1)
クオラは、落ち着くように深呼吸をして、風船魔法で作り出したカラオケマイクに向かった。
「 聴いてください。【まぢかる☆ばるん ふわりん】OP、今日もふわりん。」
今、流行りのアニメ。【まぢかる☆ばるん ふわりん】のOP曲が、風船魔法で出したカラオケから流れ出す。無伴奏では、ジャ○アンよりも音痴なクオラは、ノリノリのイントロの中、熱唱した。すると、静かだったアルギナ・アルカが、コウモリの翼を忙しくはためかせ、曲に合わせて踊りだした。くるくると踊る様は、なんだか可愛らしいアルギナ・アルカだが、攻撃するにしても、焼くにしても、面倒くさいことになる、厄介な薬草なのだ。いくら見た目が、コウモリの翼が生えたダイコンとはいえ、油断は禁物である。曲が終盤に近付くころになると、踊り疲れたのか、ふらふらと安定なく漂いはじめて、ぽてんと床に落ちてしまった。
「 あっ、落ちた。今のうち…。」
クオラは、眠り込んで空から落ちたアルギナ・アルカを、持っていた包丁で輪切りにした。
「 ふぅぅっ。なんとか、退治できたわね。」
輪切りにされて息絶えたアルギナ・アルカが、ぽんっと音を立てて、しぼんだ緑とピンクの二つの風船に変化した。
「 あっ、ラッキ~♪」
クオラは、風船を拾い集め、ポシェットの中に入れ込むと、アルギナ・アルカが通せんぼをしていた、隠し部屋の更に奥に、廊下があることを発見した。
「 廊下があるね。」
「 行ってみましょ?」
タフィが、奥に向かうよう提案したので、クオラは乗ることにした。
2)
探索の風船魔法は、付属に半透明のマップが、施術者の前に展開される。
クオラは、そのマップを見ながら、青い光点に向けて、暗がりの廊下を歩いている。
「 ここ、みたいだけど…。行き止まりじゃない。」
クオラは、ガーゴイルの像が鎮座する台座しかない場所を見ながら、ため息をついた。
「 もしかしたら、何らかの仕掛けがあるのかも? 」
「 えぇぇっ。そんな安直な…。」
タフィの推理に、クオラは、盛大にバカにしながら、片手を像に預けて、重心をかけた。
「 きゃぁっ!」
すると、ぐるりと像が九十度回り、何やら重々しい音を立てて、台座がクオラとは逆方向にスライドをしていくと、床にぽっかりと台座の底よりも、少し狭いくらいの正方形の穴が開いた。
支えを失ったクオラは、絶叫を残して、暗い穴の中に落ちていく。
「 うにゃあああああああああっ!」
「 く、くおらちゃああんっ!」
どだだだだだだという階段を転がり落ちるような音がして、クオラは地下に落ちていった。
3)
その部屋では、壁面の蝋燭が、ゆらゆらと揺らめいて、ほのかな灯りを作り出していた。
アリエルは、気が付いたら、妙に薬草臭い、この部屋に監禁されていた。
他にも部屋は幾つかあって、正気を失ったような悲鳴が、今日も聞こえてくる。
「 この薬草の臭いは、どこかで嗅いだような…?」
アリエルは、記憶を手繰ろうとするが、すぐには、思い出せない。
「 部室?薬草園?それとも、よく行く近所の森かしら?」
口に出してみるが、どの場所も違うように思えてならない。
考えても、詮無きことと思い直して、なぜ、ここに居るのかを思い出してみる。
「 たしか、部室に変な薬草が置いてて、顧問のせんせ…。」
そこまで、記憶を手繰ってみて、アリエルは思い出した。
「 そうだ、ここの臭いは…。」
アリエルは、殺気を感じて、部屋の入口に視線を移すと、顧問の教諭が佇んでいる。
「 ラファエロさん、思い出しちゃったみたいね。」
職員室で語り掛けた口調と同じ口調で、教諭は笑顔を見せた。
しかし、目は笑っていない。逆に、冷めきっていて、極地の極寒を思わせた。
「 ひっ…!」
恐怖に後ずさりをしてアリエルは、教諭から距離を取る。
なぜなら、彼女の手にはナイフが握られていたからだ。
「 こ、来ないでっ!」
更にアリエルは距離を取ろうとするが、背中に障害を感じ、今以上、距離が取れない。
もう、ダメだっ! アリエルは、大声で助けを呼んだ。
4)
階段から転げ落ち、全身をしこたま打ち付けて、クオラはよろよろと起きあげると、魔法薬を幾つか取り出して、服用した。クオラの内側から、暖かなオレンジの光が放たれ、ステータスが全回復する。
「 さすが、薬草部の魔法薬。よく効くわ。」
魔法薬の効き目に、クオラが気を良くしていると、女の子の悲鳴が廊下に響いた。
「 この声は、アリエルね。行くよ、タフィ。」
「 了解。」
クオラは、タフィを引き連れて、悲鳴が聞こえた方向へ駆けていった。
【三日後につづく】
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