1)
あたし、クオラの相棒の巨大風船タフィが、嬉しそうに、宙で揺れながら、かく、のたまった。
「 さぁ、歌って。」
(いや、いきなし、歌ってというのも、かなりの無茶振りかと思うんだけど…。タフィ?)
なんて、内心、冷や汗をかきながら、あたしは、深呼吸をした。
観客は、蝙蝠の羽が生えた宙に浮く大根【アルギナ・アルカ】だ。
この薬草だか、モンスターだか分からない、中途半端な存在は、燃やすと麻薬成分の入った煙を出すし、かと言って、攻撃すると、耳を突いても聞こえちゃう、狂い死にする悲鳴を出すしで、結構、厄介なやつらしい。唯一、歌を聞かせると、大人しくなって眠ってしまうそうなので、眠った隙に、胴体を輪切りにすると、討伐完了。という訳で、歌を歌うことになったんだけど…。どうしよう?無伴奏では、あたし、マンドレイク以上に音痴だよ。
「 クオラちゃん、歌わないの?カラオケいる?」
期待に満ちた目で、タフィがあたしを覗きこむ。
「 …………いる。」
長い沈黙の末に、あたしは、タフィに白旗を揚げた。
「 おけ、おけ。カラオケの風船魔法あるよん♪」
そんなのあるんかいっ!
2)
ぷふぅぅぅ~~~~~っ!
ぷふぅぅぅぅ~~~~~~っ!
ぷふぅぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!
と、黄色の魔法の風船に、吐息を吹き込む音が、謎の部屋に響いている。
【アルギナ・アルカ】は、幸いにも、向こうからは襲ってこないので、安心して風船遊び、もとい、風船魔法を使えるわけだ。今、使おうとしているのは、あることが驚きだが、カラオケの魔法だということだ。
ぷふぅぅぅ~~~~~っ!
ぷふぅぅぅぅ~~~~~~っ!
ぷふぅぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!
何十回か、吐息を吹き込んでいくと、背丈ほど黄色の魔法の風船は膨らんでいた。
ちゅっとキスを黄色い膜にすると、魔方陣が浮かび上がり、カラオケ魔法が完成する。
宙に浮かんだ選曲リストから、曲を選ぶと、手元にマイクが出現し、イントロが流れ出した。
クオラは、ままよと歌いだした。
【つづく】
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