったり、発生させたりする魔法エレカは、現代の生活を支える必須魔法の一つとなっていたが、それを通信に利用した最新技術が、エレカネットで、この世界においてはインターネットのような役割をはたしている。
その昔、魔杖を媒体としていた魔法は、今では、板状の携帯端末に移行していた。この端末に、起動キーとなる、最高十二桁の起動番号を入力して、画面に系列のボタンを表示させ、画面の任意のボタンをタッチするだけで、
魔法は起動する。風系の情報伝達魔法ネットもその一つで、それを利用した全世界にひろがる情報網は、世界を支配するにたるものだった。
「 だって、おもしろい店が繁華街にできたって…。」
「 あぁ。なんか、クオラがよろこびそうなお話だったわねぇ。」
何か、繁華街に変わった雑貨屋ができたらしいので、冬休みの年明けに出かけることにしたのだった。
「 それは、それで、楽しみなんだけどねぇ。」
ふぅっと物憂げに、クオラはため息をついた。何か悩みがあるのか、特徴的なオッドアイが、悲しげに曇って見える。
「 ねぇ?タフィ。」
「 なぁに?クオラ。急にふさぎ込んじゃって。」
「 今日、先生に、私は、この弱肉強食の世界では生きていけないって言われた…。」
教師が放った一言を、気にしていないように見えて、実は、結構、気になっていたらしいクオラが、ぽつりとつぶやいた。
「 まぁ、まぁ。そう言わずに、初もうでに行くんでしょ?」
落ち込むクオラに、タフィが、答えにならない答えを返してくる。
クオラは、それも、そうよねと考え直し、タフィを割らないように抱きしめながら、床につくのだった。
3)
「 あけおめ~。ことよろ~。」
クオラは、教会の入り口で待ち合わせをしていた親友たちに、新年のあいさつをした。
「 あけおめ~。ことよろ~。年末チャット、盛り上がったねぇ。」
「 あけおめ~。雑貨屋の初売り行くの~。」
なんて、少女三人盛り上がりつつ、教会の敷地の中へ…。
彼女たちが、新年のミサを済ませ、繁華街についたのは、午後からになる。
4)
「 弱肉強食とか、人が決めた枠組みですから。人は、それを破ることもできるはずです。」
繁華街に居並ぶ店をクオラたちが物色していると、辻説法でもしているのだろうか、独りの純白のローブを着た人影が、街中で説教をしていた。
声からすると、クオラと同年代の少女のようなので、近くに寄って確かめてみようと、野次馬をかき分け、先頭へ行くと、清楚そうな少女が、説法をしていた。
「 ・・・というわけで、ニュベリア教を、不戦の宗教ニュベリア教をよろしくお願いしま~す。」
と思ったら、勧誘だった。
「 あっ。私、もう宗徒ですので…。」
そう断りつつ、友達と例の雑貨屋に急ぐクオラだった。
【いつか、つづく】
あふっ…。っと、眠気を噛みしめながら、クオラは睡魔と戦っていた。場所は、アネモネ魔法学院の魔法科の教室に据えられた窓際の彼女の席。
時刻は、朝のホームルームを過ぎ、一時限目の魔法理論の時間のことだ。チョークが黒板に叩く単調なカツカツという音が、クオラの睡魔に活力を与える。
「 魔法の使用には、大気中の三分の二を占める魔素(マギオン)を体内に取り入れ、活性化させる必要があります。」
いかにも、インテリ魔女と言う感じの女教師が、教壇に上り、教鞭をとっているが、その熱弁は、クオラの耳には届かなかった。
Zzzzz―――
「 ……ですが、近年では、大気中のマギオンの量が極端に減っていますので、従来の魔法理論では、通用できない現象も起きています。代表的なのは、いわゆる、【魔女の狩場】ですね。
原因としては、魔素機関を取り入れた発電所、車、冷暖房機器の普及と関係があるのではという仮説もありますが、これは、社会科の授業になるので、この授業では割愛します。
では、教科書の21ページ…。クオラさん、読んでみてください。」
Zzzzz―――
「 クオラさん?」
Zzzzz―――
睡魔に負けて爆睡しているクオラに、後ろの席の女生徒が、親切からか小声で彼女の背を何度かつついた。
「 くぅちゃん、せんせ~呼んでるよぉ~。くぅちゃん。」
Zzzzzz―
「 クオラさんっ!」
あまりにも起きないクオラに業を煮やした女教師が、大声で彼女を怒鳴ると、ようやく、もぞもぞと彼女は目を覚ました。
「 ふぇ…???? (ノД`)・゜・。乙れふぅ~。ごめ~ん、寝落ちしたった~。」
クオラは、寝起きのとろんとした顔で女教師を見つめ、寝ぼけた声で要領を得ない返事をした。
「 寝落ちしたった~じゃありませんっ!授業中ですよ。」
「 ひっ!せんせ~っ!ごめんなさいっ!うち、朝までチャッ…。いや、そうじゃなくて、睡眠学習。そう、睡眠学習中だったの~。」
怒髪天という表情でクオラをにらむ女教師に、彼女は、慌てて言い訳をした。
「 ほぉ?いい心がけですね?なら、教科書のどこを読むかもわかるでしょう。読んでくださいね。」
「 へっ?????」
そんなことを言われても、熟睡というより爆睡していたクオラには、分かりようもなく、動きが固まってしまった。
案の定といった表情で、女教師は嘆息すると、クオラにかかづりあうのをやめて、後ろの席の女生徒を指名する。
「 まったく、そんな態度じゃ、この弱肉強食の社会では生きていきませんよ。じゃあ、後ろのあなた。お願いね。」
そうして、クオラは、一日バツの悪い思いをすることとなった。
2)
それから、何日か立った日の夜、女子寮のクオラの部屋では、タフィの笑い声が響いていた。
「 きゃははははははははっ!やるじゃない。さっすが、私の後継者っ。」
「 た、たふぃ。笑うことないじゃない?それに、後継者っていうのは、やめて。」
いつものように、ベッドの上で、意思を持つ風船のタフィを対面に、その日の出来事を聞かせていたら、なぜか、ツボにはまったらしく、この仕打ちである。
全くをもって、恥ずかしいったらなかった。
「 何をふさぎ込んでいるのかと思えば、朝日が出るまで、エレカネットで、連日、チャットしてるほうが悪いんでしょ?」
電気を操ったり、発生させたりする魔法エレカは、現代の生活を支える必須魔法の一つとなっていたが、それを通信に利用した最新技術が、エレカネットで、この世界においてはインターネットのような役割をはたしている。
その昔、魔杖を媒体としていた魔法は、今では、板状の携帯端末に移行していた。この端末に、起動キーとなる、最高十二桁の起動番号を入力して、画面に系列のボタンを表示させ、画面の任意のボタンをタッチするだけで、
魔法は起動する。風系の情報伝達魔法ネットもその一つで、それを利用した全世界にひろがる情報網は、世界を支配するにたるものだった。
「 だって、おもしろい店が繁華街にできたって…。」
「 あぁ。なんか、クオラがよろこびそうなお話だったわねぇ。」
何か、繁華街に変わった雑貨屋ができたらしいので、冬休みの年明けに出かけることにしたのだった。
「 それは、それで、楽しみなんだけどねぇ。」
ふぅっと物憂げに、クオラはため息をついた。何か悩みがあるのか、特徴的なオッドアイが、悲しげに曇って見える。
「 ねぇ?タフィ。」
「 なぁに?クオラ。急にふさぎ込んじゃって。」
「 今日、先生に、私は、この弱肉強食の世界では生きていけないって言われた…。」
教師が放った一言を、気にしていないように見えて、実は、結構、気になっていたらしいクオラが、ぽつりとつぶやいた。
「 まぁ、まぁ。そう言わずに、初もうでに行くんでしょ?」
落ち込むクオラに、タフィが、答えにならない答えを返してくる。
クオラは、それも、そうよねと考え直し、タフィを割らないように抱きしめながら、床につくのだった。
3)
「 あけおめ~。ことよろ~。」
クオラは、教会の入り口で待ち合わせをしていた親友たちに、新年のあいさつをした。
「 あけおめ~。ことよろ~。年末チャット、盛り上がったねぇ。」
「 あけおめ~。雑貨屋の初売り行くの~。」
なんて、少女三人盛り上がりつつ、教会の敷地の中へ…。
彼女たちが、新年のミサを済ませ、繁華街についたのは、午後からになる。
4)
「 弱肉強食とか、人が決めた枠組みですから。人は、それを破ることもできるはずです。」
繁華街に居並ぶ店をクオラたちが物色していると、辻説法でもしているのだろうか、独りの純白のローブを着た人影が、街中で説教をしていた。
声からすると、クオラと同年代の少女のようなので、近くに寄って確かめてみようと、野次馬をかき分け、先頭へ行くと、清楚そうな少女が、説法をしていた。
「 ・・・というわけで、ニュベリア教を、不戦の宗教ニュベリア教をよろしくお願いしま~す。」
と思ったら、勧誘だった。
「 あっ。私、もう宗徒ですので…。」
そう断りつつ、友達と例の雑貨屋に急ぐクオラだった。
【いつか、つづく】