1)
クオラは、目の前の光景に戸惑っていた。
双頭の竜が目前で暴れていて、首同士が、言い争いでもしているかのように吠えながら、絡み合ってる。
正確に言うならば、左の首が口から何かしらのブレスを吐いて、辺り一帯を無に帰そうとすると、右の首がそれを阻止しようと噛みついて、
それに怒った左の首が、右の首にブレスを吐いているという、どうにも、ややこしい状況に、クオラは相棒の風船タフィに相談することにする。
「 ねぇ、タフィ。一応、言われるまま、来てはみたんだけれど、あれ…、何?」
街から数キロ離れた森の奥に、ぽっかりと開けた草原に、親友のアイリスとニュベリア教のシスターが連れ立って入っていったらしいという
話を、門番のおじさんから聞いて、来てみれば、この訳がわからない状況である。
「 あぁ、あれは、ズミューアだねぇ。ああやって、左右の首で死ぬまで争っているのよ。」
「 ………。変なモンスターもいるものねぇ。」
先ほどから、ここを中心に半径数キロのエリアで、天候が目まぐるしく変わっている。いきなり、砂漠のような暑さになったかと思ったら、
数分もすれば、ゲリラ豪雨が降ったり、そうかと思えば、豪雪になったりと、天候の神様に申し訳ないくらい忙しい。
あまりの異常気象に、クオラとタフィは、ズミューアが争っている草原に、ぽつんと一つ開いている、近くの洞窟へと雨宿りをして、
どうしてこうなったのかを、思い返していた。
2)
事の起こりは、三人で街へ遊びに行ってから数日過ぎた夏日のことだった。
クオラが、テストの赤点による単位不足のため、夏期講習を受けていると、領地に帰省中のリルルから、
友人のアイリスが行方不明らしいと知らせが入った。
リルルの領地は、アイリスの国と国境線を接しているため、夏休みには一緒に帰省していたらしいが、
今回に限って、一緒になることはなかった。エレカ端末で連絡しても、繋がらないので、異常事態と思って、
手がかりを探すために、クオラにも連絡を入れたらしいとのことだった。
「 どういうこと?」
確か、三人で遊びに行った翌日にあった一学期の終業式には、出席していたはずだ。クオラの隣の席だったから、それは覚えている。
そこから夏休みに入って、クオラは夏期講習に、リルルとアイリスは、実家に帰省するからと寮を出て行ったのも覚えている。
「 そういえば、寮の玄関で見送ったんだっけ…。」
魔法理論がびっちりと板書された黒板を眺めながらクオラが独り言をつぶやいていると、タフィが念話で割り込んできた。
「 とりあえず、門番のおじさんに尋ねてみたら?」
「 そうね。それが確実だわ。とりあ、講習終えてからね。」
心配ではあるが、自分の進級もかかっているので、講習が終えた後、タフィもつれて捜索することにしたのだった。
3)
アイリスの行方は意外とあっさりと判明した。
馴染みがある門番のおじさん、バクスメイヤー氏の談によると、
「 あぁ、その子ならよく覚えているよ。なにせ、目立っていたからね。
確か、白衣のシスターと連れ立って、口論しながら、裁断の森の方へ向かったよ。」
「 裁断の森?大変!禁忌の土地じゃないですかぁ。」
「 あぁ、昔は何でも、訴訟の解決に使っていたらしいけどな。
今でも解決できない問題があると、国の許可を得て行くことができる。」
「 それじゃあ、簡単には行けないですねぇ。」
「 あぁ、でも、嬢ちゃんの友達だかが、森に向かったとも限らねぇけどな。
そちらの方角に行ったってだけで。」
「 そうですかぁ…。困ったなぁ。」
二人して、顔をしかめて、唸っていると、バクスメイヤー氏が思い出したように、
「 そういえば、聖職者なら、森に行く許可も出たはずだなぁ。嬢ちゃんの友達の連れが、シスターだったし。」
と、ぽつりとつぶやいた。クオラは、その話しを聞いて、表情を明るくさせる。
「 ほんとですかっ!」
「 あぁ、間違いねぇ。しかしな…。」
「 ん?」
「 いや、嬢ちゃんは、その子を探してるんだろ?嬢ちゃんは、森に入れないよ。一般人だからなぁ。」
すまなそうな表情をしているバクスメイヤー氏に礼を言って、クオラは一旦、門番の駐留所から離れた。
4)
門から離れて、クオラは、路地裏に入ると、その脇を、ふわふわとタフィがついていく。
「 ふふふ…。これの出番ね。」
その手の平には、しぼんだピンクの魔法の風船が乗せられている。
「 それって?この間の、ファウナリアのときの?」
「 うん、ファウナリアを倒した後に残っていた風船さん。」
クオラが、前の戦いのときに、こっそりと回収しておいたらしい。その風船を見て、タフィが慌てだす。
「 えぇっ!まさか、ふくらましたら、エロエロクオラちゃんになっちゃうのぉ。女の子の下着、集めたりしちゃうのぉ。」
「 な、ならないわよっ!たしかに、アイツは、そうゆうヤツだったけど。
これは、そんな効果じゃないのぉ。見てて。」
そう言って、クオラは、タフィにウインクしてみせると、息を吸い込んで、風船の吹き口に愛らしい口びるをつけ、息を吹き込みはじめた。
5)
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~っ!!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
クオラが、ピンクの魔法の風船に、吐息をこめて、ふくらませている。
彼女の背丈を超えるころには、クオラの正面にある風船の膜に、大きな魔方陣が展開された。
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~っ!!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
更に膨らませていくと、スキャナーが情報を読み取るように、魔方陣が後方のクオラへ輝きながら迫っていく。
そして、クオラに接すると同時に、彼女を光の繭に変化した魔方陣が包み込み…。
6)
バクスマイヤー氏は、目の前の二十歳くらいの聖職者の恰好をした女性に、不思議に思いながら、森に行く許可証を発行した。
「 ありがと。」
にっこりと女性は、誰でも虜にしそうな笑みを浮かべ、許可証を受け取ると、駐留所から出て行った。
「 はて?この街にあんな美人、居たっけか?……、まぁ、いっか。美人だったし。門を抜けても。」
バクスメイヤー氏は、謎の修道女を見送りながら、門番らしからぬことを言い放った。
7)
謎の修道女は、森に入ると杖に見せかけていたピンクの風船の空気を抜いた。
ふしゅぅぅぅっと、風船がしぼむにつれ、修道女の姿も陽炎のように変わっていく。
「 ふふんっ、どうよ。」
「 すっごぉ~ぃ。クオラ。さすが、【変化】とは思わなかったわぁ。」
宙からクオラの元に降りてきたタフィが、感心したようにクオラを褒めちぎった。
「 エロエロクオラちゃんじゃなかったでしょ?」
「 でも、ぼいんぼいんのところは、そうだったじゃない。お姉さん、負けると思ったわ。」
そんな軽口を言いあいながら、クオラはアイリスとシスターを探して、森の奥の開けた場所で、問題の竜に出会ったのだった。
【つづk】
クオラは、目の前の光景に戸惑っていた。
双頭の竜が目前で暴れていて、首同士が、言い争いでもしているかのように吠えながら、絡み合ってる。
正確に言うならば、左の首が口から何かしらのブレスを吐いて、辺り一帯を無に帰そうとすると、右の首がそれを阻止しようと噛みついて、
それに怒った左の首が、右の首にブレスを吐いているという、どうにも、ややこしい状況に、クオラは相棒の風船タフィに相談することにする。
「 ねぇ、タフィ。一応、言われるまま、来てはみたんだけれど、あれ…、何?」
街から数キロ離れた森の奥に、ぽっかりと開けた草原に、親友のアイリスとニュベリア教のシスターが連れ立って入っていったらしいという
話を、門番のおじさんから聞いて、来てみれば、この訳がわからない状況である。
「 あぁ、あれは、ズミューアだねぇ。ああやって、左右の首で死ぬまで争っているのよ。」
「 ………。変なモンスターもいるものねぇ。」
先ほどから、ここを中心に半径数キロのエリアで、天候が目まぐるしく変わっている。いきなり、砂漠のような暑さになったかと思ったら、
数分もすれば、ゲリラ豪雨が降ったり、そうかと思えば、豪雪になったりと、天候の神様に申し訳ないくらい忙しい。
あまりの異常気象に、クオラとタフィは、ズミューアが争っている草原に、ぽつんと一つ開いている、近くの洞窟へと雨宿りをして、
どうしてこうなったのかを、思い返していた。
2)
事の起こりは、三人で街へ遊びに行ってから数日過ぎた夏日のことだった。
クオラが、テストの赤点による単位不足のため、夏期講習を受けていると、領地に帰省中のリルルから、
友人のアイリスが行方不明らしいと知らせが入った。
リルルの領地は、アイリスの国と国境線を接しているため、夏休みには一緒に帰省していたらしいが、
今回に限って、一緒になることはなかった。エレカ端末で連絡しても、繋がらないので、異常事態と思って、
手がかりを探すために、クオラにも連絡を入れたらしいとのことだった。
「 どういうこと?」
確か、三人で遊びに行った翌日にあった一学期の終業式には、出席していたはずだ。クオラの隣の席だったから、それは覚えている。
そこから夏休みに入って、クオラは夏期講習に、リルルとアイリスは、実家に帰省するからと寮を出て行ったのも覚えている。
「 そういえば、寮の玄関で見送ったんだっけ…。」
魔法理論がびっちりと板書された黒板を眺めながらクオラが独り言をつぶやいていると、タフィが念話で割り込んできた。
「 とりあえず、門番のおじさんに尋ねてみたら?」
「 そうね。それが確実だわ。とりあ、講習終えてからね。」
心配ではあるが、自分の進級もかかっているので、講習が終えた後、タフィもつれて捜索することにしたのだった。
3)
アイリスの行方は意外とあっさりと判明した。
馴染みがある門番のおじさん、バクスメイヤー氏の談によると、
「 あぁ、その子ならよく覚えているよ。なにせ、目立っていたからね。
確か、白衣のシスターと連れ立って、口論しながら、裁断の森の方へ向かったよ。」
「 裁断の森?大変!禁忌の土地じゃないですかぁ。」
「 あぁ、昔は何でも、訴訟の解決に使っていたらしいけどな。
今でも解決できない問題があると、国の許可を得て行くことができる。」
「 それじゃあ、簡単には行けないですねぇ。」
「 あぁ、でも、嬢ちゃんの友達だかが、森に向かったとも限らねぇけどな。
そちらの方角に行ったってだけで。」
「 そうですかぁ…。困ったなぁ。」
二人して、顔をしかめて、唸っていると、バクスメイヤー氏が思い出したように、
「 そういえば、聖職者なら、森に行く許可も出たはずだなぁ。嬢ちゃんの友達の連れが、シスターだったし。」
と、ぽつりとつぶやいた。クオラは、その話しを聞いて、表情を明るくさせる。
「 ほんとですかっ!」
「 あぁ、間違いねぇ。しかしな…。」
「 ん?」
「 いや、嬢ちゃんは、その子を探してるんだろ?嬢ちゃんは、森に入れないよ。一般人だからなぁ。」
すまなそうな表情をしているバクスメイヤー氏に礼を言って、クオラは一旦、門番の駐留所から離れた。
4)
門から離れて、クオラは、路地裏に入ると、その脇を、ふわふわとタフィがついていく。
「 ふふふ…。これの出番ね。」
その手の平には、しぼんだピンクの魔法の風船が乗せられている。
「 それって?この間の、ファウナリアのときの?」
「 うん、ファウナリアを倒した後に残っていた風船さん。」
クオラが、前の戦いのときに、こっそりと回収しておいたらしい。その風船を見て、タフィが慌てだす。
「 えぇっ!まさか、ふくらましたら、エロエロクオラちゃんになっちゃうのぉ。女の子の下着、集めたりしちゃうのぉ。」
「 な、ならないわよっ!たしかに、アイツは、そうゆうヤツだったけど。
これは、そんな効果じゃないのぉ。見てて。」
そう言って、クオラは、タフィにウインクしてみせると、息を吸い込んで、風船の吹き口に愛らしい口びるをつけ、息を吹き込みはじめた。
5)
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~っ!!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
クオラが、ピンクの魔法の風船に、吐息をこめて、ふくらませている。
彼女の背丈を超えるころには、クオラの正面にある風船の膜に、大きな魔方陣が展開された。
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~っ!!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
更に膨らませていくと、スキャナーが情報を読み取るように、魔方陣が後方のクオラへ輝きながら迫っていく。
そして、クオラに接すると同時に、彼女を光の繭に変化した魔方陣が包み込み…。
6)
バクスマイヤー氏は、目の前の二十歳くらいの聖職者の恰好をした女性に、不思議に思いながら、森に行く許可証を発行した。
「 ありがと。」
にっこりと女性は、誰でも虜にしそうな笑みを浮かべ、許可証を受け取ると、駐留所から出て行った。
「 はて?この街にあんな美人、居たっけか?……、まぁ、いっか。美人だったし。門を抜けても。」
バクスメイヤー氏は、謎の修道女を見送りながら、門番らしからぬことを言い放った。
7)
謎の修道女は、森に入ると杖に見せかけていたピンクの風船の空気を抜いた。
ふしゅぅぅぅっと、風船がしぼむにつれ、修道女の姿も陽炎のように変わっていく。
「 ふふんっ、どうよ。」
「 すっごぉ~ぃ。クオラ。さすが、【変化】とは思わなかったわぁ。」
宙からクオラの元に降りてきたタフィが、感心したようにクオラを褒めちぎった。
「 エロエロクオラちゃんじゃなかったでしょ?」
「 でも、ぼいんぼいんのところは、そうだったじゃない。お姉さん、負けると思ったわ。」
そんな軽口を言いあいながら、クオラはアイリスとシスターを探して、森の奥の開けた場所で、問題の竜に出会ったのだった。
【つづk】